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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
15/61

keep ganxta

ギャングスタである事。

それは一度ギャングスタとなった男にとって、決して取り消す事はできない。

売春の仕事はかなり順調だった。

 

クレンショウには毎週通い続けた。地元のc.c.の奴等からはあまりイイ顔はされなかったが、最初の事件のこともあり今のところ見逃してくれているようだ。

 

しかしそろそろ実力行使に出て来るかもしれない。

そうなればクレンショウでのピックアップは不可能となるが、すでにある程度女の数は集まっているのでそこまで大きな問題にはならない。

 

「順調なようだな」

 

ガイが俺に言った。

この日、アジトには俺とガイ、新入りが数人いるだけで、他の奴等はみんな出て行っているか、自宅にいた。

 

「あぁ。ビッチに感謝だな。メンバーの人数がふえたから、贅沢はできないが金に困ることもないと思うぜ」

 

俺は銃とポケットの中の小銭をテーブルにおいてソファに寝転がった。

仰向けになり、タバコに火をつける。

 

「サム、実はな…」

 

ガイが何か言おうとしたが、急になぜか赤ん坊の泣き声がしてかき消された。

 

「ん?何でガキが?」

 

アジトの中を見渡すと、入口あたりに赤ん坊を抱いたジャックが立っていた。

すぐにガイと俺のいるテーブルにやってきて腰を下ろす。

 

「よう、ホーミー。そのガキは?」

 

右手で拳をぶつけて挨拶をすると、俺はジャックにきいた。

すると若干困ったような表情を浮かべて奴は言った。

 

「俺の子だ」


夕方頃、アジトではなくジャックの部屋にE.T.全員が集合した。

 

「ジャックのキュートな天使に!」

 

瓶がぶつかりあった。メンバーの間では初めての子供だ。

ジャックは初期からのメンバーなので、今回の祝いはE.T.だけでのものになったのだ。

 

「ジャック、なんで今まで黙ってたんだ?」

 

マークが言った。

 

「いや、俺も今朝知ったんだ。まったくビッチとは連絡してなかったからな。まだ実感がわかねぇぜ」

 

子供ができていた事にすら気付いていなかったらしい。

こんな具合にあまりにも自分の女に興味がなさすぎるジャックだが、ガキがいる以上は嫌でも変わる必要がある。

 

「おいおい、ダディ!これからはしっかり女とガキを守っていけよ」

 

マークが肩を強く叩いた。

やはりジャックはまだ困惑している。

 

「とにかく籍だけは入れる。明日から女もガキもこの家に来る予定だ。今夜までは女とガキはあっちの家にいる」

 

そう言うと、ジャックは珍しくビールを一本飲み干した。


「別にお前らが心配しなくても出来ちまった以上はしっかりやっていくぜ。間違いなく俺の子だしな」

 

「なぜだ?」

 

これはガイだ。

 

「俺をだましたりしたら殺されるって事を、あの女自身が一番よく知ってるからだ」

 

みんなから「違いねぇ」と大きな笑いが起きた。

 

「そういえば名前は決めたのか、ジャック~?」

 

クリックが聞いた。

さすがにジャックの部屋ではクロニックは禁止されているようで、仕方なくウィスキーをグビグビと飲んでタバコをふかしている。

 

「あぁ、名前は女が勝手に決めた」

 

「そっかぁ~」

 

「それがよ。俺の息子につけるにはちょっとおかしな名前でよ」

 

ジャックは苦笑いを浮かべて言った。

 

「なんて名前なんだ?」

 

俺が言った。

その言葉にみんながジャックを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『クレイ』…だそうだ」

 

「マジかよ!俺達のクレイの生まれ変わりだな!」

 

俺がそう言うと、みんなから大きな歓声が上がった。


クレイの祝いの席は夜遅くまで続き、みんなはいつの間にか狭い部屋の中で眠ってしまっていた。

 

「サム」

 

誰かが俺をゆすっている。

 

「おい…B、起きろ」

 

俺は目を覚ました。寝ぼけてぼんやりとした意識の中、ガイが俺の顔を覗いているのが見えた。

 

「なんだよ?」

 

「やっと起きたか。サム、話がある」

 

「何の?」

 

ガイは俺の体を無理矢理起こして立たせた。

周りのみんなはいびきをかきながら眠っている。

 

「ちょっと来てくれ」

 

ガイはジャックの家から出て、一番近い公園もちろんセントラルパークだへと俺を連れ出した。

 

「なんだよ話って!」

 

「まあイイから座れ。大事な話だ。まずお前に伝えたかった」

 

ガイと俺は一つの長いベンチに腰掛けた。

タバコに火をつける。まだ眠いし、酒が抜けきれてない。

 

「サム、よく聞いてくれ。いまから一か月後の事の話をする」

 

「そうかい。早く聞かせてくれよ。さっさと部屋に戻ってまた寝ようぜ」

 

「…イイか。あと一か月で、俺はお前らと離れなくちゃならない」

 

「ふーん…なに!?」

 

体の酒が、一気に抜けた。


「なに言ってんだよ、ニガー?冗談だろ?」

 

俺はガイの肩を掴み、強く揺すった。

 

「冗談?こんな大事な話、冗談じゃ言えないぜ」

 

「マジかよ…しかし離れるってのは、どうしてだ?」

 

俺はガイから手を放した。

 

「俺の愛するお袋とよ、二人でN.Y.に引っ越すんだ。大学出のインテリ兄貴があっちでデカいビジネスを成功させたらしくてな。生活に余裕ができたから、俺達を呼び寄せたんだよ」

 

「なんだよそれ。俺達と離れてあっちでイイ暮らしに浸るって事かよ?」

 

そこまで俺が言い終わる前に、ベンチの後ろへと俺は吹っ飛んだ。

ガイが俺を殴りやがった。

 

「ガキみたいな事言うのはよせ、B。俺は一人でもカリフォルニアに残るってお袋には言ったんだ」

 

俺は仰向けに倒れたままガイの話を黙って聞いていた。

 

「だがな、俺がこっちに残るなら自分も残ると言ってきかない。

でも俺はできれば愛するお袋に楽させてやりたい。

それならどうする?一緒に兄貴のトコまでついて行ってやるしかないだろ!」

 

少しの沈黙があった。

 

「サム…俺だって…B.K.Bと離れるなんて耐えられねぇんだぜ…」

 

ガイの顔がクシャクシャになった。


 

夜が開けて、B.K.B全員をアジト前に集合させた。

もちろんE.T.から新入りまで、ムショにいる奴以外は全員だ。

 

「聞け、ホーミー。ガイから大事な話がある」

 

俺は道路脇に停めていたインパラのボンネットに立ち、ホーミー達に呼び掛けた。

すぐに隣りにガイが上がってくる。

 

「よう!ホーミー達!調子はどうだ?」

 

みんなから、最高だぜ!という声が当然のように返ってくる。

だが今日だけはその返事も寂しく聞こえた。

 

「実は、もうすぐみんなとお別れなんだ。N.Y.に行かなくちゃならない」

 

「はぁ!?旅行かよ!ドッグ!ずるいぜ、ホーミー!」

 

ジミーが大声でチャチャを入れる。

みんなからは爆笑が起こった。

 

しばらくして、ジミーの冗談にも反応を見せず、ただ押し黙っているガイに気付いたホーミーの一人が言った。

 

「マジで…N.Y.に引っ越すのか…?」

 

「あぁ…本当だ。みんな…許してくれ」

 

辺りは静まり返り、みんなの表情が凍り付いた。

 

 

パアン!

 

 

そんな中一発の銃声が響いた。

クリックが空に向けて撃ったらしかった。


「おい!ガイ!てめぇそんな勝手が許されると思ってんのか~?」

 

クリックが大声で吐き捨てた。

俺がガイの事情を説明しようとすると、なぜかガイが俺を手で止めた。

ただ、俺を見つめて首を横に振っている。

そして小声で囁いた。 

 

「イイんだ…B。みんなには事情を知ってもらわなくてかまわない」

 

「どうしてだよ!?」

 

「みんなには恨まれたまま旅立ちたい…じゃねぇと俺…B.K.Bを思う気持ちが強すぎて帰って来ちまいそうだ。

だから俺が帰って来づらいように…」

 

ガイはインパラのボンネットに立ったまま天を仰いだ。

周りではメンバー達がクリックの意見に同意して騒ぎはじめた。

俺はガイの考えを尊重することにし、大声で言い放った。

 

「聞けホーミー!!俺は黙ってガイを行かせる!

だがな、俺はコイツの勝手を許さない!お前達もそうだろう!?

絶対にB.K.Bを裏切るような事はするなよ!次にこんな勝手を起こす奴は許さねぇ!」

 

みんなからガイへ怒りの雄叫びが上がった。

 

「おい、ガイ!さっさとN.Y.でもどこにでも行け!マザーファッカー!」

 

ガイは俺に小さく「ありがとう」と言ってその場から去って行った。


ガイが帰ってすぐ、俺はその場のホーミー達にガイの事情を話した。

 

「なんだって!?サム、何でそれを言わないんだよ!?」

 

ジミーが言った。

みんな、ガイを悪く言った事を恥じているようだ。

 

「アイツはB.K.Bの事を思いすぎて帰って来ちまわないようにわざと裏切り者となり、恨まれようとしたんだ」

 

「そんな…早く謝らないと!」

 

ジミーはガイが歩いて行った方向へ走り出そうとした。

 

「待て、ジミー!ガイには『みんなから嫌われている』と思い込ませないと意味がないだろ!」

 

「そんなのホーミーじゃねぇ!無理にアイツ一人が心を押し込めて…そんなのホーミーじゃねぇぜ!」

 

「バカヤロウ!」

 

俺はジミーを地面に引き倒して顔面を一発殴った。

 

「お前がもし嫌でもB.K.Bを離れる立場なら、ガイの行動を間違ったものだと思うのか!?仲間の気持ちを一番大事にするのが本当のホーミーだろ!」

 

ジミーは「チクショウ…」とつぶやいて地面を殴った。

 

「ガイの予定通り、アイツは誰とも顔を合わせずに旅立つんだ」

 

みんな泣いた。大声で泣き叫んだ。

ガイに聞こえないようにと、その声をかき消すように辺りには雨が降りはじめた。


 

次の日、俺のポケベルにガイから連絡がきた。

 

『ちょっとウチまできてくれ』

 

俺がインパラでガイの家に向かうと、奴は玄関前に立っていた。

何やら大きな袋がいくつもある。

車を停めて降りた。

 

「よう、ニガー。どうしたんだ?」

 

「あっちに俺が引っ越す前にな、俺が今までやってきたブツと金の管理を誰かに引き継がせなきゃいけないだろう?

他のハスラー達は俺の顔なんて見たくもないだろうから、お前に取りに来てもらったんだよ」

 

ガイはみんなに恨まれる事に成功したと思っているようだ。

 

「なるほどな。で?誰に管理させる?」

 

「それはBが決める事だろう。ハスラーの中でも頭がキレる奴がイイと思うぜ」

 

ガイはブツの入った袋をインパラに積み込んでいる。

 

「分かった。シャドウに預ける」

 

「好きにするとイイ」

 

俺は車に乗り込んだ。

 

「いつ、L.A.を出るんだ?」

 

ガイから日にちを聞き、せめて俺だけでも空港まで見送りに行くと伝える。

 

ガイは断ったが、俺が無理やりにでも行くと言ったら、笑って「分かったよ。サンキュー、ドッグ」と言ったのだった。


その帰りに俺はシャドウのポケベルに連絡した。

奴はちょうど家にいるらしかった。

そのままシャドウの家に向かい、ブツと金の管理を任せた。

 

「よっしゃ、任せとけ。遠くにいるガイに心配かけないようにしないとな」

 

「あぁ、アイツはいつも仲間の心配をしてばかりだからな」

 

二人で笑った。


 

「サム、ところでよ。ちょっと悪い噂を聞いたぜ」

 

「なんだ?」

 

「サウスセントラル辺りのクリップスがOG-BのタマとB.K.Bのテリトリーを狙ってるらしい」

 

L.A.のサウスセントラル地区といえば俺達の地元からは目と鼻の先だ。

距離にすれば5,6マイルといったところか。

 

「そうか…俺達の成長スピード、目立った犯罪に目をつけられちまったようだな」

 

「あぁその通りだ。サウスセントラルには『ギャングスタ クリップ』『サウスセントラル クリップ』ってなデカイギャングがいる。どっちも百五十人近くの構成員数を抱える強敵だぜ。他にもいくつかいる。

だが、どのチームが狙っているのか分からないんだよな」

 

シャドウは大きくため息をついた。


「どっちにしろ、攻められたら一溜まりもないぜ。デカイ戦争になるのは間違いない」

 

「あぁ、ただの噂であってほしいもんだな」

 

俺はタバコに火をつけた。

シャドウもクロニックに火をともしている。

 

「…おい、シャドウ。サウスセントラル地区のブラッズと連携を取ればどうにかなるんじゃねぇか?」

 

「あぁ?そりゃそうだが、何か心当たりでもあるのかよ」

 

「…」

 

俺は家の外に停めているブラッドホールを窓からぼんやり眺めていた。

今日も相変わらずカッコイイ。さすがは俺の愛車だ。

 

「クレンショウでも大活躍だったからなぁ…」

 

「んん…?あぁ、お前の車か。そういえばクレンショウでビッチのピックアップをやったんだよな。あ…!」

 

 

クレンショウ…!

 

俺はシャドウの方へ勢いよく向き直った。

 

「「クレンショウブラッドだ!!」」

 

俺達は同時に叫んだ。

クレンショウは紛れもなくサウスセントラル地区の一部。

奴等と連携が取れれば心強い。

俺達は拳をぶつけるとすぐに立ち上がった。

 

「いこうぜ、シャドウ。今度こそ奴等のリーダーと接触だ」


 

「サム。『今度こそ』って事は、前にラットと会う機会を逃したって事か?」

 

クレンショウへと向かう道中、助手席のシャドウが言った。

さすがシャドウだ。俺は何も言ってないのにクレンショウブラッドのリーダーの名前を知っていた。

 

「あぁ、ライダーと二人でな。女を拾っていた時にたまたまクレンショウブラッドのニュージャックと知り合いになってよ。

それでソイツにラットの家まで案内してもらったんだが、別人の家だったんだ。多分ソイツに騙されたんだろ」

 

「…名前は?」

 

「ぴよぴよニュージャックのか?確かbjって名乗ってたな」

 

俺はハンドルを握りながらビールを一口飲んだ。

 

「じゃあまずはソイツを探そうか。騙されたお礼もしてやろうぜ」

 

「そうすりゃ本当のラットの家に案内するってか?」

 

「そうだ」

 

シャドウも俺の手からビールを取って一口飲んだ。

 

「でも痛めつけたりしたら奴等と俺らの関係が悪くなるぜ」

 

「サム、誰も痛めつけたりしねぇよ。ちょっと殴るだけだ」

 

「マザーファッカーが!それが痛めつけるっていうことだろうが!」

 

インパラはクレンショウに入っていった。


とりあえずやみくもにクレンショウを流してみたが、当然bjを見つける事はできなかった。

 

「ま、簡単には見つからないわな」

 

シャドウが助手席で退屈そうにしている。

今日のシャドウは黒のワークパンツにハウスシューズ、赤いTシャツ、ツルツルの頭にはペイズリー柄のバンダナを前結びでとめて、ギャングスタロークをかけている。

どこからどう見てもブラッズだ。俺も赤い服を着ているので、そろそろクレンショウブラッドの奴等に絡まれてもイイはずだが…その時。

 

パアン!パアン!

 

銃声。だが俺達に向けられたものではない。

それは少し離れた場所から聞こえた。

 

「ドッグ、行ってみるか?」

 

「あぁ、いこうぜ」

 

銃声はその後もずっと鳴り続いている。俺はそっちの方に車を走らせた。

 

「おらぁ!くたばれマザーファッキンブラッズ!」

 

パアン!パアン!

 

そこは戦場と化していた。一軒の家の前に車が二台。

そこから七、八人くらいのクリップスが家に向かって発砲していたのだ。


その家の窓からは時折ブラッズのメンバーが現れて撃ち返している。

どうやら三人しかいないようだ。圧倒的に不利な状況。

俺はシャドウを見た。

 

「仕方ないな…サム、ドライブバイだ。横に寄せろ」

 

「任せとけ」

 

シャドウは腰からマック10を抜いた。奴のお気に入りの銃だ。

 

「殺れても四人だな。スピードは速めで頼む」

 

俺はインパラをクリップスの奴等の近くに寄せた。

まったくこちらには気付いていない。

 

パパパパン!

 

シャドウの発砲で三人のクリップスが吹っ飛んだ。

 

「よし!出せ、B!反撃がくるぞ!」

 

俺達に気付いたクリップスはこちらを向いた。

だが家の中のクレンショウブラッドの奴等に背後から撃たれているようだ。おかげで反撃は無かった。

残りの数人が撃たれた仲間を担いで車に乗せ込み、俺のインパラとは逆方向に逃げて行くのがミラーで確認できた。

 

「よっしゃ、追っ払ったみたいだ」

 

「サム、ブラッズのメンバーと話してみようぜ」

 

俺達は家の前に車を停めた。


「助かったぜ!ありがとよ!あんたらがドコの奴かは知らないが」

 

中からクレンショウブラッドの一人が出てきた。

 

「俺達はB.K.Bだ。俺はリーダーのOG-B。危ないところだったな!ブラザー」

 

他の二人も家から出て来た。一人は撃たれているらしく、肩を借りている。

 

「おい、大丈夫か?」

 

シャドウが撃たれた奴に話し掛けている。

奴は顔をあげた。

 

「あぁ、ふとももをやられただけだ」

 

…!

 

これは驚いた。後ろ向きに被ったベースボールキャップ。赤いチェック柄のシャツ。見た事のあるツラだった。

 

「bj!」

 

「なに?コイツがbjか?」

 

シャドウが言った。

 

「ん…?お、おぉ…サムじゃねぇか。久し振りだな…なんでここに…痛っ…!」

 

bjは倒れそうになり、仲間から支えられた。

遠くからサイレンが聞こえる。

 

「仕方ないな、お前らインパラに乗れ!bjを病院に送ってやる」

 

すぐにクレンショウブラッドのメンバーは後ろに乗り込んだ。

 

「サム!おまわりが近いぜ!急げ!」

 

シャドウの言葉と同時に俺はアクセルを踏み込んだ。


「おいお前ら、病院はどこだ?」

 

シャドウが後ろを振り向いて言った。

 

「病院よりも俺達のアジトが近くにある。そこへ向かってくれ。その路地を左へ入ってすぐのところだ」

 

一人がそう言ったので、俺は奴等のアジトへ向かった。

 

 

到着すると、そこは倉庫のような場所だった。かなり広い。

壁一面に『c.s.b(crenshaw bloodの略)』のタグが書き込まれている。もちろんcには×がつけてあった。

 

ブラッズは基本的にはクリップスの頭文字であるCを嫌って、その文字を書く時には必ず上から×をつける。

クリップスは逆にBの文字に×をつける。

 

「中へ運べ!」

 

奴等はbjをアジトの中へ連れて行った。

俺達二人も続いて中に入る。

 

中にいたクレンショウブラッドのたくさんのメンバーがbjを見て騒ぎだした。

 

「おい!どうしたんだ、bj!」

「大丈夫か新入り!」

「誰にやられた!」

 

bjはテーブルに乗せられた。

どうやらここで弾を抜いて傷をふさぐのだろう。

 

bjの凄まじい叫び声が聞こえてくるのに、それほど時間はかからなかった。


 

「あらためて礼を言うぜB.K.B」

 

bjがソファに移されて眠ると、さっきまで奴を担いでいた一人が俺に言った。

他の奴等はようやく俺達に気付いたらしい。

 

「B.K.B?何年か前、クリップス二十三人と警察六人を殺したあのOGどもか!?」

 

誰かが言った。どうやら昔のニュースを覚えていたようだ。みんなも騒ぎ始めた。

 

「あぁそうだ」

 

これは俺じゃない。後ろから声がした。

そこには小柄な男がいた。

全身白のスウェット。赤のスリッパ。頭にはボンボンのついた可愛らしいニット帽。

そう。少し前にbjに騙されて案内された家から出てきた変なチビだ。

 

「なんでアイツがここに?」

 

俺がつぶやいているとソイツはつかつかと俺のところに歩いてきた。

俺の右手を握る。

 

「ウチの若いのが世話になったそうだな。ありがとよ、OG-B」

 

「…?」

 

手を放すとテーブルの上にソイツは座った。

足が短いので地面に届かず、ぶらぶらさせている。

 

そいつがクロニックをニット帽から取り出して口にくわえると、すぐに近くにいた一人のブラッズが火をつけた。

 

「俺がクレンショウブラッドのラットだ。よろしく、ニガー」


驚いた。

まさかこの大ギャングのドンがこんな小柄な奴だったとは。シャドウはラットをじっと見ている。

俺は見た目で人を判断してしまった自分を恥じた。

bjはあの時、本当にラットの家に案内していたのだ。

 

「久し振りだな、サム」

 

「あぁ…お前がラットだったのか」

 

「悪いかよ?俺は基本的にはサウスセントラル以外の連中とは馴れ合いたくねぇんだよ」

 

なるほど、それで家をたずねた時に嘘をついたのか。

 

「だが俺の大事な仲間を助けてくれたらしいじゃないか。だから出てきた。感謝してるぜ、ニガー」

 

ラットはまだ足をぶらぶらさせている。

 

「たまたま通りかかったんだ。同じブラッズとして助けるのは当然だぜ」

 

ラットは「そうか」と返すと、テーブルから降りた。

そのままアジトの入口へすたすたと歩いている。

一度こちらを振り返った。

 

「いつでも遊びにこいよ」

 

そう言うと奴は帰っていった。

 

気まぐれな奴だ。だが不思議と嫌いでは無かった。

『自分がやりたいようにやる』という自由な考えを持った男だ。

 

俺とシャドウはクレンショウブラッドのメンバーに別れを告げて地元へと戻った。


 

シャドウと二人でクレンショウブラッドとの接触に成功したのち、時は流れてついにガイが旅立つ日になった。

俺はインパラに一人乗り込み、ロサンゼルス空港(LAX)へと向かう。

 

空港に到着すると、すぐに大きな荷物を抱えたガイとその母ちゃんを見つけた。

母ちゃんは「先に搭乗しておくから、きちんとお別れをするのよ」と言って去っていった。

 

「ついにお別れだぜ、サム」

 

「あぁ、元気でな…ホーミー」

 

俺とガイは拳をぶつけて強くハグをした。

涙は流さない。笑顔で見送りたかったのだ。

 

そう。ガイがB.K.Bを心配して戻ってこないように…

 

「ガイ。N.Y.に行ってもリアルに生きろよ…」

 

「あぁ。『キープ・ギャングスタ』だろ?俺の背中のCKは消えないぜ」

 

ガイは笑った。

 

じゃあな。そう言おうとした瞬間、ガイは目を見開いた。

俺もガイの視線の先を追って振り返る。

 

空港に不釣り合いなガラの悪い集団が歩いてくる。

 

さすがに出入り禁止にされるので赤い服を着ていないが、それでも分かる。

長い間つるんできた連中だ。危ないオーラを発しながら歩いてくるあの七人。

 

E.T.だ。バカヤロウどもが…


「なんでアイツらが…」

 

「分からねぇ。今日がガイの旅立つ日だとは知らないはずだが…」

 

ドンドン近付いてくる。まずい。ガイを恨んでいる事になっている計画が台無しだ。

 

「ヘイ!マザーファッカー!」

 

空港内だというのにジミーがファックワードを叫んだ。周りの客がじろじろと見ている。

バカが、ただでさえあのアフロで目立つというのに。

 

「てめぇが二度と戻ってこないように文句をたれにきたぜ、クソったれ」

 

マークが言った。みんなの表情は厳しい。

どうやら演技だけは続けてくれるらしい。俺は少し安心した。

しかし見送りにだけは来たかったのだろう。

一体どこから出発の日取りの情報を入手したのか。

 

「そうか…すまねぇ、みんな。許してくれ…」

 

「許さねぇぜ。だからもう帰ってくるな」

 

腕を組んだままライダーが言った。

 

「ガイ。自惚れるなよ。てめぇがいないぐらいで俺達には何の影響もないんだぜ」

 

スノウマンが言った。

クリックがスノウマンの陰から「さっさと行っちまえ~」と叫んでいる。


「ガイ。心配しなくてもイイぜ。このとおり俺達は大丈夫だ。今日以降、もうてめぇの顔も見たくないぜ」

 

ジャックがガイを睨み付けながら言った。

ガイは黙って聞いている。

 

「コリーもきっと同じ気持ちだ」

 

最後にシャドウが言った。ロークをかけていて目は見えない。

 

ガイはじゃあな。と振り返った。

一人トボトボと歩く。ガイの事だ。なんとなく感づいているかもしれない。

本当に恨んでいるならば見送りにすら来ないはずだが、ここまでのみんなの思いを受けた以上、帰ってくるわけにはいかない。とでも思っているのだろうか。

E.T.はガイのだんだんと小さくなっていく背中を見ていた。

 

ついにこらえきれなくなったマークがまずわんわん泣き始めた。

みんなも我慢していたものが溢れ出す。

 

アイツとの絆は死んでも千切れない。幼い頃から共に過ごしたホーミーとの別れに耐えれるクソったれは一人もいなかったらしい。

ガイは一度も振り向かなかったが、小さく肩が震えているのは遠くからでも分かった。

 

まったく…アイツも…俺らも…なんて芝居が下手くそなんだろう…

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