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○○だったら……責任とります委員会!  作者: 柿ノ木コジロー
第7章 片付け仕事が残ったから!
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7‐ 5 お兄ちゃんと一緒♡

 セイギは骨折でずっと入院している。

 クラスの連中はもちろん、誰とも会えない、面会謝絶だと聞いていた。それでも案外しつこいカネザキは何度も訪ねて行ったらしい。


 夏休みに入って、またズラに戻ったという噂をききつけてヤス犬が心配していたことがあったので、一度カネザキのところに訪ねて行った。確かにフサフサしてた。

 しかし、驚いたことにその色。

「うん、やっぱりカミサンがうるさくてね」そう頭をなでている。

「でも先生……」

 ボクはプラチナ光沢のブルーと言う、教ダンに立つ者にはあり得ないその髪の色つやを直視できないまま、おずおずとたずねた。

「いいんですかその」

「あ、少しまだ長過ぎなんで二学期までには短くしようか、なんてな」

「はあ」仕方なく同じように笑ってみる。


 話のついでにセイギのことを聞くと

「宮本かぁ……」また頭をなでていた。

「親が二人とも、あんまり家にいられなくてなー、親戚もアテにならんらしくて特別に妹さんを一緒に置いて貰ってんだ、病室に」

「妹がいるんですか? セイギ」

「ああ、まだ五歳か六歳だとか、幼稚園らしいな」

 ダメ元で訪ねてみることにした。



 総合病院の小児科。一番奥の個室に、確かに「宮本正義」と出ていた。

 ノックしようかな、どうしようか、と迷っていたら急にパタン、とドアが開いた。

 個室の奥、白いカーテンとベッドの端が見えた、と、すぐ目の下に赤い玉飾りがちらつく。ドアに手をかけたまま、ちっちゃいツインテールの顔が覗いている。

 この子がセイギの妹なのだろうか、確かに五歳くらいか。

 しかし、めちゃメチャ可愛い。くりっとした瞳に長いまつ毛をぱちりと上げて

「あ」

 どこかに行こうとして止まってしまったらしく、じっと見つめている。

「られれすか」

 だれ? って聞かれたんだろう。

「あの……セイギ、お兄ちゃんのクラスの……クラスの友だちですが」

「あのね、あのね、おにーちゃん(られ)にも会いたくないってっ」

 イモウトがでっかい声を出した。そこに

「マイ、母さん来たのか?」奥からの声。

 ボクはマイちゃんに持っていたコンビニの袋を渡してからその小さな体をするりと避けて中に入る。せっかく来たんだ、やっぱりちゃんと話をしたい。

「オマエ……」

 明らかにあ然としている。手を吊ったままだったが、ベッドの上に拡げているのは英語のテキストとノートだった。

「何しに来た」

「あ、ごめん」なぜか焦ってしまう。やっぱり怖い。でも、

「勉強、してたんだね」そう言うと、今度はセイギが黙ってうつむいた。

 しばしの沈黙ののち、セイギがぽつりと言った。

「オマエとは口ききたくねえ」

 それでもそう言ってくれるだけいいのかな。またしばらく沈黙。ボクは待つ。

 ようやく、セイギが声を出した。下向いたまま。

「中学は、付属に行くつもりだった」それが、受験に失敗して第二中に来たのだって。

「一緒に付属に行こうぜ、ってヤクソクした連れがさ、高校どーすんだ? ってたびたび言ってきてくれて」同じことをオヤジやお袋も言うが、アイツらの言うことはなんかムカつくんだ、なのに

「その連れ……タイキって言うんだけど、タイキの言葉なら素直に聞ける」

「どんな言葉だったの?」

 タイキがこう電話をくれたんだって。


 ねえセイギ、今後どうしたいか、考えてるか? オマエ、宇宙開発に関わる仕事したいって言ってただろ? 真剣なんだよな? 英語とかちゃんとやってんのか? 今度こそ、同じ高校入りたいよ、オレは頑張るし。このガリベンやろうだって思ってるんだろ? どうせ。でもいいじゃん。流されていくのはスゲー楽だけど、たまにはがむしゃらにやってみるのも、面白いんじゃね?


「ちょうど今、ホネヤスメだしな」そう言って、セイギは怒った顔のままだけどわずかに右腕を上げてみせた。

「いい連れがいて、よかったね」心から、そう言うことができた。そこにマイちゃんが戻ってきた。

「あのね、おにいちゃん、このおきゃくさんからぷりん、もらったよ」

 そして、ボクの方をまっすぐ見上げて言った。

「ぷりんありがと、おにいちゃん」

 それから両手を前にそろえてぺこり、とおじぎをする。

 ツインテールがぽよよん、と揺れてボクは思わず笑い出す。見ると、セイギもちょっとばかり笑っていた。

 笑いが自然に収まってから、おもむろにセイギが聞いてきた。

「オマエ、あの姐ちゃんは何だったんだ?」

 台風の中突如現れたリヨさんのことを言っているらしい。

「あの後、よく無事だったよな」キミに言われたくないけど。

 ちょっといじわるな気分になって、ボクはこう答えてやった。

「ああ……元カノなんだ、あの女性(ひと)

 セイギの口があんぐりと開いた。



 ウナギはたまに道で会っても、知らん顔と挨拶との微妙な目線を送ってくるくらい。

 それでも前と比べればずいぶんマシになった。


 二学期が始まろうとしていた。


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