第24話 漆黒のギルバート
鍛冶屋に入って早々、自分の顔を見た事で急に大声を上げられた事で、ラフな格好に青いエプロンといった服装をしていたクラスメイトの男は驚いて目を大きく見開くが、鍛冶屋に入ってきた俺に驚きながらも声をかけた。
「ど、どうしたんだ!?」
「あっ、いや……なんでも無い……すまなかった、大声を出してしまって……ティファも気にしなくていい。大丈夫だから…」
クラスメイトの男は勿論、俺の腕に相変わらず密着していたティファールも驚いていたので慌てて謝罪をした。
(なんでも無いわけないだろっ!! なんであの……えっと……名前わかんねぇ……まぁ目の前にいる男がクラスメイトだったって事は覚えてる。ていうか楓達ってあの銀髪王女と一緒に魔族滅ぼすんじゃなかったのか? ……まぁいいや、不審に思われない程度にちょっと聞いてみるか)
そう思った俺はクラスメイトの男の下へと歩み寄ろうとすると急にティファールが、そういえば、と言いながら金貨を8枚渡してきた。
「ん? ……金貨? ……あぁ、そういえば俺は金を持っていなかったな……ちゃんといつか返すよ」
俺は渡された金貨を受け取り、着ていた黒いコートの中に仕舞った。
「ふふっ、夜に愛情で返してくれれば良いわよ」
ティファールは俺の腕に抱きつく力を少し強めながら微笑んだ。
そんな会話を聞いていたクラスメイトの男は
「おーおー、お熱いねぇ白髪のにいちゃん。初めて見る顔だが、この街は来たばっかりかい? 俺ぁ鍛冶屋で働いてるギルバートだ。お客さんには漆黒のギルバートって呼んで貰ってる。今日は何を探しに鍛冶屋に来たんだ?」
クラスメイトの男は椅子に座りながらカウンターのような場所で頬杖をつき、ニヤニヤと俺とティファールを交互に見ながら口を開いた。
(………あっれぇ!? この男って確かクラスの中で誰がコミュ障? って言われたら俺の次の次くらいに名前が挙がりそうな奴だったよね!? 口調変わりすぎだろ!! そして漆黒のギルバートってなに? 名前なの? 痛すぎだろ!!)
心の中では何度もツッコミを入れていたものの、俺は平常心、平常心と小さく呟いて自分を落ち着かせてから返答した。
「ぎ、ギルバートって名前なのか……えーっと、な、ナイフを買いに……」
俺は喋りながら両方の足に着けていたナイフホルダーから二本の刃が欠けたナイフを取りだしてカウンターに乗せた。
「漆黒!! 漆黒のギルバートな!! ほうほうほう、ナイフ!! ナイフね!! おっけー、おっけー。えーっと、刃が20ってとこか。で、どんなナイフが欲しいんだ? 素材剥ぎか? それとも戦闘用か? あ、調理用……っつってもそんな美人な奥さんがいりゃぁ、にいちゃんは使う事はないか!! あっはっはっはっは!!」
自称ギルバートはカウンターの下に置いてたであろうナイフを取りだして一通り並べながら大笑いした。
自称ギルバートがティファールに向かって、美人な奥さん、と言った途端に彼女は「この鍛冶屋、悪くないわね」と称賛していた。
相変わらず誉め言葉に弱いなティファ。
…………えーっと……マジで誰? この人? 滅茶苦茶コミュ力たけぇ……後、漆黒付けないといけないのね。
「あー、えーっと、戦闘用のナイフで出来るだけ頑丈な物が欲しい。なぁ、漆黒のギルバートさん。かなり手慣れているが、鍛冶屋で働き始めてもう何年になるんだ?」
俺は軽く受け答えしながら然り気無く自称ギルバートを知ろうと質問した。
「戦闘用で頑丈か……なら材質はミスリルになるな。それなりに値が張るが大丈夫か? ん? ……そうだなぁ……働き始めてかれこれ半年ってとこかな!!」
自称ギルバートはそう言いながら店の奥からナイフを数本取ってきてカウンターに並べた。持ってきたナイフは店の中に適当に置かれているナイフとは明らかに光沢などが違った。
「ここに今並べたナイフがこの鍛冶屋にあるミスリル製のナイフだ。ミスリル製はナイフ一本で金貨3、4枚は消えるからな!! ま、知ってるか、そんな事は。あっはっはっはっは!!」
自称ギルバートは持ってきた中の数本のナイフに付いていたシースを取っていき、ナイフの刀身が露になった。
俺はティファールに渡して貰った金貨8枚をカウンターに出して口を開いた。
「……あー、これでこれと……これ貰えるか? ……働き始めて半年なのか……ちなみに鍛冶屋で働く前は何をしてたんだ?」
俺は使いなれていたナイフと一番大きさが似ていた二本を指差して選ぶとナイフとは全く関係の無い質問を尚、続けていく。
「金貨8枚か……ま、妥当な値段だな。ほらよっ。鍛冶屋の前? あー、それはだな……少し愚痴なんかも入るかもしれないが、それでも聞くか?」
自称ギルバートは俺が選んだナイフをシースに入れて投げ渡してきた。そして複雑な表情を浮かべながら俺に問いかけた。
「ん、ありがとさん。ああ、全然大丈夫だ。聞かせてくれ」
俺はシースに入れたままのナイフを受け取り、ナイフホルダーに仕舞う。
「そうだな……俺はとある場所で戦士になる為に訓練してたんだけどよ……俺は錬金術と鍛冶のスキルしか持ってなくてな。そのとある場所で一緒に訓練していたクラスメ……ゴホンッ、仲間やその場所にいた騎士によ、役立たずとか言われて蔑まれていたんだよ……俺だってそれなりに頑張ったんだぜ? 痛かったが剣の訓練もしたしよぉ、どこかの錬金術師のように上手くいくかなぁ? って思って地面に手をついて『錬成!!』とかやってみたりよぉ。でも何もかも上手くいかなかったんだよ!! あいつらマジでなんなんだよ!! ちょっと顔が良いからって調子に乗りやがってあの糞上級生!! たまたま戦闘系のスキル有ったからって全員調子に乗りすぎなんだよ!! だからな、ほんのちょっとだけだよ? ほんのちょっと。意趣返しのつもりで無言でお金貸してもらってよ、その金使ってこっそりこの街まで来て鍛冶屋で働かせてもらってるって感じだな」
自称ギルバートは途中に怒鳴ったり、泣きそうになったりとしていたが最終的には言いたいことを言い切ったからか、屈託の無い晴れやかな表情へと変わっていた。
(つまり、この自称漆黒のギルバートはたまたま戦闘系のスキルが無く、皆から役立たずと言われたりして嫌気がさしたから城をこっそり出て、少し金を……盗んだのか? それで金を手に入れてここで働いているって事か……自称漆黒のギルバートも俺とは違うが大変だったんだな……)
「……漆黒のギルバートも大変だったんだな」
「も? ……まあ、なんだ、人に聞いてもらうと少し気が晴れた気がするぜ。ありがとよ白髪のにいちゃん」
最後に自称ギルバートは握手を求め、固く交わした。
ティファールは俺にくっついたり、鍛冶屋の中にあった大剣を眺めたりしていたので自称ギルバートの話を全く聞いておらず二人が握手しているのを見て、えっ? えっ? 何があったの? と困惑していた。
「また用が出来たら寄らせてもらうよ……あ、それとギルドの場所を知らないか? この街に来たばかりでな……」
「ああ、気軽に寄って行ってくれよ白髪のにいちゃん。ん? ギルドならこの街で一番でけぇ建物だ。見れば分かる」
「そうか、ありがとうギルバ……いや、漆黒のギルバート」
言い終わると同時に俺は首を傾げながら不思議そうにしていたティファールを連れて鍛冶屋を後にした。