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揺るぎないものがある。
かつてクレイの元、誓いあった誇り。
死んでも千切れない信頼。
病室にはB.K.Bのメンバーが勢揃いしていた。
みんなベッドを囲むように並んでいる。
「しかし、よかったぜ…ヒヤヒヤさせるなよな、ドッグ」
マークが言った。
幸い俺は頭の傷からの大きな後遺症もなく、元気だった。
予想通り、頭の中で内出血が起こっていたらしいが、手術のおかげで一命をとりとめたのだった。
三日間は意識が無かったが、意識を取り戻した時にはすでに術後で痛みも無かった。
この時、あのクリップスとの抗争から二週間が経っていた。
俺への全員での見舞いは今日が初めてだ。
医者によると、もうすぐ退院できるらしい。
「サム、商品はすべて今のところガイの家だ。お前が動けない間のショーンからの仕入れは奴が一人でやった」
これはシャドウだ。
ハスラー達は俺がいない間も上手くやっていたようだった。
「そうか。心配しなくてよさそうだな」
「サム、お前は今は自分の体だけを心配してればイイんだよ」
コリーが言った。
みんな頷いている。
「ありがとう」
俺はみんなの心遣いが嬉しくて、一筋の涙を流した。
みんなは笑った。
…
数日後、俺は退院した。
仲間達は心から喜んでくれ、その夜は当然のように祝杯が上がった。
俺はハスラーの仕事に戻る。もちろんリーダーとしても今まで以上に頑張っていかなければならない。
ドラッグは俺が入院している間にほとんど売れてしまっていた。
それで俺が復帰した日からは隣町でもマリファナを主流とした商売が始まった。
…
その後、数ヶ月が経ち、アジトを建てる資金はなんとか集まった。
しかし、その間に新メンバーが増え、B.K.Bは四十人を超えるかなり大規模なギャングへと成長した。
そのせいで再び資金難が俺達ハスラーに襲いかかる結果となる。
このままではアジト用の資金にすら手を出さないとやり繰りできない。
昔からつるんできた仲間達、つまりE.T.は俺を含めてこの時、十九歳になっていた。
「どうする、B?」
この日、ジミーの家に俺とガイはいた。
はじめは、ただ三人で飲んでいただけなのだが、話はもちろんハスラーの仕事の方向へと進む。
「そうだな…人数がかなり増えたからな。ハスラーの増員も考えたが、結局ブツの仕入れはショーンやレイクに頼っているものだけだ。増員したところで大して意味がない」
俺はジミーにそう答えた。本当にお手上げだ。
おそらくすでにB.K.Bはここらにあるブラッズの中でもベスト20には入れるくらいの力を持つギャングだ。
こうなってしまってはコンプトンブラッズ以外のブラッズギャングとも連携を取って仲良くし、新たな取り引きをしなければならない。
逆に言えば、ウィザードとレイクの親戚関係ような繋がりがなくても、他の地区のギャングと、まともに交渉ができるほどのギャングへと俺達B.K.Bが成長したということだ。
それは嬉しい事なのだが、よそとの関わりを持つ場合に苦労するのは当然ハスラー達なのだ。
この時ばかりは少しだけウォーリアーをうらやましく思った。
もちろん、ウォーリアーはウォーリアーで、抗争の時には命を落とす危険性が高いのだが。
「ライダーからは反対を受けるだろうが…やるか?」
ジミーが言った。
なるほど、まだその手があった。
…女だ。
スカウトしたビッチを売りさばく。
もちろん客は金を持ったどこかの社長さんやら、汚い政治家やら…金はあっても、歳のせいで女のよりつかないような連中だ。
B.K.Bの間では女の売買はあまり活発には行われていなかったが、普通はギャングのハスラーにとっては大事な売り物の一つに女がある。
薬、女、銃、盗難車。
これが大抵のギャングの資金源となっているのだ。
もちろん自分や仲間の本命のガールフレンドは売り物にはしない。
「そうだな…このままじゃ、金がたりない。ビッチのスカウトと売りの専門のハスラーを何人か作るか…」
俺はタバコに火をつけてビールを一口飲むとそう言った。
ガイも仕方ないな、と頷いている。
「よし、決まりだ。ジミー、明日の朝にハスラーもウォーリアーも全員セントラルパークに集めてくれ」
空になったビール瓶をテーブルに置き、タバコを灰皿に押し付けると、俺は立ち上がった。
「あぁ、かまわないぜ。イイ考えだと思う」
翌朝セントラルパークに全員集まったのち、ライダーから返ってきた言葉は意外なものだった。
ジミーとガイ、そして俺は顔を見合わせた。
「本当かライダー?きっと反対されると思ってたんだぜ、ニガー」
ジミーが両手を広げてライダーに歩み寄った。
「もちろんだ。まあ確かに女を売り物にするのにイイ気分はしないが…俺達が第一に考えなきゃならないものはなんだ?B.K.Bのホーミー達の事だろう?それなら俺のハニーやジャックやサムの彼女以外の女を売るのも仕方ない」
やはりライダーは心から乗り気なわけではないようだ。
少し嫌な顔をしていたが、周りの仲間達の顔を見渡すと大きく頷いた。
「今は下手にプライドを振りかざす時じゃない。すべてはB.K.Bの為に!!」
ライダーがそう言うと、全員から雄叫びが上がった。
「B.K.B 4 life!」
「big up rider!」
様々な言葉が朝の公園に響き渡る。
「big up」とは最上級の尊敬を意味する。
みんながライダーを称えているのだ。
ライダーはなんとなく照れくさい表情を浮かべている。
ジミーは奴に抱き付いて頬に何度もキスをしてふざけていた。
みんなはそれをみて大笑いしている。
「よし!ホーミー達から新たにハスラーを選ぶぞ!」
そう俺が言い、E.T.以外のメンバーから新しく四人を指名し、ハスラーに加えた。ハスラーは全部で十二人になった。
その十二人の中からビッチの仕入れと売りの担当を数人選ぶのだ。残りは今まで通りブツの売買を担当する。
俺は自ら女の売買を担当する事にした。ヤクや武器の仕入れ先と売り場はすでに確保しているので、他の仲間達に任せても安心できるからだ。
女は何人もスカウトする必要があるので仕入れが難しい。
その代わり警察の目を気にする必要性はヤクに比べると薄いのだが。
「よし、みんな聞いてくれ。ビッチの担当は俺とライダーの二人でやる」
いきなりの俺の言葉にみんなは驚いてしまった。
無理もない。女の売買を一番嫌うライダーを選んだのだから。
もちろんライダーは呆気にとられて俺をじっと見つめていたのだった。
「B!お前何考えてるんだ!?」
「サム!ライダーは、やりたくないはずだ!」
たまらずマークとスノウマンが叫んだ。
勢揃いしたB.K.Bのメンバー全員から俺に非難の言葉が飛ぶ。
俺は一度だけ右手を上げた。
するとすぐに騒ぎは静まる。
「ライダー…いや、ニック。今は下手なプライドを振りかざす時じゃない。そうだろう?」
俺はライダーの目をじっと見た。
ライダーは俺を見返してくる。
「…分かったよ。俺はギャングスタだ。仕事に関しては汚れるところまで汚れてやる。例え売り物がビッチでもな」
ライダーの口がニヤリとつり上がる。
「おいおい!まさかライダーの口からビッチって言葉が出てくるとはよ」
ジャックが笑いながら言った。
俺は、ギャングとして時には自分がやりたくないような事に手を汚さなければいけない事をライダーや、周りのみんなに分かって欲しかったのだ。
それであえて奴に女の売買を指名した。
どうやらみんな理解してくれたみたいだ。
さっきまでの険しい表情は誰の顔にもない。
「お前は立派なギャングスタ…そして立派なハスラーだぜ」
俺はライダーを抱き締めた。
…
次の日、早速俺とライダーは二人で売り物になりそうな女の下見に訪れていた。
場所はラスベガスの郊外。バーやパブが並ぶ、言わば繁華街だ。
美人が集まっていると噂だったので、俺達の地元からかなりの距離があったが、ここまでやって来た。
しかしこの日は別に本格的にスカウトをしに来たわけではない。
それで俺達は車ではなくライダーのバイクでこの地を訪れていた。女を拾うつもりがないからだ。
とりあえず女には何人か声を掛けてみる。
もちろん俺達はギャングの服装ではないので、なかなか上手く話を進める事はできた。
さすがはライダーだ。女の子には優しく、時折笑顔を見せながら話している。
この調子なら俺は横にいるだけでもよさそうだ。
ある意味ライダーを指名したのは意外なところでも正解だったと言える。
まずは話し掛けた女達から連絡先のみを聞き、そのまま別れた。
当然売春の仕事の話は伏せてある。
「初日は…まあまあだな。あとはコイツらが金に化けるかどうかだ…」
一人一人の連絡先のメモをパラパラとめくりながらライダーはつぶやいた。
この日、ラスベガスから地元に帰り着く前に途中の郊外でライダーとメシを食うことにした。
適当にライダーの目に入ったバーガーキングへと、カワサキが入っていく。
…
店内に入るとなぜかシンとしている。
客はちらほらいる。だが、だれ一人しゃべっていない。
みんな席についたまま静かに怯えているようだ。
「お前らも動くな!」
急にだれかの声がした。
よく見ると銃を持った覆面男が一人レジの前に立ち、金を店員に詰めさせていた。
「動くなよ!」
俺とライダーは顔を見合わせると、両手を上げてその場に立ち止まる。
しばらくすると、男が金の入った袋を受け取って店内から猛ダッシュで駆け出した。
奴は外にあるミツビシ製の四駆に乗り込んでいる。
店員はようやく解放され、慌てて警察への連絡をし始めた。
客達は落ち着きなく席に座ったままだ。
再び俺とライダーは目を見合わせて、今度はニヤリと笑った。
「やるか、ニガー?」
「おう、振り落とされるなよ」
俺達は店を飛び出した。
すでに男は車を発進させている。
ライダーと俺はポケットから赤いバンダナを取り出すと、口を覆うように結び、そのままバイクにまたがった。
「あのミツビシだぜ、ライダー!見失うなよ!」
「任せろ」
カワサキがウォン!と低い音を立てて目を覚まし、タイヤから白煙をまき散らしながら発進した。
…
奴に追い着くのに十秒もかからない。
すぐに横付けして、俺がライダーの後ろからドライブバイする。
パァン!
弾はミツビシのガラスを破ったが、奴には当らなかったようだ。
奴はこちらに気付き、突き放そうと車を俺達に寄せてきた。しかし、ライダーは前に後ろにと車からの幅寄せをかわした。
それならばと、奴は銃を向けて撃ってきた。これをライダーは車の後ろへと回り込み、バイクを左右に振ってかわす。
すかさず俺は車の後ろから拳銃で、男の後頭部を狙って撃った。
パァン!パァン!パァン!
リアとフロントのガラス両方に銃痕ができ、フロントガラスには大量の血が噴出した。
「殺ったぜ!」
俺とライダーが同時に叫ぶ。
男はそのままハンドルへ前のめりに倒れ、ミツビシはクラクションを鳴らしながら進んでいた。
すぐにライダーが車の横にバイクをつける。
俺はガラスを破り、車に乗り移る。
男を助手席へと倒して、車を停車させた。
金の入った袋を見つけると、再びバイクの後ろにまたがった。
「やったな、サム!」
「あぁ!ラッキーだったな!早くみんなの所に戻って飲もうぜ!」
ライダーはバイクを発進させた。
途中でパトカーと何度もすれ違ったが、まったく俺達には見向きもしない。
当然店員の通報では、犯人は一人で車に乗った男という事になっている。まさか、その男が他の人間に殺されて金を奪われているなどと誰が予想できただろうか。
犯人の死体を見つけ、警察が真犯人を探し始める頃には俺達はすでに近くにはいない。
銃による殺人が未解決で終わる事はカリフォルニアでは珍しくないし、抗争などではなく金絡みの殺人事件はなおさら警察は軽視する。
俺達は何のトラブルもなく地元に到着し、仲間達に武勇伝を聞かせるためにライダーはバイクをセントラルパークへと向かわせた。
…
「よう、サム、ライダー」
セントラルパークにはマークとスノウマンの二人がいた。
すぐに奴等は俺達に気付き、ハンドサインを出しながら声を掛けてきた。
「ん?どうしたんだ?その血」
俺はスノウマンのその言葉で、自分の服が汚れているのに気付いた。
どうやら男の死体を助手席へ押しやった時についたらしい。
「あぁ、これか…」
俺はライダーのケツから降りて、男から奪った袋を地面におく。
そして血で汚れたシャツを脱ぎ、裸になった。
すぐに今度はマークがたずねてきた。
「お前とライダーの血じゃないみたいだな。その袋はなんだ?」
「これか?見ろよホーミー」
俺が袋を逆さにすると、中から札束がバラバラと落ちてきた。
マークとスノウマンは驚いた表情を浮かべて、すぐに札束を拾いあげた。
「うぉぉ!ホーミー!見ろよ!確実に四千ドルはあるぜ!」
スノウマンがマークの頭をバシバシ叩きながら言った。
「確かにそのくらいあるに違いないぜ!こりゃ何だよサム!?」
「強盗から強盗してやったんだよ。さぁ!今からみんなを集めて飲もうぜ!」
俺は大声で叫ぶと、すぐにみんなに連絡を回す事となった。
みんながぼちぼち集まってきて、ライダーが音頭をとった。
「俺とOG-Bの働きに!そしてバカな強盗に!」
みんなのビールがぶつかりあった。
…
しばらくしてガイが、一緒に飲んでいた俺とライダーに近付いてくる。
「サム、ウィザードが逝ってからいままで、売上とブツは俺が管理してるのは知ってるよな?」
「あぁ」
「アジトが出来上がったら、全部そっちに移してもイイか?」
ガイはそこまで言うと、一口ビールを飲んだ。
「うーん…そうだな…しかしアジトに置いとくのは危ないかもしれない。クリックの野郎がウィードを持ってっちまうかもしれないぜ」
「そりゃ確かに言えてる」
ウィードとはマリファナの呼び名だ。
三人で笑っていると、ちょうどクリックが近付いてきた。ジャックもいる。
「ヘイ!ホーミー達、俺の話をしてなかったか~?」
タイミングよくそんな事を言ってくるものだから、話を聞かれたのかと思ったが違うようだ。
すぐにジャックが「邪魔してすまねぇな。コイツ酔っ払ってるんだよ」と、クリックのフードを引っ張って行った。
「うぉぉ~!ジャック~!俺は酔ってねぇ~!」
ずるずると引きずられて連れていかれるクリックを見て、みんなは大笑いしていた。
「サム!!俺から大ニュースがあるよ!」
今度はバタバタと走りながらコリーがやってきた。遅れていたらしく、たった今ついたようだ。公園の隅からここまで全力で走り、受け取ったビールが缶からボタボタとこぼれている。
「なんだ?そんなに慌てて」
「ちょっとついてきてくれ!」
そう言われ、俺とライダーとガイはコリーについて行った。
コリーは公園の敷地から出ていく。
「いったいどこに連れていく気だ?」
ライダーが俺に耳打ちしてくる。
俺は「さあな」とだけ返した。
「なにしてんだ!こっちだ!」
遅れている俺達にコリーが叫んだ。
「コイツを見てくれ、ホーミー!」
…
そこにはなんと、月光に照らされてピカピカと輝く新型のベントレーが静かに停まっていた。
コイツは、たとえ俺達が百年間休み無しで働いたとしても買える車ではない。家よりも値段が高いのだ。
「すげぇ!」
「たいしたもんだな!」
ライダーとガイは驚いて声を上げた。
「おいおい、マジかよ…」
しかし俺は驚きすぎて、叫ぶどころか肩の力が抜けたように、その場にへたりこんでしまった。
早速俺達はセントラルパーク内にソイツを乗り入れた。
仲間達から驚きの表情が見てとれる。
「コリーだな!?おい!どっから持って来たんだ!?」
マークが叫んでいる。
みんながベントレーの周りを囲むように集まってくる。
俺達は車から出た。コリーが自慢げに話す。
「みんな!!聞いてくれよ!実はこの車は…サムが『アジトを建てる』って言った日からずっと探して、狙い続けてたんだ!
ホーミー達の為にも、どうしても早く金を作ってあげたくて」
みんなから歓声が上がる。
コリーは照れくさそうに話を続けた。
「俺はある日ハリウッド辺りまで出たんだ。金持ちが多く住んでるからな。
もちろん高級車は他にも色々あった。ポルシェにレンジ、アウディ、キャデラック…だが俺の目にコイツが写った瞬間、俺は腹を決めたんだ」
コリーは拳を突き上げて言った。
「コイツを盗んでみせるってよ!」
再びみんなから大歓声が上がり、コリーはいつの間にか仲間から囲まれて見えなくなった。
コリーの手柄によって、宴会はすぐさま奴を祝う為のものに早変わりした。
コリーはみんなから一人一人乾杯を受け、まるでアイドルスターのように忙しく対応におわれている。
俺とガイ、そしてライダーは隅で飲んでいたのだが、コリーが俺達の所にやってきたのは一時間ほど経ってからだった。
「よう、ニガー。今夜は人気者だな!」
ライダーがコリーに笑いかけた。
「あぁ、アイドルは大変だよ!」
コリーも笑った。
俺が冗談を吐く。
「本当は俺とライダーの手柄を祝ってたのに、お前のデカイ仕事のせいで俺達の存在が薄れちまったじゃねぇかよ、ドッグ!」
「おいおい、そんなこと言うなって!」
コリーは困ってしまったようで、苦笑いをしている。
「まあイイや。ところでどうやってあの車を…?」
「あぁ、さすがに警報やらカメラが車庫についてて、簡単には盗めなかった。
何日も何日もそこに通った。だが今夜はラッキーな事に、たまたま道端に停めてあったんだ。
あとは俺にとっちゃ、なんて事はないよ。車のセキュリティやカギなんて三分もあれば解除可能だ」
コリーは指を三本立ててニヤリと笑ってみせた。
…
ベントレーは予想よりも大きく下回る金額での売却となった。
あまりにも目立ちすぎる盗難車なので、コリーの知り合いの車屋が購入を渋ったのだ。
それならば安くてもイイから買い取ってくれと、結局は予想の3分の1ほどの値段で売ったのだった。
しかし、二か月後には俺の家の跡地にアジトが堂々と完成した。
他の人間から見れば、そんなに「立派な豪邸」でもないし、暮らしやすい「素敵な家」でもなんでもない。
大量に材木やガラスなどを買ってきて、自分達でコツコツ仕上げのだ。
当然俺達は大工仕事に慣れているわけではないので、出来上がったアジトの姿は酷かった。
でも俺達はボロボロのアジトだろうがなんだろうが誇りを持った。
『俺達だけの場所』
壁一面には赤色のタグが書き込まれる。
『B.K.B 4 life』
アジトの前には交代で必ず二人のホーミーが立ち、俺達を迎える。
「よう、ホーミー。調子はどうだ?」
中では夜な夜な酒が酌み交わされ、たった一つしかないだだっ広い部屋の真ん中でカードやダイス、様々な賭け事が行われている。
壁には銃が立て掛けられ、広い部屋をぐるりと囲むようにいくつも用意されたベッドは、疲れたホーミー達を眠らせるユリカゴとなる。
そして、入口の近くに用意された小さなテレビの周りではコリーを始めとするスポーツ好きな奴、銃が立て掛けられている壁のそばにあるオーディオの周りにはクリックみたいな音楽好きな奴、敷地内の裏手に作った簡易便所の横にある小さめのガレージにはライダーみたいな乗り物好きな奴が集まる。
ボロボロだろうが、それぞれがくつろげるようなアジトに仕上がった。
しかし当然、メンバー全員がいっぺんにくつろげる広さではない。ただ、何十人もゆったりくつろげはしなくとも、集合をかけてメンバーを中に入れるのには問題はない。
ちなみにクロニックなどのブツや資金の管理は引き続きガイに任せた。
俺が管理してもイイが、俺の家はこのアジトなので、結局は全員で管理する形になってしまう。
それでは万が一、ブツや金の計算に誤差があった時、確実に混乱が生じるのは目に見えていたのでそうしたのだ。
家を燃やされ、さらにアジトが襲撃されてから長い年月が経ったが、ようやく俺達はここまでたどり着いた。
これからはこの場所を中心として、俺達の物語は続いていく。
昔、家の目の前に書かれていた
『cripz iz street king』
の文字はすべて赤いスプレーで塗りつぶされていた。