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第7話 勇者side 1

御堂光樹視点

  




   時間は遡り――――



 俺は急に謎の光に包まれ、気がついた時には辺り一面が白という奇妙な部屋に佇んでいた。周囲を見回して見ると水瀬先生のクラスだった男子生徒と俺と同じ生徒会三年の相良佑樹(さがらゆうき)が居た。先程まで転移に巻き込まれたであろうクラスに居た女子生徒以外は恐らく全員この部屋に居ると思う。



 ここに居る人は一人の例外無く唖然としていた。

 それもそうだろう、人間誰でも急に予想外の出来事に見舞われたら少なからず困惑したり、頭がちゃんと働かなくなったりする。俺もそんな一人だ。



 もし、急な予想外の出来事をきちんと把握し、冷静な判断を出来る人が居るのならそれは少なからず普通では無い。まあ、そんな人達が後世にも名を残す偉人になるのかもしれないが。



 困惑や沈黙の状況を破ったのはとある男子生徒の一言だった。



「こ、ここ何処だ!? 俺、さっきまで教室に居たのに……」



 尤もな疑問を口に出した男子生徒……確か遠藤裕太(えんどうゆうた)だったか。

 何度か生徒会にクラス代表として訪れていたので名前を記憶している。

 裕太の口に出した疑問が口火を切ったのだろう、次々と生徒達が疑問などの思った言葉を発し、騒がしくなる。



 多数の生徒が様々な言葉を口に出し、落ち着きを失って混乱状態にへとなりつつあった時だった。



「今の状況など、私が知る限り全てお話し致しますのでお静かにお願いします」



 周囲を見回した時には一人として居なかったはずの女の人の声が不思議と部屋全体に響き渡った。



 声の主を捜そうと思い、後ろを振り向くとそこには青色のドレスのような服を着た左右対称の綺麗で整った容姿をした銀髪の女性が神秘的なオーラを漂わせながら佇んでいた。



 ここは夢の中なのか? そう思う前に男子なら思ってしまうだろう。



 あの存在感を主張する双丘……目に毒だわぁ……



 他の生徒達も俺と似たり寄ったりの意見なのか、突然現れた女性を黙って見詰めていた……いや、見惚れていた。



「ふふっ、皆さん有難うございます。まずは……そうですね……あなた方は勇者としてラギシス王国王女に勇者召喚されます。あなた方の感覚で言うと異世界……と言うのでしょうか。そしてその召喚される過程としてこの空間に今、貴殿方は存在している、といった状況です。勿論、無力な一般人を召喚しても全く意味がありません。そこで召喚される過程でこの空間に訪れ、私達女神が恩恵……いえ、スキルを与えています。ここまでは理解してもらえましたか?」



 他生徒達はまず、状況把握をしようとしたのか時間と共に静まっていく。

 静寂が場を支配した瞬間、女神は微笑みながら落ち着いた口調で話し始めた。

 もし、目の前の人物が加齢臭がするオッサンとかだったら全員わめき散らしていただろう。



 目の前に存在する女神と名乗った女性が一旦話を句切ると、俺達は彼女が口にした話を理解出来た者から次々と文句や、歓声といった様々な声を上げる。



「は!? ふざけるなよ!? (たち)の悪い冗談はいいからさっさと帰らせろ!!」



「え!? マジっすか!! 俺、ハーレム作りたいんで凄いチートお願いしますっ!! (土下座)」



「彼女とのデートが5:30からだから早く此処から帰らせろよ!!」



「い、異世界!? け、獣耳……エルフ……獣耳……エルフ……俺の時代キタ――(º∀º)――!!」



 収拾がつかない程に皆、言いたい放題していたが、耳聡くとある言葉を聞き取った。



 ん? さっき「彼女が……」とか言ってる野郎いなかったか? オタクは良いがリア充はダメだ。他人の幸福は毒の味ってやつだ。……さっさと爆発しろよ。



 自分で思うのも何だが、俺は一応平均よりかなり良い容姿をしている。

 何度か告白されたこともあるのだが昔、望月楓さんに一目惚れして以来他の女子生徒と恋仲になる気になれなかった。



 勿論、望月さんに告白はした。が「私はイオ君が好きなんだ。ゴメンね」と言われ見事玉砕した。あんなネクラ、どこが良いのやら……まさか脅されているとか!? あいつ無駄に背が高いからな……可能性は有るな……あんなに可愛い女の子を脅すとは……鷺ノ宮伊織、許せんな。



 あれ? そういえば鷺ノ宮が居ないな…まあいいか。



「あー、静かに!! 静かにお願いします!」



 女神が大きな声量で妙に響き渡る声を出して叫んだ瞬間、何故か生徒達は急に落ち着きを取り戻し、沈黙が場を支配する事となる。



 一応、女神って言っていたから人を落ち着かせる事も出来るんだろうな。と一人で勝手に俺は納得していた。



「言いたい事が沢山あるのは分かりますが、まず私の役目であるスキルを与える仕事をさせて下さい。話はそれからで。あ、一人一人私が回っていくので名前を教えてくださいね。名前を知っていないとスキル与えられないんですよ……不便ですよね……ま、そういう事なんで!!」



 言い終わったと同時に女神は一番近くにいた男子生徒のいる場所へと歩み寄る。

 その後も、一人一人に名前を聞いて回っていた。それはもう、凄いシュールな光景だった。




「貴方のお名前は?」



 いつの間にか、俺の順番になっていたのか女神が俺の近くにまで歩み寄っており、男受けしそうな優しそうな笑みを浮かべながら名前を訊ねてきた。



 というか近くで見ると雑誌のモデルが霞んで見えるくらいの美人さんだった。近くで顔を拝んだだけなのに、何故か得をした気分になった。




御堂光樹(みどうこうき)です。あのー、女子生徒って異世界召喚されなかったんですか?」



 俺はついでと言わんばかりに一番気になっていた事を怪訝そうに眉をひそめながら問いかけた。

 


 勿論、訊ねた理由は望月さんがしんぱ…ゴホンッ、生徒会長として女子生徒が心配だったからだ。

 


 周りにいた生徒達の口から「あ、確かにそれ思った」なんて声もちらほら耳に入ってきた。そんな生徒達に俺は疑問に思ったのなら聞けよ……と目で訴えかけた。



「女子生徒? ああ、あの子達ね。あの子達なら他の女神が私が言った事と似たような説明をしたり、スキルを与えたりしていると思いますよ。あ、時間とか召喚される場所は同じ場所に同じタイミングで召喚される筈なのでバラバラに、等といった心配無用です。はい、スキル与え終わりました~」



 俺が女子生徒と言った瞬間、一瞬だけ女神の顔が顰めっ面になったような気もするが、気のせいだろう。



 スキルを与え終わると、俺の下から離れていき、未だスキルを与えられていなかった水瀬先生の下へと歩を進める。



「貴方で最後ですね。お名前は?」



 女神は他の生徒と同様に名前を訊ねるが、水瀬先生は俺が女神に質問をしているところを見て質問しても大丈夫と受け取ったのか、渋い顔をしながら訊ねていた。



「水瀬正義だ……なぁ、女神さん。あんたなら俺や生徒達を元の場所に帰す事も出来るんじゃないのか?」



 そんな異世界に召喚される人なら誰でも知りたい事を訊ねると女神は待ってましたと言わんばかりに、急に左手で目を覆い、鼻を(すす)りながら泣き始めた。



「………わ、私も皆さんを元の世界に……グスッ……帰してあげたいのは山々なのですが、私にはそんな力は無くて……グスッ……不甲斐ないと思う限りです……私は女神として貴殿方の願いを叶えて差し上げたいのに……私はこんなにも無力で……うぅっ……」



 嗚咽をもらしながら膝から崩れ落ちる。

 先程までの神秘的なオーラなどは消え去り、か弱い女の子となってしまった女神を見た水瀬先生は酷く狼狽しながら必死に慰めようとしていた。



「わ、悪い!! 別に泣かせたかった訳じゃないんだ。女神さんは何も悪くない!! 気に病む必要なんて一切無い!! だから泣き止んでくれ!!」



 泣き崩れた女神を見て水瀬先生を含む殆どが……いや、全員が「女神さん(様)は悪くないですよ!!」なんて言っていた。ちなみに俺も皆と一緒になって叫んでいた。

 可愛いは正義なんだよ。それは異世界に行くとなっても変わらない!!



「皆さん、優しいんですね……私は皆さんのような優しい方々の召喚に拘われて良かった……普段私達女神は人間と関わる機会が殆ど無いので……今回、沢山の方々の優しさに触れることが……グスッ…出来て……私は幸せは者です……」



 右手で右目をごしごしと擦りながら、泣き崩れていた女神は晴れ晴れとした笑顔を浮かべながらゆっくりと立ち上がる。



「では……私の役目は終わったので異世界に送りますね。また機会があればその時は沢山お話でもしましょう……ではお元気で!!」



 何故か目が全く腫れていなかった女神が言い終わると同時に俺達はまた、謎の光に包まれた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 光樹達を異世界に送り出した後、女神一人になった白一色の部屋にて



「ふぅ、今回も上手くいったわね。チョロかったわぁ。ふふっ、やっぱり泣き崩れは安定ね」



 小さく呟いた女神の左手には[片手で楽に出来る目薬]と表記されている目薬が握られていた……



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