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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
11/61

hustla

取り引きに成功しても得る物は少なく、失敗すれば…死ぬ。

壮絶なる生き様。

それがハスラー。

ウィザードと母ちゃんの葬儀の翌日。

B.K.Bはいつものようにセントラルパークに集まっていた。

 

この日、新たなメンバーが数人増え、全部で二十五、六人になっていた。

E.Tは全部で十人となってしまったが、初期メンバーを表すこの呼び名はそのまま残った。

 

「昨日はみんなありがとう。さて、新しいホーミー達へのタトゥーの彫込みは後回しにして、今日は大事な話がある」

 

俺のこの言葉に、ざわついていたみんなは一瞬で静まる。

 

「再びアジトを作りたい。だが、今度は廃墟を利用したりしない」

 

「じゃあどうやってアジトを見つけるんだ、ドッグ?」

 

タイミングよくマークが俺にたずねた。

 

「俺の家の跡地に…建てる」

 

みんなから大きなどよめきが上がった。

ザワザワと騒ぎ始める。

 

「おい!よく聞けホーミー達!これには理由があるんだ。まず、前に使っていたアジトは俺達の居住区から少し離れていた。

だから誰かが必ず常にアジトに待機している必要があった。そうだろう?」

 

確かに、といくつか声が上がる。


「土地の広さはあったし、確かに守りやすかった。だが、アジトにいないメンバーに連絡が遅れる危険性があった。

俺の家の場所にアジトを置けば、アジトにいないメンバーに連絡を回さなくても、家はみんな近いし銃声やサイレンで異常にすぐ気が付く。集まりやすいし、距離は近いから車もいらない」

 

俺達は全員家が1マイルも離れていない。というのも、黒人の貧困層の暮らす家は基本的に密集しているので当たり前なのだが、その黒人貧困街の若者が一丸となって一つのチームを作るのがギャングの常識だった。

 

つまり、例外もあるが、一つの市にいくつかの貧困地域があり、その一つ一つにギャングがいるという事だ。

だからギャングは地元や家族、ホーミーを大事にするのだ。

 

「それは納得できるが…アジトを建てる金はどうするんだ、B?」

 

みんなのざわつきがおさまらない内に、ガイが確信にせまる質問をぶつけてきた。


「ハスラーを増員する。そしてハスラー全員でコンプトンブラッズに仕入れの相談をしにいこう。

ウィザードとそういう話をしている途中だったんだ」

 

「なるほど。アジトが建った後にも、ハスラーの人数が増えれば、B.K.Bの資金源として働けるしな。誰をハスラーにするんだ?」

 

ガイがきいた。

 

「そうだな…まずはシャドウにハスラーに加わってもらいたい」

 

シャドウをみんな一斉に見る。

奴は頷いた。

 

「OK、ホーミー。ハスラーを引き受けてやるぜ。任せとけ」

 

それから俺は新入りの中から三人の名前を呼び、ハスラーとして働くように頼んだ。

三人ともすぐに引き受けてくれた。

 

「よし、この八人のハスラーで明日、コンプトンに向かうぞ。ウォーリアー達は隣街のクリップスの撃退とタグの書き換えを頼む」

 

おう。とみんなから声が上がり、ちらほらと解散して行った。

 

俺も帰ろうと歩きだしたが、シャドウに呼び止められる。

 

「サム、新生ハスラーのみんなで、ウチで飲まないか?」

 

「あぁ、いいぜ」

 

ハスラー全員はシャドウの家へと向かった。


 

ハスラー八人はシャドウの部屋でくつろいでいた。

みんなの手にはビール。それぞれが笑いあったりふざけたりして、新しいハスラーのみんなは親交を深めた。

 

「ようニガー、明日はコンプトンへ誰の車で行く?」

 

ジミーが俺にたずねてきた。

 

「そうだな…ウィザードのシビックを使わせてもらうか。そのへんの道ばたに停めっぱなしだ」

 

「そりゃイイ考えだ。確かに主人を失ったあの車も、早く動きたくてウズウズしてるに違いないぜー!」

 

ジミーがそう言って笑うと、ライダーが話題に入ってきた。

 

「ホーミー、シビックの話か?実はさっきセントラルパークでコリーと話してたんだが、あの車はウィザードの形見だ。

みんなであのポンコツを、イカしたローライダーに仕上げないか?って話が出てな!」

 

そりゃイイな!とみんなからもワイワイと賛同の声が上がっている。

 

「そうだな。確かにあのチビ車はウィザードが大事にしていた形見だ。

とりあえずアジトが立ち上がった後にみんなで修理して、改造してやろうか」

 

俺が言うと、ライダーは嬉しそうに笑った。


本当にライダーは乗り物バカだ。

最近は自分のバイクだけではなく、仲間の車の修理や整備もコリーと一緒にやっているようだった。

こういう奴が仲間にいると頼もしい。

 

実は、ライダー達のそういった姿を見てきた俺にも、少なからず車やバイクに興味が出始めたのだ。

B.K.Bのリーダーとして、他の奴等に恥じないようなイカした愛車が欲しいと思い始めていた。

 

「でもよ、コンプトンへハスラー全員で行くんだよな、B?ウィザードのシビックは四人くらいしか乗れないぜ」

 

ジミーが再び俺に話し掛ける。

しかしライダーがすぐに返した。

 

「俺とシャドウがバイクで行けばイイじゃねぇか。後ろに一人ずつ乗せて。なあブライズ?」

 

「そうだな。俺はそれで構わないぜ」

 

シャドウが答えた。

 

「ちょっとコンプトンまでレースしようぜシャドウ。俺のニンジャとお前のR-1どっちが速いかな」

 

「バ…バカヤロウ!お前に勝てるわけないだろ!それにそんな事するなら誰も後ろに乗りたくねぇだろ!」

 

ワクワクしながら話すライダーにシャドウが慌てて釘を刺した。

みんなシャドウの焦りっぷりには大爆笑だった。


「俺はライダーの命知らずな運転は好きだけどなぁ。たまに後ろに乗せてもらうんだよ」

 

ジミーがビールを飲みながら言った。

 

「冗談じゃねぇぜ。確かにライダーの腕は神業だが、奴の後ろに乗れなんて無理な話だ。明日はジミーがライダーのケツで決定だな」

 

「最初からそのつもりさ!」

 

ジミーは嬉しそうにはしゃいでいる。

さすがはB.K.Bいちの命知らずな男。

刑務所前でウォークを踏んだり、ライダーの後ろに乗りたがったり…ジミーは危険を楽しむ傾向がある性格だ。

マフィアと揉めた時もコイツ一人だけは楽観視していたし…まぁ、そのクヨクヨ悩んだりしない前向きな性格が奴をチーム内のムードメーカーへと押し上げたのだろう。

 

誰とでもフレンドリーに話すし、クロニック中毒のクリックのハイテンションとはまた違った明るさを持っている。

 

「よし、明日は早起きしてマシンをチューニングしておかないとな」

 

「ライダー!ジミーがお前のケツだからって俺はお前と勝負しねぇぞ!」

 

ライダーのとぼけた発言とシャドウの言葉にみんなからまた笑いが上がった。


コンプトンへと走るシビックの車内には俺とガイ。そして新入りが二人だった。

 

前を走る二台のレーサーレプリカ。

ライダーのカワサキとシャドウのヤマハだ。

 

ライダーはさっきからウィーリーやジャックナイフをして遊んでいる。

ジミーはライダーの後ろで立ち上がって両手を上げている。

なんて危ない野郎なんだろう。

 

「サム、ジミーの奴が落ちないか心配だぜ」

 

助手席に座るガイが俺に言った。

俺はハンドルを握っている。

 

「そうだな…まあジミーも落ちるほどバカじゃないだろう。お、見ろよ。やっと座ったぜ」

 

ジミーは充分楽しめたのか、シートに腰を降ろしている。

ライダーもそれ以上のエクストリーム走行はやらなかった。

 

エクストリームとはバイクで行なう危険な運転走行の事だ。

走っているバイクのシート上に立ち上がったり、タンクの上に座ったまま運転したり、クレイジーなバイクスタント野郎の事全般をエクストリーマーと言う。

 

中途半端な奴がエクストリームをしようとすれば、一発で死ぬ。

それほど危険で難しい。大型バイクを手足のように扱えないといけないのだ。

 

しかしそれを軽々とやってのけるほどライダーのバイクの運転技術は高いということだった。


「ついたぜ、この辺りがコンプトンブラッズのシマだ」

 

俺達八人をみんなジロジロと見てくる。

赤いバンダナを下げたブラッズのギャングメンバー達だ。

 

ウィザードがいないので少し危ないかとも思ったが、俺の顔を覚えてくれていた奴等や、少し前のB.K.Bとクリップスの抗争に手を貸してくれたメンバーもいて、ハンドサインを出してくれた。

 

それよりも、二台のバイクをみんな指を差して見ている。

どうやらコンプトンの貧困地域では俺達の地元ほどバイクが流通していないらしい。珍しがっているようだ。

 

レイクの家の前に俺達が停車すると、すぐにちょっとした人だかりができた。

 

「ヘイ、B.K.Bのブラザー!カッコイイバイクだな!」

 

「お前らの地元じゃ、ギャングはバイクにも乗るのかよ!」

 

いろんな声が飛んできた。

ライダーとシャドウはバイクの事で質問攻めに合っている。

ライダーは自慢げにバイクの話をコンプトンブラッズの連中にしているが、シャドウは少し困っているようだ。


その時、家のドアが開き、レイクが中から出てきた。

バイクの排気音に気付いたからだろう。

 

「ヘイ、サム!B.K.Bのブラザー達!どうしたんだよ急に!」

 

「レイク!連絡先が分からなかったから直接ここまで来たんだよ」

 

レイクはまず俺にハグをしてくれた。

大きい体なので力強いハグだ。

他のB.K.Bのハスラー達にも一人一人ハグをしている。

一通り挨拶が終わると今度はバイクをまじまじと見ている。

 

「クールだな!さすがはトニーの仲間達だ!m.c.でも作るのか?」

 

「いや、そこまでは考えてないけどな」

 

ライダーがレイクの質問に答えた。

m.c.とは、ラッパーの事をそう呼ぶ場合もあるが、この場合はモーターサイクル・クラブの略だ。

車のチームをカークラブ、つまりc.c.と呼ぶように、バイクのチームをそう呼ぶ。

 

ローライダーのカークラブがプラークやフラッグを作るのに対して、バイカーのクラブはチームのツナギやジャケットを着る。もちろんカークラブ同様、フラッグは作る。


「俺はクラッチロケットには、あまり詳しくないが…もしローライダーに興味があるならいつでも来いよ。遊ぼうぜ」

 

レイクはニヤリと笑った。

こんな具合にギャングの中には車やバイク好きな奴が多い。ライダーやコリーとレイクは気が合いそうだ。

さっき話していたが、ウィザードのシビックを改造する時には、その話をレイクにすれば自分の亡きイトコの愛車だし、きっと喜ぶだろう。

 

ちなみにクラッチロケットとは日本製のスポーツバイクの事で、カリフォルニアやニューヨークではそう呼ぶ。それをブリンブリンに改造するのが黒人の間では流行っているのだ。

バイクならばハーレーも昔から人気だが、俺達のような若い黒人連中からはハヤブヤやニンジャなど、日本車のバイクのほうが人気だ。

 

今さらだがローライダーとは一般的には、車にハイドロリクスと呼ばれる装置を取り付け、車体を傾けたり跳ねさせたりするカスタムカーの事を指す。

車体のベースは古い型が好んで使われる。

ギャングの間では絶大な人気を誇る改造車だ。


「さあ、立ち話もなんだし、入れよ」

 

レイクがB.K.Bのメンバーを招き入れてくれた。

最後にドアを閉める時に、まだ外にいてバイクを見ているコンプトンブラッズの連中に「いたずらしたり盗んだりするなよ!」と冗談まじりに叫んでいた。

外の連中から笑い声が上がっているのが微かに聞こえた。

 

俺達は全員、二階のレイクの部屋に入った。

九人もいるので少し狭苦しい。

 

「しかし、サム。突然だな。まあ…ここに来た理由は何となく分かったよ。ブツの仕入れだろ?」

 

「あぁ、そうだ」

 

レイクはすべてを理解していたらしく、話はスムーズに進んだ。

 

「ショーンというキューバ人がいる。そいつを当たるとイイ。

たくさんのマリファナを栽培してて、今は固定客も抱えていないようだから力になってくれると思うぜ」

 

レイクは住所の書かれたメモを俺に渡してくれた。

 

「ありがとうレイク。どういった知り合いなんだ?」

 

俺はメモをワークシャツのポケットにしまいながら言った。

 

「昔、奴からマリファナを買ってた。ギャングに入ってからは、仕入れはファンキーが他の場所でやってるから俺が仕入れる必要がなくなっちまったんだよ」

 

レイクは俺達に納得のいく説明をしてくれた。


「なるほど。じゃあそのショーンと契約すれば大量のクロニックが手に入るんだな?」

 

「そうだ。気難しい野郎だがイイ奴だから安心してイイぜ。家はだいたい、ここから車で四、五分だな」

 

 

それから俺達はレイクに礼を言うと、すぐにショーンという奴の家に向かった。

道に迷う事もなく、すぐに到着する。

 

家はかなり小さめの一軒家で、庭もない。とても大麻を栽培しているようには見えなかった。

新入りの一人がチャイムを押す。しばらくして一人の小柄な男が出てきた。

ハットを深くかぶり、目は見えない。

 

「あんたがショーンか?」

 

シャドウが男に話し掛けた。

 

「入れ」

 

男は短く答えると俺達をそそくさと玄関に押し込んだ。

 

俺達はわけがわからず呆気にとられていると男は再び口を開く。

 

「お前ら…バカか?」

 

俺達はさらにわけがわからなくなったが、ガイが言葉を返した。

 

「すまない。不用心だった」

 

「ガイ?どういうことだ?」

 

ライダーがガイに聞いたが、ガイが答える前に、男が家の奥へと歩き出したので、俺達はそれを追わなければならなかった。


男はリビングのような部屋に入り、部屋の真ん中にあるソファに腰掛けると、タバコに火をつけて一服した。

俺達は部屋の入口に並んで立っている。

 

「確かに俺がショーンだ。お前達、客だな?誰の紹介だ?」

 

「レイクだ」

 

「レイク?…あぁ、コンプトンブラッズの!そうかそうか」

 

ショーンは煙を大きく吐いた。そしてすぐに再び口を開く。

 

「話は聞いてるかもしれんが、ブツはいくらでもある。だが、お前らみたいなバカには売ってやれんぞ」

 

なんだと、と俺を含めたみんながショーンに詰め寄ろうとするのを冷静なガイが制止する。

 

「すまない。次からは気をつける」

 

「何を謝ってるんだよガイ!何で俺達がこんな事言われるんだよ!」

 

少し苛立った口調でジミーがガイに言った。

 

「当たり前だろ、ニガー。こんなに周りに何もない小さな家に俺達ギャングがゾロゾロ押しかけてみろ。

今日はたまたま大丈夫だったようだが、もしサツに目撃されたら、すぐに次の日にでも家宅捜索だ。

ブツは押収、ショーンは逮捕。分かったかホーミー達?俺達はミスを犯した。謝るのは当然だ」

 

確かにそうだ。返す言葉が無く、みんな押し黙ってしまった。


「半分正解だ」

 

ショーンが言った。

タバコの火を消している。

 

「半分?」

 

ガイが不思議そうに言った。

 

「確かに、ここはゲットーエリアから離れている。大勢のギャングの出入りは目立つし、家宅捜索も受けるに違いない。もちろん嫌だし、俺がお前達に注意したのも、それが理由だ」

 

「はぁ?じゃあガイが言ったことは全部当たりじゃねぇかよ!」

 

ジミーがまだ苛立ちを隠しきれずに言った。

他のメンバー達も全員黙ったまま、わけのわからないという表情を浮かべている。

 

「いや、当たっているのは半分だ」

 

ショーンは座っていたソファを動かして、その下に敷いてあったカーペットも動かした。

 

さらに床の木の板を数枚剥がす。

すると今度はコンクリートの床が見えた。

 

コンクリートの板を重そうに持ち上げると鉄製の扉が現われた。

持っていた鍵を扉の鍵穴に差し込み、鉄の扉を持ち上げる。

すると、なんと地下へと続く階段が姿を表した。

まるで秘密基地だ。これほどの対策をしているとは思わなかった。

 

「当たってるのは半分だ。ブツは押収されんし、俺は逮捕されたりしない」

 

ショーンはニヤリと妖しく笑った。


地下はほんのりと冷たく、薄暗かった。

しかし照明はついているので、移動するのに苦労はしない。

ショーンは階段を降りて、細長い廊下を進んで行く。

 

「こりゃたまげたな。ここまでしてブツを隠すなんてよ」

 

シャドウが感心したようにつぶやいた。

 

すぐに広い部屋に出た。

上に建っている小さな家からは想像もつかないような広さの地下室だ。バスケットのコート三つぶんくらいはあるに違いない。

 

天井には日光に似た光を放つ、ヒーターのような装置が取り付けてある。冷たい地下であるはずなのに、この部屋だけは暖かかった。

 

床一面は土で、その上に俺達のお目当てのブツがズラリと生えていた。

 

「すげぇ…こんな量始めて見たぜ…」

 

シャドウがまた口を開いた。

他のメンバーも口々に感嘆の声を上げている。

 

もちろん俺も驚いた。

まさか個人で、ここまで本格的にアメリカ国内でマリファナを栽培するバカがいるとは思わなかった。

ここにあるブツを収穫し、よく吟味して売れば、一体どれだけの金になるのか想像もつかない。


ショーンが右手を俺に差し延べたので、俺は奴の手を握った。

 

「契約成立だな。

…取り引きの時は必ずできるだけ少人数で来い。その目立つ真っ赤な格好もウチに来る時はやめとけ。

今は他にデカイ客もいないし、お前らに欲しいだけくれてやる」

 

「ありがとう、ショーン」

 

「ただ、俺のブツは他よりもかなり値が張るぜ。

もちろん理由がある。中、南米産のクソみたいなマリファナとは格が違う上物だ。一発でブッ飛ぶぞ」

 

ショーンは自慢げに自分の作るハッパの話をした。

すぐに紙きれを一枚、俺に渡す。

 

「俺の連絡先だ。お前達、名前は?」

 

「俺はリーダーのサム。俺達はB.K.B…ビッグ.クレイ.ブラッドだ。また連絡するぜ、メン」

 

俺達はすぐにショーンの家から出た。もちろん周りに警察がいないのを確認するのを怠らない。

 

早く地元に帰ってウォーリアーの奴等にデカい仕入れ先が出来た事を伝えたかった。

それに隣町のクリップス撃退作戦の結果も気になる。

 

ライダーとシャドウはバイクなので、先に急いで帰ってウォーリアー達の様子を見に行く事になった。


ライダー達が走り去り、残りのメンバーはシビックに乗り込んだ。

もちろんジミーはライダーのケツに乗って行った。

 

地元へ到着した頃には、先に帰ったライダー達を含めてウォーリアー達の大宴会がセントラルパークで行われていた。

どうやらクリップスとの抗争に勝利したらしい。

 

青色のバンダナや服が、長めの鉄パイプの上に旗のように結びつけられて燃やされている。

それがタイマツのように明かりになっていた。

 

どうやらガソリンか灯油を染みこませて燃やしているようだ。

 

俺達ブラッズのギャングは、敵対するクリップスの象徴である青色を嫌い、敵から奪った青い衣服などは、こうやって燃やす事がある。

クリップスへの見せしめとなるわけだ。

 

逆にクリップスは俺達ブラッズを殺して、赤い物を奪った場合はそれを燃やす。あるいは足で踏んだり、破いたりする。

 

みんなが俺達が帰ってきたのに気付いたようだ。

クリックが叫んでいる。

 

「みんな~B達が帰ってきたぞ~!おーい、サム~!」

 

ぶんぶんと両手をふっている。

今日もいつもどおり気分がハイなようだ。


俺達も宴会に加わる。

俺が隅に一人で座ってタバコを吸っていると、マークがビールを持ってきてくれて隣りに座った。

 

「隣町のクリップスの奴等は壊滅させたぜ。二、三人くらいは殺せなくて逃げて行ったが、もう二度と俺達の前に姿を表す事はないだろうよ」

 

「そうか!そいつはよかった。俺達も、ブツのデカイ仕入れ先ができたぜ」

 

俺はビールの栓を開けた。

マークの瓶にぶつける。

 

「あぁ!先に戻ってきたライダーに聞いたぜ。よかったなサム!B.K.Bはまだまだデカイギャングに成長するぜ!」

 

「もちろんだ、ホーミー!俺達はどこまでも止まらない!いつか最強で最高のギャングへと必ず成り上がる!」

 

すると大きな拍手と仲間達の歓声が上がった。

何事かと思って後ろを振り向くと、いつの間にか全員が集まって、俺とマークの話を盗み聞きしていたのだった。

 

「B!俺は感動したぜ!死ぬまでB.K.Bで体をはってやるぜ」

 

スノウマンが言った。

 

「死んでいった奴等のためにも、俺達は強く生きていこうぜ…」

 

ジャックは上着を脱ぎ、背中に刻んだ仲間の名をあらわにした。

新人達の中にはジャックの背中を初めて見た奴等もいて、そいつらはジャックの鍛え上げたタトゥーだらけの体に驚きの声をあげていた。


その後しばらくして俺達は解散した。

 

 

次の日、ハスラー八人でウィザードの家に行った。

奴の部屋にあるドラッグとマリファナ、武器などを確保するためだ。

 

家にはウィザードの母ちゃんがいたが、部屋を散らかさないのを条件に、トニーの部屋に入っていい、と言われた。

 

ウィザードが死んだ後も、部屋の様子は何も変わっていない。

おそらく家族は、この部屋をこのままで残しておくつもりなのだろう。

 

ブツの在庫を手に入れると、俺達はウィザードの部屋を出た。

 

先にブツを運ぶ新入り達を家から出し、最後に手ぶらの俺がウィザードの母ちゃんに別れの挨拶をした。

これで、俺以外の仲間が帰る姿を見ていないウィザードの母ちゃんは、部屋からブツを持ち出された事には気付かない。

 

近くの狭い空き地に集まってブツの確認が始まる。

ドラッグはかなりの量があり、マリファナはそんなに量が無かった。

武器に至っては、銃はなく、バットやナイフが数本あるだけだ。

問題は、これからはブツを誰の家に隠すか、ということだろう。


「よし、とりあえずこの在庫で隣町に新規の客を獲得しに行くか」

 

俺が言った。

武器は売り物ではないので、一旦ライダーの家のガレージに置き、ドラッグを持って隣町に向かった。

しかしハスラー全員ではなく、俺とジミーとシャドウ、ライダーの四人で向かう。

今夜は地元でも商売の日だ。ガイと新入り三人は地元でマリファナをさばく為に別行動となった。

 

ドラッグはウィザードの家にあった分だけなので、なくなり次第売り切れになってしまう。

その後はショーンから大量に仕入れるマリファナで、隣町でも商売していく事になるだろう。

 

 

シビックに乗った俺達四人は隣町に到着した。

 

「この通りが以前、クリップスのハスラーが商売してた場所だ」

 

シャドウが正確な情報を教えてくれた。

場所は暗い裏通りだが、確かにチラホラと人影はある。

以前クリップスのハスラーからブツを買っていた客だろう。

どうやらこの町からクリップスが追い出された事を知らないらしい。

その場に立ち止まり、辺りを見回している。売人を探しているのだろう。


「よう。ブツを探してるのか?ドラッグなら売ってやるぜ」

 

俺が車の中から客らしき男の一人に話し掛けた。

男は驚いて俺達の方を向く。

 

「なんだアンタら?いつものクリップスの奴等は…?」

 

「アイツらはもうこの町にはいないぜ?俺達が今日からこのエリアを仕切る」

 

シャドウが言った。男はそうか、とだけ答えると周りにいる他の客達に聞こえるように叫んだ。

 

「おい!みんな!新しい売人さんだ!クリップスに変わってこのブラッズの連中がこのシマを仕切るらしいぜ!」

 

すると、他の客達も、ゆっくりと俺達に近付いてくる。

 

 

初日にしては、なかなかの売上を達成できた。

ただ、ドラッグ以外のブツが欲しい連中は当然何も買ってくれない。そこで、クラックなど、欲しいブツがあればできる限りの注文を聞く事にした。

 

個人が相手なので、ドラッグやマリファナなどの人気商品以外は大量に仕入れをする必要はない。

ショーンやレイクに相談すれば、その手のブツも多少は回してくれるだろう。


一通り、今夜の商売を終えると、俺達はシビックに乗り込んだ。

そして車を発進させた直後。

 

パアン!パアン!

 

渇いた拳銃の音が響き渡ると同時にシビックのタイヤはバーストし、車体は壁に激しくぶつかった。

 

俺はハンドルに頭を強く打ち付けてしまった。

車の外から誰かの叫び声が聞こえ、再び銃声。

 

「サム!大丈夫か!?みんな見ろ!クリップスの生き残りの奴等だ!コソコソと付け回しやがって!」

 

ジミーがそう言いながらシビックから飛び出し、銃で応戦している。

シャドウもそれに続き、ライダーは俺を担いで、相手から撃たれないように車の陰に寝かせてくれた。

 

「相手は二人!いや…三人だ!やっちまおうぜホーミー!」

 

ジミーが叫んでいるのが聞こえる。

 

パアン!パアン!パアン!

 

「よっしゃ、一人やったぜ!…ぐあっ!」

 

シャドウが撃たれてしまったようだ。

 

「おい!大丈夫かブライズ!?」

 

「あぁ…心配するなニガー、ちょっと腕をかすっただけだ。お前も気をつけろよ、ライダー」


俺からは状況がまったく見えないが、とりあえずシャドウの傷は浅そうなので安心した。

 

しばらくしてジミーが俺の方へやってきた。

 

「B!頭の痛みは大丈夫か?銃を貸してくれ!弾が切れた!」

 

「何とか大丈夫だ…ほら…使えよ、ホーミー」

 

俺は寝たまま、腰の銃をジミーに手渡す。

 

「サンキュー!あと二人だぜ!待ってろよサム!すぐ病院に連れてってやるからな!」

 

ジミーは銃撃戦に戻っていった。

 

「俺も弾が切れた!おい!アイツら逃げるぞ!ジミー逃がすな!」

 

すぐにシャドウの声がして、ジミーがクリップスを走って追いかけて行く音が聞こえる。

銃声が何発か聞こえた。俺の銃の音だ。

ジミーが発砲しているのだろう。

 

ライダーはその間に、車をジャッキで上げてバーストした前輪のタイヤをスペアに交換している。

さすがはライダーだ。手早く作業は完了した。

シャドウが俺を担いで車の後部座席に乗せてくれた。

奴はそのまま隣に座る。

 

ライダーはジミーが消えて行った方向へとシビックを走らせた。


すぐにジミーがこちらへ走ってくる姿が見えた。

そのまま助手席に飛び込んでくる。

 

「仕留めたぜ!ざまぁ見やがれ!」

 

ジミーのその言葉にシャドウは叫んだ。

 

「マジか!やったぜ!マザーファッキンクリップス!」

 

「これで完全に生き残りは殺した。このシマはB.K.Bのもんだ!」

 

ライダーも嬉しそうに言った。

ハンドルを左右にふって車を蛇行させている。

 

「ぐ…」

 

「サム!?すまない!ふざけすぎたな。早く病院へ行かないと。シャドウも怪我してるしな」

 

「俺の怪我は別にイイが、Bの頭の傷が心配だ。急ごうぜ」

 

血はそんなに出ていないようだが、頭の痛みがひどい。

内出血をしているのかもしれない。

 

俺はだんだん気分が悪くなり、視界もぼんやりとしてきた。

 

「ん?おい、サム!大丈夫か!?」

 

横にいるシャドウが俺の異常に気付き、驚いている。

意識が遠のいて行く。

 

「ライダー!急げ!サムの様子がおかしい!」

 

シャドウの声がする。

 

「おい!…い…!サ…ム…!だい…ぶ…か…!?サ…ム…!」

 

俺の意識はそこで途切れた。

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