my ride,g-ride
イカシタ相棒、ただのアシ。色んな考えがあるだろう。
だがギャングにとってのそれは、そのどちらでもあり、どちらでもない。
俺とライダーの仕事。つまり女の売買はあまり上手くいっていなかった。
抱え込んでいる売女は全部で四人、だがお世辞にも質がイイとは言えず、俺達の月の稼ぎは売女への給金を抜くと七、八百ドルと言ったところだ。
何か策を練る必要があるが、メインの商売はマリファナなのでそこまで思い詰める事では無かった。
この頃に、ライダーによる『ウィザードのシビック大改造計画』が始まる。
…
「ヘイ!ホーミー達!ウィザードのシビックをキレイに直して、天国にいるアイツを驚かせてやろうぜ!」
ある日、アジトで飲んでいたみんなの前でライダーが叫んだ。
この時アジトにE.T.は、俺、ライダー、コリー、シャドウ、スノウマン、クリックしかいなかったので、その六人でシビックを仕上げようという事になった。
早速その日からアジトの裏手のガレージでシビックをバラシ始める。
…
「ん~?ここがこれで~?ん~…あぁ~わからね~」
「ん?ホーミーかしてみろよ」
クリックは作業中もずっとクロニックをくゆらせているので手間取っているようだ。
コリーが手助けしていた。
「クリック!てめぇマジメにやれよバカヤロウ!」
どこからか汚い言葉が飛んできた。気付くとソイツは後ろに立っていた。
ジャックだ。イライラとクロニックの煙を払いのけながら作業を手伝い始めた。
しばらくして
「ようホーミー達。ショーティから電話があったんだ。俺も力を貸すぜ」
「ようマーク待ってたぜ、ドッグ」
パン!とスノウマンとタッチをして、マークも加勢してくれた。
今日は珍しく奴はツナギ姿だ。やる気マンマンらしい。
人数が増えたので、交代で休憩して、作業を続けた。
昼になると、クリックが途中で買ってきたバーガーを食べながら、みんな車の話で盛り上がる。
どんな色にするか、どんな改造を施すか、みんなの目は輝いていた。
「よし、作業再開だ。まだまだ何日かかるか分からないが頑張ろうぜ」
俺がそう言うと、再びみんなで車をイジリ始める。
この日は、前から壊れていた電気系を中心に直していった。
配線を見直し、壊れて使えない部品は一つ一つメモを取る。
後で仕入れなければならないからだ。
いつの間にか日が暮れていた。
俺達八人は薄暗い電球の下で作業を続けていたが、アジトの中ではメンバー達が騒いでいるのが聞こえる。
酒を飲んでいるのだろう。
俺達もその日の作業を切り上げてアジトに入ったが、ライダーとコリー、そしてシャドウだけはガレージに残ったようだ。
乗り物好きは、イジリ始めたら止まらないらしい。
…
次の日、昼前くらいから昨日の八人は集まって、同じようにシビックの修理をしていたが、しばらくしてガイとジミーがパンやコーラをたくさん差し入れに持ってきてくれて、そのまま手伝ってくれる事になった。
気付けばウィザードの為にE.T.全員が集まっていたのだ。
「よーし!俺に任せとけ」
ジミーが言い、みんなにはさらに活気が出てきた。
ウィザードがこの様子を見たらきっと喜んでくれるだろう。
この日の夜も他のメンバー達はアジトの中で酒を飲んだりして楽しんでいるようだったが、俺達E.T.はこの日、ライダーが「今日はここまでだな」と言うまで誰一人ガレージを離れる事は無かった。
ある程度、壊れていた計器は二日後には完治させた。
残るはインテリアのシートなどの破れやエクステリアの傷、ヘコミなどの『見た目』だ。
しばらく前に俺が入院した日、シビックをぶつけた時に壊れたガラスやボディもまだそのままなのだ。
外装はコリーの実家の整備工場で直す事になった為、一度シビックを移動させた。
…
俺達はまずボディのヘコミやバンパーの割れを直した。
ガラスやライトなど、割れているものは取り替えだ。それはもちろんその辺を走っている同じ型のシビックからちょうだいした。
盗みをやったのはマークとシャドウの二人だった。
ボディの色の塗替え、内装に取り掛かる。
だが、よく考えると色、内装はどう仕上げるか決まっていなかった。
…
「さて、これからどう仕上げようか、ホーミー達」
修理が終わり、残るは改造のみとなったある日、コリーがみんなにたずねた。
この時はもちろんみんなはコリーの実家の工場に集まっていた。
「ボディは紫!インテリアは赤だな!」
まず、スノウマンが発言をした。
その後もみんなから様々な意見が飛び交う。
結局、ボディは暗めのパープル、インテリアはブラックで決定した。
怪しげな組み合わせだ。
「よし、これで決まりだ!さっそく今日から取り掛かろう!」
コリーの実家にある塗料を使って、ボディの塗装が始まった。
その間に塗装に参加していないメンバー達は店を周り、インテリアの生地を買ってきた。
塗装は丸二日かかったので、内装以外にも、ハイドロのパーツを一式、デイトンも中古で揃えた。
デイトンとはワイヤーホイールのメーカーの名前だ。
いよいよ塗装が終わるとハイドロ班、インテリア班に分かれて作業が始まった。
ハイドロはポンプが二発のバッテリー六つ積み。インテリアはドアの内張りからシートまで真っ黒になった。
デイトンホイールは13インチのキレイなオールクローム。さらにクロームのフェンダートリムも装着した。作業開始から数週間、ついにソイツは完成した。
「終わったぁ…」
コリーが言った。みんな疲れているのも忘れて抱き合って喜んだ。
もう、誰が見てもポンコツとは言わない。
俺達のローライダーとしてシビックはよみがえったのだ。
俺達はコイツに名前をつけることにした。
紫色の怪しい光を放つローライダー。
…
『ウィザード』
「よう、ウィザード…見ろよ…これがお前の車だぜ…」
俺はビールを地面にこぼした。
ここは墓地。俺達E.T.は早速ウィザードに生まれ変わったシビックを見せにやってきたのだ。
ウィザードの墓の目の前にはシビック、ジャックのサバーバン、ライダーとシャドウのバイクが停まっている。
「どうだ?クールだろ?みんなで仕上げたんだぜ。よく見ろよ、ウィザード。ハイドロも組んでる」
コリーがシビックのトランクを開けた。
クロームのタンクとポンプが日光に照らされてキラキラと輝く。
…
しばらくして、ジミーが遊びに行こうと提案し、みんなはバスケをやる事になった。
俺が少しウィザードと話したいと言ったので、みんなは気持ちを汲み、俺とシビックを残して先に近所のバスケコートへと向かった。
みんなが去ると、俺は墓の前に座ってビールを一口飲み、残りは墓にかけてやった。
「ウィザード。なかなかここへ会いにきてやれなくてすまねぇ…お前が逝ってしまってからも、俺達はなんとかやってるぜ」
俺はタバコを二本取り出し、火をつけると一本を墓の前の地面に立ててやった。
『サンキュー、ニガー』
そう聞こえた気がした。
タバコをふかしながら思い出話を二人でしばらく話した。
「さて…ウィズ、そろそろホーミー達のところに戻らないと」
俺はケツについた土を払い、背中を向けて立ち上がった。
「あぁ。また来いよ、サム」
!!!
俺は驚き、振り返った。
だがそこには墓が立っているだけで何も無かった。
「ウィザード…」
今度は急にキュンと高い音がしてハイドロが作動し、シビックの車高が上がった。
「さぁ行けよ。お前はチームの大事なリーダーだ。ホーミー達が待ってるぜ」
また声がした。今度はハッキリと。
墓の前にはウィザードが立っていた。
いつもと変わらず口に赤いバンダナを巻き、上下共に真っ赤なディッキーズを着ている。
「あぁ…また来るぜ、ホーミー…」
俺が言うとウィザードは昔と変わらない怪しげな笑みを目元に浮かべた。
…
俺がコートについた時、バスケはかなり白熱していた。
スノウマンのラジカセからラップが流れている。
「ヘイ、パス!パス!」
「よっしゃ、受け取れ、ホーミー!」
「シット!どこに投げてんだ!マザーファッカー!」
これはマークとスノウマンだ。
二人とも巨体なので汗だくになっている。
みんなが俺の到着に気付いた。
「よう、サム。やっと来たか!」
上着を脱ぎ、裸になってベンチに座っているジャックが話し掛けてきた。
「ん?おい!ひでぇツラだな!思い出に浸ってやがったな!まぁコーラでも飲めよ」
ジャックに言われるがまま俺はコーラを飲んだ。予想しなかったウィザードとの再会で感きわまり、俺はいつの間にか泣いていたのだ。
俺は「ウィザードと会ったんだ」とジャックに言ったが「そうかそうか」と笑われたのでそれ以上は別に何も言わなかった。
「クリック!こっちだ!俺に任せろ!」
コートではシャドウが叫んでいる。
俺は立ち上がった。
「ホーミー達!俺が来たからには容赦しないぜ!」
仲間達のゲームの中へと俺は飛び込んでいった。
俺も加わり、E.T.10人を『俺、ジャック、ガイ、ジミー、シャドウ』と『マーク、スノウマン、クリック、ライダー、コリー』の5対5に分けての試合が始まった。
「くらえ、ギャングスタ・ドリブル!」
ジミーがふざけているのか、B-walkを踏みながらボールをついている。
「もらったぁ!」
「なにぃ!?」
ジミーは案の定、ライダーからボールを奪われた。
バカな奴だ。walkを踏みながら抜かれるようなマヌケはいない。
ゲームくらいマジメにやれ!とガイが叫んでいる。
ライダーはそのままリングにボールを叩き込んだ。
長身をいかした見事なダンクだ。編み込んだ長めの髪がフワリと揺れた。
その時だった。
ドォン!…ドロドロドロ…
腹に響くようなエンジン音が轟いた。
聞き覚えのある音。
これは…キャデラックのエンジン音だ。
間違いない。
これは…
レイクのキャデラックの音。
そう思って俺が振り向いたのと、パァンとクラクションを鳴らしてレイクがコートのそばに車を停め、ドアから出てきたのはほぼ同時だった。
「レイク!」
俺は叫び、コートの周りを囲んでいるフェンスへと走った。
他のB.K.Bのメンバー達もゾロゾロとレイクの近くへとやってきている。
その手にはbのハンドサイン。
「よう、サム」
レイクがフェンス越しにニカッと笑った。
「どうしたんだよ急に!」
「いや、今日は日曜日だぜ?クルージングで近くまで来たんでちょっと寄ったんだよ」
レイクがクイッと親指を向けたので、そちらを見てみるとズラリとRockets c.c.の車が集まっていた。
「まあ…ここだけの話、イトコの友達がいるからって事で、仲間に無理を言って寄ってもらったんだけどな」
「そうだったのか…元気そうで嬉しいよ」
じゃあまたな、とレイクは振り返って車に戻ろうとしたが、俺達が乗ってきた車の方をチラッと見て再びフェンスへと近付いた。
「あのシビックのローライダーは誰のだ?キマッてるな」
「あぁ…そうだった。言うの忘れてたよ。アレは…ウィザード、いやトニーのシビックだ。みんなで仕上げたんだぜ!」
俺は満面の笑みで返した。
「おいおい冗談だろ!?あのポンコツが、あんなにイカしたローライダーになったのかよ!」
レイクはフェンスのドアを蹴り開けてコートに入り、俺達一人一人にハグをしてくれた。
「お前ら最高だぜ!B.K.Bのブラザー達!」
わんわんとうれし涙を流して叫んでいる。
俺も感情は押し殺さない人間だが、レイクや、ここにはいないがファンキーのように豪快に感情を表す人間は大好きだ。
みんなもレイクの反応が嬉しかったようで、自然と笑顔になっている。
苦労してみんなでシビックをここまで仕上げた甲斐があったというものだ。
レイクはひとしきり泣いてようやく泣きやんだ。
「よっしゃ!今日はイイ日だ!ブラザー達も俺達とクルージングに一緒に行かないか?」
レイクの思いがけないこの一言で、俺達はシビックとジャックのサバーバン、ライダーとシャドウのバイクでRockets c.c.のローライダークルージングについて行く事となった。
…
クルージングでは、Rockets c.c.の奴等が大暴れ。
ランニングホップや3ホイラー、信号無視なんか当たり前で俺達B.K.Bはその走りに心踊らせた。
「おいおい!運転荒いなアイツら!」
シビックを駆る俺の横に座っているマークがニヤニヤしている。
「おっかねぇ…無茶しやがって」
後ろのガイもそうつぶやいた。
ライダーとジミーが二人乗りしたニンジャがローライダー達のパフォーマンスに負けじとエクストリームを披露する。
そして日が暮れ、別れの挨拶をすませると、クルージングを満喫したRockets c.c.の奴等は地元コンプトンへと戻っていった。
「今日は楽しかったな。さぁみんな、アジトに戻ろう。他のメンバーと合流して、ハスラー達は今夜は仕事だ」
おう!とみんなから声が上がり、E.T.はアジトに戻った。
ハスラーはいつもどおり支度を済ませてガイの家からブツを持ち出し、それぞれの売り場へと数人単位で散らばっていったのだった。
…
「アイツらの走り方はクールだったなぁ!」
仕事中も俺達はクルージングの話で持ち切りだった。
この時は俺とシャドウ、ガイの三人が一緒で、隣町の裏通りにシビックを停めてブツを売買していた。
売春の仕事は今夜はライダーに任せている。売女の数が少ないので一人で回せるのだ。
しかしやはり、もっと女の数が欲しいところだ。
ガイが話し掛けてきた。
「そういえば、お前がこっちの仕事に参加したのは久し振りだな、サム」
「あぁ。売女がもう少し増えてくれれば嬉しいんだが…それよりよ。俺も自分の車が欲しくなっちまったぜ!このシビックはウィザードのもんだしな」
「ははは。確かにイカシタ車はギャングスタの憧れの的だよな」
シャドウが笑って言った。
「いや、シャドウ…待てよ。売女を集めるのにローライダーを使えそうな気がしないか?」
「15ドルだ。
…ん?何か言ったか?」
客が来たのでガイの言葉がシャドウには聞こえなかったようだ。
金をダッシュボードに投げ込んでいる。
L.A.で女を拾うならイカシタ車、誰にも負けない最高な車。それが常識。
そうだ。どうしてそんな大事な事を見落としていたのだろうか。
「ガイ、何か言ったか?」
「だからよ。Bがイカシタ車を持っていればイイ女が集まって仕事がはかどるだろ?」
シャドウはなるほど、と頷いた。
その日の仕事が終わると早速、アジトのガレージの中にハスラー達を集めて、そして特別にウォーリアーからコリーだけを呼び出した。
「ようホーミー達、実は売春の仕事で、大事な話があるんだ。ライダーは…まだ帰ってきてないな」
俺はみんなを見渡した。
「この間シビックを直したばっかりで、こんな事を言うのは少しばかり気がひけるが聞いてくれ。
もう一台、車が必要だ。誰にも負けない最高の車が」
みんな黙って聞いている。批判する奴は特にいないようなのでそのまま続けた。
「ビッチをスカウトするのにどうしても必要なんだ。そうすれば売春の仕事も上手くいくに違いない。
B.K.Bのさらなる発展がかかってる。みんな!協力してくれないか?」
分かった。と全員が強く頷いてくれた。
ちょうどライダーが仕事から戻ってくる。
「どうしたんだ?ハスラーみんな集まって」
ガイがライダーに説明すると奴は、もちろん反対する理由がないぜ、と俺の肩を叩いた。
「だが、ローライダーを使って女を拾うなら、ラスベガスじゃあ無理だな。
あの辺の女はセレブ気取りだからよ。車で釣るならハマーくらいは必要だぜ」
シャドウが言った。奴の脳はギャングやマフィア以外にも、地域ごとの人間の特徴も見事に網羅しているようだ。
「ローライダーで女を釣るのに最適な場所…」
俺がそう言うとみんながツバを飲んだ。
そうだ。
黒人ローライダーの聖地。
L.A.で最も有名なストリート。
「クレンショウ通り…」
みんなから落胆の声が上がった。
無理もない。
ローライダーのc.c.達がいるだけならば問題はないが、クレンショウにはデカイギャングチームが存在している。
『クレンショウ ブラッド』
同じブラッズとはいえ、俺達がクレンショウで女を拾う事を許してくれるかどうかは分からないのだ。