第23話 うざ男、その名はルーラ!
「………んあっ!?」
俺はウィリア含む4人パーティーを助け、その礼の代わりに案内を。と、すんなり事が進んでいくと思っていたのだが、何故かウィリアのパーティーの魔法使い君が激怒していたので心底驚いてしまい思わず素っ頓狂な声を出していた。
何故だろうかと頭の中で考えを巡らせていくと脳裏に閃きが灯る。
(おいおい、俺はピンチっぽかったから助けたってのに何で怒られるんだ? ……よく分からんな………うーん……はっ!! 分かった、分かったぞ!! 成る程成る程、そう言うことか!! つまり、あの魔法使い君は全力を敢えて出さずに本当にパーティーがピンチになった時に本気を出してオーガを殺し、強くて格好いい男というイメージを手に入れてパーティーの中にいる意中の女の子に惚れてもらう作戦だったんじゃないか!? うわぁ、絶対そうだよ。それなら説明もつく。逆の立場だったら多分俺もキレてるな……うわぁ、どうしよう、どうしよう……まず謝るべきだよな? でもどうやって謝る!? 「意中の女の子を惚れさせる作戦をぶち壊しちゃってすみませんでした!!」って謝るのか? 絶対もっと怒るよ……うーん……まあ、何にせよオーガを倒せる実力があるって事だよな。ま、気を紛らわす事も兼ねてステータスでも覗いてみるか。《鑑定》!!)
ステータス
ルーラ・フィギス 17歳
レベル16 種族 人間
hp 76/268
mp 20/310
筋力 36
耐性 44
敏捷 43
魔力 182
魔耐 94
幸運 41
スキル 火魔法 風魔法
称号 没落貴族
「……………弱いわっ!!」
俺は魔法使い君ことルーラのステータスを見て空を仰ぎながら叫んだ。
「えっ!? どうしたの伊織? 急に叫んで……」
ティファールは俺が急に叫んだ事に驚き、不思議そうにして訊ねてきた。
「あっ、いや……なんでもないんだ……気にしないでくれ……」
(おいおいおい、ルーラ君のステータス低すぎだろ。これじゃ、雑魚オーガにも勝てないだろうに……それに一歳年下なのか……ぬぅ……余計に怒っている理由が分からなくなった……惚れさせる作戦を邪魔された以外となると……何でだろ?)
一人で険しい顔をして悩んでいると慌ててウィリアが俺の下へと駆け寄ってきた。
「あっ、あの、ルーラ……いや、さっき叫んでいた男の子なんですけど、ルーラってばオーガを倒せもしないのに倒せると思っていたみたいで……すみませんっ!! 助けて頂いたのに失礼をしてしまって……今、ルーラにちゃんと謝らせますのでっ!!」
そう言いながらウィリアは慌てながら踵を返し、ルーラを強引に引っ張って俺とティファールの下まで連れてきた。
「おいっ!! なんで勝手に人様の獲物を横から奪ってんだよ!! 俺達が瀕死にまで追い詰めていたオーガを殺したくらいで命の恩人面しやがって!! 賠償だ!! 賠償金をだせよ!!」
ルーラは俺とティファールを盛大に怒鳴り散らしていた。
それを見て俺はティファールに小さな声で話しかけた。
(なあティファ。あの状態って瀕死だったか? かなりピンピンしていた気がしたんだが……それと、この場合って賠償金を出さなくちゃいけないのか? 俺は悠遠大陸にずっといたから金持ってないんだが……)
(あれを瀕死とは言わないわ。それと、わざわざ命を救ってあげたのに何で賠償金を出さなきゃいけないの? そんな恩知らずには私は死刑がぴったりだと思うの。首落として良いかしら?)
リングから大剣を再び取りだそうとするティファールを俺は慌てて制止してからルーラと向き合った。
(……はぁ……怠いな……すんごい面倒臭いな……あー、そういえばこのうざ男の称号に没落貴族ってあったな。雑魚オーガの死体でも渡せば黙るか? 金になるだろ……それでも黙らなかったら召喚獣でも出して脅すか? よし、そうしよう)
「あー、そこのうっさい魔法使い。オーガの死体やるから黙れ。耳障りだ」
俺の言葉を聞いたルーラの唇は吊り上がり、顔を綻ばせるがウィリアはそんな態度をしていた彼の頭を殴り、怒鳴り付けた。
「ルーラ!! あんたいい加減にしなよ!! 私達じゃオーガに殺されてた!! そんな私達を助けてくれた人達に礼も言わずに賠償金って……あんたおかしいよ!!」
「五月蝿いウィリア!! 俺ならあのオーガを倒せたんだよ!! 倒せた魔物を横取りされたから賠償金を要求してんだよ!! あっちの泥棒野郎もオーガくれるって言ってんだから貰えばいいんだよ!! 貰えば!!」
また始まったと言わんばかりにウィリアとルーラ以外のパーティーメンバーは呆れていた。
口喧嘩を始めた二人を見ていたティファールはいつの間にか大剣を手にしており、斬りかかろうとしていたが、俺は制止してから二人の間に入った。
「オーガの死体は要らない。そっちが欲しいならさっさと回収でもなんでもすればいい。そんな事よりもさっさと街まで案内してくれ。疲れているんだ」
俺は気怠そうな顔をさせながらウィリアとルーラに向かって口を開いた。
ウィリアはオーガを受け取ることを最後まで渋っていたが、俺が要らないなら放置していくと言った途端に礼を言って受け取り、街まで案内してもらう事となった。
街まで案内をしてもらっている途中、俺はふと思い出したかのようにウィリアに質問を投げ掛けた。
「なぁ、ウィリアって言ったか。なんでオーガと戦ってたんだ? 下手したら死んでたぞ? お前達」
俺がそう言った瞬間、ルーラが顔を顰めていたが無視をした。
「あ、私達は今回ギルドでゴブリンの巣があの場所の近くに出来たと聞いてゴブリン討伐に来ていたんですよ。その途中でオーガと……」
そう言ってウィリアは俯くが、その言葉を聞いていた俺とティファールの背中からは汗をだらだら流れていた。
「……そ、そうか。それは災難だったな」
それ以降会話は無く、無事に森をぬけて街に着いたのはオーガを殺した場所から離れて1時間程経った頃だった―――――
ちなみに、あの4人パーティーは微風の色というDランクの冒険者パーティーならしい。
ま、ランクを言われてもさっぱりなんだが。
街の前に着くと俺はウィリアに街の名前を訊ねた。
怪訝そうな顔をされながらもエーデル王国のジェルンダという街。と教えて貰った後、微風の色とは別れた。
ジェルンダ。
エーデル王国は北西端、季節によって気候が移り変わる事ない地域に存在する巨大な街。そして魔界領との境界に近い為、ここに存在するギルドは人間の国の中でも最大級の大きさを誇っている。現在は獣人と魔族が睨み合っており、一時的な安心がある為、商人なども頻繁にこのジェルンダを訪れる。その結果、人の出入りも活発である為、必定、流行の物品等が市場に流れてくる。昔は魔族とのいがみ合いの結果、荒れ果てていたが、現在は人の声が絶えない活気溢れた街となっていた。
「あ゛ー、しんどかった……他人と話すの怠い……」
俺はティファールと二人になった途端に思っていたことをぶっちゃけた。
「私と二人で悠遠大陸で永住していた方が良かったでしょ? あ、それとこれ。ギルドカードを私達は持ってないから街に入る際にお金が要るのよ。これを門番っぽい人に渡してね」
ティファールはリングに仕舞っていた銀貨を一枚、俺に渡してきた。
「ん? ティファもギルドカード持ってないのか。あ、ティファ、頑丈なナイフが欲しいから鍛冶屋にまず先に行ってもいいか? 今使っているナイフは切れ味が悪いんだ……自分で作れれば良かったんだが生憎錬金術しか使えなくてな……」
俺は太股辺りに着けていたナイフホルダーをポンポンと叩きながら苦笑いをした。
「ナイフが欲しいの? 分かったわ、じゃあまず鍛冶屋に行きましょうか」
これからの予定について会話をしながら俺とティファールは門番らしき人に銀貨を渡して街へと入り、鍛冶屋へと向かった。
鍛冶屋の前に着いた俺達は、ドアに付いていた取っ手のような物を握ってドアを押して中へと足を踏み入れるとそこには
「いらっしゃいませぇー!!」
店員と思しき人物が大声で挨拶をしてきた。
顔をよくよく見てみると働いていた人物はクラスメイトだった男だった――――
「…………………なんでだよっ!!」
俺は目の前にいる男の名前を思い出そうとしたが思い出せず、諦めて思った疑問を大声で盛大にぶちまけた。