7‐ 2 敵はレストランに在り
呪縛が解けたら今度は蜂の巣をつついたような大さわぎ。ハナは涙ぐんでいるしルモイは「なっんてこと!」と拳を振り回している(当たりそうでこわい)。しかし当の本人は
『いいんだよ、もう』じっと伏せたままタヌキ、いやワンコ寝入りしてる。
『元に戻れないことだ、どうしようもねえ』
そんなもんなんだろうか? ボクは納得できない、ここの誰も納得してないよ、何かできないの? 警察に訴えるとか、本人に言い聞かせるとか……
いくらそう言っても全然、聞く気がないようだ。
そこにササラがゆらりと立ちあがった。
「そこに行ってみるのよ」
「えっ」
ボクは飛び上がった。
ササラはオカルティックな目のままソルティーを見る。ソルティーはさっきからずっといじってたスマホを皆の方に向けた。
「ここだろうな、たぶんね」ササラが声に出して読む。
「トキシラズ・ガーデン。港の夜景を眺めながら大切な人とディナーを」
「完全予約制」ササラはとんとんと人差し指でテーブルを叩いていたが、今度はルモイを見て言った。
「レイラさんの電話番号、コーチに聞いて、あと今夜の予約名わかればなぁ」
ルモイは即座にのみ込めたらしく、早速電話している。
「あ、コーチですか? あの……すみません、さっき帰る時、途中でお姉さん……レイラさんにお会いしたんですが、車で駅まで送って頂いたんです、そしたら車の中にポーチ忘れてきたみたいで、ホントすみませんが、レイラさんのケータイ番号を教えて頂きたいんです」
しばしの沈黙の後、電話を切ったルモイは明るくOKサイン。間もなくメールで番号が送られてきた。
「さあ、誰が」
ササラが問うと今度はハナがこほん、と咳払いしてからその番号に電話。
「恐れ入ります、トキシラズガーデン、フロア担当のスミカワと申しますが」
相手が出たらしく、いつになく流ちょうな物言いでたたみかけるようにしゃべっている。
この人、声優になれるかも。
「今晩ご予約のお席ですがはい、二名様でええと」
相手がつい答えてしまったらしい、ハナはうれしげに続ける。
「はい、イケダさまですね、すみません、なぜか本日に限ってイケダさまというお客様が八組も重なってしまいまして……失礼があってはいけませんのではい、お連れ様から一応ご連絡先をそちらで承っておりましたのではい、お時間の再確認を」
よく考えると非常にヘンな話なんだろうけど、レイラがあまり深く突っ込んで考えないうちにハナは上手に勢いにまかせて話を終わらせ、電話を切る。
「よっしゃ」ササラがまたソルティをみる。「テーブルの配置図出る?」
ソルティは指をすべらせてから
「ふつうそこまで見られないけどね」
そう言いながらさっさと店内の見取り図を出した。かなり専門的な図面、どこからこんなもの拾ってきたんだろう?
「ここ確かさ、屋外の縁なら外部からもカンタンに近づける」
とん、と左端の方のテーブルを指した。
「ワンコ連れでもね」
ササラがそう言っているうちに、今度はハナ、レストランに電話しているらしい。
「すみません、今夜予約した池田ですが……はい、2名、7時半からの。席をできれば替えて頂きたくて、はい、外のええとG‐08に、はい……いいです09でも、はい」
「ワンコ連れ? 何それ、それって行くってこと? ボクらも」
「そうよ」みんなテレパシーで何か話し合ったんだろうか? 女子が一斉に立ち上がった。
「今からなら自転車でも間に合うわ、外から近づいて」
「生垣だからうまく潜れば入られるし」
「ひとこと言ってやらないとね」
「なんなら一発」ルモイの握りこぶしがぶん、と近くをかすめボクはすくみあがる。
「待ってよちょっと。みんなで行くってこと?」
『駄目だ』
ヤス犬がかげろうのように立ちあがった。
『落し前はオレがつける、お前らには感謝する。だが連れて行く訳にはいかねえ』
「えっ」ボクはヤス犬に向き直った。
「行くの? ケンさん」
『ああ、これはオトナどうしの話し合いだ』
それでも向き合う覚悟ができたんだ、ボクは大きく息をついて「気をつけて」そう言うと、
『オマエもだよ、小僧』
ヤス犬は顔を傾けて琥珀色の目を光らせた。
『オマエさんにはもう少しつき合ってもらうぞ。ササラに伝えてくれ……包帯をしっかり、巻き直してくれって』
チャリで一時間ばかり突っ走る。
ヤス犬はさすが『腐ってもイヌ』。自分で言って、疾風のように駆けていく。シャシャシャシャ、とマッサージ器からだろうか? メカっぽい音が。少しスピードを落とす? と聞いてもヤス犬は何も答えずマッシグラに目指していた、彼女の元へ。




