第61話 勇者side 12
曙光が降り注ぐ晴天下の中。
全身、黒のコートに身を包んだ男3人組がとある鍛冶屋の前で立ち尽くしていた。
「……ここだな。入るぞ、お前ら」
リーダーらしき男が先行してカラン、と乾いたベルの音を響かせながら木造のドアを押し開ける。そして鍛冶屋に足を踏み入れた直後、妙にテンションの高い声が店内に響き渡った。
「いらっしゃいやせー!! おっ、お客さん、良いタイミングで来ちゃったねぇ。今、朝限定のタイムセール中なんですよ!」
そう言葉を発したのは青いエプロンに身を包んだ人間。
勇者召喚されながら、鍛冶屋にてバイトをする男であった。
そして一見普通の物とは変わらなさそうな大剣を取り出し、カウンターの上にドンッ、と音を立てながら得意気な顔で続けざまに口を開く。
「さっ、それではですねー! 特にイチオシのこの大剣の説明でもして参りましょうか!! ご覧下さい! この綺麗に研がれた銀色の剣身を! 鍛冶師なら10人に10人はこんな感じに研げる事でしょう!! そしてこの格好いい鞘!! 私は大剣を打っただけで鞘はノータッチなので作った方に頭が上がりませーん!!」
相手の返答を一切聞かずにまくし立てながら説明を鍛冶屋の店員は始めていく。
普通、鍛冶屋といえばオーダーメイド時、もしくは会計をする際にだけ口を開く奴。
それが世間一般の解釈であり、黒いコートに身を包んだ男達の内心でもあった。
そして、3人組の男達は意味不明な店員の奇行とも思しき行為に例外なく3人は困惑する。
「さぁ、皆さん。魔物を狩る、もしくは人間を狩る事……ありますよね? そんな時こそ、この大剣。切れ味良く、見目良く、そして格好いい鞘!!」
そして大剣の隣に質素な鞘を大袈裟に絶賛しながら置いた。
ピンクに染まった鞘を格好いいと言うのはただの世辞か、はたまた本音か。
後者ならば趣味が悪いの一言に尽きるだろう。
「さ、それでは切れ味の程をお見せ致しましょう!! ここに一枚の紙を用意致しました。そしてこの紙を……おりゃぁぁああ!!」
そう言いながらポケットから1枚の白のペラペラな紙を取り出し、宙に向かって投げ捨てた。
そして紙を斬ろうと大剣を右手で掴み、振り下ろすが上手く当たらずに虚空を切り裂く。そして気まずい空気が流れながらも地に落ちた無傷の紙をポケットに納めながら口を開いた。
「……はい、それでは今回、この屑鉄をお付けいたしましてお値段そのまま
――――金貨2枚でのご案内です!」
「……あのな……俺達は鍛冶屋に用があるんじゃねぇ……アンタに用があるんだよ」
めげずに宣伝を続ける店員に嘆息を贈り、リーダーらしき男は一歩足を進め、本来の目的であった話を切り出した。
「……あのイディスさんが失踪したらしい。とある団体に所属している俺らは、この絶好の機会を生かしてこの国。エーデル王国の無能な王族共を追い払い、新たな国をつくる事にした。今はまだ、旗本を教えるワケにゃいかねーが、アンタも俺らに加わらねーか? ……最近頭角を現したAランク冒険者、漆黒のギルバートさんよぉ」
私事ですが、リアルが忙しいので感想返しなど遅れます(´ ; ω ;`)
誤字、脱字等あればご指摘お願いします。