Snowman'z Xmas song
アメリカ西海岸。
ギャング発祥の地。
スノウマン。
季節外れのサンタクロース。
「ジャックの意識が戻ったのは何よりだが、まだ問題は解決しちゃいないぜ!」
帰りの車内、隣りに座っていたシャドウが言った。
「結局ジャック以外にも今までクリップスの奴等にやられたホーミー達は全員、Bの情報を奴等に教える事を拒否して、やられちまったって事なんだな」
後部座席のホーミーの一人が言った。
つまり、やられた仲間は誰一人として、クリップスに口を割らなかったという事だ。
正直それは嬉しかった。みんなが俺の事を、自らの体を張って守ってくれたという事なのだから。
「なにが何でも奴等を見つけよう。もう『捕らえろ』なんて甘い事は言わない。ギャングスタクリップの連中は…皆殺しだ」
俺はハンドルを握ったまま、イライラと言った。
本当に許せない。
殺さず、俺の情報を得るためだけにB.K.Bの仲間達をいたぶる残虐な行為。
奴等は再び仕掛けてくる。必ず。
確信が俺にはあった。
その時こそ、仲間のピンチであると同時に俺達にとって絶好のチャンス。
奴等を殺してやる。
…
「ウェッサイ~」
ある日、アジトの中でクリックがなにやら歌っている。
この頃、今までのギャングスタラップとは別に、少なかった西海岸ヒップホップも急激に増え始めたのだ。
「おい、ニガー。何だよそれ。俺にも教えてくれよー!」
近くにいたジミーがクリックに話しかけている。
俺はその様子をぼんやりと見ていた。
「イイぜ~!ハンドサインは『W』だ!」
「こうか?」
「そうそう、いくぜ~」
二人は息を合わせる。
「「ウェッサイ~ウェッサイ~」」
何やってるんだか。
「そうだ~そうだ~!ウェストコーストヒップホップだぜ、ホーミー!」
「やっぱ俺達の土地で生まれたトラックは気持ちがイイな、クリック!カリフォルニア最高!」
「あ!ジミー!ラップを教えたかわりに俺にwalkを教えてくれよ~?イイだろ~?」
クリックがジミーの肩を叩いている。
「おう、イイぜ!」
二人はステップを踏み始めた。
クリックの足はめちゃくちゃだ。
「クリック、俺のウォークとお前のラップでいつかビッグマネーを掴もうぜ!」
二人はニヤニヤしている。これにはさすがに俺も笑ってしまった。
マークがアジトに入ってきた。スノウマンも一緒だ。
「よう。何やってんだ?楽しそうじゃねぇか」
マークが言った。どっかりとソファに座り込み、奴の重さでソファが悲鳴を上げる。
よく見るとスノウマンの横に珍しいお客さんがいた。
「マーカス!」
俺は立ち上がって客人にハグをした。
マーカスはショーティの弟だ。歳はこの時、十五くらいだろう。昔の写真から比べるとかなり大きくなっていた。
「やあ、サム。久し振りだなぁ」
「おい、スノウマン!何で弟を連れてきたんだ?」
ジミーが足をとめて言った。すぐに「久し振り」と、マーカスと拳をぶつけている。
「それがよ、俺がお前らの為にサンドウィッチを作ってたら急に『一緒に行く』って言い出してな」
スノウマンはサンドウィッチの入った大きなバスケットをテーブルにどんと置いた。
奴はこうやってたまにみんなにメシを作ってきてくれる事がある。
家庭的で面白い奴だ。しかし弟がアジトまでやってきたのは初めてだった。
昔、マーカスが「B.K.Bに入りたい」と言っていたらしいのは覚えているのだが。
「ほら、みんな食えよ。うまいぜ?『季節外れのサンタクロース』だ」
スノウマンがみんなにサンドウィッチを勧めた。
奴は必ずみんなにメシを振る舞う時、このセリフを口にする。
いつも真っ赤な服を着ている事からこの言葉が生まれたらしいが、よく考えたら俺達のほとんどが赤い服を着ているので奴だけに当てはめるのはおかしい。
しかし、こんな風にみんなにメシを振る舞うのは奴だけだし、ニックネームの『スノウマン』からサンタクロース、手作りのメシからクリスマスプレゼントを連想できない事もない。
それでみんな『季節外れのサンタクロース』という言葉をスノウマンの決めゼリフとして認識していた。
…
とりあえずみんなはメシをいただくことにする。
…うまい。さすがはスノウマンだ。
「実はよ…昔、サムやマークには話したかもしれないが、マーカスが最近『B.K.Bに入りたい』ってうるせぇんだよ。
今日はその話を伝えたくて仕方なく連れてきたんだが…」
そらきた。やっぱりそうか。
そうでないとマーカスがここに出入りしたがるはずがない。
「お願いだ。コイツを説得してくれ。可愛い弟をギャングになんかしたくねぇんだ」
スノウマンが言った。
言われてみればマーカスは赤い服を着ている。俺達への憧れからだろうか。
しかしちゃんと中学校には進学したらしいし、まっとうな道を歩むほうが、奴には合っているとは思う。
「マーカス、どうしてB.K.Bに入りたいんだ?」
「うーん…やっぱギャングは強いし、みんなから憧れられてる。
そう…強くなりたいんだ!そしてカッコよくなりたい!」
これはさすがに参った。かなりギャングという存在が美化されている。
変なハリウッド映画の見すぎだ。
「そうか…トニーの話をショーティから聞いた事はあるか?」
「あぁ…聞いたよ。彼はすごくイイ人だったし、すごく悲しい」
マーカスは下を向いた。
みんなは黙って俺と奴とのやり取りを聞いている。
「そんなもんか?」
「え?」
「仲間の死は『すごく悲しい』なんて甘いもんじゃないぞ。
自分が死ぬ事の何百倍も苦しい。『何でこうなっちまったんだ』ってな。
だが後戻りはできない。一度足を踏み入れたら死ぬまで…いや、死んでも抜け出せない。それが、ギャングスタだ」
「でも…!」
マーカスは言葉に詰まった。
「でも…なんだ?
カッコイイ…?強い…?憧れ…?
カッコよくなりたくて、強くなりたくて、憧れてギャングになったマザーファッカーなんて俺達のホーミーには誰一人いねぇぞ!
みんな地元に誇りを持ち、よそ者から好き勝手にされないように、兄貴のクレイの為や、仲間の為に立ち上がった奴らだ!」
俺はタバコを取り、一息ついた。
「俺達はヒーローでもなんでもない。地元を守る為には盗みや売り、暴力も必要だ」
「でもやっぱり強いし、地元を守ってるんならカッコイイじゃないか!」
マーカスが言い返した。
「俺達は平気で不意打ちをし、大人数で少数へ暴行を加え、丸腰相手に銃を使い、金欲しさに時には一般人にも攻撃する。それがお前の言う『強さ』か?
こんな卑怯な戦い方がカッコイイか?」
「それは…」
「地元を守ってるのはカッコイイと言ったが、俺達が地元の何を守ってると思う?土地じゃねぇぞ。
俺達が守ってんのは、ここに生まれ育ったっていう『誇り』だけだ!」
マーカスは黙ってしまった。
スノウマンがマーカスの頭に手を置く。
「あきらめろ。ここはお前みたいなイイ子が来るところじゃないんだ。お前はちゃんと学校を出て、マジメに働くんだ」
短い沈黙があった。
「…どうしてショーティはよくて俺はダメなんだよ…ショーティを見て俺は育ち、そして憧れてきたんだ。
自慢の兄貴だった。自由に生き、仲間や地元の為に命張って頑張る兄貴が、俺の理想であり、目標だった」
「マーカス、分かってくれ。お前の為を思って…」
「本当に俺の事を思ってるんなら仲間にしてくれよ!少し勉強ができたらギャングになれないのか!?トニーやジャック、コリーは中学まで進学したらしいじゃないか!」
俺はマーカスの顔を見た。
そしてみんなを見る。
「さて、ここまで言ってもマーカスの気持ちは揺るがないらしいぜ。どうするホーミー達?」
「入れてやろうぜ~」
クリックが言った。
クロニックの煙を鼻から出している。
スノウマンはやれやれだぜ、と両手を上げて首を横にふった。
「仕方ねぇ、やるか。マーカスを連れて来い。ガレージだ」
俺は立ち上がった。
…
ガレージ。
車を外に出してスペースを作った。
俺、マーク、クリック、ジミー、そしてスノウマンがマーカスを囲む。
そう。ギャング式の手荒な歓迎の始まりだ。
もしマーカスが耐えられなければ仲間には入れない。
スノウマンが俺に耳打ちした。
「サム。マーカスには可哀相だが、立てなくなるまで…」
「ダメだ。時間はちゃんと計るし、立ち上がったらきちんと仲間に入れる」
俺はスノウマンの意見をはねのけた。当然、歓迎は公平にやる。
スノウマンをのぞき、俺達四人で行うことにした。
今回の時間は一分。マークや俺がいる事を考えての判断だった。
範囲はガレージ内、出ればアウト。反撃もアウト。
ひたすら複数からの攻撃に耐える。それが仲間入りを目指す者への試練。
時間はマークの腕時計で見る。だからマークだけは時間をチラチラ見ながらの攻撃となる。
これはマーカスにとって少し有利だ。
「準備はイイか?マーカス」
「あぁ。いつでもイイぜ」
そう言いながらも少しおびえているのか、奴の額にはすごい量の脂汗がにじんでいる。
「始めだ!」
マークが叫んだ。
まずマークが襲いかかった。
腹に一発。マーカスは吹っ飛び、壁に背中から叩きつけられた。
だが奴は倒れず、足でしっかり立っている。
「お?やるな~」
クリックが感心している。奴は拍手をしながらマーカスの横腹を蹴った。
マーカスは床に転がったがすぐに立ち上がる。
口から血を吐き、すぐにそれを腕で拭う。
手加減はしない。さすがに死にそうな時はやめるが、手加減はこれから仲間入りする人間への侮辱になるのだ。
俺は腕で血を拭うマーカスのガラ空きになった腹を殴った。
「ぐはっ!!」
さすがに腹ばかりにダメージを食らっているのでマーカスは崩れ落ちた。容赦なくジミーが蹴り上げる。
仰向けになったマーカスにクリックが馬乗りになり、顔を何発も殴った。
マーカスは顔を守ろうと必死に手で顔を覆っている。しかしそれもクリックにはねのけられ、さらに顔に食らう。
チラリと目をやると、スノウマンは腕を組んだまま黙って見ていた。
奴もマーカスと同じくらい痛いだろう。
「時間だ!やめろ!」
マークが叫び、クリックはマーカスの上から降りて立ち上がった。
あとは待つ。
俺達は、ボロボロで仰向けに寝ているマーカスを見つめた。
奴の手足はピクリとも動かない。
かわりに呼吸が乱れているせいで激しく腹が上下している。
「頑張れ~!立て~!」
クリックがたまらず応援している。
スノウマンは心配そうだが、まだマーカスに触ってはいけない。
「さて、どうなるかな」
マークが頭のバンダナを結び直しながら言った。汗でびっしょりだ。
奴は体が大きいので汗っかきなのだ。
「…」
ジミーは黙っている。
「はぁ…!はぁ…!」
マーカスは必死で体を起こそうともがいた。
ようやく指先だけが地面を掻いている。
顔からの出血がひどい。意識が朦朧としているらしかった。
「ダメかもな」
「頑張れ~!」
ジミーとクリックが同時に言った。
「はぁ…!はぁ…!
……………………」
止まった。
「ダメだ」
俺が言うと同時にスノウマンがマーカスに駆け寄る。
「マーカス!!しっかりしろ!!」
「…」
「クソったれ…」
スノウマンは静かに涙した。
すぐにアジトのソファにマーカスを寝かせて、スノウマンが顔のキズの手当てをした。
マーカスは気を失ったまま眠っているようだ。
「残念だったな」
ジミーがビールを飲みながらそれとなく言った。
「いや、これでよかったんだ。これでコイツもあきらめるだろうさ」
タバコを吸いながらスノウマンは短く笑った。
だがその心の中は複雑な気持ちでいっぱいだろう。
その時、マーカスが目を覚ました。
「…ぐ…!」
「おい、大丈夫か?」
マーカスは何も言わずに起き上がった。
俺達を見回す。
「すまねぇ。俺、甘かったのかもな…」
その目は涙でいっぱいになった。
そのままアジトの入口へと向かう。
スノウマンが立ち上がった。
「おい!マーカス!大丈夫なのか!?」
「あぁ、大丈夫だよ。心配しなくても一人で家まで帰れる」
一度振り返ってそう言うと、マーカスはアジトから出て行った。
スノウマンは大きく息を吐きながら再び座る。
「まあ飲めよ、ホーミー」
マークがスノウマンに酒を勧める。
スノウマンは瓶を受け取り、一気に飲み干した。
…
それから五分ほど経った頃だった。
そんなに遠くない場所から銃声が聞こえたのは。
最悪のシナリオが俺達の頭をよぎる。
スノウマンは真っ先にアジトを飛び出した。
すぐにジミーと俺が走り出す。
「マジでやべぇぞ。マーカスは赤い服を着てた」
「あぁ…だが、まだマーカスや俺達のホーミーが撃たれたのかは分からないし、今の銃声がギャングスタクリップの仕業かどうかも分からないぜ」
走りながらジミーと会話していると、先に走り出したスノウマンに追いついた。
奴はマークと同じく、その巨体のせいで足が遅いのだ。
息が上がっている。
「ドッグ、先に行くぜ!」
「あぁ、すまねぇ…!」
スノウマンを追い越し、しばらく走ると見えてきた。
道端に倒れている男。
すぐそばには…
三人のクリップス。
「うぉらぁぁ!!くたばれぇ!!」
走りながらジミーの銃が奴等に向かって火を吹いた。
パアン!パアン!パアン!パアン!パアン…
こちらに気付くと、奴等はすぐに近くに停めていた車に乗り込んで逃走した。
俺とジミーが倒れている男に駆け寄る。
すぐにスノウマンもやってきた。
「マーカス…」
最悪のシナリオは的中した。
二、三分するとクリックとマークも車でやってきた。
「おい!早くみんな乗れ!クソ!やっぱクリップスのヤロウだったのか!」
マークが吠える。
早くずらからないと警察が来る。みんなはマーカスを担いで車に乗せた。
「しっかりしろ!すぐ病院につくからな!」
スノウマンがマーカスの頬を叩く。
腹と脚を撃たれているようだ。
病院に到着した。俺達は急いでマーカスを運び、医者へとバトンを渡した。
…
「…ひでぇ。ギャングスタクリップのクソったれが!」
手術室の外の廊下。俺は悔しくて吠えた。
マーク、クリック、ジミーの三人はさっき「クリップスを探し出す」と言って出て行った。
それで俺とスノウマンだけ病院に残ったわけだ。
「すまねぇな。弟がみんなに迷惑かけちまった」
スノウマンが長椅子に座って下を向いたまま言った。
「イイんだ。気にしないでくれ。たとえB.K.Bのメンバーでなくとも、俺達とマーカスはホーミーだ」
スノウマンは立ち上がり、ありがとうと俺にハグをした。
俺は手術の間スノウマンをその場に残して、同じ病院にいるジャックや他にも入院しているホーミー達の病室へ行くことにした。
「すぐ戻る」
「おう」
俺はジャックの病室へ向かった。
奴は少しは元気になったようで、ベッドの上で腹筋運動をしていた。ジャックらしい暇つぶしだ。
「よう、ドッグ」
「サム!会いたかったぜ、調子はどうだ!」
ハンドサインを出し、拳をぶつけて挨拶する。
「まあまあかな。実はさっきマーカスがお前と同じような目にあったんだ…今、手術してる」
「マーカス…スノウマンの弟か?なんでだよ、アイツは関係ねぇだろ」
俺はジャックに事情を説明した。
B.K.Bへの憧れ、歓迎の失敗、たまたま着ていた赤い服。
「それで狙われちまったのか…」
「とにかく、今は奴等を見つけてやり返す。それだけだ」
「俺もすぐ加勢するぜ。こんなしけたところさっさと出て行くから待ってな」
その後俺はジャックと別れ、他に入院しているホーミー達の病室もすべて周った。
…
次の日、俺達E.T.は墓地での葬儀に参列していた。
そう。マーカスは若くしてあの世へと旅立ったのだ。
腹に食らった銃弾が命取りになったらしい。アジトや俺の顔を知らず、その情報を得ようとしたクリップスの奴等のミスだが、それ以前の俺達の歓迎によるダメージも間接的にマーカスの死へと繋がった可能性も否定できなかった。
「許せねぇ…許せねぇ…」
スノウマンが俺の横ですすり泣きながら、つぶやいている。
死者への言葉を神父が読み終えると、みんな穴へと花を投げ入れた。
その上からスコップで土がかぶせられる。
「ぉぉぉ!マーカス…!お前を守ってやれなかったバカな兄貴を許してくれ…」
埋まっていく弟を見送りながら、奴はたまらず叫び始めた。
「R.I.P.」
みんなは若い命の終幕に祈りを捧げた。
まだクリップスの奴等を仕留めていない。せっかくのチャンスを無駄にし、そのうえ一人の命が消えたのだ。
何か奴等へのイイ対策を考えなければならなかった。
その日、俺達は葬儀の後アジトに戻ったが、さすがにスノウマンだけは墓地から離れようとはしなかったらしい。
…
「やられっぱなしじゃ話にならねぇぞ」
翌朝。アジトではミーティングが始まり、マークがイライラと言葉を吐いた。
やはりスノウマンの姿は無い。
「ホーミー達、イイ方法はないか?」
俺がたずねる。
シャドウから意見が出た。
「オトリ作戦はどうだ」
「どういう意味だ?」
ライダーがバーガー片手に言った。
「奴等はいつも一人のホーミーを狙う。しかも必ず暗い路地でだ。
誰か他の仲間がかけつけると、すぐに逃げ出す。そのせいで殺れない。そうだよな?」
「あぁ。その通りだ」
これは俺だ。
「相手にとって被害が少ない賢い戦略だ。そしてサムの顔を割り出して仕留める。シンプルだな。
だが、予想に反して俺達のホーミーは誰一人として口を割らなかった」
みんなから歓声が上がる。
当たり前だ!そんなクソったれはいない!と嬉しい声が飛び交った。
「作戦は簡単、路地裏に一人オトリを立てて他の大勢が陰に身を潜める。奴等が引っ掛かったら一斉に飛び出して殺る」
成功するかは分からないがやってみる事にした。
問題は誰が危険なオトリになるかだ。
「俺がやる」
声がして、後ろを振り返ると、いつの間にかショーティが立っていた。
…夜。
早速スノウマン一人をポツンと路地裏に立たせて、俺、ジミー、他にホーミー二人が陰に隠れて待った。
じつはスノウマン以外にも他のオトリを別の路地で待機させている。
マークとクリックだ。
つまり三か所でのオトリ作戦。それぞれのオトリに陰で隠れている四、五人のホーミー達がいる。
今回はハスラーもウォーリアーも関係なくE.T.は全員参加している。
E.T.以外で参加しているのはウォーリアーのみで、ハスラー達には必ず複数で仕事をするよう警告し、売春、密売ともにすべて俺達E.T.のハスラーの分も引き継いで任せた。
「引っ掛かるか?」
陰に隠れている間、小声でジミーが俺に言った。
「さぁな。もしスノウマンにかからなくても、マークやクリックのいる所に動きがあるかもしれない」
三か所の距離はそんなに離れていない。
もし発砲音がすれば、すぐに他の場所に待機しているホーミー達が急行する手筈だ。
スノウマンは落ち着きなくその場で左右に行ったり来たりしている。
…
しばらくして、車のライト見えた。
クリップスかどうかは分からないが、それはドンドン近付いてきて、一台の車がスノウマンの前に停車した。
緊張が走る。
だが車はすぐに行ってしまった。どうやらたまたま通りかかり、人が立っていたので停まっただけらしい。
「なんだよぉ、ちょっと期待したじゃねぇか」
「期待って何だよ?お前、楽しそうだな」
ジミーが残念がっている。
忘れていた。コイツは危険やスリルを楽しむ傾向があったのだ。
「だってワクワクするだろ?早くクリップスのカスどもに仕返しがしてやりたくてウズウズするぜ」
「俺は楽しくてやってるんじゃねぇぞ」
俺はジミーにあきれてため息をついた。
「B、ジミー!見ろ!」
一緒にいたホーミーの一人が言う。
なんと、さっきの車が引き返して来ている。
再び緊張が走った。
スノウマンも近付いてくる車を睨み付けて身構えている。
予想通りスノウマンの目の前に停車した。
中から運転手を残して黒装束の四人の男が出てくる。
口には紺色のバンダナ。ギャングスタクリップのバカが。かかったな。
「今だ!行くぞ!」
俺が号令をかけ、拳銃やバットを片手に俺達四人は物陰から飛び出した。
「うぉら!」
ホーミーの一人がバットでクリップスを一人吹っ飛ばした。
奴等は突然の奇襲に驚いている。
その隙にスノウマンは奴等の車から運転手を引きずり出し、ボンネットに頭を叩きつけた。
これで簡単には逃げられない。
パアン!
ジミーが拳銃を腰から抜こうとした奴に発砲。
見事に胸を貫いた。
ソイツは倒れ込み、死んだ。
残りは二人だ。
コイツらは銃をもっていないらしく、逃げられないと分かると一人はゴルフクラブ、もう一人は素手で立ち向かってきた。
「くらえ!ブラッズめ!」
俺はゴルフクラブをかわして、ソイツの腹を蹴り上げた。
すかさず肘で首筋に一発。地面にキスさせた。
もう一人はスノウマンが片手で壁に叩きつけて片付いた。
奴はマーカスの事もあり、完全にブチ切れているようだ。腰から銃を抜き、ジミーが撃ち殺した奴以外の頭に一発ずつ撃ち込む。
俺達は黙って見ていた。
しかし最後の一人は不運にも撃たれる前に目を覚ました。
「いてぇ…うわ!やめろ!何なんだお前ら…!」
「季節外れのサンタクロースだ。プレゼントを受け取りな」
パアン!
スノウマンは奴の頭に弾丸のプレゼントを届けた。