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閑話 1 望月楓 後編

 そろそろ閑話終了です

 陰湿なイジメといっても初めは陰口を言われたり、私とすれ違う度に小さく罵倒を浴びせる、睨む。といった程度の無視をすれば何とも思わないものだった。



 私は伊織君以外に主だって話す同級生など居なかった事もあって、裏切られる、等といった事も無く、全然堪(こた)えなかった。



 だから私は伊織君の下に行ってご飯を一緒に食べたり、世間話をしたり、登下校を一緒に帰ったりする事を続けていた。



 勿論、私に対して一部の女子生徒達がしているイジメのような行為を伊織君は知らない。別に知らなくていい。私は伊織君さえ居てくれればそれで良い。



 ―――――他なんてどうでもいい




 そんな私の態度が気に食わなかったのか、一部の女子生徒達は業を煮やして思い切った行動を始めた。



 今までのように、こそこそとでは無く、堂々と私をイジメ始めた。

だが、伊織君にはその行為が露見しないように、という絶妙な程度のイジメだった。



 だが、まあ所詮は中学生。やる事といっても私物を荒らしたり、壊したり、偶然を装って私に害ある行動を起こしたり、そんな程度だ。



 不幸中の幸いか、私は伊織君と殆ど一緒にいるからか、暴力は振るわれなかった。

 恐らく、私に殴られた跡などがあったらバレるかもと、尻込んだのだろう。





 私に対するイジメが本格化し始めて一ヶ月が経とうとしていた時だった。



 私はその日の放課後も自分の教室から丁度、死角になる場所で事が終わるのを黙って待っていた。



 私が放課後にわざわざ死角になる場所で待つ理由は、私を嫌う女子生徒達が飽きもせずに毎日のように私の座る机や椅子で鬱憤を晴らすので、その後始末をする為だ。



 毎度毎度、馬鹿みたいに私の机に「しね」「カス」「消えろ」「ストーカー死ね」といった事を私の使う机や椅子に油性ペンなどで毎度、罵倒を吐きながら書き殴っている。



 消さずにそのまま授業でも受けてやろうか、と思ったりもしたが、伊織君がたまに私に会いに教室に訪れるので、その考えは直ぐに消した。



 そんな後始末を毎日毎日やっているので、油性ペンの文字を消す為にと、学校に行く時は毎日灯油を少量持ち歩く癖がついた。



 伊織君には、用事があるから先に帰っておいてと言ったが、「その時間まで図書室で時間を潰すよ、だから一緒に帰ろう?」と言ってくれた。私は遠慮したが、伊織君が一緒に帰ると言って聞かなかった。



 あぁ、やっぱり伊織君は昔から変わらず優しいなぁ




 ――――――伊織君さえ居れば他は本当に要らないや



 私はそう思っていたから、私を嫌う女子生徒達の嫌がらせなど本当に何とも思っていなかった。思ったとしても、後始末が面倒臭いな、と思うくらいだ。





 そして今日もさっさと後始末を終わらせて伊織君と帰ろう。

 そう思いながら教室の死角となる場所に一人、私は佇んでいた。




 案の定、私を嫌う女子生徒達は飽きもせずに今日も私の教室にやって来ていた。

 死角となる場所にいるというだけで、足音や、声は聞こえる。

 私は女子生徒達の声を聞いていつも後始末が必要な日か、そうでない日かを判断していた。



 今日は必要な日だ、私は小さく溜め息を吐きながらそう思った。



 女子生徒達の声が聞こえてくる。



「ここだ、ここ。もう席覚えちゃったよ、あはははは!!」


「誰もいないよね?」


「いない、いない。さっさといつも通りやっちまおーよ」



 女子生徒達は大き過ぎず、小さ過ぎない声量で話し合っていた。

 声が途切れた直後、教室の外にまでキュッキュッといった、私が放課後によく聞く油性ペンで私の机などに罵倒などを書く時に聞こえる音が廊下にまで響いていた。



 はぁ、そろそろ飽きてくれないかな……あぁ、今日、体操服を教室に忘れたや……どうせあの人達はそれを見つけるだろうしな……新しいの買わなくちゃ……



 体操服を持って帰る事を忘れていた私は、無惨に落書きや切り刻まれた体操服を思い浮かべながら大きな溜め息を吐いた。




 女子生徒達が教室に入って15分が経った。

 そろそろ終わる、そう思っていた時だった。



 伊織君が私の教室へと入ろうとドアに手をかけていた。



 私はいつも通り、天井を見て溜め息を吐いたり、ぼーっとしていたりしていた事もあって伊織君の存在に気づく事が遅れた。



 私が今いる場所は、女子生徒達に見つかってはいけない事もあって教室からは結構遠い。叫んだり、走ったり……どう頑張っても伊織君が教室に入る事は避けられなかった。




 私が身を潜めていた場所から慌てて飛び出すと、時既に遅く伊織君は見てしまった。




 ――――――私の教室の放課後の光景を



 

 伊織君は目を大きく見開き、何が起こっているのか全く分からないと表情がものを言っていた。



 それはそうだろう、伊織君が見た光景は盛大に、しね、などと落書きされた私の使っている椅子に机、そして無惨に切り刻まれた私の体操服。

 そして伊織君が入ってきた時には、とある女子生徒が私の机の脚を蹴り飛ばしながら一人の例外も無く、甲高い声で大笑いしていたのだから。



 そんな光景を生み出した女子生徒達は伊織が急に入って来た事で、全員声を出すのを止め、伊織君の姿を見て固まっていた。それは伊織君も同様に。



 すっかり静寂に包まれてしまった教室で伊織君は声を出した。



「……ねぇ、何してるの? そこ、楓の席だよね?」


 普段の温厚な性格からは考えられないくらいに低く、そして怒りの籠った声を出す。



 そんな伊織君を見て、一人の女子生徒が口を開いた。



「え、あ、いや、そ、そうだけど、こいつは鷺ノ宮君に付きまとっていたんだよ? す、ストーカーなんだよ?ね、ねぇ皆?」



 言いよどみながらも口を開いた女子生徒は言葉を発した。

 直後、他の生徒に同意を求めた。



 すると、口ごもっていた女子生徒や、俯いていた女子生徒達が、そ、そうだよ! 私達は鷺ノ宮君の為思って……、といった言葉を言い出し、同意をしていく。そんな光景を見て伊織君は



「楓は僕の大切な人だ!! 勝手にストーカー呼ばわりするなっ!!!」



 伊織君は初めに口を開いた生徒の胸ぐらを掴んで怒気の籠った大声を出す。



 そう叫んだ時に私は自分の教室にたどり着いた。



 息を切らしながら教室に入って来た私を見て、教室にいた伊織君を含む全員の視線が私に集まった。



 私は伊織君がここまで怒った光景を10年程一緒にいて一度も見たことがなかったので、少し狼狽したが、私の為に怒っている伊織君を宥めようと声を出した。



「あ、えーっと、伊織君? 私は大丈夫だから気にする事ないよ?」



 私はその時どんな顔をしていたかは、分からないが、出来る限り笑いながら声を出した。



 そんな私を見て伊織君は私を心配するかのように、優しく声をかけてきた。



「ねぇ、楓。なんで楓はそんなにも平気なの? 冷静なの? 楓は嫌がらせされたんだよ? 体操服だってあんな事になってるんだよ? なんで怒らないの楓!! ねぇ、何で!! 何で!!」



 伊織君は涙が出そうな程悲しそうな表情をさせながら私の肩を掴んで訊ねてくる。



「え、いや、だって……私は伊織君さえいればいいし……それにこんな事くらい別にどうって事もないよ?」



 私は、何を当たり前の事を、というようにして返事をする。



 そんな私の態度と、落書きを消す為にと手に握っていた少量の灯油の入った入れ物を見て伊織君はダムの堤防が壊れたかのように伊織君の両目から涙が溢れ始めた。



 止まること無く溢れ出る涙を手で拭いながらも彼は、私達の会話を呆然としながら、聞いていた女子生徒達に向けて「お前らはさっさと出ていけよッ!!!」と近くにあった机を蹴り飛ばしながら言い放った。



 そして私はいつも通り落書きを消そうとしたが、伊織君も泣きながらも手伝うと言って聞かなかったので、二人で落書きを消す事になった。



 その際、彼はずっと私に向かって泣きながら謝り続けていた。

下校の時は泣き止んでいたが、呪詛の様に謝り続ける事は私が何を言っても止めなかった。



 そして伊織君は次の日から




 ――――――学校に来なくなった



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