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○○だったら……責任とります委員会!  作者: 柿ノ木コジロー
第5章 坊ちゃん、突然戻ったら! 
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5‐ 7 前脚治しましょう~

 八月に入ってからはしばらく、天気が安定せず午後には雷雨、ということが多くなった。

 どんよりした雲がものすごいスピードで西の方からふき流されてきて、むし熱かったかと思うと急にさあっと白い幕のような雨が襲いかかってくる。


 一週目が終わる頃、ササラがまた怖い目をしてボクのところにやってきた。

 白黒チェックのワンピに、髪の毛を後ろでひとつにクルクルっとお団子にまとめてる。

 スゲーかわいい。

 でも目がこわいのでどんなファッションでもじっくり観察できない。

「こないだの墓地の裏、久々に行ってみたらさ」

「なぜ行く」

「涼しいからよ」

 爽やかにササラはそう言いのけてからまた目に力を蓄えてボクに言う。

「ちょっと、ヘンなのよ、あのヤス犬くん……定位置にいないみたいで。墓地の中もみたけどいないの」

「えっ?」


 ヤス犬はずっと、墓地の裏手を根城にしていた。

 心配になって、ボクはササラと探しに行く。


「ヤス犬~」

 間抜けな呼びかけをそれでも小声でくり返し、それほど広くもない墓地の中を捜しまわること10分かそこら。

『ここや、ココ壱番屋』

 つまらないオヤジギャグがすぐ背後で聞こえた。ボクはふり返る。

 寺の境内下、乾いた場所の奥深くに、片目だけが赤く、光っていた。

 のっそりと出てきたヤス犬は、明らかにくたびれていた。それに……

 近ごろのあまりの集中豪雨に負けて一度、墓地の少し高台に避難したらしいが、その時前脚を挟んで

「取れた……って?」

『ああ』

 ヤス犬ぶらぶらと右前脚先を上げて、振ってみる。

 ホントに、ニンゲンで言うところの肘から先がない。既にゾンビなので、特に血は出なかったそうだが、それでも痛々しいことこの上ない。

『元々、折れてたみたいでさ、別に痛くもかゆくもねえが、ちっとばかり不便なんだよな、動くのが』

 ササラの口がわなわなとふるえた。

 さすがに毛がヨレヨレになって少し傾いて立って片目が白くぶら下がりかけて前脚の先が千切れている狼犬に耐え切れないものがあったのか。

「あのさ」

 ボクはヤス犬が見えないようにササラと犬モドキとの間に立った。

「あのさ、別に、その害があるとか何とか……ダイジョーブだから、あの」

 ササラは、突如くるっと向きを変えてダッシュで墓地を飛び出した。

『ええのー、この風~』

 ヤス犬はまたフガフガと鼻を動かしている。

 何だかヤス犬に申し訳なくなって、ボクは

「まあ……」次のことばをさがしてしばらくぼおっと突っ立っていた。

『ところでよ、オマエ、セイギから何か言ってきたか』

「ううん」

 まだ、少しヤツラのことを考えると胃が縮む。でもボクはできるだけ背伸びして

「何とかなるよ、みんなでいいコト考えてくれてるし……」

 少しだけ笑ってみせた。


 でも、あのオカルト好きなササラですら、こんな態度ではこれからどうなっちゃうんだろう。


 と、思っている間に

「はぁはぁはぁはぁはぁっっ」

 息切れが近づいてくる。

 そして生垣の穴からぴょん、と黒と白とのチェックのワンピースが飛び出した。

「お、おまたせ~」

 ササラは手に、なぜか棒状のハンディマッサージ器を持っている。

 少しだけワンキョクして先にシリコン製の丸いヘッドがついている。それと包帯。

「これ、これをヤス犬くんの腕の代わりに」

 そう言うと、地獄から来たナイチンゲールはヤス犬の前に膝まづいてかいがいしく前脚をセットし始めた。

 両前脚がちょうどいい長さにそろうように調整し、手早く丁寧に包帯で止めていく。

「できた!!」

 ステキだよ~~! ヤス犬くんにぴったり、なんか、メカみたいねーそこだけ。ね、ちょっと歩いてみて、あの三田さんちのお墓の前まで、そ、そしたら今度こっちに走ってきて、いいわいいわーーー。

 両手を打ちあわせて頬そめて喜んでいるササラに、ボクもヤス犬も

「……」

『……』

 何も、言えませんでした。


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