第15話 勇者side 3
時はディジェアが召喚に使われた部屋から出て行った時まで遡る――
召喚に使われた部屋にて…………
「………はぁ……姫さんの自由奔放な性格はなんとかならんのか…」
ディジェアが部屋から出て行った瞬間に、騎士団長と呼ばれていた男が大きな溜め息と一緒に、視線を床に落として呟く。騎士団長の近くにいた数人の騎士達は騎士団長の呟きを聞いて「無理ですね、諦めて下さい」と口を揃えて声に出していた。
「あー、姫さんがどっかに行ったんで代わりに俺が説明する事になった。訓練の時にまた顔を合わせる事になるが、ラギアス王国騎士団の騎士団長を任されているロイだ。俺は貴族様じゃないんでな、家名は無い……まあ、宜しく頼む」
頭を掻きながらロイは自己紹介をする。
普通は騎士団長の様な役目は貴族しかなれないのだが、ディジェアが次々に功績を残していく内に、ラギシス王国の中でのディジェアの発言力がかなり強くなり、騎士団の中で一番秀でていた平民出身のロイが、最近騎士団長になっていた。
「銀髪の姫さんも言っていましたが、訓練って何をするのでしょうか?」
ロイの訓練という言葉に眉を少し動かして反応し、怪訝そうな顔をして先程までとは違い丁寧な口調で質問する人がいた。
水瀬先生だ。
ディジェアに対しては生徒達と年齢が然程変わらなかった事もあってか、何の抵抗もなく砕けた口調へと変わっていたが、自分と同じくらいの年齢だった為か、ロイに対しては無意識に丁寧な口調になっていた。
丁寧な口調で話す水瀬先生が気に入らなかったのか、ロイは嫌そうな顔をさせながら水瀬先生に向かって口を開いた。
「あー……えっと……まずその口調を止めてくれないか?俺は平民出身な事もあって、丁寧な口調を使うのも使われるのも苦手なんだ。それと忠告だ。今後、城の外に出ることもあるだろう。城から出た時に年長者だからと言って平民に向かって丁寧な口調を使ってると周囲の人間から変な目で見られるぞ?」
「す、すまない。俺達のいた世界では年長者には敬意をもって接するのが普通だったんだ……えっと……こんな口調でいいか?」
水瀬先生はロイが嫌そうな顔をしていた理由を理解すると慌てて口調を変えた。砕けた口調へと変えた途端、ロイは嫌そうな顔から先程までの気怠そうな顔に戻った。
「手間をかけさせてすまないな。で、訓練についてだったか。……そうだな、恐らく剣や槍といった武器などを上手く使えるようにする為に、俺達騎士団と模擬戦をしたり、魔法の素質がある者には魔法を使えるように特別な訓練をしてもらう、といった感じだろうな。途中、魔物を相手にして実戦のような事もするが、多少怪我などはするかもしれない、そこは許容してくれ」
ロイの話を聞いた大半の生徒は魔法や剣といった言葉に反応し、楽しそうな表情へと変えたりと嬉々としていたが水瀬先生はそんな生徒達とは違って苦虫を噛み潰したような顔をさせながら急に大声を出して猛然と抗議を始めた。
「駄目だ駄目だ!! コイツらはまだ子供なんだ!! 子供に危険な刃物を使わせる訳にはいかない!! 剣道のように竹刀なら問題無いが、あんたらの腰にある物から察するに、使う剣は本物だろう? 子供が刃物を持って振り回すなんて事は到底許容出来ない!!」
怒りを露にして水瀬先生は怒声を上げた。
急に怒りだした水瀬先生を見て、先程まで嬉しそうな表情をしていた生徒達は打って変わって暗い表情へと変わった。
水瀬先生の怒りを鎮める為にか、ロイは気怠そうな顔から真面目な顔へと変えた後、口を開いた。
「……あんたは先生と呼ばれていたな。先生ならば刃物が危険だとか言う前に、あんたの生徒達が訓練に積極的に参加するように言い聞かせてくれ……生徒達を死なせたくは無いだろ? なら、最低限自分を守れるくらいの力を付けさせる為に行動してくれ……こちらの都合でこの世界に召喚してしまった事は本当に申し訳ない。
その責任としてラギシス王国はあんたらに不自由のない生活をさせる事を約束する……だが、このラギシス王国にもし魔族が攻めてきた場合、無力な人間なら確実に巻き込まれて死ぬだろう。攻められれば絶対とは言わないが高確率で人間側が負ける。獣人達と魔族がかなり険悪なので、今はまだ攻められることは無いだろう。俺達は人間が死んでいく姿をもう見たくないんだ。だから、こちらの都合で勝手に勇者召喚をさせてもらった。頼む……俺達に力を貸してくれ……罰を受けろと言うのならば、全てが終わった時にいくらでも受ける……だから……頼む」
言い終わると同時にロイは頭を下げた。
ロイに続くように周りにいた騎士達もいつの間にか、腰に下げていた剣等を床に置き、頭を下げていた。
そんな騎士達を見て、憤っていた水瀬先生は打って変わっておろおろと慌て始める。急に大勢の人に頭を下げられて困り果てた水瀬先生はどうにかして頭を上げて貰おうと試みようとするが、「あー……えっと……その……」といった言葉しか出せておらず、上手く事態を収拾出来ないでいた。
生徒達も殆どが騎士達全員が頭下げている状態にたじろいでいたがそんな中、声を上げた生徒が一人いた。
御堂 光樹だ。
「ろ、ロイさん!! それに他の方々も頭を上げて下さい!」
そう言って騎士達の頭を上げさせ、生徒達の方を向いて話し始めた。
「……皆、俺は訓練をして強くなって戦おうと思う。理由は別に勇者だからとかじゃない。ここの世界の人達が魔族という脅威によって滅ぼされそうになっているからだ。それほどまでに窮地にある人間達が最後の希望として俺達を頼っているんだ。俺はそんな人達を放って置くことは出来ない!! だから俺は戦うことにした……それに人間を救う為に召喚された俺達は、人間を救えば自動的に地球に帰れるかもしれないからな……」
ギュッと握り拳を作りながらそう宣言する。宣言をしている最中に時々、楓の様子をチラっと確認していたが、肝心の楓は俯きながら「イオ君遅いなぁ……まだかな……まだかな……」と呟いていた。自分の雄姿を全く見ていなかった楓を見てしまった光樹はチラ見した直後、一瞬だが泣きそうな表情へと変わった。
光樹が宣言を終えた時、無駄に歯が光っていたが恐らく目から出た涙が歯にかかったのだろう。
「んーー、お城でだらだらと怠惰な日々を過ごすってのも捨てがたいんだけれど、せっかく異世界来た事だし色々と首を突っ込んでみたいのよね。ってこともあって光樹君の意見に私は賛成だよー」
そう言って賛成したのは今の今まで一切口を開いていなかったセミロング程の長さの髪を茶色のシュシュを使ってポニーテールにしていた170cm程の長身である光樹と同じ3年生徒会役員の緋稲春だった。
「は、春ちゃんがやるなら私も頑張ろう……かな?」
春が賛同した途端に、自分も! と賛同したのは150cm程の低身長にボブカットの髪型をした生徒会役員の西城佑香だ。小さな背丈のせいでよく1年生と間違われているが、3年生だ。春とは幼なじみで、昔からよく一緒に行動している。そして人の意見に左右される性格だからか、今回も人の意見に何となくといった感じで賛成していた。
「あっ、俺も! 俺も!」
相良佑樹も勢いよく手を上げて賛同していた。
光樹の生徒会役員という立場と無駄にイケメンな容姿が良かったのか、光樹の宣言の後、女子の一部と楓を除く生徒会役員が光樹の意見に賛同するとそれを皮切りに、残りの生徒達も当然の流れというように賛同していった。
こうして光樹達の異世界での生活が始まった。