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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
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dirty boys

雨が激しく降りしきる夜だった。

俺は六歳の時、初めて人を殺した。

……


……



俺の名前はサム。

 

住んでいる地域は貧困街で、家庭は親父、母ちゃん、兄貴のクレイとの四人ぐらしだ。

 

どこにでもあるような幸せな家庭ではなく、腐りきった家庭だった。

 

親父はアル中で夜な夜な母ちゃんに暴力を振るっていたし、母ちゃんは家計を支えるために売女をやっていた。

 

収入はほとんど親父の酒代に消え、兄貴や俺は毎晩聞こえてくる怒号に怯えながら暮らす日々。


 

ある日、クレイと俺が小学校から帰ってくると、いつものように親父がリビングで一人酔いつぶれていた。

母ちゃんは買い物に出ているらしい。

 

「おう、お前ら帰ってきたか!母ちゃんはまだか?酒がなくなっちまってな!がはは!」

 

しかしまだ酔いが浅かったらしく、俺達に気付いた親父は気さくに話しかけてきた。

 

「さぁ、わかんない。それより父さん、あんまり飲み過ぎないでね」

 

おそるおそる兄貴が親父をたしなめる。

 

「おう。それじゃ二階に上がっていなさい。母ちゃんが帰ってきて夕飯の仕度ができたら呼ぶからな」

 

俺達二人は二階へ上がった。


「クレイ、パパはなんでお酒を飲むの?」

 

「さあ、俺にもよくわかんないよ」

 

この時兄貴のクレイは十歳、俺は六才だった。


……

 

しばらく経って母ちゃんが帰ってくると、親父の声がした。

 

「クレイ、サム、夕飯ができたぞ!早く来い!」

 

二人はかなり腹が減っていたので飛ぶように降りていった。

 

夕食を済ませ、二人でシャワーを浴びた後、再び二階に戻る。

今日学校で起きた事を二人でわいわい話していると、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

 

 

…ガシャン!



 

何かが割れる物凄い音と叫び声と怒号で俺は目を覚ました。

 

チラリと時計に目をやると、夜中の二時。

 

クレイも目が覚めたようで、むくっと立ち上がった。

音は一階から聞こえてくる。

 

「またパパだ」

 

俺はクレイに言うと彼はうなずき、ドアから出ようとした。

 

「見に行こう」

 

「え?僕怖いよ…」

 

しかしクレイは俺の手をひき、階段をゆっくりと忍び足で進む。


一階にたどりつき、そっとリビングを覗きこむと、信じられない光景が広がっていた。

 

母ちゃんが頭から血を流し、床に倒れている。その横にビール瓶を持った親父の姿。

親父は瓶を叩き割り、大きく振りかぶってそれを母ちゃんの喉元に突き刺そうとした。

 

「やめて!」

 

とっさにクレイが叫んだ。

すると親父はこっちを向き、近付いてきた。目はすわり、自分でも何をしているのか分かっていない様子だった。俺は怖くて声も出せず足はガタガタと震えていた。

 

「サム、逃げろ!」

 

クレイが叫んだ。

親父の気をそらそうと、テーブルにあったフォークやマグカップを投げ付けている。

 

俺はゆっくりと後退りして部屋から出ようとした。

 

クレイは近付いてきた親父に蹴り飛ばされて階段の方へと倒れこんだ。

 

親父が俺の方を向いた。

じりじり近寄ってくる。

 

その時、俺は部屋のすみのソファの上に「ある物」を見つけた。


怪しく黒光りを放つそれが、静かに置かれていた事を覚えている。


 

それは…親父の拳銃だった。


 

俺は素早くソファへと移動し、両手でしっかりとそれを握った。

 

親父を狙い、引金を引く。

だが、カチカチと音がするだけで作動しない。

 

俺は殺されるかもしれないという恐怖から無我夢中だった。

めちゃくちゃに銃を振り回し、引金を何度も引きながら叫ぶ。

 

「なんで動かないんだよ!」

 

その時、俺の親指がセーフティロックに当たったらしく…

 

パァン!パァン!

 

拳銃は火を吹いた。

片手でめちゃくちゃな方向に銃口を向けていたので、弾は壁に当たったようだ。

 

銃を握っていた右腕が発砲の衝撃でじりじりと痛み、俺は銃を床に落としてしまう。

 

すでにそばまできていた親父が、俺の顔を思い切り殴った。

 

鼻の骨が折れ、俺はボタボタと血を垂れ流す。


親父は再び母ちゃんの方へ戻っていく。

俺はもうろうとした意識の中、銃を探して手にとった。

 

クレイが気を取り戻したらしく、起き上がっている。

 

俺は外さないように、しっかりと両手で銃を構え、親父の背中を狙った。

 

「サム、やめろ!人殺しになる!」

 

クレイが俺に叫んだが、遅かった。

 

パァン!パァン!

 

弾丸は親父の腰と背中のあたりを貫いた。

 

どっと倒れこむ親父。クレイがすぐに駆け寄ってその身体を揺すっている。

 

「父さん!大丈夫!?」

 

俺は母ちゃんの方へ駆け寄った。

 

「ママ!ママ!」

 

母ちゃんは頭からの出血がひどく意識はなかったが、息はしている。

 

「サム…大変だ。父さんが死んでしまった…」

 

やっと俺は我にかえり、自分がやった事の重大さに気付いた。

 


 

俺とクレイは大泣きした。

 


 


雨が激しく降りしきる夜だった。




おそらく銃声を聞いた隣の家の住民が通報したのだろう。

すぐに警察がドアを蹴破り、玄関からぞろぞろと入ってきた。

 

「子供二人の生存を確認、軽傷のようだ。さらに負傷者の男女二名。こちらはヒドい」

 

俺達は警察に保護された。

 

「もう怖くないからね。大丈夫だよ。君は鼻をケガしてるみたいだね。早く病院にいこう」

 




 

それからしばらく俺とクレイは同じ病室に入れられたが、クレイは怪我がほとんどなかったので二、三日ですぐに家に戻っていった。

 

病院の先生の話では母ちゃんもクレイと同じ日に退院したらしい。頭の怪我は表皮だけのもので、脳や骨には何の影響もない、との事だった。

親父の事は誰も話してくれなかった。死んだのだろうと俺は確信していた。


 

俺は骨折していたので、その後何日かしばらく病院にいた。


 

しかし、見舞いにはクレイも母ちゃんも来なかった。

俺は親父を殺した。だからきっとクレイや母ちゃんには嫌われてしまったと思った。



さらに数日経ったある日、母ちゃんとクレイが迎えに来てくれた。

俺は久しぶりに見る母ちゃんとクレイの顔を見るなり、泣き出してしまった。

 

クレイは笑ったが、母ちゃんは一緒に泣いてくれた。

 

「無事でよかった…」

  

怒らない。

母親のデカさを知った。



母ちゃんとクレイは、毎日やってくる警察の取り調べだかなんだかで俺の見舞いに来れなかったと話してくれた。

結局、指紋から発砲したのは俺だとバレたようだったが、親父が暴れていた事と、俺がまだ六才だということもあり、大きな事件として取り上げられる事もなく終わった。

 

だが近所では噂が広がり、俺達家族は人殺しの一家と呼ばれた。特に俺には親殺しの悪魔の子という呼び名がついていたらしい。事実無根ならば反抗する所だが、真実なので俺にはどうしようもない。俺は次第に学校へも行かなくなり、家に引きこもってしまった。

 

クレイはその間もきちんと学校に行っていた。しかし学校では俺のせいでイジメられているようだった。


毎日あざを作って帰ってくるクレイを見ているうちに俺はだんだん腹がたってきた。

 

ある日、いつものように帰ってきたクレイ。

その日はいつにも増して怪我がヒドかった。顔は腫れ上がり、服はズタボロ。

 

 

俺のなかで何かが弾けた。





話を訊くと、クレイは決まって「やりたい奴にはやらせておけばイイ」としか答えなかった。しかしその日、パンパンに腫れ上がった顔でクレイはこう言った。

 

「俺は、サムが父さんを殺したことで俺が痛めつけられても、お前を恨んでもいないし、イジメられても何とも思わない。

俺はサムが今でも大好きだ。だけどサムの悪口を言う奴は許せない」

 

それは、俺の悪口を言う奴等にたった一人で立ち向かった事を表していた。

クレイはニッコリ笑った。

 

一人だけ逃げていた自分を恥ずかしいと思った。クレイが兄貴で本当によかったと思った。

 

「クレイ、僕、君がお兄ちゃんで誇りに思うよ。世界一カッコイイお兄ちゃんだよ」

 

俺はワンワンと声を上げて泣いた。クレイは傷だらけの汚い顔でただ微笑んでいた。

 

 

次の日。俺はクレイと一緒に学校へ行った。


学校で、授業時間以外は俺とクレイは常に二人で行動した。文句や悪口を言ってくる奴等も多くいた。だがそういう奴等は相手にしなかった。


クレイも俺が学校に出ていなかった間に俺の悪口を言う奴等とは戦ったが、俺がちゃんと学校に行くようになってからはそういう奴等も気にとめないようにしていたみたいだ。

そのかわり、ケンカを売ってくる奴とは堂々と戦った。

 

もちろん俺達はたったの二人なので、ほとんど負けてしまう。それでも毎日学校に行き続けた。

 

 

次第にイジメはなくなり、信頼のおける仲間という程ではないにしろ、遊び友達も出来てきた。

 

 

二年後、クレイは小学校を卒業し、中学校へ進学していった。

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