6‐ 3 崖っぷちの決断
「別にナカマだけが残っていりゃ、いいんだよ、ステージの上にはよ。オマエみたいなキモイ奴はさっさと落ちちまえばいいんだ、弱っちい、ツマンネエ……」
「ボクにもできたんだよ、仲間ってのが」
その声をきっかけに、物陰からササラ、ハナ、ルモイが現れた。ソルティは生垣の上からひらひらと白い手を振って見せて、更にウナギをビビらせた。
「あんだよ……」セイギは、ちらっとササラを見て少しだけ頬を赤くした。
「イインカイか? そんなの寄せ集めじゃねえかよ。それにササラなんてホンキでやってんのか? スナみたいなチンケなヤツを委員長だなんて、笑わせるぜなあササラ」
「アンタみたいなヤツは嫌い」ササラは墓地モードな感情を込めない低音で言った。
「幼稚園の時にやたらしつこくて参ったわ、ホント。オレサッカーすげーし、みたいにジマンばっかりで」
セイギ、ますます赤くなる。ササラは無情にも続ける。
「アンタの耳の形は好きくないのよ、元々。アンタの耳も鼻も削ぎ落したって、ネックレスのパーツにすらなりゃしない」
『やや、あれは正夢だったのか?』恐ろしげなヤス犬のつぶやきが入る。
妙に墓地にお似合いな言葉になのか、ヤス犬の唸りが耳に入ったのか、ついに
「やめてくれ~~~っっ」ウナギが脇に飛び出した。
「おいっ! バカそっちは」セイギ、続けてボクも気づいてダッシュ。
「ガケだぞ!! 止まれっ」
「わああああああ」ウナギは何も耳に入っていない、もう落ちる寸前だ。
「ヤス犬たのむ!」ボクが叫ぶ前に既に、ヤス犬はがけ下に向かって走って行った。カシカシカシと前脚が鳴る、そしてセイギが、
「ばーろーーーっ」
叫びながらダイブ、ウナギの身体ををがっちりと掴む、が一足遅かった。
二つの身体がふわりと一瞬止まり、はるか下に落ちようとしていた。
「ぶあああああっ」
ボクは何だか分かんない雄たけびを上げてとにかく、すぐ目の前に脚にしがみついた。ウナギだった。ばん、と腹打ちでコンクリートの地面にたたきつけられ、ずん、とがけ下に向かって引かれる。落ちる!! と思った時なんと
動きが止まった。しかし、腕にかかる重さはものすごい。
「た、助けて」
ウナギの身体は崖っぷちに生えた細い枝でようやく止まっていた、助けようとしたセイギは逆にヤツの下にぶら下がった形になった。
ウナギの脚を掴んでいるボクの腕が唯一の命綱だ。
「た、助けてよぉ」
ルモイがボクにしがみついて叫ぶ。
「ササラぁっ!」
ササラがルモイに飛びつく。そしてハナが駆けよってきた。
間に合いそうもない。
「ミヤ、ミヤモトくん……がんばれ」
歯をくいしばってどうにか声をかける。
「ス、ズキくんも手をのばして」細い枝が、ぱち、と音をたてた。
「だめだよぉぉぉぉ折れるぅぅぅ」
スズキの泣き声に、急にセイギが
「ばーか、泣くなミットモネエ」
軽い口調でそう言った。そして、しがみついていた自分の手を離す。
「セイギっっ!」
「ミヤモトくん!」
セイギはまっさかさまに落ちていった。新しくできた墓地の方へと。
「ヤス犬!」叫んだ声に、しばらくの間があって、ようやく答えがあった。
『救急車呼んでやれ』
「宮本くんが? ケガ? ひどい?」近づいたソルティに急いで119番通報を頼む。
『いや、でもたぶん腕の骨はやっちまったな』
受け止めはしたらしいが、ヤス犬の背中でワンバウンドして、近くの墓石にしたたか身体をぶつけたらしい。
『気も失ってるし、ちょうどいいや、上は大丈夫か?』
女子も力を貸して、ようやく引き上げられたウナギは、しゃくりあげていた。
「ひ、ひ、ひ」
「落ちついて……助かったよ」
ボクが近くに座り込むと、ようやく顔を上げて少し息を整えてから、ようやくこうつぶやいた。
「アイツ……自分から手を放しやがった、オレが落ちると思って」
「ナカマだから、じゃないの?」
ササラが少しだけ、優しい口調になっていた。




