第8話 勇者side 2
やっと物語が動き始めます(-∀-`;)
な…長かった…(汗)
御堂 光樹視点
再び謎の光に包まれ、気づいた時には不思議な模様が描かれた大広間と言って差し支えのないくらい広い部屋に移動しており、床の上で横たわっていた。
俺が意識を取り戻したのは生徒達の中では最後の方だったらしく、殆どの生徒が既に意識を取り戻し、ある者は生徒同士で相談し、ある者は冷静に状況把握しようと試みたりと人それぞれ様々な行動をしていた。女神の言っていた事に嘘は無かったようで、俺達の周りには女子生徒が何人も居た。
「お、気がついたか光樹。恐らくここがあの女神さんの言っていたラギシス王国の王城とかなんだろう。あそこに見える銀髪の子が雰囲気からして俺は王女だと思ってる」
俺が気づいて早々に話しかけていたのは同じ生徒会メンバーであった相良佑樹だ。
佑樹はそう言いながら大広間の端の方に騎士らしき人と一緒に立ち話をしているウェーブのかかった銀髪の女性をニヤニヤしながら指差した。
「ああ、確かにそんな感じだな。ところで佑樹、望月さんを知らないか? 望月さんも水瀬先生のクラスに居たはずだから俺達同様、ここに召喚されていると思うんだが……」
周囲を目を剥いて慌てて見回してお目当ての女子生徒――望月さんを探してみるが、多くの人が立ったりしている事もあり、見つける事が叶わなかったので佑樹に訊ねた。
「相変わらず望月さんにご執心だなぁ光樹は。心配しなくても望月さんなら居るから。ほら、あそこだ。見えるだろ?」
佑樹が後ろを向いて指差した先には鼻血を出した鷺ノ宮伊織を介抱? する楓が居た。
伊織の鼻にはティッシュがこれでもか、と思うほど詰め込まれており、楓は「イオ君、大丈夫だよ。今、楽にしてあげる」と言いながら首に手でチョップをしようとしていた。
伊織の周辺に居た生徒の数人が「望月先輩!! それ、間違った民間療法だから!! それやると本当に止めを刺しちゃうから!!」などと叫んでいたが、そんな叫び虚しく「えいっ」と、可愛らしい掛け声と共に伊織に止めを刺していた。
楓が止めを刺した瞬間、殆どの生徒が注目していた事もあり、「は、鼻血くぅぅぅぅん!!」なんて叫んでいる生徒も数人程いた。
まぁ、本人に止めをさした自覚は無さそうだったが。
「うおっ、マジで望月さん、あの間違った民間療法をやってるよ……鷺ノ宮が好きだ。とか言ってた気もするがあれを見ると実は嫌いなんじゃないのかって思うな……見てみろよ光樹、さっきまで少しだけだが鷺ノ宮が意識を取り戻しそうだったのにあのチョップで完全に意識沈んだぞ、あいつ」
佑樹は頬を若干、引きつらせながら伊織を哀れんでいた。
「そ、そうだな。まあ結果はどうあれ治そうと健気になってる女の子は可愛いってものだ、うん、超可愛い」
楓に対して好意を抱いている俺は、恐らく彼女の行動全てが可愛く見えるだろう。 そんな俺を見て、呆れながら佑樹は口を開いた。
「うへぇ……流石光樹。望月に対して甘すぎだな。好みは人それぞれだから別に何か言うつもりはないが、俺は鼻血が出た時には鼻にティッシュを詰めるくらいでそっとしてくれる子がいいなぁ」
そんなどうでもいい話をしながら佑樹と駄弁っていたら端の方に佇んでいた銀髪の白銀の甲冑に身を包んだ女性が騎士と思わしき人を数人連れて俺達の下へと近づいてきた。
近づいてきた銀髪の女性の容姿を見て「異世界には美人しかいないのか!?」と突っ込みたくなったが、望月さんの前で他の女性を褒めるのは気が引けたので、喉元近くまで出てきそうになっていた言葉をすんでの所で飲み込んだ。
まあ、まだ2人しか見てないんだが。
「勇者達よ、召喚に応じてくれた事を感謝する。一人例外もいるが殆どの人が意識を取り戻したように見えたので声をかけさせてもらった。私の名はディジェア・ラギシス。ラギシス王国の第二王女という肩書きを一応持っている。王女だからと言って畏縮する必要は無いし、無理に丁寧な口調をしなくてもいい。寧ろ止めて欲しい。まぁ、どこかの頭の固い騎士団長さんはそう言っても聞く耳を持ってくれないんだがな」
ディジェアがそう言いながら隣にいた30歳くらいの騎士団長と呼ばれていた騎士甲冑に顔以外包まれた人物に視線を移すと騎士団長は「はぁ……」と呆れたように溜め息をついて返事をしていた。ディジェアは「ははっ」と微笑し、溜め息に対して笑みで返すと俺達に再び視線を戻した。
一国の王女とは思えない程のぶっきらぼうな口調が良かったのだろう、俺達は別段、取り乱す事無く静かにディジェアの次に発する言葉を待っていた。
「まずこの国の今の状況を話そうと思うのだが、そこの鼻血を出している男をまず治療するのが先だろう。昔、書庫で読んだのだが勇者召喚で召喚された勇者は魔法を知らなかったらしい。なので、そこで鼻血を出している男にヒールをかける。口で言うよりも見た方が理解が早いだろう?」
ディジェアは薄く笑いながら伊織に歩み寄り、彼に掌を向けて「《ヒール》!!」と叫ぶと同時に、急に伊織が光に包まれるが、数秒で光は消えた。
数秒で何が起こったのかは分からないが、彼は健康体となっていた。
伊織を両手で抱えていた楓は特に驚いていたようで「うわぁ……本当に魔法が使えるんだこの世界……魔法でイオ君を惚れさせるっていうのも悪くないかも……」と呟いていた。
……ん?望月さん、なにか危ない事を口走ってなかったか? ……気のせいだな
「これで魔法が使えると理解して貰えただろうか? 先程の男はメイドに休養できる場所まで運んでもらう」
ディジェアが言い放った直後、部屋の扉近くにいた金髪のメイドが伊織の側まで早足で歩み寄り、楓に向かって「私が部屋まで運びますのでお任せ下さい」と言うと同時に伊織を担いだ。
男子生徒達の数人がその光景を見ながら「俺も鼻血を出して美人なメイドさんに運ばれたかったぜ……」などと呟いていた。今は第三者側だから羨ましく見えるが、実際は気づいた時にはベッドの上なんだぞ? 意識無いのに羨ましいのか? 後輩男子生徒諸君。と羨望の眼差しをさせていた男子に言ってやりたかった。
「わ、私もついていきます!!」
勿論、自称伊織大好きさんは彼と離れたくないらしく、言うが早いかメイドに同行しようと歩み寄る。
「すまないがあのメイドに任せてくれないか? まずは私の話を聞いて欲しい。そして出来れば私の話を聞き、先程の男に伝えてあげてくれないか? あの男はもう健康体だから問題ないと思うのだが、見舞いなどといった行為は私の話を聞いた後にしてくれないか? ……頼む」
ディジェアが頭を下げると楓は「……わ、分かりました。分かりましたから頭を上げてください!」と慌てながら言い、ディジェアに頭を上げるようにと懇願する。
一国の王女、と名乗った人に頭を下げられて居心地が悪かったのだろう。
ディジェアは楓に、ありがとう、と礼を言って頭を上げた。
一連のやり取りを聞いて問題無いと判断したのか、金髪のメイドは楓とディジェアに一度会釈した後に、伊織を担ぎながら部屋を出ていった。
一国の王女が勇者として召喚された者とはいえ、頭をそんな簡単に頭を下げていいのだろうか? 騎士なら「王女ともあろう御方がそんな簡単に頭を下げてはいけません!!」とか言いそうなのにな……と思いながら騎士達を見ると殆ど全員が呆れた表情を浮かべながらディジェアを見詰めていた。その光景を見た俺は色々な考えを巡らせた。
騎士達の様子から察するに恐らく、王女は権力などを盾に傲慢不遜な態度をとるような人物とは違って庶民的な人なのだろう。
俺がもし、ラギシス王国の一市民だったのならば、間違いなくディジェア王女を支持しているだろうな。
「では、まずは大事な部分を掻い摘まんで話すので聞いてくれ。
この世界にはここラギシス王国の他にエーデル王国とジェンド獣国、そして魔界領と呼ばれている国々がある。魔界領はその名からして分かるように魔族と呼ばれる種族が住んでいる。魔界領にはいくつもの国があるらしいのだが、残念ながら私達人間は魔界領の内部については全く知らないんだ。だが、私達にとっては滅ぼすべき相手だ、魔界領と一括りにするくらいで十分だろう。魔族と言われている種族は鬼族、吸血鬼、サキュバス、ダークエルフ、魔人族等と数多く存在するがざっくり纏めると獣人とエルフと人間以外は全て敵だ。……とは言っても、ジェンド獣国は魔界領と人間に対して中立を宣言しているだけで味方では無いんだけどな……」
ディジェアは怒り、悲しみなどといった感情を一言一言に込めながら話を続ける。
「だからこそ、ラギシス王国とエーデル王国が力を合わせていかなければ駄目だというのにエーデルのあの糞国王、『ラギシス王国の第一王女を余が娶り、結束を確固たるものにしようぞ』とか言っていた癖に、娶った一ヶ月後には[防衛で手一杯になってしまい、協力は出来なくなった。申し訳ない]って書いた書簡を使いの者に渡しやがって……魔族に攻められても無いのに防衛で手一杯だ? ラギシス舐めんじゃねぇぞ!! あの糞豚ぁ!! 魔族を滅ぼしたら真っ先に首を落としてやる………ゴ、ゴホン…すまない、話が逸れたな。今の状況はこんな感じなんだ。そして人間は劣勢だったので勇者召喚をし、今に至るわけなんだが何か聞きたい事はあるだろうか?」
ディジェアのエーデル王国の国王への怒りが会話の最中に出た時に、腰に下げていた剣を抜いて力任せに床に突き刺していた。
それを見ていた俺達の殆どは畏縮してしまい、質問どころでは無かったが俺達の中で唯一の大人だった水瀬先生が一番俺達が気になっていた事を質問してくれた。
「……これだけは聞いておかないとな。姫さん、俺や生徒達は元の世界に帰れるのか?」
水瀬先生が怪訝そうに眉をひそめながら、そう質問すると各人様々な表情をしてディジェアの口から出てくる言葉を待っていた。
「絶対とは言えないとこがとても申し訳ないのだが、書庫にあった本には先代の勇者達は帰還したと書いてあったので帰れると思う。だが、帰還方法が分からないんだ………すまない」
ディジェアは今にでも泣き出しそうな程、弱々しい表情をしながら謝罪してくる。
俺達を召喚した事を申し訳ないと思っているのだろう。
大半の人はもう帰れないと諦めていたのか、歓喜と言った表情を浮かべる人が多かった。
「……もう聞きたい事は無いか? 無いなら話を進めるが……」
彼女は丁寧にも俺達へ確認を取り、話を再度進め始める。
「まずは全員ステータスと念じてくれ。そして称号に勇者があった者は教えてくれないか? 私には鑑定のスキルが無い為、勇者という称号を持った者が誰なのかが分からないんだ。まあステータスを調べる方法は他にもステータスプレートといった血を垂らした者のステータスが分かるといった便利なプレートが有るんだが、召喚が成功すると思っていなくて今ここには持ってきていないんだ。後程、全員に渡す予定だ。各自ステータスを調べて見てくれ」
ディジェアに言われて、俺達は自分のステータスを調べ始めた。
ステータス
御堂 光樹 18歳
レベル1 種族 人間
hp 500/500
mp 500/500
筋力 500
耐性 500
敏捷 500
魔力 500
魔耐 500
幸運 50
スキル 光魔法 火魔法 水魔法 風魔法 剣術 鑑定 全言語理解
称号 異世界に召喚されし者 勇者として呼ばれし者
(……おいおい、勇者って俺かよ………いや、待てよ。ポジティブに考えれば勇者って見せ場とかがかなり有る筈だ。ということは、だ。鷺ノ宮が頼りないところを何度も望月が見てしまい、望月さんは失望する。そして活躍しまくりの俺が望月さんに惚れられちゃう……という展開も有るかもしれん。少々都合が良すぎる気もするが…ありだな。それに、勇者権限で鷺ノ宮を望月さんに気付かれずに排除するのも手だな。鷺ノ宮は望月さんに付く悪い虫だ。早々に引き剥がさねば……)
そんな事を考えていたらディジェアが「勇者の称号が付いていた者は私に教えてくれ!」と未だに何度も叫んでいたので彼女の下へと赴き、礼儀としてまず、名前を言ってから勇者だという事を伝えると
「そうか!! コウキ、お前が勇者か!! 宜しく頼む!」
満面の笑みを浮かべながらディジェアは右手で光樹の右手を取り、握手を交わした。
(この姫様やっぱりすっごい可愛いな……ヤバい、惚れそう……いやいや、俺には望月さんという心に決めた人が……そうだ。ハーレムだよ。勇者なんだしハーレムくらい作っても良いだろう。うん、そうだ。そうしよう)
ディジェアは俺との短い会話を終えると、全員聞いてくれ!! と大声を出してその場にいる全員の注目を集める。
「コウキが勇者と分かったので、それをまず知らせておく。そしてステータスの数値について疑問を持っている人が殆どだろう。普通の人間の熟練兵士が幸運を除くステータスがオール100程度だと思ってもらっていい。そして今後について話しておく!! 今後は最低限の自衛能力をつける為に騎士団の訓練に参加してもらう。無駄な死を遂げさせるわけにはいかないのでな。そして力をつけたらダンジョンでさらに力をつけていく。そして一人一人に生活する為に個室の部屋とメイドや執事といった者を与える予定になっている」
ディジェアが言い終わると同時に、部屋の扉が開いた。
鷺ノ宮を連れていっていたメイドと、そのメイドに手を引かれて俺達の学校の制服を着た容姿が凄く整った長身の男が入ってきた。
鷺ノ宮を連れていっていたメイドだったからか、もしくは俺達の通っていた制服を見た事もないような男が着ていたからか、ディジェアの話を聞いていた俺達の大半がメイドと男のいるところに駆け寄っていった。
(あれは誰だ……もしかしてあの男、鷺ノ宮か!? それならば背が鷺ノ宮くらいの大きさで制服を着ている事にも説明がつく。鷺ノ宮ってあんな容姿だったのか……望月さんを惚れさせるのは一苦労しそうだな。そういえば、スキルに鑑定があることだし鷺ノ宮のステータスでも見てみるか…)
俺は眉間にしわを寄せながら、小さな声で「《鑑定》!!」と口に出した。
(あっ、くそっ。鷺ノ宮が動いたせいでメイドさんを鑑定し……て…………なっ!? 偽装!? 吸血鬼だと!? これってヤバいんじゃ……まずはディジェアさんに教えておいたほうが良いよな……)
そう思った俺は焦燥に駆られながらもディジェアの下へ駆け寄り、
「で、ディジェアさん。さっき入ってきた金髪のメイドを間違って鑑定してしまったんですけど、そ、その、メイドさんのステータスに偽装とか吸血鬼とかが有るのが見えて……」
俺が先程見た事をありのままディジェアに伝えるとディジェアは大きく目を見開かせ、
「なっ!? それは本当か!? ………害虫がこの王城に居たということか。コウキ、よくやった。手柄だぞ。そうと分かれば一刻も早く一匹の害虫を駆除しなければいけないな」
ディジェアがそう言うと同時に、金髪メイドの「夫婦になりました」という声と周りにいた女子生徒による甲高い、歓声のような黄色い声がディジェアの耳に入った。
「コウキ、訂正だ。害虫は……二匹だ」
そう口角を邪悪に歪めながら呟いたディジェア目は狂気を孕んでいた。