第44話 勇者side 11
これで本当に勇者sideは一旦終了です。
遠藤君(常闇)視点です。
通称、オカ研であるオカルト怪奇現象研究部。
かつて化学室で、ぼや騒ぎを起こしたことで一躍有名になった研究部だ。
なんといっても、ぼや騒ぎを起こした時に教師達への言い訳に使われた「あ、あの時、見たんです!! 空中を浮遊する火の玉を!! あぁ、これこそ怪奇現象!! う、うわぁぁぁぁ!! こ、この部屋は呪われているッ!! 早くここから離れなければぁぁぁぁ!!」と言ってぼやから話題を反らし、その上家へと逃げ帰るという教師を全く恐れぬ所業をしでかしたオカルト怪奇現象研究部部長である岡崎友里を知らない人など俺達の学校にはいない。
そんな彼女に付けられたあだ名が『見た目詐欺の美少女』
髪型はショートカットで、一言で表すならばボーイッシュな女の子。
だが、実際はかなりの運動音痴で中身はオカルト話等しか考えていない残念な女子高校生だ。あまり人と話すような女子生徒ではないのだが、俺とは昔からの幼なじみだった為、他の人と比べると比較的よく喋っていた。
今回の『良いお宝があったら貰っちゃおうぜ作戦』は、世間話代わりに言ってみた際に何故か乗り気になって協力を申し出てくれた。
俺が叫んだ直後、原理は全く分からないが近くの壁であった場所が歪み、徐々に姿を現した。
砂煙が殆ど晴れていた事あってそんな怪奇現象を目にした金髪イケメン達の表情は驚愕の色に染まっていた。
「ねぇ、もうボク出てきちゃって良かったの? お宝を大量にコッソリと頂くんじゃ……むぐっ」
俺は怪訝そうな顔をさせながら余計な事を口走ろうとした友里の口を悲鳴を上げていた体に鞭打って立ち上がり、左手の人差し指を唇に当てながら慌てて右手で塞いだ。
「余計な事は言わなくていい。あのいけ好かない金髪野郎をぶっ殺すぞ。成功報酬は来週、夕食に出されるであろうラギシスケーキだ…………零也のだけど」
俺は未だに戸惑っていた金髪イケメンを指差しながら口を開いた。
最後の言葉は敢えて小さな声で言ったので呟いたような感じになってしまったが恐らく聞こえていただろう。
ラギシスケーキと言った瞬間、友里の唇の端が吊り上がる。
「ラギシスケーキか……流石裕太、ボクを分かってるね。そうと決まればサクッと終わらせないと。フォーメーションAでいくよッ!!」
友里は声高々にそう言い放った。
俺は打ち合わせにないフォーメーションを言われた事に少々狼狽しながらも異を唱える。
「俺、体ボロボロなんだけど。それにそんなフォーメーションは聞いた事が「……さっさとやれよ」おっしゃぁぁぁぁ!! 殺ってやるぜッ!!!」
そんな光景を尻目に零也は鼻で笑いながら「やっぱ、尻に敷かれてるよ」等と口走っていた。
俺はそんな発言に目もくれず、懐から本日2本目の試験管を取り出して金髪イケメンを睥睨した。
だが、先程まで友里に値踏みするかのような目線を送っていた彼は吐血をしながら苦しんでいた。
金髪イケメンの表情は目に見えて青ざめていた。
「ふっ、やっと疾風が使った蠱毒の魔眼が効いてきたか。よし、友里。この隙にお得意の幻術をぶちかましてやれッ!!」
俺は友里にアイコンタクトを送りながら言い放った。
それを聞くと彼女は悪そうな笑みを浮かべながら訊ねてくる。
「フォーメーションAが必要じゃ無くなったのは残念だけど、これはチャンスだね。要望とかあったら聞くよ?」
「気が利くな……なら、電車に乗っていたら急にマッチョマンが大勢乗り込んできて窒息してしまう幻術で頼む!! ……先日、そんな夢を見て憂鬱になってしまってな。是非とも、同じ体験をさせてあげたいんだ」
先日の出来事を懐かしみ、遠い目をさせながら返答をすると友里は快諾をしてくれた。
「マッチョマンだね? 分かったよ。いくよ……《幻影回帰》!!」
友里は高々とそう言い放ったのだが、何も起こる気配がなく場に数秒の沈黙が訪れる。
俺は失敗したのか!? と思って額に脂汗を垂らすが直後、悲鳴が響き渡った。
「う、うわぁぁぁああぁぁあ!!」
―――零也の口から。
「く、来るなッ!! や、やめろ、やめてくれ……ぎゃぁぁあぁぁあああぁぁぁ!!!」
何もない目の前の虚空を怯えながら後退り、断末魔のような悲鳴を上げた。
零也の口から発せられた悲痛の叫びは長い間続く事はなく、数秒で収まったが声が止むと同時に糸が切れた人形のように倒れた。
…………………………。
静寂が場を支配する。
そんな中、零也が無惨にも意識を飛ばした光景を見ていた俺は友里に責めるような眼差しを向けると
「………………てへッ」
ばつが悪そうな表情を浮かべながら友里は後頭部をポリポリと掻き、周囲をキョロキョロと右左に見渡していたが俺と目が合った直後、舌を少し出しながらウインクをしてそう言い放った。
「………おい、ちょっと待てや」
俺は少々怒りに肩を震わせながらズカズカと友里の下へと歩み寄る。
「あ、ストップ!! ちょっと待って!! ボクの幻惑魔法って結構扱いが難しいんだよ!! 失敗なんてあって当然なんだよ!! つ、次は本気でやるから!! ホントッ!! ホントだからッ!!」
慌てて友里は弁明をした。そんな姿を見て俺はつい足を止めてしまうが次の瞬間、急に悟りを開いた仏のような顔に表情を一変させて彼女は口を開いた。
「あのね、裕太。三度目の正直って言葉を知ってるかい? ボクはその言葉が大好きでね……」
友里が妙に意味深な前口上を言った直後、俺は彼女が何が言いたかったのかを数秒遅れて理解し、慌てて止めに入った。
「おま、それって失敗する気満々じゃねぇかぁぁぁぁ!!」
言うが早いか、俺は友里の口を塞ごうと手を伸ばすが届く前に「《幻影回帰》!!」という言葉が響き渡った。
直後、俺の双眸に映る景色が一変した。
俺はいつの間にか高校に向かう際にいつも使っていた電車の中にいた。
そして、つり革を右手で軽く握りしめていた。
今居る車両に人は全くいなかった為か、思った事を一切の抵抗無く呟いていた。
「あれっ!? 俺って確か……あぁ、今までのはやっぱり夢だったのか……人は少ないし、今日は寝坊でもして昼から登校してるのか……? ま、ぼーっとしていたからってあんなファンタジーな事を考えてしまうとは……俺って重症だな……ははっ」
自嘲気味に鼻で笑っていると急にアナウンスが響き渡った。
『まもなく、筋肉駅。筋肉駅。お出口は右側です。お降りの際はお足元にお気をつけ下さい』
何故か筋肉と聞こえた気がしたが気のせいだろう。
学校の帰りにでも耳鼻科に行こうかな、そんな事を考えながら重い溜め息を吐いて俯いていると電車が停まった。
そういえばここって何て駅なのかな? と思いながら丁度向かいにあった右側のドアについている窓を見るとそこには
――――大勢のマッチョマンが今か今かと扉が開くのを待っていた
運良く、扉が開く前に気づいた俺は、頭が追いついていなかったが危険を察知したのか体が無意識で勝手に隣の車両へと向かって動いていた。
「は!? 何だよあのマッチョ共!! ヤバイヤバイ、急がねぇと圧死するッ!!」
焦っていたからか、隣の車両へと続くドアを開ける際に手間取ったが、開く事に成功する。が、そこは
――――マッチョマンで溢れていた
「嘘だろッ!?」
後ろにマッチョマン、前にマッチョマン。
まさに絶対絶命。
俺はどうすれば!? と思いながら前後ろと頭をブンブン振るが案は思いつかずにマッチョマンとの距離が近くなる。
どうしようも無くなった俺は、懺悔するかのように己の罪を口にした。
「じ、実は中学生の頃に学校サボって限定版フィギュア買いに行ってましたぁぁぁ!! 神様、マジですみませんでしたぁぁぁぁぁ!!!」
だが、現実は残酷だ。
俺の言葉を神は聞き届けてはくれなかった。
「ぎゃぁああぁぁぁああぁぁ!!! 汗臭い!! 暑苦しい!! く、苦しいッ!! 離れろッ!! はなれ……はな……」
―――俺はマッチョ共に押し潰されながら意識を失った
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気づくとそこはダンジョンの外だった。
日は丁度真上に昇っており、自然と目を細めてしまう。
意識を取り戻した俺は辺りを確認するように右左にと頭を動かした。
数秒後、俺が目を覚ました事に気がついたのか駆け寄ってきた。
「あ、えっと……あの魔族達はね? なんか毒が酷かったらしくてね、そのまま帰っていったんだ。その後、ボク達はこのままダンジョンを潜るのも危険だろうって事で一旦戻ってきたんだよ」
「…………」
俺は無言で説明を聞き、返答もしなかった。
そんな俺を見た友里は苦笑いをしながらも口を開いた。
「幻惑魔法の事なんだけど……失敗しちゃった。てへッ」
可愛らしく首を傾げ、またもや下を出しながらウインクをする友里を見て俺は叫んだ。
「ざけんなッ!!」
こうして俺のダンジョン初攻略は終わりを告げた。
書いていく内に『異世界召喚に巻き込まれた異常者達』と感想欄の通りになってしまっています。
近いうちに変えましょうかね……『達』をつけちゃえばsideが多いのも納得……する気も少ししますが、やはりしませんね('ω' )ww
ご意見、ご指摘お待ちしております( `・ω・´)ゞ