首無しの逝く 3
今回は少し多めになりました。
9/3 サブタイトル治しました
どれだけ時間が経ったのかは分からないが大分この身体にも慣れてきた。最初は錆びたネジを回す時と同じ様に力を入れて意識しなければ動きずらかったが今では普通に動かせている。初めから何故か着ていたこの服も動きやすく、麻の様に強いが柔軟性があり着心地も良い。ただ丈の長い半袖1枚だと通気性が良すぎる気がする。
「でも、なぁ…」
身体を解すための柔軟をしながら、風通しの良さ以外の微かな違和感にため息が漏れる。
この身体が死ぬ前の身体と違う事は体を動かしているうちに気づいていた。前は運動をしていたとは言え所詮は毎朝のマラソン程度。体力はそれなりにあっても筋肉は無かった。
だがこの身体にはそこそこ筋肉があった。それに心做しか体力も増えているようだ。
普段した事の無かった腕立てをしてみたのだが、前世では100回も出来なかった筈なのに今の身体では100回を超えてもまだまだ余裕があった。
「そこまではいいんだけど。」
俺は無くなった男にあるはずのモノがあった場所を見て、同じく無くなった頭を抱える。
そう、無いのだ。落ち着いて考えているうちに、股に違和感を感じて見てみたら無かったのだ。女になったかと思えばそうでもなく完全な無性になっていた。ただそれを自覚したあたりでなにかか腑に落ちた所で納得した。違和感は無くならなかったが。
頭がないことに気がついたのは改めて自分の身体を確認するために腕立てをしていた時だ。
腕立てをしているうちにどこまで負荷に耐えられるのかが気になり始め、腕の位置を下げ脇を占め顎を地面につけようとした時に顎がつく事はなく、首の付け根が地面に当たる感覚がしたのだ。そこで驚いて頭を触ろうとしたのだが触れることが出来なかった。
今の俺には首から上が無かった。
「もう、ますます訳が分からなくなってきた…」
頭が無いという事を自覚してからは「息はどうしてるのか? 」「口が無いなら飲み食いは?」「脳は?」etc、etc…様々な疑問が浮かんできた。
というのも少し前の話。今は頭が無いと言う違和感も微かなものになっており気にする程の事ではなくなった。数々の疑問も「ファンタジーだから」と言う事で忘れることにした。今俺が生きているならそれでいい。
「にしても、腹が減らないな。」
腕立てや悩んでいた時間も含め、目が覚めてから結構な時間が経っており、洞窟が薄暗くなり始めていることに気がつき外を覗いてみれば真上辺りにあった太陽は崖のギリギリに見える地平線まで傾いていた。
それでも腹が減った様子は無く空腹感も感じない。この異様な状況で麻痺したのかと思えばそういった感覚は無かった。
この身体はどういう訳か食べ物を食べる必要が無いらしい。
だが腹が減らないという事なら食料問題は片付いた。
「なら、ここからどう出るかだよな…」
眼下に広がるのは夕日に照らされた緑の深い樹海。昼に見た鳥の様な群れは居らず、変わりなのか明らかに異様な見た目の生物が1匹、空を優雅に飛んでいた。
「ドラ…ゴン…」
遥か遠くにいるにも関わらずハッキリと見えるほど巨大な爬虫類のような身体。その身体から生えた四つの脚は無数の鱗に覆われ、足の先には鋭く太い爪が生えている。首の先の頭は地球の爬虫類とは似ても似つかず、獰猛な目にズラリと並んだ牙。
全身を白いウロコに包んだその姿は美しく、何時までも見続けていたいと思えるほどだった。
そして、その美しき白龍はその巨体を覆い隠せるほど大きく広げられた翼は力強く何度も羽ばたき、長い尻尾をしならせながら物凄いスピードで空を駆けて行く。
「っう?!」
不意に振り向いた白龍と目が合ったような気がして息が詰まる。気がしただけであるにも関わらずその圧倒的な威圧感と存在感に思考が止まる。
「……っぁあ!はぁ…はぁ…」
呼吸も忘れ白龍が消えていった方向を見つめる。
高所の崖特有の冷たく強い風に吹かれ、思考が戻った時には気がつけば太陽は地平線の向こうに消え辺りは夜に包まれていた。
「はぁ…寝るか」
ドラゴンと言う圧倒的な存在を知り、改めてファンタジーな世界に来てしまったと認識しながら硬い洞窟の中で丸くなる。
慣れぬ状況で予想より疲れているのか直ぐに眠気がやってきた。
薄れゆく意識の中、何となく、またあの白龍と会えるような気がした。
「お主は、何故このような場所に居る。」
そしてその機会は、直ぐにやってきた。
ファンタジーと言えば定番のドラゴンさんが出て(通りすがっただけ)来ました。
ドラゴンの力強さと存在感がちゃんと伝わりましたでしょうか?私の拙い文章力で伝わっていたら幸いです。
ちなみにドラゴンこと白龍さんのイメージはモンスターハンターでおなじみのミラ様です。ただミラ様より大きく太いイメージとなっております。
感想、ご指摘、お待ちしております