9‐ 5 最終対決は校舎屋上!
秋晴れの空の下くっきりと濃い影を踏んで、俺は敵と向き合っていた。
貯水タンクの近くにソルティが座りこんでいる。ぐったりしているように見えるが、特にケガはなさそうだ。
彼女の周りはうすぼんやりと黒いガスのような円に取り囲まれている。
「はははは、結界だ。ここからは出られない」
セイギの声が嘲笑っていた。
「だいじょうぶか、ソルティ!」
俺が声をかけると、ソルティは少しだけ顔をあげて
「うん」と小さくOKサインを出した。苦痛とかはないらしい、出られないだけのようだ。
下でようやく騒ぎが始まった。
不審者ならばすぐに全員校庭に退避・110番通報が鉄則らしいが今回、襲撃者は自分とこの生徒だ、見た目は。判断が少し遅れているようだ。
『スナ、いるか』
『きたよ』打てば響くようなスナの声が、すぐ近くから聞こえた。
『悪ぃな、オメエのカラダなのに』
『いいよ、屋上初めて見れたし』
ノンキでバカな小僧だ、でもそういう所もひっくるめて全てが愛おしい。
絶対に消滅させるわけには、いかねえ。
「おや、コゾウも来たのか、乗っ取られちまった小僧も」
セイギの声でヤツがバカにする。しかしスナは挑発には乗らなかった。
『セイギに身体を返してやってよ、オジサン』
静かにこう言っただけだった。しかしその声はヤツには聴こえなかったようだ。
「お前ら、よくもオレをこんな目にあわせたな。あのレストランで食事中、最後のデザートん時に急に気分が悪くなってぶっ倒れて、救急車で運ばれたんだ、そしたら鼻のケガみた医者に事故と間違えられて処置が遅れ……結局そのままオダブツさ」
「情けない最期だったね、俺みたいに」俺も言ってやった。
「俺もさ、ホームから突き落とされて、貨物に轢かれたらしいんだけどね」
「知るかテメエのことなんざ」セイギが咆えた。
「レイラのヤローも嘘ばっかりこきやがって、何が遺産を分けてもらった、だ。オメエの預貯金はカードも暗証番号も手元にあったのに『やっぱ悪いかなー』って律儀にそのまんま凍結させちまって、実家に返しちまったっていうし、10万円貯金は実際2万くらいしかなかったしよ」
「72500円はあったはずだ、レイラに抜かれたな、スカタン」
「チクショー……どいつもこいつもコケにしやがって」ぎり、と奥歯をかみしめこちらをジロ見したセイギもどき、急に
「そいやっっっ」大きくジャンプ、日を遮った、と気づいた時には「ぐはあっっ!」俺は、いやスナの体は大きく横に飛んでいた。ヤツの蹴りがもろ、脇に入っていたんだ。
速い、あまりにも速い。俺はよろめきつつ立ち上がろうとした、がすぐに
「死ねっ」反対側からギプスチョップ。今度はかろうじて見えた、が完全には防ぎきれずそれは俺の左肩を直撃、俺はまた反対側に倒れる。
とり憑いた男の怨念があまりにも強いのか、セイギの身体には信じられない程のパワーがみなぎっている。
「しねっ、しにやがれっっ」
セイギが仰向けに倒れた俺に馬乗りになった。ギプスの堅い肘でがすっ、がすっ、と俺の顔と言わずボディと言わず殴りつけてくる。俺もたまらんが、せっかく治りかかったセイギの腕も心配だ、俺は両腕で必死こいてその肘を捉える。
俺もかなりこの身体を扱うのは慣れてきたとはいえ、今のヤツの力には到底敵わない。その上、本能的にセイギからの攻撃に対して身がすくんでしまうらしく、守りはするものの、どうも決定的な攻めに欠けてしまっている気がする。
「やめ、やめろこのバカ、また折れっぞ」
「テメエの心配しやがれ、しねっ」
ぐさ、突き刺さるような一撃がストマックに入り、俺はぐえっとのけぞった。そこにヤツの左手が首にかかり、ぐいぐいと締めつける。
「止めて!」ソルティの叫びもどこか遠い世界から聴こえるようだ。
俺は、それを払おうと両手を振りまわす、がだんだんと意識が遠くなってきた。
駄目だ、かなわねえ。




