blood killa
激化するサウスセントラルからの攻撃。
L.A.を揺るがす全面戦争の日は近い。
…
銃声を聞きつけて、他の場所でオトリ作戦を続けていた仲間達も集まってきた。
「うわ~!こりゃあ、やっちまったな~」
クリックがクロニックをふかしながら言った。
みんな頭を撃ち抜かれたクリップスの死体を見て驚いているようだ。
「もう退けないぜ。ついに奴等と衝突だな」
「あぁ、ここまできたら奴等も本気で来るだろう」
シャドウとライダーが話している。
俺もそう思う。
「行こうぜ。すぐにポリスが来る」
だが今日は運がイイのか悪いのか、L.A.の中心部でデカイ祭りがあっているらしい。
それで警官はほとんど出払っているのだそうだ。
…
俺達は二十分ほどかけて、歩いてアジトへと戻った。
そこから家へ帰る奴、アジトに泊まる奴と様々だった。
E.T.でアジトに残ったのは俺とスノウマン、マークだけで、俺とマークはクリップス殺しの祝杯を上げたが、スノウマンは気が乗らないらしくソファに横になった。
…夜明け前、ハスラーのホーミー達が仕事を終えて続々と帰ってくる。
それを見届けると、俺とマークもそのまま眠ってしまった。
「L.A.…コンプトン…ロングビーチ…イングルウッド…オークランド…サンフランシスコ…サンディエゴ…サクラメント…」
俺が目を覚ました時、シャドウがなにやら都市の名前をブツブツと唱えるように言っていた。
どうやらカリフォルニア州の地図を広げているようだ。横にはライダーもいる。
二人は朝起きてすぐ、アジトに戻ってきたのだろう。
スノウマンとマークはまだ大きないびきをかきながら眠っている。
「ん…何やってるんだ?」
「よう、ホーミー。起こしちまったか?」
「いや、気にするな」
俺がもぞもぞしていると、ほらよとライダーがクールを一本俺に投げた。
「サンキュー」
火をつけて一気に吸い込む。眠気覚ましだ。
「サム、最近じゃあL.A.やコンプトン、サンディエゴ以外にもサクラメントやサンフランシスコみたいな治安のイイ街にセットが増えてきてるらしいぜ」
「マジか?世も末だな」
シャドウの言葉に俺は鼻で笑った。
セットとはギャングのチームの事だ。もちろん俺達のセットはBig.Kray.Bloodだ。
「そんでさっきから都市の名前をブツブツ言ってたのか?地図なんかどこから…」
「地図…?おいおい寝ぼけてんのか、B」
シャドウは俺の顔に新聞を投げ付けた。俺が地図と勘違いしていたのは新聞だったのだ。
「セットの話や都市もそれに書いてあったんだよ。ギャングセット急増中!ってな。
それより見ろよドッグ。表紙のページだ」
俺は新聞の表紙を見た。昨夜あったL.A.の祭りの記事だ。
「あん?祭り?これがなんだよ…」
「バカ。そりゃ裏表紙だ」
ライダーが大笑いしながら言った。
そんなに笑わなくてもイイだろうに。
すぐに裏返した。
「『クリップス五人死亡…ギャング抗争発生か。』
ふーん…昨日の俺達がやった殺しの事件だな」
俺が新聞を投げようとするとシャドウが鋭く言い放った。
「ちゃんと読め」
「は?」
「サム。大事な情報だぜ。お願いだから、ちゃんと読め」
俺はあまり長文を読むのは得意ではないのだが…仕方なく読むことにした。
「『昨夜、ブラッズギャングの居住区域でクリップス五人の死体が発見された。
死因はいずれも銃による損傷で、内四人は頭に銃弾を受けて死亡していた。
現場は、先に延べたようにブラッズギャングの居住区域であり、ギャングの構成員が多く生活している。
そのせいもあって犯人は特定できておらず、捜査は難航している。
近年、この区域での犯罪は急増しており、本日警察によるギャング構成員への違法銃の取締が行われる予定である。
この事件は、大抗争の前触れに過ぎないのであろうか』
…難しいな」
俺は新聞をテーブルに置いた。
シャドウが言った。
「つまりもうすぐ警察が俺達を取り調べるって事だ。早く銃を隠さないとヤバイぜ。
それにこれでギャングスタクリップの連中も仲間の死を確信したはずだ。いつ襲ってきてもおかしくない」
なるほど。それはまずい。
クロニックなどのブツはシャドウの家にほとんどあるので奴に任せられるが、銃は一人一人が持ち歩いているので早く集めて隠さないと、ホーミー達が道端で警官から取り調べを受けたらまずい。
特にE.T.は全員が銃を常備しているので危険だ。
敵の今後の動きも気になる。
「まずいな。早くメンバーを全員集合させよう」
俺が言った。
連絡を回し、昼前にはほとんどのメンバーを集める事に成功したのだが、すでに遅かった。
連絡がつかなかった十人以上のホーミーが未登録の銃の不法所持で逮捕されてしまったのだ。
E.T.もクロニックの所持、使用、そして銃の所持で一人捕まってしまった。
ルーク…そう、クロニック中毒のクリックだ。
無事にアジトまでやってきたメンバー達の銃は、ビニール袋に詰めてガレージの横に穴を掘り、埋めた。
その上の辺りに、直していない三台のインパラ(俺の車を探した時に他のホーミーが持ってきた59、61、63の事)のスクラップを並べた。
後ほど、予想通り警察がみんなの家やアジトへ(俺の家なので)やってきたが、上手くかわす事ができた。
多くのホーミー達やクリックがムショから出て来るのは二、三ヶ月後だ。ギャングスタクリップとの状況を考えると、かなりの痛手だった。
だが悪いニュースばかりではない。
次の日にジャックや、その他にも入院していたホーミー達が同時に戻ってきたのだ。
…
「昨日は俺も危なかった。銃を埋めた後、慌てて家に戻ってきたおかげで何とかブツを隠せたぜ」
ジャックやホーミー達が退院して戻ってきた日の夕方、俺達はシャドウの家にいた。
もちろんこのセリフはシャドウのものだ。
「だがよ、ブライズ。かなりの仲間がパクられちまったらしいじゃねぇか。さっき聞いて驚いたぜ。クリックのバカヤロウもブチ込まれてるらしいな」
ジャックが言った。
この時シャドウの家に集まっていたのは俺を含めて四人だ。
シャドウのベッドに寝転がっていたマークが言った。
「よう、ドッグ。ギャングスタクリップと関わってからロクな事がねぇな!
マーカスは死んじまうし、ジャック達は病院送り、そして今度はクリック達が捕まっちまった!」
「確かにな。だんだんと俺達は追い込まれているようだ。
警察も警戒しまくってるし、あんなデカイセットと揉めてるんだ、きっとまだまだ俺達に目をつけてくるセットが増えるに違いないぜ」
俺は両手で頭をかきながら言った。
髪が少し伸びている。早くいつもの短い坊主頭に戻したいが今はそんなことどうでもよかった。
「だがまずはギャングスタクリップの奴等がどう出て来るかだな」
「それは分かりきったことだぜ、ニガー」
俺の発言にすぐさまマークが返す。
「なにが分かるんだよ?」
「おいおい、サム。相手は150人を越える大ギャングだぜ。力任せに突っ込んで俺達を叩きつぶそうとするに決まってるさ」
マークが笑いながら言った。
だがシャドウの意見は違ったようだ。
「俺はそうは思わないな。忘れたか?奴等は俺達のホーミーを拷問し、サムの顔を割り出して仕留めるつもりだった。いきなりセットの頭を狙ってくるような連中だぞ?」
「だからよ!それに失敗したから次は力づくで来るってんだよ!」
マークが寝転がったまま吠えた。
「いや、次も何か企んでくるに違いない。もっと恐ろしい方法をな」
「どんな方法だよ!」
「おい、マーク。それは俺にも分からねぇよ。だがどちらにしろクレンショウブラッドに奴等の動きを見張ってもらっておくのがイイぜ、サム」
「そうだな。ラットに連絡しておくよ」
確かにこの時はそれが一番無難だと思えた。
数時間後、俺が電話をかけるとラットは分かった、仲間達にそれとなく奴等の動きを監視するように頼んでおくぜ、と電話越しに言ってくれた。
「ありがとう。それじゃ」
俺は公衆電話の受話器を下ろした。
そばにはマークが立っている。
シャドウは部屋に残り、ジャックは子供を見なきゃいけない、と家に帰った。
「さて、これで一安心だな」
「おう、サム。気晴らしにどこか飲みにいこうぜ」
「そんな金ないぜ。安いビールでも買ってアジトに戻ろうや」
俺はそう返した。金がないというよりは、出歩くのを危険だと思ったからだ。
「おいおい、ギャングスタクリップの動きはクレンショウブラッドが見張ってるんだろ?下手な嘘はよせよ。行こうぜ」
嘘は見透かされ、マークは無理矢理俺の手を引き、一番近い大通りの店に入った。
そこはクラブだった。
中では客がDJの回す皿の音に合わせて踊っている。
俺達二人はカウンターに座った。
「ビールを二本くれ」
マークが勝手に注文している。
仕方ない。付き合ってやるか。
「サム。お前、いつだって気を張りすぎだぜ。たまには嫌な事忘れてよ、こうやって店でくつろぐのも大切だぞ」
マークが俺の腕を叩いて言う。
その時。横に女が二人座ってきた。
二人ともセクシーだ。
「ヘイ、ビッチ!セクシーな女神さん達!何やってんだ?」
マークが早速声をかけている。
俺は一人黙ってビールを飲みながら見ていた。
「何って…そりゃあ遊びに来たのよ。ギャングさんたちは?」
この日、バンダナは腰から下げていなかったが何となくギャングスタだと感づいたようだ。
「ひと時の安息ってやつさ。お前達に会いたくてな。俺達がギャングに見えるのか?」
マークが口説いている。
女達は笑った。
「違った?強そうだったから…ところでなにそれ?口説いてんの?」
「おいおい、俺は大マジだぜ。おごらせてくれよ。なぁ、サム?」
マークがあご髭を触りながら言った。
「あぁ。好きにしな」
俺が素っ気なく答えると女達は急に俺を見た。
「ん?なんだよ」
「サムって…この辺りを仕切ってるB.K.BのOG-B!?」
女達は驚いて目を見開いた。
「知らねぇな」
俺は騒がれるのが嫌だったので、そう返事した。
「だってOG-Bって言えば、噂ではクラブやバーみたいな遊び場には滅多に顔を出さずに仲間達と過ごす、筋金入りのギャングスタだって聞いてるわ」
「そうそう。全然軽いイメージは無くて、いつも仕事一筋って感じ。だからめちゃくちゃ怖い人を想像してたのに、こんなカワイイ顔してるなんて」
カワイイ?おいおい冗談だろねーちゃん達。
マークが噴き出して笑っている。
「ガハハ!お前がカワイイってよ!」
「ちっ…」
「あれぇ!?サム!マーク!なにやってんだ!」
急に誰か別の奴に声を掛けられた。
ジミーだった。
他にホーミーを何人か引き連れてきていた。
「サム。お前は知らないんだよな。最近俺達のメンバーはココに通う奴が多いんだぜ」
マークが言った。なるほど、俺以外の奴等はこうやって息抜きをしているのか。確かに俺はB.K.Bの事を考えすぎてこういった周りの状況に気付いていなかったらしい。
ジミーとホーミー達は挨拶もそこそこに俺達をカウンターに残してホールで踊り出した。
「確かにみんながクラブに通ってるなんて知らなかったな」
「ま、たまに来てるだけだ。そんなに金持ちじゃねぇしな」
俺はタバコに火をつけた。
ジミーの奴、最初は踊っていたものの、すぐにB-walkを踏み出した。
若干周りの客がびびっているのにお構いなしだ。
「やっぱギャングなんでしょ?B.K.Bのリーダー、サム?」
女の一人がジミーのwalkを見て言った。
クソビッチが。
「あぁ。そうだよ。でも俺は映画俳優でもなんでもない」
「おい、サム。その女はお前に興味があるらしいぜ。相手してやれよ」
マークが言った。いつの間にかもう一人の方の女を膝の上に乗せてビールを飲んでいる。
まったく…好きな野郎だ。
「そんじゃあ、ビッチも手に入れたし、二階のV.I.Pルームにでも行くかB?」
「はぁ!?そんな金ねぇぞ!」
マークは、今日はおごるからよ、と俺達を二階の個室に連れて行ったのだった。
…
「さぁて、飲み直しだ!」
大きなソファに四人で座る。
キレイな部屋。落ち着かない。
俺はアジトのように多少くらいは汚くて片付いていないような場所の方が好きだ。
こんな場所には、成功したラッパーやスターが来ればイイ。俺達ギャングにふさわしいのはストリート。クラブなんかじゃない。
俺はそう思った。
「だいたい何でココに入れるんだよ、マーク?」
「あぁ、何度か店へ通うウチにココのオーナーと顔なじみになってな。金さえ払えばV.I.Pルームに入れてくれるようになったんだ。ま、二階に上がったのは今日でまだ二回目だけどな」
マークが指を二本立てる。
俺はため息をついた。
「おいおい、サム。そんな怖い顔で見るなよ!無駄遣いしてるわけじゃないぜ。自分へのご褒美だよ。今夜は楽しめって!」
バンバンと俺の背中を叩く。
あまり気が乗らないが、今夜はとことん付き合うか。
「分かったよ。それじゃ乾杯しようぜ」
運ばれてきたシャンパンを開ける。
「ビッチとの最高な夜に!」
グラスがぶつかった。
…
俺達はしばらくビッチ達とのひと時を楽しんだ。そんな中、何だか下のホールが騒がしくなった。
「ん?ケンカでも起こったか、マーク?」
「さぁなぁ、ジミーやホーミー達が暴れだしたのか?」
マークが席を立ち、一階へと降りて行こうとした。
その時だった。
バン!
急に扉が開き、ジミーが入ってきた。
頭から血を流している。
「やべぇぞ!ギャングスタクリップの奴等だ!俺達がここに通っている情報が流れていたらしい!」
「なに!どうしてだ!?おい、ジミー、サム!裏口から出るぞ!非常階段がある!」
マークが吠えた。すぐにジミーを担いで駆け出す。
一階からは銃声と悲鳴が聞こえ始めた。
俺達はこの時、当然銃を持っていなかったので、逃げる他に成す術が無かった。
「他のホーミー達は?」
俺は階段を下りながらマークに担がれたジミーに聞いた。
「分からねぇ…上手く逃げてればイイんだが…」
「そうか…クリップスのクソが!」
階段を下り、路地裏へと駆け込む。
店の正面にはパトカーが続々と到着していた。
…
アジトに戻る。
パトカーのサイレンで騒ぎに気付いたらしく、多くのメンバーが集合していた。
「よう。クラブで何か起こったんだな?」
アジトの玄関に立っていたシャドウが話し掛けてきた。
「奴等だ…俺達があそこにいる情報がバレたらしい」
ジミーがマークから降りて言った。
「お前のケガもそのせいか。一体どこから情報を…」
シャドウが頭を抱えて考え込んでいる。
ふとみんなを見回して俺は異変に気付いた。
「マーク、ビッチ共は?」
「あ?あぁ、いつの間にかいなくなってるな」
シャドウがジミーをアジトの中へと連れて行っている。手当ての為だろう。
クリップスがクラブなんかを襲い、アジトを直接攻撃しないのは反撃を恐れているせいだろうか。
「よう、サム。今思い出すと…二人のウチ、俺が相手していたビッチの奴、何度もトイレに席を立ってたぜ」
「そうだったか?」
「あぁ、間違いない。奴はクリップスの差し金だぜ!」
マークは興奮している。
だが俺にはそんなスパイ映画みたいな話があるとは思えなかった。
実際に次の日に分かった情報では、俺達があの店にいる事をクリップスの連中にタレ込んだのは路上を歩いていた一般人だと分かった。
そして、ホールにいたホーミー達はほぼ全滅。
俺達はギャングスタクリップの連中への怒りをつのらせた。
この時アジトでは、数が多くすべての葬儀に参列できないので、逝ったホーミー達への祈りを捧げていたのだった。
泣いている者、うつむいている者…様々だった。
「クレンショウブラッドに監視を頼んだ直後の事だぜ…!なんてタイミングが悪いんだ!」
マークがイライラと言葉を放った。
「サム、どうするんだ?やり返すのか?」
これはスノウマンだ。
マークの横に立っている。
「サム。やっちまおうぜ!ここまで死人、ケガ人、逮捕者が出てるんだぜ!腹の虫が収まらねぇだろ!」
ジャックが言った。
自分の両手の拳をブツけている。相当イラついているようだ。
確かに被害は甚大。B.K.B始まって以来のダメージを受けている。
ここで引き下がれない。
「裏に埋めた銃を掘り起こそう」
俺は立ち上がった。
「攻めるぞ」
みんなから凄まじい雄叫びが上がった。