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第2話 女神達

 伊織が異世界へと飛ばされた直後、1人の女神が黒一色の不気味な部屋で独り言を部屋に響かせていた。




「ふぅ………伊織君格好よかったなぁ……伊織君と仲良くなるきっかけをくれた、あの偽乳や厚化粧、ビッチには感謝だなぁ。それにしても何であんなに格好良い顔なのにだっさい眼鏡やマスクで隠してたんだろう……ま、正式に旦那様になった時にでも教えてもらお♪ うふふ♪ 伊織君を異世界に送ったし、そろそろ私もこの部屋から退出かな? お、きたきた」



 伊織がいなくなっても尚、頬を紅潮させていたリフィアは自分の都合の良い未来を思い浮かべながらニヤニヤと笑みを浮かばせていると急に光に包まれ、部屋から姿を消した。




 リフィアは伊織の事で頭一杯にしていると、先程とは違う部屋へといつの間にか転移していた。殺風景と言って差し支えない部屋だったが、どことなく生活感を漂わせていた。



 数十人程度なら入る事が可能な広い部屋だった。

 置かれていた物は椅子が人数分、そして椅子の数の割には大きすぎる丸いテーブルのみ。



 基本的に娯楽という娯楽は無いのだが、やる事する事は異世界の様子をこの部屋から眺めたり、自分以外の女神達と喋るくらいとなっていた。



 女神に対して何故か神秘的なイメージを持ってる人が多いが、それは幻想だ。

 実際は化粧しか能がない年増や頭の中は男、男、男といった自他共に認めるビッチなどが女神などと言われて崇められている。



 リフィアは最近女神になったばかりなので、よく他の女神に面倒事を押し付けられていた。恐らく今回の伊織も押し付けだろう。眼鏡やマスク、少々長い前髪や雰囲気を見て一切興味が湧かなかった、といったところか。



 伊織を異世界に送ったリフィアは一応、今のままだとキモイ等と言われそうだったので、表情を引き締めていたつもりだったのだが、消しきれずに表情が緩んでいたのだろう。リフィアの顔を見た他の女神達は不思議そうな表情を浮かべていた。



 リフィア以外の女神達はいつも通り、偽乳、厚化粧、ビッチという並びで各々が椅子に丸いテーブルを囲うようにして座っていた。リフィアは女神になったばかりだからか、まだ他の女神達の名前を知らない……いや、教えて貰えないでいた。そんな事あって見た目で適当に名前をつけて呼んでいたりする。



「ねぇ、リフィア。どうしたの、そんなにニヤニヤしちゃって。遂に頭がイカれちゃった?」



 リフィアを唯一心配してくれたのは偽乳女神だった。

 身長はリフィアと殆ど変わらず、綿のようなふんわりとした青い髪を肩辺りまで伸ばしている貧乳美女だ。残念な双丘を大きく見せようと胸パッドを入れており、胸の膨らみ具合にツッコミたくなる衝動に襲われがちだがリフィアは見事にスルーした。

 


 基本、優しいのだが胸についての話になると般若と化す。



 リフィアがここに初めて訪れた時。

 偽乳女神を見て「え……私よりお姉さんなのに私よりも胸が小さいなんて……ねぇ、年下の女に胸の大きさで圧倒的な敗北をしちゃってるけど、今どんな気持ち!? 年下の女より胸が小さいって、どんな気持ちぃ!? あはは、今度からお に い さ んって呼ぼうか? うん。それがピッタリだね!! お兄さん!!」と言った直後に全治1ヶ月程の右ストレートを貰っていた。



 最近では、この出来事の事をお兄さん右ストレート事件と言っている。

 今後はリフィアの口によって語り継がれる事だろう。



 事件の後、リフィアは偽乳女神には二度と挑発はしない、と密かに決めていた。呼び方は「お姉ちゃんと呼びなさい」と完治した直後に言われ、お姉ちゃんで定着した。



「違うよ……えへへ………未来の旦那様に会っちゃって……きゃっ、言っちゃった」



 リフィアは両手を紅潮させていた頬に当て、いやんいやんと体をくねらせる。

 偽乳女神以外の女神もゴミ虫をみるような目でリフィアを見据えていたのだが、どこ吹く風なようで、全く気に留めていない。



「……………ああ、そう。良かったね。おめでとう」



 ああ、遂にイカれちゃったか、と思いながら可哀想な者を見るような目で偽乳女神はリフィアを据わった目で見詰めていた。



「未来の旦那様!? え、リフィアのその未来の旦那様ってあんたに担当するようにって私が任せた冴えない男よね!? リフィアって趣味悪くない!? あ、そういえばリフィアの趣味って見た目とか、あり得ないくらいに悪かったわね。リフィアって、すっごいケバいし」



 驚いたように目を瞬かせながら声を掛けてきた――厚化粧女神だ。

 リフィアよりも長身で、残念な事に胸も私よりデカイ。髪型は私と同じく腰辺りまで伸ばしているのだが、髪の色が紫色なところがオバサンっぽさを際立てている。



 年増って言葉以外は容認してくれる香水オバサンだ。時々来る異世界召喚に巻き込まれた男どもはこの年増を見て「美人ですね」や「大人の色気が凄い」と言っていた所を見たリフィアは、趣味悪すぎるだろ、巻き込まれた男ども。と口にした事で厚化粧女神から刺すような視線で射貫かれる事となり、一人戦慄を覚える事となった。



「まあ、いいんじゃない? 私はまぁまぁイケメンな男が私を見て動揺するあの顔を見れて結構満足したしぃ? あの顔を見るのが異世界召喚の楽しみよねぇ……凄く面白いわよ。ま、リフィアみたいな女にはあーゆう冴えない男がお似合いよ~」



 最後に声を掛けてきたのが、頭の中が男、男、男の馬鹿ことビッチ女神だ。

 このビッチ、無駄に顔が整っているのだ。髪の手入れなど、ろくにしない癖にサラサラな銀髪をしているのが苛々を掻き立てられる原因でもある。身長はリフィアと同じで、ビッチ以外の罵倒する言葉が見つからないのが悔やまれる。



 少し前に、私と釣り合う男はいないのかしら? と呟いていたので、あんたにはデブなオタクがお似合いだよ、とリフィアが口にした直後、全治3ヶ月程のアッパーをリフィアへと放っていた。



 ビッチ女神への禁句は処女だ。

 昔、面白半分でリフィアが口にした事があったのだが、真顔で「体にもう一つ穴あけてやろうか?」と肩を震わせながらキレられていた。



「あ、そうそうビッチに厚化粧ありがとね。二人が私を伊織君の担当にしてくれて助かったよ!! お陰で、凄いカッコ良い未来の旦那様と出会えたから!! あ、どうせ私が居た部屋の記録あるんでしょう? 私の未来の旦那様をそれで見るといいよ。うふふ」



 リフィアは勝ち誇ったような顔をして、途中にえへへ……と頬を緩ませながら3人に向かってどや顔で言い放った。



 その言葉を聞いたビッチ女神は呆れた顔をさせながら、何かを頭で操作していた。

 数秒後、大きな丸いテーブルに映像が映し出される。

 テーブルに映し出されるので3人共身を乗り出して覗き込むような態勢となった。



 リフィアが伊織を邪険に扱っているシーンから始まり、最後に口説かれた? 辺りで映像は終わった。初めは3人とも「これで、どうやったら惚れるんだよ」等と口に出しながら鼻で笑っていたが、伊織が眼鏡を外した辺りで3人とも容姿を見て表情は目に見えて驚いていた。そして口説かれたようなシーンで顔を真っ赤にしていた。



 ビッチ女神だけは鼻を押さえながらもポタポタと鼻血を出していた。



 映像がテーブルから消えると同時に懇願するような声が部屋に響いた。



「「リフィア、伊織君(この男)を譲って(頂戴)!!」」



 いつものノリの良いリフィアなら、よろしいならば戦争だ、といって男を賭けたゲームの一戦や二戦くらいやりそうだったが、伊織を賭けるなんて愚は犯さなかった。

 


 柄にもなくビッチ女神まで目の色変えて頼んでいた。「わ……私がい……いい、一方的にイケメンに口説かれて、その上あ、あすなろ抱き………ブシャァァァァ(鼻血)」といった始末だ。



 面倒臭くなってしまったなぁ、と言わんばかりにリフィアは頭をガリガリと掻き毟っていると、偽乳女神やビッチ女神とは違って口を開いていなかった厚化粧女神が小さく手招きをしていた。



「り、リフィア。等価交換よ!! この秘蔵の化粧品と伊織君を交換しましょう? ほら、この前欲しい、欲しいって言っていた化粧品よ!!」



 何処からか取り出したピンク色の小さなビンをリフィアに見せつけながら小声で話し掛けてきた。



「等価な訳ないでしょうがッ!!」



 相当自信があったのか、当然だろう、と言いたげな目つきでリフィアが拒否をすると驚いた表情を浮かばせながら、嘘でしょ……と声を震わせながら歯噛みしていた。



「それよりも! 私は伊織君に会う為に、今直ぐ異世界に行く準備をするから!」



 言うが早いか、厚化粧から距離を取ったリフィアは鼻息を荒くさせて他の女神に向けて言い放った。



「あ、それは無理よリフィア。異世界に行くのって結構面倒でね。行けるとしても来月辺りかしら。みんなで伊織君を口説きにいきましょ?」



 さらっと、伊織君を口説きに行こう? と口にするビッチ女神。先程大量の鼻血を出していたからか、鼻にはティッシュが丁寧に詰められていた。

 ビッチ女神の言葉を聞いた瞬間、その顔のまま伊織君に会ってフラれてしまえ。とリフィアは悪態を吐いていた。



「はぁ……分かった。でもビッチは異世界に行けるの? 確かここに女神2人は常時いなきゃいけないって聞いたことあるんだけど……」



 手を顎に当てて、うろ覚えだった事を思い出すように訊ねた。

 個性溢れた女性達だが、これでも一応女神。不測の事態に対応する為に2人はいつでも動けるようにしておかなければいけないのだ。



「大丈夫、二人はもう説得したわぁ。まあ、来月までゆっくり待ちましょう?」



 厚化粧女神や偽乳女神を尻目に、ビッチ女神はニヒルな笑みを浮かばせてる。彼女達はぶるぶる震えながら脂汗垂らし、声の主に怯えていた。




「まぁ決まったんだったらいいけど……よし、それじゃあ行くまでに変なゴミムシが伊織君につかないようにここから見張っておかなくちゃ……ついても剥がせるように……」



「あら、珍しく良いこと言うじゃないリフィア………うふふ」



 この日以降、ビッチ女神とリフィアの不気味な笑い声が部屋によく響いていた。



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