第12話 vsハイゴブリン
黒一色の部屋を後にした俺は気がつくと、ハイゴブリンに蹴り飛ばされた直後の状態へと戻っていた。
空を仰ぐ。
黄昏の色が目に優しい。
一度息を吐き、一拍おいてから状況把握に努める。
「戻ってきたか……ん? ……左肩から先を切り落とされた筈……なんで右腕があるんだ……これが吸血鬼の再生ってやつか? ……まあいいか。それよりもあのゴブリン共をぶっ殺さねぇと。ティファが今この瞬間にもゴブリンに傷を負わされているかもしれないし………ティファくらいは俺がちゃんと守らねぇと」
切り落とされた筈の左腕が再生している事実に眉根を寄せて驚きながらも、左手で強く拳を握ったり緩めたりと左手が動く事を確認してから、首を右左に曲げてコキッコキッと音を鳴らして立ち上がる。
「……さてと、英雄の力とやらを使わせてもらうか……『我が身に宿りし英霊よ!! 我が力となりて今一度かつての力を示したまえ!! 宿りし英雄の名はダヴィス!! 《英霊憑依》!!』」
目を瞑り、頭に浮かんだ言葉を糸を紡ぐように丁寧に発した。
スキルが発動されたと同時に透明の何かに包まれ、吸血鬼化によって赤目へと変色していた筈の双眸がダヴィスと同じ碧い瞳へと変わる。
そして、日本人特有の黒髪は真っ白に染まって白髪に変色した。
「『氷悉く、全てを薙ぎ払い血花舞い散らせる刃となれ!! 《氷刀 死華》!!』……得物もこんな感じでいいだろ。さっさとゴブリンをぶっ殺そうか」
柄や刀の腹に華の模様が描かれた氷の刀を一瞬で作り、左手で持つ。
そして表情を引き締め、鋭利な刃物のような眼差しへと変え、俺に背を向け、比較的距離が近かった二本の剣を携えているハイゴブリンを殺意の籠った目で射貫く。
狙いを定めた瞬間、大地を蹴って猛然と加速した。
英霊憑依によって、身体能力が素の自分と比べる事が烏滸がましくなる程に上昇していた事あってハイゴブリンに一気に駆け寄り、距離を詰めると即座に左手に携えた氷刀をハイゴブリンの首目掛けて振るう。
ハイゴブリンは自身の首に迫ってくる氷刀に反応する事が出来ずに断末魔の叫びを上げる事なく、血飛沫を飛び散らせながら首が重い音を立てて持っていた武器と共に落下する。
物言わぬ屍が一つ転がった直後、一方的な殺しが始まった。
ハイゴブリンを一体殺した後、間髪容れずに新たなハイゴブリンを殺す為に距離を一瞬で詰め、弧を描くように薙ぐ。
凄絶な太刀筋で首をただひたすら斬り落としていく行為を何度も繰り返す。
距離を一瞬で詰められたハイゴブリンが、首筋に刃が近付いてきたと認識した時には既に時遅く、ハイゴブリン達は一太刀も与えられずに次々に屍と化していった。
ハイゴブリンを殺している最中、俺はティファールが無事なのかと不安になり、一瞥するが杞憂だったようで彼女は俺の戦闘を驚愕しながら見詰めていた。
幸いなことに、まだハイゴブリンに襲われていなかった。
俺はティファールの安全を確認すると顔を少し綻ばせ、不測の事態にも対応出来るように彼女との距離を気にしながらも一方的な殺しを止める事なく続けていった。
ハイゴブリンの血で赤色に染まりながらも振るわれる花の模様が描かれた氷刀はまるで舞い踊るように落ち行く花びらの如く斯くも美しい。
一方的な殺しが始まり、10分程経過した頃にはハイゴブリンは皆物言わぬ屍となって地面に転がっており、血の独特な鉄臭い匂いが辺りに漂っていた。
音が止み、閑散とした空気の中、未だ唖然としていたティファールに声をかけた。
「……ティファ、怪我は無かったか? 大丈夫、ティファは俺が守るから」
唇の端を少し吊り上げながら俺が言葉をかけた途端、ティファールはハイゴブリンの返り血を大量に浴び、血塗れになっている俺の姿に目もくれず近付き、胸に顔を埋めて鼻を啜りながら泣き出した。
「……伊織が……伊織が私のせいで死んでしまったかもって思って凄く怖かった……吸血鬼は不死や不滅とかって言われたりもしているけど、心臓を潰されれば存在が消えるの……まずは自分の心配をして……私を置いて先に死なないで!! 私を……私を一人にしないで!! 一人は怖いの!!」
ティファは泣きながら俺の胸をポスッポスッと拳を作った両手で叩いてくる。
「……ん、ああ、分かった。心配かけてすまなかったな。ティファを置いては死なないさ、それに俺は童貞そつぎょ……じゃなかった、とある野望があってな、まだ死ねないんだ」
俺は小さく笑いながら、ティファールの頭を撫でる。
「……いつまでも此処にいては危ないわね。ゴブリン達の武器は私が回収するから急いでここを離れましょう。伊織も自分に使えそうな武器があるなら拾っておいてくれる? 魔法で武器を作る事は魔力の無駄使いだから……」
ティファールは流していた涙を服の袖で拭いながらも、ハイゴブリン達が携えていた武器を次々と着ていたメイド服に収納していく。
今更だが、恐らくティファールのメイド服はアイテムボックスのような役割を果たしているのだろう。
俺は近くに落ちていた片手剣を自分用の得物として二本拾った。その後、辺りに落ちていた武器を拾っていく。
3分程かけて全ての武器を拾い終えた俺達はむせ返るような血の匂いが辺りに漂っているこの場所を急いで離れ、歩を進め始めた。
ステータス
鷺ノ宮 伊織 17歳
レベル87 種族 人間
hp 6236/6236
mp 9264/9264
筋力 2600
耐性 1356
敏捷 2154
魔力 2721
魔耐 1159
幸運 50
スキル 刀術 英霊憑依(使用時 全ステータス+約100万) 身体強化 錬金術 空間魔法 氷魔法 死中求活(hp1割未満の場合オート発動 敏捷大幅up) 吸血鬼化 料理 全言語理解 鑑定 偽装
称号 異世界に召喚されし者 女神を妻に持つ者 英霊に愛されし者