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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
10/61

mama

いつだって俺の味方だった母ちゃん。

今も昔も俺の中で唯一の『親』と呼べる存在。

次の日は朝から当然のようにセントラルパークで祝杯が上がった。

 

ウィザードは長年の悩みが解消された事が相当嬉しかったらしく、涙を流してみんなに「ありがとう」と言い続けた。

だが今まで一人で仕入れをやってきたウィザードに、誰一人マフィアと揉めた事を悪く言う奴はいない。

 

「よかったな~!マフィアと手を切ったし、誰も死ななかったし~!やっぱ俺の連絡のおかげだな~!」

 

クリックがまた上機嫌だ。

ジャックがパンチをクリックに食らわせている。

 

「バカヤロー、シャドウのマフィア撃退作戦のおかげだ!」

 

「いてぇ~!ジャック!てめぇ手加減しろよ~」

 

肩を押さえてクリックは泣きそうな顔だ。

確かにジャックのパンチは俺も食らいたくない。マークとスノウマン以外なら確実に吹っ飛ぶ。

 

みんなはそのやり取りに大笑いだった。

 

気分がよくなってくると、すかさずジミーもB-walkでみんなをわかせた。

 

 

夕方くらいになり、みんなは少しずつ帰って行く。

最後にマークとスノウマンと俺とウィザードが残った。


「みんな、ありがとうな」

 

ウィザードがすまなそうに言う。

 

「またそれか!ウィズ、俺達はホーミーだ。いちいち細かい事で謝るなよ!」

 

スノウマンがウィザードの肩を叩く。

ウィザードはスノウマンにハグをして、ありがとうとつぶやいた。

 

「さぁ、みんな帰っちまったな。四人だけでバーにビリヤードでもやりに行こうぜ?」

 

マークが俺達を見回しながら言った。

 

「お前は腹が出過ぎてビリヤードなんかできねぇだろ!」

 

「ショーティ、てめぇもそんなに変わらねぇくせによく言うぜ!」

 

そう言って笑い、肩を組みながら二人は歩きだした。

俺とウィザードも後を追う。

 

「仕方ないな、付き合ってやろうぜ、トニー」

 

「あぁ、たまにはバーの美味い酒でも飲むか。最近外で缶ビールばっかりだからな。サム、ウィスキー飲みたくないか?」

 

「そうだな…おい!早く乗らねぇとアイツら二人で行っちまうぞ、ニガー」

 

そう俺が言い、急いでマークとスノウマンの待つ車に乗り込む。

 

すぐにスノウマンが車を出した。


 

バーに着くと早速マークとスノウマンはマスターから二人でキューを借りてきて、8ボールをやり始めた。

 

俺とウィザードはカウンターに腰掛け、酒を注文した。

すぐに美味そうなウィスキーが、ロックで出てくる。

 

「さて、乾杯しようぜウィズ」

 

「おう、マフィアとの縁切りに!」

 

グラスが音を立ててぶつかり合った。

俺とウィザードはタバコに火をつける。

 

「B、次の仕入れの足掛かりを考えないといけない」

 

「B」とはもちろん「OG-B」。

俺のことだ。

 

「そうだな。だが焦る必要はないぜ。しばらくは在庫のヤクを少しずつ地元でサバける」

 

「確かに。俺は新しい取引きをするなら、同じブラッズが一番安全だと思う」

 

「レイクとファンキーに相談してみるか?」

 

俺はウィスキーを一口飲んだ。

ウィザードはタバコをふかしている。

 

「分かった。サム、じゃあ明日の夜にコンプトンに行こうぜ」

 

「OK、ウィズ」

 

その時、マークとスノウマンが急に怒号を上げた。

ゲームの内容で二人でケンカしているのかと思ったが、様子がおかしい。

よく見ると他の客と揉めているようだった。


「ふざけんなよ、てめぇ!」

 

マークが再び怒鳴った。

相手は色白のメキシカン共五人組だった。

体中にタトゥーだらけのチカーノ野郎だ。

 

「どうした?ニガー」

 

俺とウィザードが二人に近付いて経緯をきこうとした。

 

「どうもこうもないぜ、サム!コイツら俺達のゲームを見て『8ボール共が自分を突いてるぜ。同志打ちだ』なんて言いやがってよ!バカにしてやがる!」

 

8ボールとは本来、ビリヤードのゲームの一つの名前だが、一部のスラングでは黒人と言う意味も含む。

メキシカン共は、その意味で俺達をバカにしていたのだった。

 

「8ボールに8ボールと言って何が悪いんだ?ニガー?」

 

メキシカンの一人のスキンヘッド野郎が言った。

その瞬間「コイツらは終わったな」と俺は確信した。

「ニガー」は同じ黒人同士でないと、絶対に使ってはいけない。

 

マークとスノウマンがすごい勢いでビリヤード台をひっくり返す。

スノウマンは速攻でキューを相手の一人に突き当てた。

 

奴等も応戦しようと倒れた台を押し返している。


凄まじい怒号が轟き、お互い入り乱れて揉み合いの総力戦になった。

他にちらほらといた一般客はいつの間にかいなくなっていた。

 

B.K.Bはなぜこんなに揉め事が多いのか、と嘆きたかったが、仲間をバカにする奴等を許してはおけない。

 

俺は落ちていたビリヤードのボールを一つ手に取って、思い切り相手のウチの一人の頭になげつけた。

奴は頭に堅いボールを受けて一撃で床に転げる。

 

すぐにスノウマンが、その倒れた奴にも容赦なくキューを突き立てた。

さすが冷酷非道なスノウマンだ。コイツは気を失った相手にも平気でとどめをさす。

マークは奴等のウチの一人を投げ飛ばしている。

 

俺は次の敵に向かおうとして少しだけ周りを見回した。

するとウィザードがいつの間にか二人からから押さえ込まれて床に倒されている。

 

ウィザードはあまりケンカは得意ではない。早く助けなければ。

 

ウィザードは床に押さえつけられて一人から殴られている。

だがウィザードも必死にパンチを繰り出す。

もう一人の奴がウィザードのズボンをあさっている。

 

まずい。銃を引き抜かれた。

奴がウィザードの頭に銃を突き付ける。

 

 

 

 

 

時間が…まるで映画のようにスローモーションになる。

 

 

「やめろ!」

 

俺は叫んだ。

 

  

 

パアン!



…………………

 

 

「サム、俺さぁ…中学にはちゃんと行こうと思うんだ…そんでさ、B.K.Bを動かす為の頭脳になるんだよ!」

 

「そうか。ほとんどの奴等は行かないけど、頑張って勉強しろよ!」

 

…………………

 

 

「みんな!見てくれよ。ポンコツだけどさ、シビックを手に入れたんだ!小さいけど外車だぜ!」

 

「トニー!こいつぁイイな!このマーク様も乗せてくれよ!な?サム、お前もドライブに行こうぜ!」

 

「あぁ。もちろんだぜ、ニガー」

 

…………………

 

 

「みんな、聞いてくれ。コレはクロニック、マリファナだ。俺はいまからコイツでB.K.Bを動かす金を作る」

 

「へぇ…ウィズ、ドコから仕入れてるんだ?」

 

「ははっ、サム、死にたいのか?」

 

…………………

 

 

「おいルーク!あんまり売物に手を出すなよ!」

 

「ふー…ウィザード、なんでだよ~?こんなに気持ちイイのによぉ~。みんな吸えよ~」

 

「くせぇ!てめぇこっちに息を吐くな!」

 

「いてっ!ジャック!やめろよ~。サム、ウィズ、やめさせてくれ~」

 

 

…………………



「サム…すまねぇ…みんな俺のせいで…」

 

「またそれか!気にするな。泣くなよウィズ!早く出てきて一杯やろうぜ。いよいよあさってで出所だしな。みんな待ってる」

 

「すま…ねぇ…すまねぇ…」

 

…………………

 

 

「やっぱレイクは俺の自慢のイトコだぜ!サム、俺も見たかったな~!コンプトンブラッズの警官射殺をよ!」

 

「マジでヤバイぜ。いつか俺達もあんな強くなれるかな。ライダーどう思う?」

 

「ん?そうだな…いつかな」

 

…………………

 

 

「ジミー、今週の売り上げ…お前だけ少ないが…何かあったのか?」

 

「すまねぇ、ウィズ。実はお袋が熱を出しちまってよー!薬代と医者に診てもらう金を渡しちまったんだ!悪い…」

 

「バカヤロー!なんで先に相談しねぇんだ!ほら、これ使えよ。百ドルは入ってるはずだ」

 

「ウィザード…」

 

…………………

 

 

「サム、マフィアと揉めてるなんて、みんな怒るかな?」

 

「怒る?何をだ?今から集まるハスラーに限らず、ウォーリアーにも一人としてそんな事で怒るバカはいねぇぜ」

 

「そうか…こんなヘマやったんだ。もし俺がB.K.B以外のギャングだったら、仲間に殺されてるぜ」

 

「ウィズ、俺達はホーミーだぜ?殺すわけねぇだろ」

 

…………………



どさり。

 

ウィザードが転がった。

 

銃声に気付き、マークとスノウマンもウィザードの方を向く。

 

「ウィザード!!!!」

 

俺達三人は同時に叫んだ。

 

「お前らぁぁぁ!」

 

パアン!パアン!パアン!

 

俺は叫びながらウィザードを撃った奴に発砲した。

無我夢中で覚えていないが、後からマークに聞いた話によると、俺はマガジンに入っていた弾を全部、奴の顔に撃ち込んだらしい。

 

気付くと顔の原型が分からないほどになったメキシカンの死体がそこにはあった。

もう一人のウィザードを殴っていた奴はマークが撃ち殺していた。

 

他の仲間共はいつの間にか逃げ出しているようだ。

 

パトカーのサイレンが近付いてくる。

どうやらバーのマスターが通報したらしい。

 

マークがウィザードを抱え上げて車に乗り込み、急いで病院へと向かう。

 

車をマークが使っているので、スノウマンは放心状態の俺の手を引き、セントラルパークへと走り出した。

 

 

公園に着くと、仲間に知らせてくる、といって奴は消えて行った。

俺がまったく呼び掛けに反応しないからだろう。


俺は自分を情けないと感じた。

 

マークは病院にウィザードをすぐに運んだし、スノウマンは仲間への連絡を取りに行った。

しかし一番しっかりしなければいけないはずのリーダーの俺は、何にもできずに、ただひたすらに引き金を引いただけ。

さらには放心状態となり、警察のサイレンから逃げる事さえ忘れていたのだ。

 

俺は今頃になって大泣きした。

 

情けない…

 

悲しい…

 

悔しい…

 

そんな気持ちが涙となって溢れ出てきた。

 

気付くと俺は、公園で待っていなければならないはずなのに町をふらふらと歩いていたようだった。

 

どこに行こうと決めているわけではない。

足が勝手に動く。

途中何度も転んだ。

 

涙で足下もほとんど見えないまま、俺の足は進んでいく。

 

 

そして俺の足が止まった。

 

そこは、母ちゃんが泊まっているモーテルだった。


「サム!どうしたのそんなヒドイ顔して…」

 

俺の顔を見るなり、母ちゃんは強く抱き締めてくれた。

 

「おかえり…きっと大変な事があったのね…」

 

「ただいま」

 

俺はもはやそう言うだけの気力しか残っていなかった。

どさりと部屋の隅にあるベッドに倒れ込む。

 

母ちゃんは何も言わずに、俺についた返り血や汗、涙をタオルで拭ってくれた。

母ちゃんはいつだって何もきかない。俺の起こす犯罪すべてに目をつむり、何も知らないフリをする。

心の中では何を思っているのか分からないが、俺を遮ったり、叱ったりしない。

 

世間的に見て良い親だと言えるかは分からない。

だが俺にとっては大事な、たった一人の親だ。

 

「サム…無事でよかった…

 

この血が…あなたの血じゃなくて…本当によかった…」

 

…!!!

 

母ちゃんは泣いている。その瞬間再び俺も涙が溢れてきた。

この血は母ちゃんにとって敵の血だろうが、仲間の血だろうが、ただ俺の血でなければいいのだ。

 

ひたすらに息子を案ずる親心。

 

怒らない。ただただ俺の事だけを心配してくれる。

 

再び母親のデカさを知った。


「さぁ、それじゃあ久しぶりにママが何か作ってあげるわね!この部屋にはキッチンもあるし、サムはシャワーでも浴びてなさい!せっかくの可愛い顔が台無しだわ~」

 

母ちゃんは自分の涙を拭うと、すぐに元気にふるまった。

そう言いながら俺を無理やりシャワールームへと押し込んでいく。

 

 

仕方がないので服を脱いでいると、母ちゃんの鼻歌が微かに聞こえてきた。

久しぶりに息子に手料理をふるまえるのが嬉しいのだろう。俺はウィザードが撃たれたショックから少しだけ立ち直った。

 

シャワーを浴び始めてしばらくするとキッチンから鼻歌が聞こえなくなった。

どうやら料理ができたみたいだ。

すぐにテレビの音が聞こえ始める。

 

何が出来たんだろうか。少し楽しみだ。

俺はシャワーをとめ、タオルで体を拭き始めた。

 

パタパタと足音が聞こえて、ドアが開く音がした。

だがバスルームの扉ではない。母ちゃんが玄関を開けたらしい。

 

 

 

パアン!パアン!パアン!

 

 

 

なぜか渇いた銃声が響くのにそれほど時間はかからなかった。


ドタバタと誰かが入り込んで来る音がする。

 

バスルームのドアが勢いよく開けられた。

俺は当然丸腰だ。

 

 

そこにいたのは…

先ほど揉めたメキシカンの仲間…逃げ去った二人だった。

 

俺が町をふらふらと歩いていたのをつけられていたのだ。

俺は自分の愚かな行動を恨んだ。

 

しかしそんなことはどうでもイイ。俺に向けられた銃口から放たれる弾丸が、すぐに俺を楽にしてくれるだろう。

 

すべて…終わった。

 

 

パアン!パアン!

 

「…?」

 

しかし倒れたのはメキシカン共だった。

 

「B!大丈夫か!?」

 

「サム~!公園から消えちまったんだって~!?迎えにきたぞ~!」

 

それはスノウマンとクリックの声だった。

すぐに二人が俺に服を投げ渡し、それを着た俺をバスルームから連れ出した。

 

「あ…」

 

母ちゃんが頭や腹から血を流して倒れている。

 

「サム。残念だがお前の母ちゃんはすでに…」

 

嘘だ。母ちゃんが死ぬわけない。

 

母ちゃんはいつだって俺のそばにいてくれた。いなくなるはずなどない。

 

「嘘だ!絶対生きてる!死ぬわけない!」

 

スノウマンとクリックの手を振りほどき母ちゃんに駆け寄る。


ドロリ…

 

母ちゃんに触れると生温かい血が俺の手についた。

 

脈は…ない。

 

「あ……あ…あぁぁ!!」

 

俺は叫んだ。

しかしそれは虚しく部屋に響いただけだった。

スノウマンが俺を無理やり担いで走り出した。

クリックがその後ろからついてくる。

 

「あぁぁ!!ショーティ!下ろしてくれ!まだ助かるかもしれないだろ!?」

 

「警察が来てる!早く逃げないとメキシカン殺しで捕まるぞ!」

 

俺達はとりあえず、ここから少し離れているスノウマンの家に逃げ込んだ。

 

五分ほどして、ようやく俺は落ち着いて話ができるようになった。

 

「母ちゃんが…あんな…母ちゃんが…」

 

そう言った俺を、スノウマンが黙って抱き締めてくれた。

 

バン!

 

ドアが開き、マークがウィザードを病院に送り届けて帰ってきた。

 

「遅れてすまない。ウィザードは重体だ。頬の辺りに一発食らってる…今手術をしてる最中だ。いつ死ぬか分からないらしい」

 

スノウマンがすぐに他のメンバー達のポケベルに病院へ急いで行くように連絡を回す。

 

そしてすぐに俺達も車に乗り込み、病院へ向かった。


病院にはB.K.Bが全員集まり、黙り込む者、泣き叫んでいる者とさまざまだった。

 

 

つい先ほど、ウィザードの死亡が確認されたのだ。

 

「ウィザード…」

 

俺は天井を見上げた。

 

母ちゃんもここに運ばれていた。

発見者が救急車を呼んでくれたらしいが、手遅れだった。

 

俺は大きな存在を二つも同じ日に亡くした。

 

「サム…辛いだろうが…気を落とすな…そうしか言えないぜ…」

 

いつの間にかライダーが隣りに座っている。

奴は俺の肩を叩いたが、俺は力無く頷いただけだった。

 

葬儀は二人とも明日。

しかし俺は当然、母ちゃんの葬儀にしか出席できない。

 

ウィザードには申し訳ないが、他の仲間達は全員ウィザードを見送るので、寂しくはないだろうと俺は解釈した。

 

「サム、任せとけ。ウィザードは俺達が盛大に天国へ見送る。お前は母ちゃんを最期まで見届けるんだ」

 

さすがにライダーは人の気持ちをよくわかってくれる。

俺は無理やり笑顔を作り、ライダーに返事した。

 

「誰一人、失ってなんかないぜ。だってよ…ウィザードも母ちゃんも…俺の中で生きてるんだ…」

 

笑顔は涙でメチャクチャになった。


 

次の日、母ちゃんの葬儀がしめやかに執り行われた。

俺には親戚が少ないので、集まった参列者は俺も含めて十人ちょっとくらいだ。

 

俺は母ちゃんの胸元に花を投げ入れた。

親孝行なんて一度だってした覚えはない。

 

それどころか、クレイに続けて母ちゃんまで俺のせいで死なせてしまった。

なんて親不孝なんだろう。

 


……………………

 

 

「クレイ!サム!元気でいってらっしゃい!ママは忙しくてなかなか可愛がってあげられないけど…あなた達の事は世界一愛してるわ」

 

「ママ!いってきまーす!さ、クレイ行こうよ!」

 

…………………

 

 

「あら…クレイまたケンカしたの?」

 

「だってアイツらサムのこと悪く言うから…」

 

「クレイは優しいのね。そうよ。サムは悪い子じゃない。とってもイイ子よ!」

 

…………………

 

 

「おかえりサム!もうママにはあなたしかいないんだから…サムの顔を見れて嬉しいわ!」

 

「ただいま」

 

「ママの可愛いサム…体には気をつけてね…」

 

…………………



涙が溢れて止まらない。

俺を産み、育ててくれた最愛の母親を自分のせいで亡くしたのだ。止まるはずがなかった。

 

そしてウィザードの事を思い出し、再び涙は激しさを増した。

 

 

その時、十数台のトラックやバンが葬儀に勢いよく乱入してきた。

 

俺は何の騒ぎだと思った。親戚達もみんな驚いている。

聞き覚えのある声がした。

 

「ヘイ、サム!ブラッズのブラザー!!」

 

涙で眼を腫らし、鼻声になっているが間違いない。

コンプトンブラッズのドン、ファンキーだ。

レイクもいる。

 

その他にはB.K.Bのメンバー。

 

 

そしてみんなに担がれている棺桶が一つ。

 

「サム!トニーぼうやを連れてきたぞ!」

 

「なんだって!?」

 

俺は思わず叫んでしまった。

みんながわざわざ俺の為にウィザードを連れてきたのだ。


経緯はこうだ。

 

当然、ウィザードの葬儀にイトコのレイクや、その友達のファンキーも出席していた。

そこで俺がウィザードの葬儀に来ていない事に気付いたファンキー達は大激怒。

 

しかしB.K.Bのメンバーが俺の行けない理由を伝えると、同じ日に母親と親友を無くした俺に同情し、今度は二人は大号泣したらしい。

 

すでに埋められ始めていたウィザードを掘り起こし、止めようとする葬儀関係者を全員張り倒して、無理やりウィザードを自分達の車に積んで、ここまでやってきた。

 

 

全ては俺にウィザードに最期の別れをさせてあげようという、コンプトンブラッズなりの優しさだった。

それにB.K.Bのメンバーもついて来たという事らしい。

 

改めて俺はファンキー達のやることは全て桁外れだと感じた。

 

「みんな…」

 

俺は集まった全員を見回した。

みんな眼は赤く腫れてはいるが、ニッコリと笑って俺を見つめている。

 

俺には、みんなの中に棺桶で眠っているはずのウィザードの顔もちゃっかり混じっているように見えた。


俺はウィザードの棺桶のフタを開け、中に銃弾を入れた。

 

「R.I.P.…Wiz」

 

銃弾を棺桶に入れるのも、ギャングの独特の習慣だ。

生前に構成員として頑張った仲間への敬意を表している。

 

他にはバンダナを入れたりする場合や、普通に花を入れる事もある。

 

また、仲間の墓参りの時には必ずビールやウィスキーを墓前にこぼす、という習慣もある。

 

「さあ、そろそろウィザードを眠らせてあげてくれ」

 

俺の言葉で、コンプトンブラッズのメンバーとB.K.Bのホーミー達は車に乗り込み、棺桶を積み込むと、ウィザードの葬儀場へと戻っていった。

 

 

母ちゃんの葬儀の続きが再開され、親戚達も落ち着きを取り戻す。

俺は胸に十字を切り、最愛の母ちゃんを弔った。

 

家族はいなくなっても、信頼できる第二の家族、B.K.Bの仲間達がいる。

 

俺の心は穏やかだった。

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