第17話 ヤンデレ注意報
悠遠大陸編……省略しましたっw
悠遠大陸に飛ばされて一年が経とうとしていた――――――
俺とティファールは一年の大半を、狼の巣であった岩穴を拠点にして生活を送っていた。初めの頃は基本的に俺が食糧である魔物を狩る為に外へと向かい、ティファールは岩穴で料理やら家具のような物を試行錯誤しながらも作っていた。
だが、月日が過ぎる内に俺がティファールを守りながら狩りをしても大丈夫な程に余裕が出てきたので、彼女と魔物を狩りに外へ連れて行くと着々とレベルを上げ、今では二人一緒に狩りに出る事が日常だ。
時々、尋常でない強さを持った突然変異した魔物と遭遇したりしたが英霊憑依や罠を作ったり、時には逃げたりもしながら今の今まで何とか生き残っていた。
英霊憑依の代償とも言える痛みは二度目以降、一度目の時、襲ってきた痛みように身体中の骨が悲鳴を上げることは無く、激しい頭痛だけになった。が、ダヴィスに頭痛だけと聞いていたので得をしたような、損をしたような気持ちになった。
危険だと思った時には躊躇い無く使用していたからか、すっかり俺の髪は真っ白に染まっていた。後ろ髪は敢えて切っておらず、腰に届く程の長髪になっていた。
前髪は地球にいた時とは違って伸ばしてはおらず、定期的にティファールに切って貰っていた。
先日、自分で前髪を切ろうとした時にティファールに「私の楽しみを奪わないでッ!!」と怒られ、長々と説教をされた。
いつから俺の散髪がティファの楽しみになったんだ?
悠遠大陸へと転移させられた初日に、ティファールが提案してきた召喚術は召喚をする際に大量のmpを消費する事を知らされ、mpの少なかったティファールは魔物とは契約せずに俺だけが三体の魔物と契約をしていた。
少し前に悠遠大陸から人が住む大陸へと移動する為に、とあるドラゴンをボッコボコにぶちのめした後に無事、契約をした。
召喚獣にしたドラゴンの傷が最近、完全に癒えた事もあってティファールにそろそろ悠遠大陸を出よう? と言ってみたところ
「私は伊織と二人っきりでこの悠遠大陸で暮らす事にしたわ。別に困っている事なんて無いし、わざわざここを出る必要なんて無いじゃない」
普通に断られた。
まあ、確かに生活には全く困っていない。
悠遠大陸の植物や果実は10個あれば9個は毒草や、食べられない物だったりするのだが、最近はそれを見分けられるようになった事で食事が肉のみに偏る事は無くなった。
植物などに鑑定を使えばいいじゃん。と思った俺は、鑑定スキルを使用したが対象の名前のみしか知る事が出来ず、毒味として何でも食べた結果、何度も散々な目にあった事は人生でもトップ30に入るくらいの最悪な思い出だ。
俺とティファールは二人とも料理のスキルを所持しており、毎日美味な料理を食べる事が出来ていた。拠点として使っていた岩穴の直ぐ近くには川が流れており、水浴び等も出来ていたので衛生面も特に困ってはいなかった。
衣服は俺が「服とか錬金術で作れるんじゃね?」と言い出した後、見事作り上げていた。俺は黒のロングコートを身に纏い、それを黒の胸元が開いたシャツの上に着用していた。そして白銀の肩当てをつけ、革で出来た長いズボンに同じく革で出来ている黒のブーツを着た姿が普段の服装だ。
俺の服は一見どこにでもありそうな質素な見た目なのだが、素材にドラゴンの鱗や皮などを余すところなく贅沢に使われているので高性能な逸品となっていた。
生活に必要な物は殆ど全て自給自足出来る俺達は一切困っていなかった。
敢えて言うならば武器くらいだろうか。
万能そうに見える俺の錬金術も流石に武器は作る事が出来なかったので、魔法で一時的に作るか、初日に手に入れた大量のハイゴブリンが所持していた武器を使用していた。
そんな生活をしている事あって、生活に困っていないから此処から出ない。という ティファールの意見に対して俺は何も言い返す事が出来ずにいた。
だが、俺は異世界に来たからにはギルド等にどうしても行きたいといった気持ちを胸の内に抱いていたので、適当に理由を作って悠遠大陸から出ようとティファールに懇願するが、首を縦に振る事はなかった。
悠遠大陸に永住する事を決め込んでいたティファールの服装は初日のメイド服では無く、赤黒い革鎧へと変わっていた。灰色の腰布も着けているのだが、この腰布は初日に俺へと用意してくれた外套を素材として作られた物だ。
錬金術で服が作れると分かってから灰色の外套よりも性能の良い装備が次々に完成し、ボロボロだった灰色の外套を処分しようとした際にティファールに奪い取られ、「これで私の腰布を作って!! 伊織が長い間使っていた外套よ? 捨てるなんてあり得ないわ……これでもっと伊織を感じられる……ふふっ」と呟いていた。
何か危ない発言が聞こえた気もしたが、知らない方が幸せな気がしてしまった俺は聞かなかった事にして言われた通り腰布を作った。
それからだろうか。
ティファールの俺への愛がヤバイ感じになっていったのは。
悠遠大陸では魔物に文字通り食べられそうになったり、手足を切り落とされたり、餓死しそうになったりと何度も死にかけた。吸血鬼化がなければ2日目で死んでいたと思う。2人だから頑張れた。1人ではなかったから今、こうしてここにいる。
悠遠大陸では助け合わないと生きてはいけなかった。だから仕方なかったとも言えるが、ティファールは俺を。俺はティファールにヤバイ程に依存していた。
俺はティファール程、彼女に依存してはいなかったが。
最近ではティファールが俺に触れてない時間は3時間も無いだろう。
俺が動けば彼女も手を繋いだり、胸を俺の腕に押し付けながら腕を組んだりと、一緒に行動していた。就寝時も勿論くっついていた。
傍から見たらただのバカップルだ。
ティファールは、俺が悠遠大陸を出ようと思い、次々と思い付いては直ぐに口に出していた色々な支離滅裂な理由に対して、絶対に出ないの一点張りだったが、俺が引き下がらないのに対して熱意が伝わったのか、はたまた呆れたのか、絶対に出ない、以外の言葉を発した。
「伊織、どうして悠遠大陸を出ようとするの? 生活にも困っていないし、伊織を誰よりも愛してる私がいるじゃない。それとも伊織は私と二人っきりの生活はもう嫌? 伊織がもしここから出て、ラギシス王国や魔界なんかに行くとそれはもう、凄くモテてしまうと思うの……いえ、絶対モテるわ。だってこんなにも強く、格好良くて優しいもの。そんな私の伊織に色目を使う雌がいた場合、きっと私その雌を殺してしまうわ……だから二人っきりで居られるこの大陸から出たくないの。分かってくれたかしら?」
悠遠大陸で一年程過ごした事で、痩躯であった俺は細身でありながらも筋肉質になり、モテる要素は確かに増えていた。
「二人っきりの生活が嫌なはずないだろ……後、身内補正し過ぎだティファ。絶対モテねぇよ……寧ろティファが言い寄られないか心配なくらいだ。ここを出て……そう、新婚旅行だ。新婚旅行とかどうだろうか?」
俺はティファールの言葉を聞いて呆れながら自嘲気味に笑うが、新婚旅行と聞くと同時にどこかへとトリップしてしまった。
「そう………ん? 私が言い寄られる? 大丈夫よ、伊織以上の男なんていないから……まあ、今と変わらず愛してくれるならここを出ても良いかもしれないわね……ここを出ても絶対ハーレムなんて作らないでね? ま、他の女なんて相手に出来ないくらい伊織から絞り取るんだけど……新婚旅行ねぇ……新婚旅行かぁ……うふふ……うふふふふ……」
ティファールの絞り取る、といった瞬間に俺は頬を引きつりながら、ははは、と乾いた笑いをしてしまっていた。
毎日二人っきりなのでまあ、そういう行為もするわけで。
最近はやっと愛し合う、といった言葉で表せるようになってきたが初めての時は、シチュエーションやへったくれも何も無く、俺は襲われて絞り取られていた。
新婚旅行という言葉が良かったのか、ティファールは恐らく悠遠大陸を出る事に納得してくれただろう。
………ティファ? 初日にハーレム勧めてたよね? あれ? 俺の記憶違い?
悠遠大陸を出発をする事になったその日の夜、俺は約1年ぶりに黒一色の場所へと呼び出された。
「やぁ、久しぶりだね依り代君」