6- 2 怪奇現象ドミノ倒し
狼ゾンビ犬が恐ろしい形相で飛び出した。同時に
「きゃああああああああああっっっっ!!」女子どもの魂消る悲鳴が夜空を切り裂く。
「ぎゃあ」助っ人二人はもう浮足立ちまくってる。
そこにチンタオがのっそり戻ってきた。
「チ、チンタオ~」
キミノが足をマンガみたいにがくがくさせながら後ずさり。
「イ、イヌが出たーーー」
「わをん!」
チンタオが吠えた。ヤツらがびょん、と飛び上がる。さすがにウナギも泣きそうになってる。
セイギはそれでもリーダーとしての意地があるのか、硬い表情を崩そうとはしない。でも判った。
ヤツの上のオーラが、急に燃えるような青い燐光を発し始めたのが。
「な、なにふざけてんだチンタオぉ」
チンタオはへえへえと長く舌を出し、どんよりした目をぎろりと赤く光らせ、手を、いや前脚を「犬拳?」に構えつつじりじりと彼らの中に寄っていく。
『よしよしよしいいぞジョー』
ヤス犬からもジョー呼ばわりだ。
『やれ、やるんだジョー』
「わををん!」
「チン?」その声に反応したのか、「ぎゃう!」チンタオが信じられないようなジャンプをみせてすぐ近くのヤナギダに飛びかかった、獲物はヤナギダの福耳。がり、とイヤな音とともにヤツの左耳たぶに噛みついた。
哀れヤナギダ、腹の底から悲鳴を発し、両腕をぶんぶん振りまわしながらチャリなんぞ捨て置いて広場からの坂を駈け下っていく、チンタオをイヤリングみたいにぶら下げたまま。キミノは足をわななかせたまま「待てよ!」とソプラノで叫んでやっぱりチャリは置きままで走り去っていった。セイギとウナギは、その惨事に気をとられていたせいで、気づいたら
「ひぃ」
狼犬に、退路をふさがれていた。左前脚がマッサージ器のゾンビ犬に。
「や、やめてくれよ」ウナギは多分、チビっているだろう。
「た、たのむお願いだからスナ……嶋尻くん」
「あのさ」
ボクは彼らの前に出て、わざと淡々と告げた。
「ボクも何度も頼んだんだよ、キミたちに。止めてくれ、って」
「ホ、ホンキだと思わなかったし」ウナギはもう泣きだしている。
「こ、こんなさ……ごめん、ほんとごめん」
「スナ」セイギの声も少し震えている。
「どんなトリックか知らねえけど、これ以上悪ふざけすんなよな」
<……てまあ、早く行こうぜ大雨来るぞ>
<スナのヤロウ、どこ……する>
<……>
<それよか土手んとこのオバケビルがいいぜ>
がやがやと、でもハッキリとした会話が暗がりに鳴り響く。唐突に始まった会話にセイギもウナギもぎょっと立ちすくむ。ボクはすぐに気付いた。
バーガーショップでスマホの動画を見直してた時、セイギたちはボクらに構わず、言いたい放題だった。その時の会話だ。何と、シオリは別の携帯で会話を録音していたらしい。
<……スナを柱に縛りつけてよ>
<チェーンあるぜ>
<セイギ、Sだかんなぁ>
<よし、ムチ使おうぜ>
<尻くん調教! ってビデオつくろー>
ボクはまた一歩、ヤツらに近づいた。
ヤツらの後ろで牙をむいているヤス犬がまた心に語りかけてくる。
『いいか、生きてるニンゲンが霊に取りつかれるパターンで結構多いのは、オトコの場合、タチションの最中だ、よく覚えておけよスナ、油断するな。暮らしの一言アドバイスでした』
ボクは思わずぷっと吹き出した。セイギとウナギは信じられないといった目でみている。
「あのさ」ボクは笑いをようやく押さえて言う。
「そりゃ、見ていてムカつくとかイラつく、って気持ちも分かるよ。誰もがそういうストレスとか、あると思うんだ。でもさ、あのね。
強い人からぎゅうぎゅう押されて今いる所から落ちそうになる、でさ、落ちたくないから自分より弱い人を今度は押すんだ、そんでまたその人は更に弱い人を押し出す。
そんなこと永遠にやってたら、ステージにはたった一人しか残らないんじゃない?
そしたらその人は誰のために……何のために舞台に立っているんだろう?」
セイギは何も答えなかった。
ウナギはボクとヤス犬の方とに交互におびえた目を向けている。
「あのさ……みんなが手をつないで、その場に残るってこともできるんじゃ、ないかな」
「つまんねえ」
セイギが吐き捨てるように言った。いっとき、恐怖も忘れたかのようだ。




