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第13話 英霊憑依の代償

 20分程だろうか。

 俺とティファールはハイゴブリンの死体の山がある場所を離れてから、休憩が出来そうな場所を求めて歩き続けていた。

 体力の無駄な消費を避け、魔物に見つからないようにする為に俺とティファールの二人は一切喋る事は無く、足を進め続けていた。




 幸いなことに、先程のハイゴブリン以外の魔物に襲われる事は一度もなかった。

 恐らく、ハイゴブリンの死体から出る血のにおいに誘われてハイゴブリンの死体の下に向かったのだろう。




 そして、約20分ぶりにティファールが口を開き、言葉を交わす事となった。




「そういえば伊織って装備を着けて無かったわね……」




 足を止める事なく、歩きながら俺の血塗れの学生服を見てティファールは呟く。



「…あー、俺はこの世界に来てまだ1日も経ってないからな。装備なんかを貰ったり買ったりする暇が無かったんだよ。ティファも俺と殆ど一緒にいたから知ってるだろ? それに、俺はこの服で十分だぞ?」



 ティファールは血塗れの学生服を確認するように見た後、呆れ果ててか溜め息を漏らした。



 制服のシャツは破れたりしていたが着れない事はなかった為、俺は着替えを必要としていなかった。ティファールはメイド服のポケットをごそごそと弄り、灰色の外套をメイド服から取り出す。



「これを着て。私の予備の服だけど着ないよりはいいはずよ」



「ん? ティファが着なくて良いのか? メイド服の上からでも外套なら着れるだろう?」



 メイド服の上からでもティファールの今手に持っている外套は着れそうだったのにも拘わらず、渡そうとしていたので何故自分で着ないのか疑問に思った俺は足を止めてティファールに訊ねた。



「こ、このメイド服は耐久性もかなり高いから外套なんて無くても大丈夫なの!! それにこのメイド服はアイテムボックスの代わりにもなっていて、外套を着ていたら取り出すときに邪魔になるかもしれないじゃない!! ほら、早く着た着た」



 少し慌てながらティファールは俺に外套を押し付ける。

 どう断っても受け取らされるな、と感じ取った俺はティファールに、ありがとう、と感謝の言葉を言って受け取り、その場で着ると再び休める場所を求めて歩き始めた。




 外套を受け取り、再び歩を進め始めて数分経った頃だろうか。

 岩穴をティファールがどうやら見つけたようで、俺達はそこへ向かう事になった。




 俺はティファールに「お前は俺が守る」みたいな事を言った手前、英霊憑依の残り時間がヤバイ。なんて事は言えず内心かなり焦っていた事もあり、ティファールが岩穴を見つけた時はかなり心の中で安堵していた。



 それと同時に、ティファールが気を使って敢えて聞いてこない英霊憑依というスキルの事をこの岩穴で一休みをした時に話そうと決めていた。



 そして岩穴の目の前に着き、俺が先行して岩穴に足を踏み入れようとしたが……




「………マジかよ…」





 ―――――――見つけた岩穴は、2m程の狼が数多く住みつく狼達の巣だった。




「ティファぁ!! 中に魔物がいる!! ティファはそこで待ってろ!!」



 俺は怒鳴り付けるような勢いで大声でティファールに向けて叫ぶ。




「……分かったわ。ゴブリンにも勝てない私が行ったところで邪魔になるだけでしょうし、今回は大人しく待っておくわ…」




 今度こそは役に立とう、そう思ったティファールだったが、足手まといになると瞬時に判断し、渋々といった表情を浮かべながらも納得した。

 それを聞き、ティファールがついてこない事に安心をしながら俺は目の前の岩穴にへと足を踏み入れる。



 岩穴の中に入る以前から、狼達は俺の存在に気が付いていた事あり、中に入ると同時に威嚇のような大きな唸り声を出す。

 2mくらいの狼が数多くいるだけあって岩穴の中はかなり広かった。



 狼達の威嚇のような唸り声などには、一切気に留める事は無く、右手の掌を狼達に向けてから言葉を発する。




「すまんな狼共。本当なら手に入れたばかりだった、この剣の切れ味が知りたかったんだが俺にはあまり時間が無くてな。大人しく魔法で死んでくれッ!!」




 左手に持った二本の剣をちらつかせながら、言葉が通じないと分かっていながらも狼達に向けて口を開いた。

 そして、2本の剣を地面に落とし、魔法を唱え始める。




「『繁栄、衰退、混乱、混沌……事象の果てにあるのは何か。()の答えは無。例外無く万物は事象と共に無に帰す!!《虚無(ナーダ)》!!』」




 魔法を詠唱し終わると同時に、狼達が次々と消えていく。

 数十秒後には狼達が居た場所には、まるで何も存在していなかったかのように一匹残らず消え去っていた。





「……はぁ、はぁ。この魔法は性能がぶっ壊れてる分、燃費の悪さもエグいな……英霊憑依でmpが100万程度あったってのに殆ど持っていかれた……このスキルは滅多に使わない方が良いだろうな……さて、ティファを呼ばないとな」




 息を切らせながらも、小さく確認するかのように呟き、岩穴の外で待っているであろうティファールを呼ぶ為に岩穴を一旦出て行こうと足を進める。



「……ティファ、魔物はもういない。もう大丈夫だ、一度中で体を休めようか」



 息が切れて、スキル(英霊憑依)の限界も近かった事もあり、最低限必要な部分だけをまず伝えた。



「凄く早いわね………って伊織!? 顔が真っ青よ!? 何があったの!?」



 ティファールは慌てて俺の側まで駆け寄り、顔のぞき込んだ後、頬に手を触れさせた。



 頬を手で触れた事は、彼女なりの体調確認なのだろう。



「……顔が真っ青って言われてもな……自分の顔は自分で確認する事が出来ないから気づかなかった。心当たりがあるとすれば……多分、魔法の使いすぎとかだろ。あの魔法凄い燃費悪かったからな…」



 額に汗を少々垂らしていたが、心配をかけたくなかったのだろう、

 俺は頬をポリポリと掻きながら、あはは、と無理矢理笑みを作り、苦笑いをしていた。




「……典型的なマナ欠乏症ね。なら一先ず安心ね、時間が経てば治るはずだから」



 俺は少々ふらふらしていたが、ティファールを先に岩穴へ入らせ、自分の体調が最悪な事を出来る限り悟らせないように、と行動していた。



「……伊織? 魔物の死骸はどうしたの?」



 岩穴に魔物がいると言われ、岩穴の外へと待機していた筈だったが、岩穴の中には魔物の死骸が一切ない上に、魔物が本当に存在していたのか疑ってしまう程に痕跡が無かった為、困惑した表情でティファールは伊織に訊ねた。



「……あぁ、空間魔法を使って消し飛ばしたんだ。だから死骸は一切無いし、痕跡も跡形も全くないだろ? それよりも一旦入り口塞ぐぞ」



 ティファールが、無茶苦茶なスキルね、と頬を少し引きつらせながら呟いていたが、それに構う事なく、俺は氷魔法と偽装のスキルを使い、岩穴の入り口を塞ぐ。



「えっ!? なにをしているの伊織。私達が出れないじゃない……」



 奇行とも思える俺による急な行動の意図を全く理解出来ていないティファは不思議そうな顔をしながら慌てて訊ねる。



「あー、それはだな。俺が今、白髪碧眼になって力を大量に得ているんだが、それをそろそろ解除しないといけないんだ。解除した途端に激痛に襲われるらしいんだが、激痛に襲われている時に魔物の対処は出来ないだろ? だから入り口を塞がせてもらった」



 襲ってくる激痛の事を考えてしまったのか、はぁ、と会話の途中で溜め息を吐き、憂鬱そうな表情をさせながらも伊織は答えていた。



「……そう……分かったわ。何も役に立てなくてごめんなさい……ここに飛ばされた理由は私にあるのに足手まといになってしまって…」



 俯き、今にも泣きそうな表情を浮かばせながらティファールは酷く弱々しい声を出す。



「そんなに落ち込む事はないだろ? 飛ばされた理由だって俺が勝手に付いてきただけだし。それにもしかしたら激痛が無いかもしれない。ま、そんなわけでスキルを解除してくるわ~」



 俺はティファに罪悪感を少しでも持たせまいと、少しふざけた口調に変え、岩穴の奥の方に足を進め、英霊憑依を解除する。




「『英霊よ、我が身から離れたまえ!《英霊憑依解除(リレイズ)》!!』」




 言い終えた瞬間、目は碧眼から赤目に、髪は数本白髪から戻っていなかったが黒に戻り………




「ぐあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ―――――ッ!!」




 英霊憑依で脳に多大な負荷がかかった事により激しい頭痛が襲う。

 あまりの激痛に思わず目を剥き、叫びを上げるが和らぐ事は無く、激痛は増していく。




「がっ……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」



 俺は頭を両手で抱えながら痛みに襲われ、痛い、と壊れた機械のように同じ言葉をひたすら叫び続ける。



 俺は激痛に耐えている最中、吐血したり胃の中の物を吐き出したり、噛み締めた歯からは泡が漏れたりなど、激痛によって様々な変化があった。



 30分程経った時だろうか。




 急に頭痛が治まり、やっと終わった。と思った時だった。

 太い木の枝が折れるようなバキバキといった音が全身に鳴り響く。




「はぁっ、はぁっ、はぁっ、やっと治まったか?………い゛っ!! ちょ、っと、冗談…ぐあぁ…キツすぎ……ぐ、…あ゛あ゛あ゛ーーーッ!!」






 頭痛の後に襲ってきた全身への激痛は30分程続いた―――――






 激痛に耐える事しか出来ない俺をティファールは頭を抱え、目を逸らさずにしゃがんで咽び泣きながら見守るように見詰め続けていた。









 約1時間にわたって激痛に襲われた後、激痛が治まったと同時に意識を失った伊織は、そのまま意識を取り戻すまで休養した。



 数十分程経った頃か、



 俺は目を覚ました。

 目を覚ました事にティファールは気が付いたのか、俺に話しかける。

 すっかり目が赤く腫れあがってしまっていたティファールを見て、俺は心配をかけてしまったな、と思いながら自分を責めていた。



「い、伊織!! …生きてた…、伊織生きてたよ……呼吸はしていたけれど、もう目を覚まさないんじゃないかって心配したんだよ……そう思うと私……私っ……」




 俺は「大丈夫だ」と言おうとしたが激痛に襲われている時に叫びすぎてしまったせいか、いつの間にか喉が潰れており、声が出せなかったので代わりに、とティファールを右手で抱き寄せた。




 長い間、俺の胸に顔を埋めながらティファールは再び鼻を啜りながら泣き始めた。

 ティファールが泣き止んだ頃には少々、声が出せるようになっていたので今後の事を俺は話そうと思い、口を開いた。







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