第21話 ゴブリン討伐…出来ませんでした
俺は近寄って来ていたゴブリンに向かって歩を進め、念願のゴブリン初討伐を
する事は出来なかった。
理由は簡単、ティファールがいたからだ。
俺と二人っきりの食事を邪魔された事でかなりご立腹だったようで
「なんで邪魔するのかしら、よりにもよって私の1日3回しかない伊織との食事を。これはもう死んで償うしかないわよね? だから……さっさと死んでッ!!」
そう言いながらリングからティファールは大剣を取り出した。
一年前とは違って、得物を斧から大剣へと変えていたティファールは俺が殺そうとしていたゴブリン達の首を次々とはねていった。
「あ、ティファ? 俺にも一体くらいは殺させて……」
ゴブリンを斬殺していく姿を見た俺は今のティファールを怒らせるのは不味いと判断し、気分を害さないようにと控え目に頼んだ。
「大丈夫よ伊織。伊織と私の食事を邪魔したこの魔物には死んで償ってもらうから、ふふっ」
そう言いながら手を止める事は無く、随分と数が減ったゴブリン達をティファールは斬り殺していく。
「……話を聞いてくれティファ……」
俺は、呆れたような表情を浮かべながら肩を落としていた。
「話? 大丈夫よ。話ならこいつらを殺した後にいくらでも何時までも聞くわ」
顔を綻ばせながら笑うティファールは……それはもう、超輝いていたよ。
「…………さいですか」
俺のゴブリン初討伐はティファールに全て斬殺された事で終了した。
辺りにはゴブリン数十体程の死体が転がっており、鼻を突くような異臭が漂っていた。
ティファールがゴブリンを殺している間に料理は他の魔物に荒らされていた。
料理を勝手に食べた魔物を殺そうと彼女は動こうとしたのだが、俺が「宿に早く向かうか」と言った事により、森を抜ける為に街を探す為に適当に歩き始めた。
特に方向も決めず、適当に歩いていたのだが、ティファールは当たり前のように俺の腕に引っ付いて決して小さくの無い膨らみをこれでもかと言うほどに押し付けてくる。
この行為もかれこれ一年程やっていた。
昔の俺はその行為をされる度に一々顔を真っ赤にしてティファールを無理矢理にでも離れさせようとしていたが、流石に一年経てば慣れる。
時々会話を交えながらも森を数十分歩いていると、少し離れた場所から金属音と人と思しき声が俺の耳に入った。
会話から察するに恐らく……人間だろう。
俺は悠遠大陸で生活していた事あって身体強化のスキルと吸血鬼化を常に無意識で使用する癖がついていた。
スキルを使用した俺は普通の人間より何十倍も耳が良くなっており、そのお蔭で遠くに居る人の会話が鮮明に聞き取れていた。
「ティファ、ちょっと離れた場所に人がいた。恐らく魔物との戦闘中だと思う。そこに向かわないか?」
「……人、ねぇ……私人間嫌いなのよねぇ……うーん……」
食事を邪魔されたティファールは俺にくっついていた事で機嫌が直っていたのだが、「人」と聞いた瞬間、目を細めながら表情が険しくなっていった。
「あの……俺人間なんだけど……それに、街がある方向を聞くだけだ。少し話すだけだし……良いだろ?」
「伊織が人間? それは何の冗談かしら? 伊織は種族を人間に偽装をする事が出来る珍しい吸血鬼なの。分かった? ……まあ、このまま適当に伊織と二人っきりで歩くのも良いけれど久しぶりに街の宿にも泊まりたいし、多少我慢をして尋ねに行こうかしら」
……俺、いつの間にか吸血鬼に種族チェンジしていたらしいです。
「………そうだったな。俺、吸血鬼だったわ、吸血鬼。んじゃ、向かおうか……」
ティファールが冗談では無く本気で俺を吸血鬼と断言していた事を感じ取り、何を言っても無駄と認識した俺は自分を吸血鬼と棒読みで言いながらその場だけだが種族は吸血鬼だったという事にしておいた。
目を凝らして金属音の発生源を見てみると、人と魔物が戦闘をしていた。
人数は4人で前衛の戦士系が2人と魔法使いのような人が2人で格好からして内1人は恐らくヒーラーだろう。
魔物は……オーガだろうか? 2体の姿を確認する事が出来たが、4人のパーティーを挟み撃ちにするように位置を取っていた。
見れば見る程、ハイゴブリンに似てると思ってしまうなぁ……色は緑ではないが。
俺とティファールの前衛二人で作戦などは何も無い、ガンガンいこうぜ!! パーティーとは違ってバランスの良い素晴らしいパーティーだと思う。
しかも、指示を出しながら前衛として戦っているいかにもリーダーっぽい赤毛ショートカットの女の子。
あれだよあれ。俺はファンタジーの世界に来たらあんな感じの様々な役割を分担したパーティーで指示に従いながら皆で魔物を狩ったりしたかったんだよな。
あー……羨ましい。
ゆっくり歩きながら俺とティファールはオーガ達の戦闘を眺めていたが、あの4人のパーティーではオーガは辛かったのか時間と共に攻撃を受けた装備などは壊れ、更には疲労などが顔に滲み出てきており限界が近づいてきていた。
対してオーガは余裕なようで、もはや遊んでいた。
あーあー、あのレザーアーマーとか新品だったろうに。
というかヒーラーのヒールが全然間に合ってないなぁ………
「あー、ティファ? あっちで戦ってる人がヤバそうだから急がないか?」
危険な状態にあった4人のパーティーを見た俺は走って向かうか。と思い、ティファールに声を掛けたが、
「女が死んでからならいいわよ?」
と恐ろしい返事が返ってきた。
「……ん? 今、女が死んでからって言った? 多分、一人でも死んでしまったら全滅は確定事項だよ? ていうか何で女が死んでからなんだ?」
一瞬、ティファールが何を言ったのか理解が出来なかったが、大凡そは聞き取れていたので聞き返した。
「自分がピンチになった時に颯爽と現れ、自分を助けてくれるイケメンな男。ぼら、女だったら惚れるかもしれないわ。だから女が死んでからなの。分かった?」
「おいおい、それは身内補正が入りすぎだろ。まあ……そうだな、自分がピンチになった時にたまたま現れ、美人な女と一緒にいる平凡な顔をした男。ほら、これを聞くと大丈夫に思えないか?」
そう俺が言い換えると、それを聞いたティファールは美人という言葉に反応をして少しだけだが桜色をした唇を吊り上げてながらすんなり助ける許可を出してくれた。
美人っていうのは本音だが、美人と言っただけで嬉しがりすぎだろう。
チョロい、チョロ過ぎるよティファールさん。
無事、ティファールから許可を取った俺は見知らぬ4人のパーティーを助ける事となった。