第35話 秋の調べ(その4)
咲のピアノの発表会は9月下旬の祝日だった。咲が幼稚園の頃から通っているピアノ教室の生徒だけでの演奏会だ。
秋晴れ、とはいかないけれども、曇りがちながら涼しげな風が頬を滑る気持ちのいい日だった。お彼岸に入っていることもあって、朝一番で家族と一緒にお墓参りに行ったあと、加藤、武藤と駅前で待ち合わせして、発表会の会場に向かう。
実は、僕ら男3人は、今日の日を楽しみにしていた。もちろん、咲のピアノを聴くことも楽しみなのだけれども、咲のピアノの先生、‘丹羽先生’と会うことがとても楽しみだったのだ。
咲に、発表会の事前情報をくれないか、と頼んだところ、ピアノ教室の生徒の名前と演奏する曲目が載ったプログラムを貰ったのと、なぜか丹羽先生が若かりし頃の写真を1枚見せて貰ったのだ。
「あんまり綺麗だから、先生に頼んで、頂いた」
と、咲が言うその写真は、白黒だった。丹羽先生は今70歳。その写真は20代前半の頃の写真だという。もともと中学校の音楽教師だった先生が、卒業式の日に数名の女子生徒からせがまれて一緒に撮った写真らしい。
卒業式の日、黒っぽいスーツを着て生徒に囲まれて真ん中に立っている丹羽先生は・・・美人だった。
それも、並大抵の美人ではない。昔の時代の美人、というのでもない。昔だろうが今だろうが、美人は美人、という感じだ。僕は実は、人の感情や思いは十人十色だと思っているのだが、こと、丹羽先生の美しさに関してだけは、‘十人一色’としか思えない。老若男女問わず、この笑顔の丹羽先生の写真を見せられたら、「美人だ・・・」と思わず言ってしまうようなレベルなのだ。
もちろん、今、70歳だから、相当な変わりようであることは承知の上で、それでも丹羽先生に会ってみたい。楽しみだ。
そして、もう一つ、咲は事前情報をくれた。
高校でのたった1人の友達で、咲よりもピアノが上手いと言っていた女の子も招待したそうだ。
名前は、米田 さき。




