第48話 いざ行かん、魔王討伐へ
俺と楓は洋館を後にし、炎に包まれた巨大な城のような建物へと向かっていたのだが、道中も辺り一面炎に包まれているので氷魔法を使って消化作業を一人、やっていた。
「なぁ楓、今からでも遅くない……帰らないか?」
楓が火傷をしないようにと燃えゆく建物、草木に移り、揺らめく炎等全て無差別に凍らせながらも歩を進め、相手の様子を伺うかのように口を開いた。
勿論、尻はまだヒリヒリしているので擦っている。
「嫌だよイオ君。だって城に戻ればあのうざったい御堂君がいるんだよ? それに城を出ようとすればあの王女が邪魔するし、あの人達が追いかけようとする気も起きないくらい遠くの場所に2人で行きたかったの!! だからわざわざあのランダム転移部屋を使ったのに……」
俺は聞いた事があるような、ないような人名が出てきた事で頭を悩ませる。
そして楓は人名を出した途端に機嫌がとても悪くなり、嫌そうな顔になっていた。相当嫌忌しているのだろう。
(あれっ? 御堂……御堂……どこかで聞いたような……いや、聞いてないような……あ、確か勇者の名前じゃなかったか!? あぁ、そうだよ、そうだよ、三好先輩じゃなくて御堂先輩だったな。危ない危ない、危うく御堂先輩に向かって三好先輩って呼んじゃうところだったよ)
「なぁ、楓。王城に転移部屋って幾つあるんだ? 俺も前に……いや、何でもない。気にしないでくれ」
転移する部屋、という場所に少々思うところがあった俺は前に飛ばされた事がある。と言おうと思ったが、楓はその事を知らないようだし変に心配を掛けるべきではないだろうと判断し、言葉を飲み込んだ。
「んー? まぁ何でもないって言うなら敢えては聞かないでおくけど……えっと、私達が使ったランダム転移部屋ともう一つあったと思うよ。でもそこは立ち入り禁止だったからどういう部屋かは分からないんだけど……でも凄いよね、たった一人の魔法使いがあの部屋を作ったらしいし……えっと確か名前はダヴィ……デヴィ……デーヴィッドだったかなぁ? 閲覧許可されていた本には名前が消されてたんだけど禁書指定になってる本の一冊に名前が載っててね」
「それ、ダヴィスじゃねーの」
楓の口からダヴィ、と聞こえた直後、俺は呆れ口調で反射的に口にしていた。
「あ、そうそうダヴィス、ダヴィス……ってあれ? 何でイオ君がその名前知ってるの?」
怪訝な顔をさせながら首を傾げて尋ねてきた。
「えっと……あのオッサンとはちょっとあってな。話せば長くなるんだが……」
俺は少々含みのある言い方をしながらもあからさまに話したそうな雰囲気を漂わせ、楓にチラチラと視線を送っていた。
たまには自分の苦労を他人に聞いてもらいたくなるんだよ!! 勿論、転移した事は言葉を濁すつもりだ。少々事実をねじ曲げる。武勇伝ってモノはみんなそんなもんだし、多少の改竄はおっけーなんだ。
「ふーん……ま、そんな事はどうでもいっか。さっさと魔王城まで行くよー!!」
少々訝しんでいたものの、直ぐにどうでも良くなったのか、行くと俺に声を掛けると同時に歩く速度が段違いに早くなった。いや、もはや走っていると言っていいかもしれない。
「あれ? どうでも良いの? ここから話が広がって英雄譚ならぬ伊織譚を語るって流れにならないの? あっ、ちょっと待って! 急に歩く速度早くしないで!! それと魔王が強そうだったら直ぐに逃げるんだぞ!! 約束だからな! 約束したかんな!!」
そして相変わらず主導権を握られたまま炎に包まれた街を氷の世界へと移り変わらせながら2人の影は魔王城へと一直線に向かって行っていた。
楓が歩く速度を早めてから、ものの1時間もしない内に炎に包まれた魔王城の目の前にまでたどり着いていた。
そして魔王城の目の前で楓が足を止めた瞬間を見計らって俺は最後の足掻きとして向かう最中に考えに考えた引き返す為の言葉をぶちまけた。
「あっ、あぁー!! 氷魔法の使い過ぎでち、力がもう半分も無いかもしれないぃ……それと頭も痛いような……」
本当に体調が悪いんじゃないだろうか、と思ってしまうくらいの演技で体をよろめかせ、壁に寄り掛かりながら口を開いた。
ふ、ふはははは!! これぞ異世界に召喚される前に長年の不登校生活で培った15の奥義の1つである仮病術だ。保健室の先生でも看破できなかったこの演技!! 楓はこの仮病を嘘とは見破れない筈!! この勝負勝った!!
俺が迫真の演技をしながらも心の中で喝采を上げていると楓はそんな俺を見て心配になったのか、どうしようかと狼狽え始めた。
そして俺は今が最大のチャンスと判断し畳み掛けて弱音のような言葉を発した。
「ほ、本当は魔王を討伐したいんだけど体が言う事を聞かなくて……うぅ……このままじゃ楓に迷惑を掛けてしまうから今回は諦めてこのまま引き返「はい、イオ君!!」……へ?」
俺が手で片目をさも、泣いているかのように隠していると楓が懐から試験管のような入れ物を俺の目の前に差し出してきた。中身には毒々しい色をした液体が入っており、裏ギルドにてイディスが俺の目の前で涙を流しながら飲んでいた物と同じ物だった。
「あ……あの……楓……さん? これはいったい何なんでしょうか?」
不自然なくらいに目を瞬かせて怖ず怖ずといった様子で尋ねた。
「ポーションだよ!! それを飲んで元気になってね!! 1本で元気にならなくても15本までならあるから遠慮せずにじゃんじゃん飲んで大丈夫だよ!!」
本音なのだろう。悪意なども一切感じられない。
だが、その好意は勝利の美酒にすっかり酔っていた俺の心にグサグサと突き刺さった。
そして俺は
「あ、あれー!? 何か急に力が漲ってキタアアアアァ!! よーし、頑張るぞぉ!!」
毒々しい色をしたポーションを飲まないで済むようにしようと、俺は健康だと分かって貰う為にスクワットを始めていた。
「……イオ君本当に大丈夫なの? ま、大丈夫なんだったら魔王討伐に心置きなく行けるね!! さ、目標は目の前だー!!」
「うおおおおぉ!! 魔王討伐だぁ! ヒャッホーイ!! 討伐に行けるなんて嬉しいなぁ」
涙を流しながらも俺はもうヤケクソになっていた。




