閑話 1 望月楓 後編2
私が学校でイジメられていた事は伊織君に知られてしまったその日、私の家に謝りに来た事によって、私の両親に知られてしまった。でも、伊織君が悪くない事は誰もが理解できたので私や、私の両親は伊織君を一切責める事はなかった。
私の両親は責めるどころか、全く悪くない伊織君がわざわざ私の家に来て泣きながら何度も何度も謝罪する姿を見て、「伊織君は優しいね」「楓の為に怒ってくれてありがとう」といった言葉を口に出していた。そして私も同じような言葉を言っていた。
そして伊織君が謝りに来た日から数日の間、私は伊織君と一度も顔を会わせる事はなかった。
一度伊織君の家に行ったが顔を見せてはくれず、伊織君のお母さんが私に向かって一度謝罪した後に「私が話しかけても、返答も一切無く部屋に籠ってしまっててね……」と苦笑いしながら今の状態を教えてくれた。
それを聞いた私は、そのまま伊織君の部屋に向かって話しかけたが、それでも一切返事などがなかったので、私は数日程度時間を空けようと思い、そのまま帰った。
伊織君と顔を会わせる事が出来たのはその日から一週間後の事だった。
二週間程顔を会わせていなかっただけだったが、伊織君からは一切といってもいいくらい気力を感じさせない目に変わっていた。
食事もあまり取らなかったのか、少し痩せ細っていた。
流石に涙を流す事は無かったが、第一声は相変わらず謝罪の言葉だった。
そして伊織君は謝罪の後に、「自分が近くにいると楓が不幸になるから楓には近付かないようにする」と悲しそうな顔をして言ってきた。
信じられなかった。
伊織君のせいでは無いのに何でそんな事を言うのか。
何で私に近付かないようにするのか。
何で伊織君と一緒にいたら不幸になるのか。
私はそんな事を思いながら、伊織君の言葉を全否定した。
その後に私は、また一緒に学校に行こう? と言ってみたが返ってきたのは私の言葉を拒絶する言葉だった。
伊織君は拒絶した後、その理由を訊ねてもないのに話し出した。
楓がまた自分のせいで傷つく、楓がまた自分のせいで悲しむ事になる、楓がまた自分のせいで嫌な思いをする、楓がまた自分のせいで………
そんな事をひたすら今にでも泣きそうな顔をしながら口に出していた。
そんな伊織君を見て私は何故かこんな事を言っていた。
―――――転校しよっか、と。
何でそんな事を言ったのかは自分でも分からないが、何故かいつの間にか口に出していた。
私の、転校しよう、という言葉を聞いた伊織君は驚き、えっ、と素っ頓狂な声を出していた。
そんな伊織君を見た私はそのまま含み笑いをしながら無茶苦茶な事を言い始めた。
「私があんな事をされたのはあの学校のせいで、伊織君は何も悪くない。全て学校が悪い。だから……転校しよう? 伊織君」
それを言った後、伊織君は呆然としていたが私はそのまま行動に移した。
私は伊織君では無く彼のお母さんから合意を得て、そのまま私は自分の家に帰って自分の両親に許可を貰った。
そして私と伊織君は二人とも成績などが人並みよりも凄く良かった事もあり、今の学校よりも少し遠く、転校するには試験が必要な中高一貫の学校に転校する事になった。
私に嫌がらせをしていた女子生徒達が、容姿が伊織君に釣り合ってない、と何度も何度も言っていたので、私は転校する前日から見た目に気を使うようにした。
伊織君は転校にあまり乗り気ではなかったが、彼のお母さんがなんとか説得してくれたみたいで、転校をする事に最後は渋々といった感じで納得していた。
だが、転校したところまでは良かったが、伊織君はあまり学校に登校しなかった。
そして彼は自分の顔を隠すかのように前髪を長くし、一人称が何故か変わっていた。そして自分から人に話しかける事は一切無くなっていた。
転校する前日に、伊織君から何故か伊織君と呼ばないで欲しいと言われたので、その日から私はイオ君と呼ぶようになった。
まるで、転校する前の学校での自分と正反対のタイプを演じようとしているように見えた。
そして、伊織君は殆ど学校に通う事無く中学校を卒業し、高校に上がった。
高校生になったからか、毎日学校に登校してくれるようになった。
私は伊織君が学校に来るようになったので昔と同様に毎日伊織君の教室に向かっていた。彼の教室に向かう私の足取りは誰よりも軽いだろう。
そして私は昔の様に一緒に笑いながら伊織君とお話しする為に、今日も
――伊織君の顔を隠す邪魔な眼鏡とマスクをまずぶっ壊しに教室にへと向かうのだ
他愛のないお話しをする為っていうのが勿論、向かう一番の理由だが。
冬休み前の最後の学校の日、私は今日も伊織君の教室に向かった。
彼は嫌がる素振りなどをしていたが、多分、嫌よ嫌よも好きのうちってやつだろう。私が伊織君と控え目なスキンシップを取っていると直ぐに生徒会の仲間が私を迎えに来た。
前の学校の様な事が絶対に起こらないようにと、私は自分に対する周りの評価を上げ続けた。生徒会に入ったのもその考えがあったからだ。今では伊織君とのスキンシップの時間を削られるので後悔しているが。
そして私を生徒会に連れ戻そうと、同級生の緋稲春が私に声をかけようとした時だった。
伊織君のクラスにいた全ての人が謎の光に包まれた。