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第20話 これこそゴブリン

 俺とティファールは召喚獣である白いドラゴンことアスディーグの背中に乗り始めてかれこれ数時間が経過していた。



 空の旅で俺達は……




「「お……おえぇぇぇぇぇぇ……」」



 かなり苦しんでいた。



 実は俺、少しだけドラゴンの背中に乗って旅をする事に憧れがあった。

 よく漫画とかで描かれている胡座(あぐら)をかいてドラゴンの背中に乗り、髪を靡かせながら空の旅を楽しむあのシチュエーション。

 あれは絶対男のロマンだ!! と俺は思っていた。



 実際に乗るまでは。



 いざ体験してみると翼をバッサバッサ羽ばたかせて上下に揺れており、髪を靡かせいたら風圧か何かで時間と共にハゲになると思う。胡座なんてかいていたら数秒で振り落とされていただろう。小屋を作って良かったと思ったが、それと同時に作らなければ小屋の中でシェイクされる事はなかったのでは? と疑問に思ったりと複雑な気持ちになった。



 ミキサーの中に入るような体験を強制的にさせて貰っている事により、かれこれ数時間程ドラゴン酔い? に襲われている。空の旅と言う名の罰ゲームだよ。



 俺は今日、初めてミキサーの中に入る食材の気持ちを知る事が出来た。

 いつもミキサーの中に突っ込んで悪かったな、ニンジンさん……うっぷ……気持ち悪……



 空の旅をしていた俺とティファールは喉元に迫り来る吐き気と激戦を繰り広げていた。

 勿論、アスディーグに飛行が遅くても良いから。と改善を求めているのだが



「ぎ……ぎぼじわるい゛……あ…アスディーグぐん゛……もっとゆ、緩やかに飛んでぐれ……おえぇぇぇぇぇ……」



 全く改善されない。



 恐らく俺の弱々しい声など全く届いていないのだろう。が、衰弱して凄くネガティブになってしまっていた俺は涙を流しながら「アスディーグって絶対ここぞとばかりに日頃の鬱憤を晴らしてやがる……こいつにもっと美味しい肉を食わせるんだった……ううっ……」と呟いていた。



 対してティファールぶつぶつと、もうすぐ今生の別れでもするのか? とも思える言葉を苦悶の表情をさせながら呟いており……時々ゲロを吐いていた。



 過酷ともいえる空の旅をしていた俺とティファールだったが、二人ともゲロのし過ぎで胃の中に殆ど何も無くなり、そろそろ意識を手放そうかと思ったその時だった。

小屋の窓から、海以外の……景色が見えていた。



 空の旅から逃れたいが為に俺の目が願望という名の幻覚を映していないとは言い切れないが、恐らく森だと思う。



 森に逸速く気付いた俺は死んだ魚ような目をしていたティファールに向けて見た景色の事を話した。



「……て、ティファ……船を使って、どの大陸からも片道二年はかかると言われていた悠遠大陸を何とアスディーグ君は数時間で行く事が出来るみたい……だな。……全然楽しくなかったよ、空のゲロ旅は……あっ、胃の中に何もない筈なのにまだ気持ち悪いや……うっぷ……」



 俺はやっと楽になれると思った直後、もう何度目か分からない吐き気に襲われ、口元を手で押さえた。



「い、伊織……空のゲロ旅になんか呼称が変わってるからね? ……後、ゲロってワードは禁止した筈でしょ? ゲロって言ったら本当にゲロが……おえぇぇぇぇぇ……」







 顔面蒼白になりながらゲロを吐いていた二人は、よく知らない大陸に短時間でたどり着いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 名前なども一切分からない大陸に着いた俺は、氷魔法で作った小屋を壊した後、アスディーグを召喚した時のようにナイフで手を切り、自身の血を使って亀裂を発生させてアスディーグに亀裂の先……どうなっているか皆目見当もつかない場所へと戻って貰っていた。



 その後は二人とも歩く気力すらも無かったのか、二人寄り添って近くの大きな木の根元に腰を下ろして休養を取っていた。



 勿論、俺は今休んでいる場所が悠遠大陸では無いとはいえ、そのまま無用心に寝たりはせずに最低限の警戒をさせていたが、対してティファールは俺の肩に頭を預けて寝息をたてながら睡眠を取っていた。



 悠遠大陸を真夜中に出た事あってか、ティファールが寝付いた頃には日が真上へと移動しており、昼寝日和だった。



 ティファールが寝始めても特に何事もなかった。

 2時間程経った頃に彼女は重そうな瞼を開かせながら意識を覚醒させ、鼻歌を歌いながらリングに仕舞っていた魔物の肉を使って昼食を作り始めた。




 俺はティファールが起きた事を確認すると同時に周囲への警戒を止め、睡眠を取り組み始めた。



 食事が完成すると、体を揺すりながらティファールが俺を起こしてくれた。

 彼女が作った料理を二人で談笑しながら食べる筈だったのだが、食事の匂いにつられた体が緑色の魔物が俺達の下へと近寄ってきていた。




「ギィ」



「ギィギィ」



 

 ゴブリンだった。




 紛れもなくゴブリン。2mのムキムキマッチョマンではない1mくらいの雑魚臭をぷんぷんさせているあの小さなゴブリンだ。使い込まれた大剣や槍も持っておらず、ちゃんと棍棒を持っている。




 嗚呼、これだよ、これ。このゴブリンこそ俺の求めていたゴブリンだよ。

 ダヴィスはあのムキムキマッチョマンをゴブリンと言っていたが、俺はこのゴブリンを見てやはり悠遠大陸にいたアレをゴブリンと認めるわけにはいかなくなった。




 小さなゴブリンを見て、一人感動をしていた俺は料理を食べる手を止めていつの間にか出ていた涙をごしごしと手で拭っていた。急に泣き出していた俺を見たティファは心配をしてくれたのか言葉を掛けてきた。



「ちょっと、伊織大丈夫!? 目にゴミでも入ったの? それとも……あれで?」




 ティファールは近づいていたゴブリンに視線を向けた。



「……そうだよ……あれだよ、あれ。あれこそゴブリンだ!! あのゴブリンを俺は求めていたんだよ!! あれを見て感動しない訳が無い!! 俺は……俺はなぁ、この世界に来て一年間ずっと馬鹿でかい大剣をブンブン振り回す巨体がゴブリンと、自分を無理矢理納得させてきたんだ……そりゃ、あれをみたら感動で涙くらいでるさ……あ、せっかくだから鑑定してみよう。《鑑定》!!」




ステータス

ゴブリン

レベル 7 種族 ゴブリン

hp 17/17

mp 0/0

筋力 21

耐性 9

敏捷 3

魔力 0

魔耐 4

幸運 19


スキル なし


称号 なし




「これ!! これだよ!! これこそゴブリン!! ちゃんと初心者でも倒せそうな強さになってるよ……うわ……HP2桁だ……それにスキル無しとは……倒しやすくなってるな……俺が戦っていたゴブリンとかHP5桁でスキル持ちのムキムキマッチョマンだぞ……マジであれ何だったんだ………ティファ、俺今から初めてゴブリンを討伐してくるわ」




 俺は右側の腰に下げていたダヴィスからの貰い物である、血舞い桜と八咫烏の二本に手を掛けながらゴブリンのいる場所へとゆっくりと歩を進めていた。







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