第28話 イディス
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口では、ようこそ、と言われて歓迎されたがその前に3本の短剣を急に投げられ、歓迎されているのかされていないのかよく分からない挨拶をされた後、俺はぎこちない口調で「……あ、あぁ」とイディスに返事を返した。
俺はイディスに手渡された裏ギルドに登録した証である、2枚の黒いカードの内の1枚をティファールに渡そうとしたが、彼女はイディスに向けて尋常ではない殺気を放っていた。
「………そこのエルフ。私の伊織に何をしたの」
頬杖をつきながらカウンターを挟んで正面に腰かけながら眠そうに欠伸をするイディスをティファールは憎しみのようなものが籠ったような双眸で睨み付けながら口を開いた。彼女の言葉には怒りの様なものが込められており、今にでも斬りかかりそうな様子だ。
「……ん? 何って……短剣を3本投げて……えっと……あぁ、裏ギルドの説明をしてカードをあげたね。それが何か?」
イディスは眠いのか、うとうとしながらも面倒臭そうに答えた。
「やっぱり私の見間違いじゃなかったのね…………殺すわ」
ティファールは、殺す、と言った瞬間に指に嵌めていたリングから刃が2m近くある大剣を取り出し、大剣を右手で持って自然体で構えた。
「…………へぇ……そのリングってアイテムボックスなんだね。良い物持ってるねぇ……」
イディスはリングから大剣を取り出したティファールに興味が湧いたのか、閉じかけていた目を少し大きく開かせ、値踏みするかのように下から上へと舐めるように視線を這わせる。
刃が2m近くある大剣を急に取り出したティファールの姿を見ても、イディスに焦りや動揺といったものは微塵も無い。
そんな態度が、イディスに向けていたティファールの憤怒、憎悪といった負の感情を無尽蔵にこみ上げる事となった。
慌てながらも俺は宥めて落ち着かせようとするがティファールの耳には一切届かない。
そんな怒り狂っている彼女に俺とイディス以外の声が掛けられた。
「新人なんて久しぶりに見た気がするなぁ。そこの新人さんよ、イディスさんに喧嘩を売るのだけは止めとけ」
そう言ってティファールに向かってトサカ頭をした赤髪の男が声を掛けた。
「………なに。邪魔するならあんたも殺すわよ?」
怒りで顔を歪ませながらもティファールは急に声を掛けてきたトサカ頭の男を睨み付けて警告をした。
「おいおい、人の警告は素直に聞けよ? 新人。……お前達は不思議に思わなかったのか? 犯罪者達が集まるこの裏ギルドが何でこんなにも静かで……平和なのかを」
トサカ頭の男は、くくくっ、と笑いながらティファールと俺に向けて話し始めた。
俺が裏ギルドに足を踏み入れて初めに不思議に思っていた事をティファも同じく思っていたのか、少し怒りを抑えながら、目を細めて裏ギルドを一度見回していた。
気がつけば俺達はトサカ頭の男の話にすっかり聞き入っていた。
「ま、理由は簡単、イディスさんの怒りを買いたくないからだ。イディスさんがキレてこっちにまで被害を被るのは避けたかったんでな、こうしてわざわざ俺が忠告に来てやったってわけだよ。一応教えといてやるが今、ここの裏ギルドにいる人や魔族の7割くらいがイディスさんに喧嘩を売って半殺しにされたからな? くくくっ、それだけイディスさんは規格外なんだ。ま、そういうわけだ。命は大切にしろよ? 新人」
トサカ頭の男は高笑いをしながら俺とティファールに向けて言い放った。
だが、トサカ頭の男の発言に対して少々疑問に思った俺は険しい顔をさせながら質問をした。
「……なぁ、お前達が裏ギルドに登録しているって事はこのエルフの攻撃を一応は避けたって事だろ? ……そんな何人も何人も半殺しにされるか? 普通」
俺の発言が面白可笑しかったのか、投げ掛けられた疑問を聞くと同時にトサカ頭の男は腹を抱えて笑いだした。
「くっ、くははははははは!!! ……お前、おもしれぇ事言うなぁ………俺がいつ、イディスさんに登録してもらったって言ったよ。他の受付嬢の時に登録したに決まってんだろ。ま、たまに何も知らない新人にあるんだが、イディスさんが担当している時に登録をしようとしたら危険察知のようなスキルが発動してたまたま登録出来たって奴もいるな。お前もそれだろ? 今回は何も知らずにたまたま回避出来たみたいだったようだが、運が良かったな。裏の人間にとって情報は命だ。今後に生かせよ? 新人」
俺はトサカ頭の男の話を聞いている途中、無意識で、へぇ……、と目を少し大きく開きながら感嘆の声を上げていた。
感心していた俺の反応を見てトサカ頭の男は満足だったのか、上機嫌になっていた。
「ま、というわけだ。お前らはそこまで強そうにも見えないし、さっさとイディスさんに謝ってさっきの言葉撤回しとけ」
と言ってトサカ頭の男は俺とティファールから去ろうとするが、トサカ頭の男の去り際の言葉は逆効果だったようで
「……へぇ……そんなに強いのね……なら尚更殺りたなってきたわね。こっちの強さがどのくらいなのか知りたいって気持ちもあった事だし……都合が良いわね」
ティファールは歪んだ笑みを浮かべながら大剣を持っていた右手に力を更に込めた。
トサカ頭の男は自分の忠告で素直に引き下がると思っていたのか、彼女の様子に驚き呆れていた。
「……おい、人の話を聞いてたか? ……イディスさんに喧嘩を売るのはマジで止めてくれ。新人が半殺しされるだけなら良いんだ。だけどな、イディスさんは一度剣を握ると戦闘欲が解消されるまで暴れ回るんだよ……だからな? マジで止めろ」
トサカ頭の男が冗談を言っている気配は無い。恐らく本当なのだろう。
そして少し恐怖に染まったトサカ頭の男の目は、止めてください、と懇願している様にも見えたがティファールにとってはどこ吹く風なようで。
「………ん~!! っとっと……じゃあ殺ろうか新人ちゃん。私もそろそろ剣を握りたかったんだよね。最近の新人ってさっきの短剣を投げただけで死ぬ雑魚ばっかりでさ。ここにいる人達は喧嘩を全く売ってくれないし暇してたんだよ……」
イディスは両手を上に伸ばして伸びをしながらティファールに向かって言い放った。
やる気満々のイディスの言葉を聞いたトサカ頭の男は慌ててイディスを説得しようと試みる。
「い、イディスさんっ!? ちょ、冗談キツすぎますって……新人の一時的な気の迷いですって!! な? そうだよな新人!?」
トサカ頭の男が目で頷けとティファールに向けて言っていたが、彼女には理解が出来なかった……いや、理解する気が無かったようで
「そんな訳無いわ。伊織に剣を投げたのよ? 殺す以外の選択肢は無いわ。さっさと殺りましょうか」
ティファールはトサカ頭の男から視線をイディスに移し、獰猛な笑みを浮かべながら言い放った。
俺はティファールを宥める事を少し前に諦めており、トサカ頭の男に目で止めろ!! と訴えられていたが、ゆっくりと首を横に振って無理、と伝えた。
「……そうこなくっちゃ……裏ギルドには、ここの更に下に闘技場のような場所があるんだ。そこで殺ろうか。ついておいで新人ちゃん」
そう言ったイディスに、さっきまでの眠そうで気だるそうな雰囲気などは一切無く、屈託の無い笑みを浮かべながら闘技場へと案内しようとしていた。
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