表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
○○だったら……責任とります委員会!  作者: 柿ノ木コジロー
第9章 最終決戦ももちろん! 
61/66

9‐ 7 帰らざるタマシイ

『おぼえてろ、おぼえてろ、おぼえてろよーオマエラーーーー』

 可愛くちっちゃくなっちまった風船みたいな声がどっか青空の向うに吸い込まれて消えていった。

「オレ、宮本の様子を見てくる!! ヤスケンすまんコイツらを頼む!!」

 コースケが階下へと慌てて戻っていった、が、どんがらんがらんと階段を落ちる音。

 どこかブキヨウなのは相変わらずのようだ。「ったー」声がしたから多分大丈夫だろう、俺はまた屋上に目を戻す。

 気がつくと、俺の手の中にはまだしっぽが残っていた、尻尾だけ。

 はっ、と気づいてまた下を見る、マットと校舎との隙間、ちょうど挟まるように、かつて勇敢なる活躍をみせた狼犬の残骸が挟まって落ちていた。

 ラブはすぐに校長から『抜け落ちた』らしい。俺の手をぺろっと舐める感触がしてからごおっと空に向かって一陣の風が上がった。

 小さなつむじ風。どこか彼方から犬の鳴き声がひとつ。俺は見上げたままつぶやく。

「ラブ……ありがとな」


 ところが、大変なことに気づいた。

「スナ、スナはどこだ?」

 気配がない。

 俺がキョロキョロしているのに気づいて、女子どももあちこち見まわしている。

「どしたの? ヤスケン」

「スナがみえねえ、どこにも」

「えっ!?」

 スナ! イインチョー! 口々に呼びかう声の中、誰かがドアをくぐって屋上にやってきた。

 リン、そしてあの女は確か……桜宮オウラだ。オウラがなぜか、リンの腕を引くように先導している。ここよ、ここ、と厳しい顔をしていたが、ササラの顔を認めるとぱあっと明るい表情になった。

「良かった、あなたがいれば大丈夫」

「な、なんですか……」

 じっと見ていたササラ、急に気づいて目をこぼれんばかりに見開いた。

「オ、オウラ様!」周囲のはてなマークは一切目に入ってないようで、ただ口をぱくぱくさせて頬を真っ赤に染めて感激の真っただ中。「ど、どうしてここに」

 オウラは言った。

「この中に、相応しくない魂が身体に入っているために、ハザマの世界から戻って来られない魂があります」

 げげっ、オウラは俺をまっすぐに見てやがる。リンが言った。

「この人、歌手やってるけど本職は霊媒なんだって」

「ステキ~!」ササラが叫ぶ。さすが目の付けどころが違います。

 オウラは、ゆっくりとうなずいてからおごそかに言った。

「まさか学校内でこんなゆゆしき事態が起こっているとは……」

 はあすみません、俺も理由を知りたいもんだが。それに

「俺も早く、あの世とやらに行きたいよ。近頃ずいぶん引かれてたしな」

「だったら一刻も早く、本来の少年を呼びもどしましょう」オウラはそう言うが

「あの……」おずおずと俺は訊ねる。「どうやって?」

「オカルト演歌、その真の力を今こそ発揮するのです」

 ササラ以外の女子連は、ぽかんとしている。そりゃあ、初耳でしょう。

「心をこめて一曲歌いあげれば、きっとその声は呼びたい人に届くはず、その声を頼りに彼は帰ってきます」

 ササラだけはひときわ頬を染めて聞いた。

「じゃあ……オウラ様、オウラさまが今からここで歌って下さるのですか」

 いいえ、オウラは優しく微笑んだ。

「私じゃ無理」なんでだよ!? 俺が聞くとしごくあっさり

「だってその少年のことを何にも知らないんですもん。心込めよーったってねアナタ」

 いやー、何と現実的な答え。しかしオウラはまたおごそかな声になって

「いいですか笹原さん、あなたが、歌うんです」

「ええええっ」今なら描ける、驚愕の少女とゆータイトルのゴシック絵画。

「ムリです」ササラ、辺りを見回す。女子たちはまだ彼女が歌うことを知らない、オカルト演歌なんて代物すら知らない、そんな中で

「歌えません!」

「歌えるわ、私、あなたのプロモ観たもの」ササラは一瞬嬉しそうなカオしたが

「歌えない!」頑なにそう叫ぶ。

「ねえ、ササラ」

 リンが右手を出して優しくササラの手をとった。

「俺からもお願いだ。スナも帰ってきてほしいし……ケンさんももう、自由にしてあげて」

 何かにうたれたかのように、ササラが顔を上げた。リンと見つめ合う。そこにすかさずリンは後ろ手に持っていたマイクを(なぜ持ってる?)彼女に渡す。

「お願いします」

 ササラは大きく息をついた。また涙目だ。居並ぶ女子連を見渡して

「アタシのこと、ヘンナヤツ、って思うだろうけど」

 そこまで言った時、ハナが一歩前に出た。

「思わないよ、何だか分かんないけど……」

 ルモイも進み出る。

「歌うんだね、がんばって」

 ソルティはその場でスマホをいじりながらだったが

「ササラ、何やってもサイコーだし」

 さらりと言ってのけた。ササラはそれを聞いて「何それ」と笑ってから、俺をまっすぐ見つめた。

「ヤスケン、ごめんね。アタシたち……アタシはスナに戻ってきてもらいたい」

「俺もだよ」

 ササラはマイクを構えた。そして、俺はその場に仰向けになり、目をつぶった。

 ササラが一歩離れる前に、ちょっとだけ目を開けちまったけどな。

 見えるかなー、白かな、ってさ。ごめんホント。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ