第26話 裏ギルドへ
「裏ギルド?」
俺は怪訝そうな顔をさせながらティファールに訊ねた。
「ええ、そうよ。基本的に魔族や犯罪者が利用してるわね」
犯罪者と言った瞬間、俺は少し頬を引きつらせたがそんな表情には目もくれず、ティファールは話を続ける。
「私も裏ギルドを一度も利用した事がないから裏ギルドについては何とも言えないけれど、場所は何となく知っているから案内するわね」
先程までよりも早足となったティファールは俺の手を引きながら裏ギルドがある場所へと誘導する。
数十分程歩いた頃だったか、
俺とティファールはギルドから遠く離れたスラム街に足を踏み入れた。
ギルドのあった場所のように活気溢れてはおらず、退廃的な場所だった。
見渡せば、不恰好な服を着た泥だらけの子供や、喧嘩をしている身なりの良くない大人、路地にも拘わらず横たわって寝ている老人、今にでも崩れそうなボロ小屋が何軒か見えるだけのお世辞にも治安が良いとは言えない場所だった。
そんな場所のとあるボロ小屋の前でティファールは足を止め、口を開いた。
「似たような小屋ばかりで少し分かりにくかったけど、この小屋ね」
そう言い終わると同時に目の前のボロ小屋に辛うじて引っ付いていた壊れかけのドアノブに手を掛け、ドアを開いた。
ボロ小屋の中は外観とは違って何故か汚れておらず、きちんと掃除もされて綺麗に手入れされていた。
小屋の中には、レストランなどにありそうな丸いテーブルが一つに椅子も一つ。そして地下があるのか、地下への階段のみといった殺風景な部屋だった。
ボロ小屋の中には、黒の外套を着た長身の男が一人、椅子に座りながら酒の入ったビンを喇叭飲みしていた。
男は顔を隠す為か、外套についているフードを目深く被っていた。
俺とティファールが小屋に入ってきた事を男は気づいたのか、喇叭飲みしていた酒のビンを机に置いて低く小さな声で面倒臭そうにしながらも問い掛けてきた。
「………………種族はなんだ」
「吸血鬼が二人」
男が問い掛けると間髪を容れずにティファールが言葉を返した。
彼女の言葉を聞いた瞬間、男は表情は顔が隠れていて分からなかったが何故か急に不機嫌となった。
「………嘘をつくな。そこの女は吸血鬼だが、そこの男は人間だ。見たところ犯罪者でも無いな。女は良いが男は通せない。男はさっさと帰れ。ここはお前が来るような場所じゃない」
少し苛立った声を出しながら机に置いていた酒のビンを手に取って再度飲み始める。
男の反応を見て、ティファールは小さな溜め息を吐いた後、俺にそっと耳打ちをしてきた。
(伊織、一度吸血鬼になってもらえないかしら。ここでだけなら吸血鬼になっても問題は無いから)
口早にティファールが耳打ちをし終わると俺は、分かった、と小さく言葉を漏らしたと同時に吸血鬼化を使用した。
直後、黒目は赤目へと変色し、犬歯が少々伸びて吸血鬼へと変貌を遂げた。
男は吸血鬼になった俺を見て、一瞬だけ肩がビクッとなって動揺していたが直ぐに冷静になり、口を開いた。
「………すまなかった。俺の判断ミスだ。そこの男も通って良いぞ……あぁ、吸血鬼ってのはさっきみたいに隠しておけよ。魔族を見ると暴れだす馬鹿もいるんでな。階段はそこだ、さっさと行ってくれ」
そう言いながら、階段がある場所に視線を移して場所を教え、さっさと行けと男は急き立てた。
俺は吸血鬼という事は隠せと注意された後、直ぐに吸血鬼化を解除した。
ティファールは目の前の男から許可が出ると俺の手を再び引いて階段へと向かった。
階段の先は何処かへと繋がる地下通路になっていた。
通路の横幅は、ぎりぎり大人が横に5人程並べるか? といった程度で、幾つもの灯火のような通路を明るくさせる魔道具が壁に付けてあった。
「なぁティファ、裏ギルドって犯罪者や魔族の溜まり場みたいな場所なんだろ? こんな狭い通路じゃ、もし場所が騎士団や賞金稼ぎなんかに露見した時とか逃げられなくないか?」
俺は不思議そうな顔をさせながらも彼女に訊ねた。
この地下通路が今は俺とティファールの2人だけだったからか、声は反響していた。
「それなら心配ないわよ。理由は……色々あるんだけれど一番の理由は門番のような役割をしている人が居るからよ。さっきのボロ小屋にいた外套を着ていた男がそれね。門番役は噂では騎士団の団員30人分くらいの力が有るらしいわよ」
ティファールは肩越しに振り向き、微笑しながら言葉を返した。
俺は先程の男がそんなに強い人物とは思ってもいなかったので、無意識に「マジかよ……」と言葉を漏らしていた。
地下通路はそこまで長くは無く、数分程歩くと通路の一番端にたどり着いた。
通路の端が裏ギルドへの入り口となっており、中へ入ると冒険者ギルドに負けず劣らず広く、そこは酒場のような場所になっていた。