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第9話 夫婦(仮)

伊織視点に戻ります。

 俺が楓に頬を思いっきり叩かれ、意識を失ったのも束の間。

 銀髪銀目を持った甲冑に身を包んだディジェアが俺の下へと歩み寄って来てヒールをかけた直後、意識を直ぐ様取り戻した。



「ん? 俺、楓に弁明をしようとして……あれ? それからなにしたんだっけか……あ、いつぞやの銀髪女神さんじゃないですか」



 右左を見渡した後、目の前にいたディジェアの存在に気がついた瞬間、思った事を無意識で口にしていた。



 それが意識を取り戻した俺の第一声だった。



「銀髪女神? よく分からないが私はディジェア・ラギシスだ。意識を取り戻して早々すまないが先程いなかったキミに個人的に話がしたくてね。大事な話だから他の者が聞き耳を立てないように他の部屋で話そうと思う。ここからそう遠くない部屋だ。ついてきてくれ……ああ、そこのメイドも一緒に来い」




 ディジェアは一方的に話を進め、俺とついでにティファール、といった感じに受け取れる言い方をした後、自分に付いてくるようにと言った……いや、命令した。

 大事な話というのにティファールも付いてくるようにと言った事で少し違和感を感じたが、俺は別に敢えて断る理由も無かったので付いて行くことにした。




 ディジェアは部屋から出る直前に、「騎士団長!! 私は少しの間この部屋から離れる。私の代役を頼む!!」と少し離れた騎士団長と呼ばれた人に届くようにと大きな声を出した。騎士団長が「承知しました」と声を上げ、了承した事を確認するとディジェアは部屋を出て行き、それに俺とティファールは付いて行った。



 俺はディジェアの名前に国の名前がついていた事からこの国の姫か国の偉い人と結論付け、「ふむ、服装からして姫騎士だろうか。召喚系なら清楚なお姫様に頼み事をされる事が当たり前と思っていた時もあったが、ぶっきらぼうな口調な姫騎士か……有りっちゃ有りだな、うん」と前を歩くディジェアの背を見ながら呟いていた。




 5分程歩いた頃だろうか。

 ディジェアが「この部屋だ」と言って他の部屋と何ら変わりの無い部屋のドアを開けて俺とティファールに部屋の中に早く入るようにと促した。



 俺とティファールが入ったその部屋は先程の大広間のような大きい部屋ではなく、学校の教室くらいの大きさだった。尤も、それでも十分広いと思うが。



 それだけなら良かったのだが奇妙な幾何学的な模様が壁、床、天井といった至るところに描かれてあった。



 俺とティファールがその奇妙な部屋に入った事を確認するとディジェアも部屋へと足を踏み入れる。

 


 ディジェアが扉か手を離した瞬間、扉は勝手に閉まっていき、バタンと音をたてたと同時に掌をティファールに向けた。



「『光よ。幾千幾万の鎖を以て闇の者に縛りを与えよ!! 《束縛(ルクス・バインド)》!!』」



「……ッ!? この魔法……しまっ!!」



 ティファールはディジェアが使った魔法を知っていたのか、魔法を発動させた直後、魔法を使って抵抗しようとするが何処からか出てきた光り輝く数多くの鎖によって瞬く間に束縛された。



「やはりお前は魔族か……この王城に魔族が居たとは残念だよ、本当に残念だ」



 心底残念だ、と言わんばかりの言葉をディジェアはティファールに向けて言っていたがその言葉とは裏腹に顔は満面……いや、歪んだ笑みを浮かべていた。



「おいっ!! ディジェア・ラギシス!! 話をしたかったんじゃないのか!? ティファに何をしてんだよ!? 話が違うぞ!!」



 ディジェアが魔法を使い、急にティファールを光輝く鎖で拘束した事に俺は困惑するが直ぐ様、怒りを露にして怒鳴り付けた。



「話? あぁ、そうだよ。私はこの女が魔族だ、って話をしたかったんだ。ああ、えっと……ティファと言ったか? そこの魔族。この部屋は、光魔法の威力が100倍になる特別な部屋だそうだ。抵抗は無駄だ。昔、王城にいた魔法使いが暇潰しに作った部屋らしいんだが、役に立って良かった。この部屋のお陰で憎い魔族を一匹駆除出来るんだ。寧ろ感謝しないといけない!! 死んだ人間に感謝なんてするのはこれが初めてだな!! あはははははははは!!」



 抵抗しようと鎖から逃れようとしていたティファールは「なっ!?」といった驚いた声を上げながら驚愕の表情を浮かべながら目を瞬かせていた。



「そこの魔族には死ぬ以外の選択肢なんて無いし、聞きたい事なんて一切無い。何処かの馬鹿な貴族共なら尋問するんだろうが、私は魔族を一刻も早く殺したい。尋問だろうと、魔族と会話をするなんて考えられない。話が少々脱線したな、そこの男、お前には聞きたい事と選択肢がある。私は同族にはすごく優しいんだ。例外もあるがな。そんなわけで質問なんだが、お前、私は先ほどお前と鎖に今縛られている哀れな魔族と夫婦だ。と聞いたんだ。私の聞き間違いか? あぁ、それと私を殺してそこの魔族を救うなんて考えない方が良いぞ? これでも私はこの国で一番の剣の使い手なんだ。召喚されたてのお前じゃ首が無駄に落ちるだけだぞ?」



 ディジェアは俺の考えなどお見通しだ、と言わんばかりに俺の次に起こしそうな行動を口に出すことによって俺の行動を制限する。



 そして、ティファールに向けていた歪んだ笑みを俺に向け、唇の端を吊り上げながら質問をしてきた。



「……夫婦か……まぁ、夫婦って事にはなってるな。うーん……夫婦(仮)みたいなものか?」



 俺の言葉を聞いたディジェアは腹を抱えて笑いだす。

 だが、逆にティファールは目を少し大きく開き、少し驚いていた。

 恐らく彼女は、違う、といった関係を否定をする答えを口にすると思っていたのだろう。



 俺はティファールと出会って数時間だ。

 自己保身走る人間ならば普通は否定をするだろうし、ティファールも彼が関係を否定しても責めたりはしなかっただろう。



 そんな誰もが思うような予想とは違った答えを言い放ったのだ。驚くのも無理はない。



「ふ、ふふふ。あははははは!! そこの魔族と夫婦(仮)? ふふふっ、面白い回答をするのだな、お前。それに、魔族嫌いの私を前にして魔族との関係を仮だとしても肯定するか。否定するだろ普通。あー、笑った笑った。普段ならな、私を少しでも楽しませてくれた者にはそれなりの褒美を与えるんだがな、魔族と関わりがあるものは駄目だ。が、特別にもう一度返答を聞こう。お前はそこの魔族と夫婦なのか?」



 目に少量の涙を溜めながらもう一度問い掛けた。



「何度も言わせるな。夫婦って言ってんだろ……いや、仮だけどさ。それよりも、さっさとティファを縛ってる鎖を外せよ」



 興奮気味のディジェアを見て、面倒臭くなったのか俺は気怠そうにしながら返事を返す。



「……はぁ、お前はどうしようもない馬鹿だな。こんな害虫を庇って何になる? さっさと見捨てろよ。待つのは死だけだぞ? 出会って数時間だろうに………もういい、チャンスを与えた私が愚かだった」



 ディジェアは、死、という脅し文句のような言葉を言っても俺がティファールを見捨てそうになかったのを感じ取ったのか、これ以上言っても無駄と判断し、話を進める。



「お前、その魔族と夫婦なんだろう? なら、勿論、そこの魔族の種族知ってるんだろう? 種族は何だ? さっさと答えなければ魔族の腕を斬り落とす。さぁ答えろ」



 ディジェアは腰に下げていた剣を鞘から抜いて剣の腹をチラッチラッと見せつけながら俺に訊ねた。



「っ!? ………き、吸血鬼…だ」



 俺はディジェアが抜いた剣が本物だと理解した瞬間、驚愕に顔を染めながら、慌てて答えた。



「そうか! そうか! 吸血鬼か! ならば首を落とす案は却下だな。吸血鬼は首が落ちても再生する気持ちの悪い害虫だからな……さっさとこの害虫を目の前から一刻も早く消し去る方法は……そうだな、せっかくこの部屋に居るんだ。この部屋を有効活用しようか」



 ディジェアはティファールの種族が吸血鬼と聞いた瞬間右手を顎にあてて考えるような仕草をした後、何かを思い付いたのか先ほどまでの歪んだ笑みとは違って悪意の満ちた笑みを浮かべながら魔法で作られた鎖に拘束されているティファールを一瞥した後、俺に視線を戻す。



「この部屋にはな、光魔法の効果を上げる他に人をある特定の場所に転移させる事が出来るんだ。召喚されたばかりのお前には分からないだろうが、そこの吸血鬼なら知ってるだろう。悠遠大陸。魔界領の魔物も全く歯が立たないほどの屈強な魔物しかいない魔窟だ。勿論、人などは存在していない。悠遠大陸に飛ばされれば魔物の餌になり、食べられて終わりだからな。そんな場所にこの吸血鬼を転移させようと思うんだが……お前はどうする? さぁ、ここで選択肢だ。この吸血鬼と一緒に魔物の餌となるか!? それともこの吸血鬼を見捨てて生を選ぶか!? さぁ選べ、召喚された男!!」



ディジェアは唇の端を吊り上げ、ニヒルな笑みを浮かべながら、俺に問いかけた。



「…あー、そうだな………んじゃ、俺はティファとその悠遠大陸に飛ばされる事を選ぶわぁ」



 俺は面倒臭さが限界突破したのか、口を大きく開いて欠伸をし、頭をボリボリと掻きながら返事をした。



「そうだろう! そうだろう! 悠遠大陸とは恐怖の代名詞! そんな魔窟に吸血鬼一匹の為に行くなんて馬鹿な選択するはずが無いから……は? お前、今何て言った」



 ディジェアは俺の答えに相当驚いたのだろう。

 先程まで手に持っていた剣を落とし、唖然とした表情を浮かべながら再度訊ねる。



「何度も何度も聞き返すなよ……俺は殺されようが転移させられようが答えは変わらんぞ。俺はティファと一緒にいる選択をし続けるだけだ。ま、仮にここで俺だけ逃れても後味悪いしなぁ……一応、夫婦(仮)だし一蓮托生……みたいな?」



 俺は何度も聞き返すディジェアに呆れたのか、怠そうに喋りながら、最後は結構なアホ面をしながら言葉を発した。



「…………はぁ……現実ってものは本当に上手くいかないものだな。私としてはお前がそこの吸血鬼に執心なようにそこの吸血鬼もお前にかなり執心していたから裏切られて絶望を浮かべながら悠遠大陸に転移させられ、そこの吸血鬼には無惨に魔物の餌となって欲しかったんだ。これ以上、何を言っても無理だな……そろそろ時間だ。この部屋ではこのペンダントを持ってない場合、一定時間経つと自動的に悠遠大陸に転移するシステムなんだ。ふふっ」



 ディジェアは首につけていたペンダントを取って笑いながら俺たちに見せつける。

それを聞いた俺は言うが早いか床を蹴り「嘘だろっ」と叫びながら慌ててディジェアから奪おうとする。



「残念。もう時間だ。私はこの部屋でお前が吸血鬼を見捨てて吸血鬼との仲が険悪となり、そのまま悠遠大陸に転移され、仲違いをしている最中に魔物の餌になるってシナリオを思い描いていたんだがな…………良かったな吸血鬼、馬鹿な伴侶を持てて。ふふふっ、あははははははは!! 愛し合った者同士が一緒に魔物の餌か!! こんな結末も悪くない!! あはははははは!!」



 ディジェアのペンダントまで、あと少しといった所まで手を伸ばした瞬間、ティファールと俺は光に包まれ、幾何学的な模様が描かれた部屋から姿を消した。



 俺とティファールが居なくなり、ディジェア一人となった部屋にて長い間、甲高い笑い声が響いていた……



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