第7話 かげろう(その1)
期末試験も終わり、後は夏休みまでこれといったこともない。相変わらず帰宅部なので、結局やることといったら、詩を書き、ギターとボーカルの練習をするだけだ。勉強も一応はしている。将来職に就くことや様々な社会生活を漠然と頭に描いてはいる。
図書館司書、というのが職業として成り立つのかどうか、よく分からない。なんとなく、本を割とよく読むから、というだけで思いついたものであり、それ以外の特別な理由はない。
詩を書くから「詩人」でもいいのかどうか。おそらく、「詩人」は、その人の状態・属性を指すのであって、職業ではないような気がする。
同じように、作家やそもそもロックバンドだって、職業と言えるのかどうか分からない。
だが、中3の時、ポピーでの出演をドタキャンした大学生バンドに向かって、「仕事を何だと思ってるんだ!」と叱りつけたマスターの言葉を思い出し、ということはやはりロックバンドも職業なのだろうかと考えてみる。
ここまで思考を進めると、段々と寂しくなってくる。自分は高校生としては、どうなのだろうか、と。高校生ならばこの程度のことはもっとしっかりと考え、将来のために様々な取り組みや活動も行っているはずだ。焦りを感じ、ネットで何か役に立ちそうな記事が無いか読んでみる。あてずっぽうなので、特にこれといったことが見つかるわけでもない。
おとなしく、自分がこれまでに書き溜めた「詩」っぽいもののノートを見返してみる。
長くても数行程度の、ごく短い文章が並ぶ。気恥ずかしさを隠すためにあえて短い文章にしたものもいくつもある。
こんなのがあった。
‘いつもひそかに生きてる。
毎日控え目に生きてる。
肝心かなめの言葉すら
言えないくらいにひそかに‘
これを書いた時、一体その日、何があったのか、どういう気持ちで書いたのかはもう思い出せない。今、改めて読んでみると、この言葉だけがノートから浮き上がって中空を飛んでいるようなイメージを受ける。自室にいるのが耐えられなくなってくる。理由もなく涙が滲んでくる。
僕はMP3に落として貰った咲のPC音源を入れたウォークマンを、シャツの胸ポケットに突っ込んだ。リュックにノートとペンケースを入れて、自室から玄関に向かった。