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○○だったら……責任とります委員会!  作者: 柿ノ木コジロー
第1章 そのレタス、ショッパかったら!
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1-5 西陽のあたる音楽室にて

 グランドピアノと窓に挟まれたやや広い空間に、傾いた西日の中俺の目の前に、ササラとハナがいる。

「頼む、助けてくんないかな」

 まず、オレの第一声がこれ。

「……何を」

 机に手をついて立ちあがったササラの声、ずっとトーン低し。唸り続ける猫ちゃんだな。

 俺の頼みなんぞ聞きたくはないが、人質、いやモノジチを取られて脅されているんだもんな。

 ハナは座ったまま不安げに俺とササラを見比べた。 

「金曜の給食で、どうしてもレタスが要る、少なくとも5、6個」

「はああ?」ササラは鼻を鳴らした。「それって、明後日のこと? 何それ、マジ?」

 明らかにコケにしてるな、スナを。

「つまんないこと言っちゃったんで、弁償でもするつもりなのぉ?」

「……ごめんなさい」絞り出すような声のハナ。

 ふっくらした頬に垂れ目気味、でも黒目がちのつぶらな瞳。西日にふわふわの内巻きが揺れる。

 案外可愛いな、コイツ。

「アタシがつまんないコト言っちゃったから、シマジリくんが弁償……」

「いや、」俺はまっすぐ、ハナの目を見た。

「弁償じゃ、ないよ。何と言うか……進化形をみせてやるんだ、みんなに」

「は」しんかけい、とササラの口がゆっくりはっきり動く。

「何考えてんの?」と、これはハナ。

 ふたりは顔を見合わせて「ねえ」みたいなテレパシーを送り合った。

 えへん、と咳払いしてから、俺はおもむろに説明を始めた。

 給食の大騒ぎの後から放課後まで、それでも必死になってクラス内を『サーチ』した結果、もしかしたら使えるかもしれない、というネタを発見していたのだ。

「クラスの二木さんち、レタス作ってる農家だって聞いたことあるんだけど、それでさ……」


 話が進むにつれ、不機嫌そうな口もとをしていたササラ、明らかに口角が上がり、デカイ目がきらきらと輝きだした。ハナも不安げな眉間のしわが取れてきた。


「どうだろう?」

 俺が最後にそう訊ねてからしばし、音楽室に黄昏色の静寂が満ちた。

 やがて、ハナがほおっとため息をついてから、「いいかも」と一言。

 ササラもキゲンの悪さは変わりばえしないが、どこか浮き浮きと楽しげな口調で

「別にいいケド。そのくらいなら協力してやる」

 妙に上から目線ながらも、そう言った。

「ニッキは近所だしすぐ聞いてあげる。つい昨日も、収穫手伝わされた~って言ってたし、帰り道にも畑あるけど見た限りでは、まだまだ残ってたみたいだし」

「じゃあ、アタシは他のものを手配するわ」リストアップが必要ね、そうだ、服装もそれなりにする? お隣のキッチン・きねづかに衣装借りてくる、とハナもだんだんとノってきた。

「どうしたの? シマジリくん」ハナはゴキゲンな口調でこんなことまで言いだした。

「なんか、今日調子いいじゃん? 頭でも打ったの?」

(うん、かも知んねえ)「……なことないョ」

 見た目上、俺はちょいとはにかんでみせるとササラもほんの少しだけ笑ってくれた。

 コビでも何でも売れるものは売るんだ、スナ。オマエのカワユラシサを武器にしろ。

 少しうす暗くなった頃、俺たちの『戦略会議』は終了した。


 はあ~、あさって楽しみだね~、ハナの明るい声が暗い廊下にこだましながら遠ざかっていく。

 俺は大きく息をついて、ピアノにもたれかかり、暮れなずむ窓の外を眺めるともなく眺めた。

 気づかないうちに胸ポケットに手が伸びて、俺は苦笑する。

 ここで一服なんて、未成年に何させようってんだ俺。


 ふり向いた時に、出口にササラがいた。



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