第30話 イディスvsティファール
戦闘シーンって難しいですね……
イディスは2本の剣と一緒に置かれてあった革鎧を着た後、ゆっくりとした足取りで、ティファールから距離を取る為に離れていく。
その間にトサカ頭含む野次馬達は、慌てながら観客席のある場所へと逃げるように向かおうとしていた。
俺はその際、野次馬達の中にいた色気プンプン漂わせていたお姉さんに話し掛けられ、
「貴方も早く逃げないと巻き込まれるわよ!!」
と注意をしてもらっていた。
だがしかし、ここでコミュ障が再発。
「え……あ、あっ………は、はいっ!」
俺は目を泳がせながら言葉に詰まりながらも答える。
………いやん、久々に発動してるよコミュ障が。
そして今観客席に向かうとかあり得ないよ? 孤独を愛する元ボッチは人混みが大の苦手なんだ。
ていうか、マジでコミュ障の治療方法ってあるのかね? 昔、コミュ障治療方法ってネットで検索したが、デッカイ文字で『人と会話をする事です!!』と書いてあり、そりゃそうだろうな!! と一人で画面に向かって突っ込んで以来、調べるのを止めた。
言葉が詰まりに詰まりまくってしまった俺の様子をトサカ頭君が見ていたようで、俺を指差しながらゲラゲラ笑ってやがった。
マジで何なのアイツ。うぉぉぉぉぉぉ!!! こめかみ辺りの血管がピクピクするぅぅぅ
トサカ頭に対しての怒りゲージが振り切れていたが、その場は耐えて俺は観客席へと向かった。
お姉さんは? お姉さんなら俺の、言葉が詰まりに詰まりまくった返事を聞いた直後にどっか行きましたよ?
ま、今回は軽く話し掛けられただけだし、ティファも気づいてないようだな、ふぅ………あれ? なんで俺こんなにビクビクしてんの? あれ? あれれぇー?
イディスが距離を取る為に、と離れていっていた間に、ティファールはリングから一本の大剣を取りだして両手で持ち、正眼に構えようとしていた。
イディスは15m程離れた辺りで足を止め、ティファールのいる方向へと向き直り、目を閉じて、ふぅ、と呼吸を整えた。
そして、2本の剣を持った腕をだらんと構える事無く垂らし、自然体の状態となっているイディスは、目を開かずに閉じたままの状態で口を開く。
「………このくらいでいいかな……じゃぁ、楽しませてね? 新人ちゃん………アハッ」
そう言い終わると同時にニヤリと口を大きく歪ませ、目を大きく開かせる。
イディスの目は先程までとは違い、血走った目へと変わっていた。
瞬間、イディスは狂気の笑みを浮かべ、歓喜の笑い声を上げながら地面を蹴り、ティファールへと凄まじい速度で突っ込んでいく。
一瞬でティファールとの距離を詰め、左手で持っていた得物を切り裂く様に弧を描きながら首目掛けて振り抜いた。
急に雰囲気が変わったイディスに少々驚きながらもティファールはその場を後方へと跳躍して危な気なく避ける。
だが、イディスの攻撃は一撃で終わる事は無く、ティファールが下がった場所にへともう一度距離を凄まじい速度で右手で持っていた得物を振りかざしながら詰め、頭目掛けて思いきり振り下ろした。
ティファールは避けても無駄と判断したのか、持っていた大剣の腹でイディスの攻撃を受けた。
響き渡る金属音。
「アハッ♪ アハハハハハハハハ!! これ!! これだよ!! この感触、この音、堪らない、堪らないよ!! 最ッッッッッ高!!! もっと!! もっとォォォォ!!!」
久しぶりに戦える相手を見つけた喜びに打ち震えるイディス。
狂気の籠った声で叫びながら翡翠色の髪を大きく振り乱し、双眸を更に大きく開かせて止まることのない連撃を繰り出す。
観客席からは呆れたような口調で、また始まったな…、と大半の人が呟いていた。
俺の目は少し前に黒色から赤色へと変色させており、赤色の双眸でイディスを見据えていた。
イディスの甲高い狂ったような笑い声を聞き、ティファールは顔を顰めながらも危な気無く、放たれる攻撃を受け流すか避けるかして軽くいなしていく。激しく動きながら連撃を繰り出すイディスの影響で、足場が土だった事もあって砂煙が上がる。
だが、砂煙に影響される事は無く、イディスとティファールの2人は砂煙を度外視して剣と剣の打ち合いを続ける。
強烈な金属の擦れる音が響き渡る。
「……そろそろ黙……れっ!!!」
イディスの甲高い狂った様な笑い声に対しての苛々が限界を上回ったのか、轟!! と風が唸りを上げながら、力任せにティファールの大剣がイディスに向けて振われる。
ティファールの力任せの一撃を咄嗟に両手をクロスさせ、2本の剣で受けようとするが、予想以上に強く、重かったのか、ぐぅ、と言った苦悶の言葉を無意識で食いしばった歯の隙間から小さく漏らし、よろめきながら2、3歩後退した。
猛攻が止んだ瞬間、その隙をティファールは見逃す事は無く、右足を前へ踏み込み、イディスの腹部に向かって渾身の力で左足で蹴りを叩き込む。
ティファールの容赦の無い蹴りを受けたイディスはそのまま後方へと、闘技場の壁にぶつかるまで目にも止まらぬ速さで蹴り飛ばされていき、轟音が闘技場中に響き渡ると同時に砂煙がイディスの飛ばされた場所から巻き上がる。
先程まで常に聞こえていた甲高い狂った様な笑い声は止まり、轟音の後に静寂が訪れた。
いつの間にか偽装を解いていたティファールは両目とも碧眼から赤目へと変色しており、赤色の双眸で巻き上がる砂煙を度外視し、イディスの状態を確認する。
手や足から血を流していたが、五体満足で手から流れる血をペロリと舐めながら立ち上がった。
そして甲高い狂ったような笑い声がほんの少しの間だけ訪れた静寂を切り裂いた。
ティファールは元気そうなイディスを見て、はぁ、と溜め息を吐きながら項垂れる。
「最ッッッッッ高!!!! いいね!!! いいね!!! やっぱり戦いはこうでないと楽しくないよねぇぇぇぇぇ!!!! あぁ……この味だよ……血の味はやっぱり癖になる……フフフッ、アハハハハハハハハハ!!! 続きをしよっかぁ!! まだ始まったばかりだよ!! 新人ちゃん!!!」
声の主は自分の血を舐めながら恍惚の表情を浮かべる正真正銘の変態だった。
そんな変態を見た伊織は顔をひきつらせながら……ドン引きしていた。
そして、野次馬達は驚いたような声を上げたり、感嘆といった様な声を上げたりしながらすっかり戦いに見入っていた。
イディスは風のような物を身体中に纏い、砂煙が上がっているにも拘わらず、歓喜のような声を上げながらティファールに向かって全力で疾走する。
ティファールとの間合いが10m程になった辺りでイディスは走るのを止めて足を止め、歪んだ笑みを浮かべながら叫ぶように声を発した。
「アハッ♪ アハハハハハハハハハ!!! 《旋空刃》!!!!!《旋空刃》!!!!! 愉しい!! 愉しいねぇぇぇぇ!!」
イディスが手に持っていた得物をティファールと向き合ったまま、何もない虚空に向かって左手、右手交互に横に薙ぎ払い、振り抜く。
振り抜いた瞬間、イディスの持っていた得物の刃先から三日月型の風の刃のようなものが現れ、ティファールを切り刻もうと、地面を切り裂きながら目にも止まらぬ速さで向かっていく。
イディスが虚空を何度も繰り返し薙ぎ払い、剣を振り抜いた事で無数の風の刃が地面を抉りながらティファールを襲う事となる。
急に向かって来た風の刃を持っていた大剣で対処しようとするが、ティファールの得物は悠遠大陸でハイゴブリンから回収した物なので、所々痛んでいた。
そのせいか、風の刃を剣の腹などで受けた時に刃が欠けていき、1分程風の刃を剣で受けていると刃がパキリとひび割れていき、音を立ててくだけ散った。
刃が折れた事を理解すると、刃が折れた剣を投げ捨て、斜め後ろに飛び下がり、迫ってきていた風の刃を一時的に避けた。が、風の刃が避ける際にかすったのか、左の頬からツゥ、と一筋の血が垂れていた。
イディスはティファールの大剣が折れた事を知ると攻撃を止め、相変わらずの甲高い狂ったような笑い声を混ぜながら口を開いた。
「ありゃぁ……新人ちゃん、剣折れちゃったね。待っててあげるから予備の剣出しなよ。久々なんだ、こんなに愉しいのは。だからさ、早く、早く続きをやろうよぉぉぉぉ!!!! アハッ、アハハハハハハハハハ!!!」
ティファールは愉しそうに笑うイディスを心底嫌そうな表情を浮かべながら赤い双眸で見据えていた。
そして、はぁ、と溜め息を吐き、意を決したような表情に変えて口を開いた。
「……本当にウザイわね。こんなにウザイなら始めから剣を使うんじゃなかった……あー……もう殺す、さっさと殺す。本当に耳障り……」
ティファールは小さく呟き、そして、ふぅ、と呼吸を整えた後、詠唱を唱え始めた。
「『踊り狂え、死の舞踏
深淵の闇から這い出でし狂気なる魂、虚ろなる黒き闇の剣となりて
舞踏と言う名の殺戮で、悲鳴を奏でる為に、踊り狂え!!! 《闇剣の輪舞曲》!!』」
ティファールは言い終わると同時に右手を上に上げて指をパチンと鳴らした。
瞬間、一瞬でティファールを中心として足元に巨大な黒いリング状の法陣が形成され、時間と共に広がる。
イディスはその黒い魔法陣が危険と、本能的に察知したのか笑みを消して後ろへと飛び退いて離れた。
イディスが魔法陣から離れた直後、そこからは大量の黒い剣が浮き上がるかのようにして出てくる。数にして凡そ千といったところだろうか。
ティファールは唇の端を吊り上げながらイディスに向かって言い放った。
「さ、続きを始めましょうか」
何だかんだ言って詠唱(中二セリフ)を考えるのが一番時間かかりますね……
何かアドバイスあれば下さい………