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第11話 忘れられた英雄

新キャラ登場っ

 ハイゴブリンに蹴り飛ばされ、意識を失った俺は気がつくと何処を見ても黒一色の女神に初めて会った場所のような所に佇んでいた。



 一度来たことのある場所に似ていたこともあってか俺は別段取り乱すこともなく、至って冷静だった。



 一瞬、死にかけた俺を女神であるリフィアが助ける、もしくは会う為にこの場所に呼んだのか? といった考えが浮かんだが直ぐにその考えは消えた。



 目の前で胡座をかきながら俺を無言でただただ見詰め続ける、白髪を腰辺りまで伸ばした20歳くらいの黒のコートに黒のシャツ、黒のズボンといった黒一色の服装を着用した平凡そうな容姿をした碧眼の男が目の前にいたからだ。



「脆い。そして弱い。弱すぎるよ依り代君。ま、でも僕がこうやって宿る事が出来ただけキミはまし…かな?」



 目の前の男の存在に気付くと、まるで気付くことを待っていたかのように急に話し始める。



「依り代? 宿る? 何を言ってるんだお前。ていうかお前、誰だ?」



 眉間にしわを寄せながら意味不明な事を言っていた、目の前の男に問いかける。



「あれ? 僕の事を知らないの? 依り代君、ちゃんと自分のスキルは把握しておかないと駄目だよ? まあ、キミの今所持しているスキルを今のキミが使いこなしたとしてもゴブリン以下って事実は変わらないんだけどね!! あははははは!!」



 目の前にいた男は床をバンバン叩きながら腹を抱えて大笑いする。そんな光景を見た俺は自身の考えを心の中で愚痴るように言い放つ。




 …………こいつうぜぇ。ていうか召喚されて数時間の俺がスキル把握してるわけがないだろ。それにあれはゴブリンであってゴブリンじゃないぞ。

 ゲームで例えるなら一番はじめの町でレベル1の冒険者がモンスター狩りに行ったらレベルが三桁のゴブリンで溢れかえってました!! って状態だ。

 駆け出し冒険者状態で狩れる人がいるなら教えてほしい。




「キミ、ハイゴブリンはゴブリンじゃない。とか思ってたでしょ? 残念!! あれは紛れもなくゴブリンだよ!! キミは雑魚の代名詞と言ってもいいゴブリンにフルボッコにされた。これが現実だ。現実をちゃんと受け入れようね? 言い訳するなんてまるで負け犬だね!! あ、負け犬だったっけ? あはははははは!!」



 先程大笑いした事で涙が出たのか、手で目を擦っていたが、再び笑い始める。



「……心を読むなよ……ていうかテンション高けぇ……」




 俺は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべながら口を開いた。




「ふぅん……心を読んではいけないのか。なら代わりにキミの記憶を見させてもらおうか。心を読むってかなり面白い事なんだ。それが駄目ならそれ相応の娯楽を提供して貰うよ。というわけで記憶覗くね~」



 目の前の男は少なくとも俺よりは歳上の筈なのだが、歳に似合わない無邪気な笑みを浮かべながら手のひらを此方に向けた。



 記憶を見る…だと!? いくら魔法が優れていても記憶を見ることは無理だろ。

 ハッタリだな。どうせ記憶が見える。とか言って自分に都合の良いように物事を進めるつもりなんだろう。占いでよく使われたりするバーナム効果みたいに誰にでも当てはまりそうな事を言うだけだろ? 言ってろ言ってろ、あはははは。



「えっと…おっ! これがいいかな。これは面白いな。キミが馬鹿だという事がよく分かったよ」



 茶番のような言葉を未だに呟く目の前の男を見て内心呆れていた。



 記憶を本当に見たかのように動揺を誘っているんだろう? そんな見え透いたハッタリなんて怖くもなんともないね!! 俺を騙したけりゃ、水晶でも持ってきて、見える!! 見えるぞ!! とか言ってみろってんだ。




「ん? 言ってもいいのかい? じゃあ遠慮無く。これは去年の3月15日の午後10時頃の出来事だったみたいだ」




 んん? ……去年の3月? あっ、それってもしかして……いや、たまたまだ。たまたま以外にあり得ない。ちゃんと後処理もキチンとした筈。



「その日はその前日に手に入れた限定版保健体育の教材を使って自家発電をしている最中に自室の扉が…「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」



 俺は取り乱しながら、慌てて目の前の男の言葉を遮った。



「なんだい依り代君。言っても大丈夫なんじゃなかったのかい?」



「スミマセン、古傷抉らないでください……俺が悪かったです……ホント、マジで」



 俺は先程とは打って変わり、謝罪すると共に急にへりくだったような態度へと急変させた。



 ……前言撤回。この人天才だわ。もう神様だ。

 それとこの人、限定版保健体育の教材って言ってくれたよ。

 地味に気を使ってくれたのね。余計悲しくなったわ。



「そっか。つい先程もっと面白い記憶を見つけたんだけどね……おっと、話が少し脱線したね。まずはキミの疑問に答えようか。僕の名前はダヴィス。かつて英雄と呼ばれていた天才だよ!!」



 ダヴィスは胡座をかきながら、両手を腰に当てて胸を張りながら自信たっぷりに言いきる。



 もっと面白い記憶!? ……いや、考えては駄目だ。もう俺のライフは0に近いんだから。




「僕は人助けしたり魔物を倒したり、魔人なんかも数多く倒して数百年前くらいに英雄って呼ばれたりしていたんだけどね、魔族が殆ど居なくなった時に誰かが言ったんだ。『英雄は力を持ちすぎだ。これではいつか英雄に国ごと……いや、この世界が支配されるんじゃないか!?』ってね。それを真に受けた各国の王様達が僕を祝いの席と称してパーティーに呼んで僕を悠遠大陸に強制転移したんだ。まあ、天才だった僕は悠遠大陸から実は出る事が出来たんだけどね!! ……でも強制転移させる直後に聞こえたりしたあの王様達なんかの歓喜のような声とか畏怖のこもった様な目を思い出すと帰る気が失せちゃってねぇ……後に分かった事なんだけどね、僕って凄い功績残した筈なのにあの王様達は僕に関する事を全て跡形もなく消したんだよ……酷いよねぇ……あの愚王!! マジで僕が直々に性転換手術でもしてやろうかと思ったよ!! ま、悠遠大陸を出る直前で面倒臭くなって止めたんだけどさ~」



 ダヴィスは怒ったり、落ち着いたり、悲しんだりと表情をころころ変えながらも話を続ける。



「えーっと、ま、そんな感じで忘れられた英雄が誕生したんだよ!! そんなこんなで悠遠大陸で骨を埋めようと思ったんだけどさ、何故か死ぬ直前になってから凡人として生きてみたかった。って思っちゃってさー。そんなこんなで英霊憑依ってスキルを作って凡人に憑依して凡人として生きている人を観察しようって思ったんだけどね、僕が人に憑依しようとするとその依り代が廃人になったり何も言わない死体になったりと全然上手くいかなくてね……で、なんとキミに憑依しようとしたら上手くいったんだよ。キミがもっと強くなってから今のような話し合いをしようと思ってたんだけどキミがゴブリンにボッコボコにされてるからわざわざこうして出てきてあげたんだよ。分かったかな?」



 話し終わった時にはダヴィスの表情はヘラヘラとした、人を馬鹿にしているような笑顔へと戻っていた。



「おい、ダヴィスだったか。なんか途中聞き捨てならない言葉があったぞ。憑依に失敗したら廃人か死体って……」



 俺は恐る恐る、ダヴィスが先程口にした事が事実なのか、俺の聞き間違いだったのか、と不安になり、訊ねた。



「あー、それやっぱり聞いちゃう? キミは結果オーライって言葉を知らないのかな? まあ、いいじゃないか。キミは僕の力を一応使え、僕は凡人の生を観察できるWin-Winの関係じゃないか!!」



 ダヴィスは両手とも、人差し指と中指だけ立てて、折り曲げたり伸ばしたりとピコピコさせながらwin-winと言っており、突っ込まずにはいられなかった。



 なんでそれ知ってんだよダヴィス。



「ダヴィスの力を使える? それどういう事だ?」



 心底不思議だ、と言わんばかりの表情をさせながらダヴィスに訊ねた。



「どういう事だ? って言われても言葉通りなんだけど……要するに、英霊憑依でキミに僕が憑依した時に限り僕の力を使えるって事だよ。憑依といっても実際は僕の力や感情、そして経験といったものをキミに貸すといった感じかな。これだけ聞くと英霊憑依がメリットだけのスキルに思えるんだけど、ちゃんとデメリットも存在するんだ。ハイリターンにはハイリスクだよ♪」



 ダヴィスは笑みを浮かべながら、目を細めて首を傾げる。



 おいおい、おっさんがそんな事しても可愛くもなんともないぞ。




「なるほどなるほど。俺は自称英雄のダヴィスさんの力が使えるのか。で、そのリスクってなんなんだ? 早く教えてくれよ」



 俺は手っ取り早く会話を終わらせようと思い、急かすような口調になる。



「そう急がなくても教えるって。理由は二つ。一つは英霊憑依を使うと僕の持つ膨大な力や経験、そして僕の感情をキミの頭に流し込む事になる。と言うことはだ。恐らく……いや、確実に僕の持つ情報などがが多すぎて脳が処理出来ずに激痛に襲われるだろうね。あ、激痛に襲われるのは英霊憑依を解いた後だよ? 憑依している間は僕が一応キミに憑いているから大丈夫なんだ。ま、激痛に襲われながら戦闘とか無理だしね!! で、もう一つは英霊憑依の時間制限だね。僕は凡人の生を観察したいのにずっと僕の力を使われちゃ本末転倒だろう? だから1日一時間。それ以上は認めないし使えないよ」




「一時間……まあ十分だろ」



 俺は渋々といった感じで苦笑いをする。



「ふふっ、そう言ってくれるとありがたいよ。最後に、英霊憑依を何度も使うとその影響で髪が僕みたいに真っ白になるかもしれないけれどそこらへんは許容してくれよ。後、僕はキミの生を観察すると言ったけど満足したら出て行くつもりだよ。成仏ってやつかな? キミは僕が観察する、と知ってしまったから愛しの奥さんと愛し合う事をしたくても出来ないだろう?」



 俺は確かに! と言わんばかりに体がビクッと動いていた。

 それを見たダヴィスは腹を抱えて再び大笑いしていた。




「僕から話す事はこのくらいかな。急に僕がいなくなるとキミが泣いちゃうかもしれないし、成仏してしまいそうな時が来たらまたここに呼んであげるよ。せめてキミは僕の名前を忘れないでくれよ? 依り代君」




「依り代君じゃない、鷺ノ宮伊織だ……一応覚えておくさ。自称英雄ダヴィスさん」



 俺はあえて、自称英雄、を強調して言うがダヴィスにとってはどこ吹く風で。



「ふふっ、名前を呼んでほしかったらせめて中ボスくらい倒せるようになってからだよ。ゴブリンにフルボッコされる依り代君♪」



 普通にやり返された。




「いつまでその事引っ張るんだよぉぉぉぉ!!」




 こうして俺は黒一色の部屋を後にした。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ダヴィス一人になった黒一色の部屋にて



「あははははははは!! 数百年ぶりに人と話をしたがやっぱり人と話すのは面白いなぁ……さてと。僕の残り少ない余生、存分に依り代君の観察に費やそうか………依り代君、欠損した肉体の再生は僕からの餞別だよ。さあ、僕を楽しませてくれ!!」



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