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○○だったら……責任とります委員会!  作者: 柿ノ木コジロー
第5章 坊ちゃん、突然戻ったら! 
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5- 5 ふりだしに戻る

 大きなため息をついたのは、その日だけでももう十回以上? 

 ボクはまた改めてため息をひとつ。


 台風一過の昼下がり。

 蝉の声が耳に痛い。風はぴたりと止まり、木陰でも全然涼しくない。

 ボクはひとり、ランガクジ公園の丘の上に座っていた。

 足もとはるか下にはスイレンの池が拡がっている。


 ここは現場のすぐ近く。

 このもう少し先にいったガケ地から、ボクは手すりを乗り越えて身を躍らせたんだ。


「はああ」

 またため息が出る。勝手に出る。

 死ぬ気で死んだのに、結局何だか全然問題は解決していない。

 つうか、よけいごちゃごちゃになっちゃった気がする。


 ボクが自分の中から抜けおちていた間、ヤスカワ・ケンイチロウっていうおっさんがボクの中に宿っていたらしい。

 それは実在の人物で、しかしその時には既に死んでいた、列車にはねられて。


 ヤスケンさんは意気地なしのボクに入ってから、けっこうハッチャケタことを色々やってくれたようだ。

 あのセイギやスズキなんかとも派手にやり合ったんだって。

 先日は、セリザワさんがセイギたちに呼び出されたところに飛び込んでいって、セイギたちに、嫌がらせをやめるようにちゃんと言い聞かせたらしい、自分の身をギセイにして。

 つうか、その身というのがこの身で、結局痛い思いをしたのはボクだったんだけど。まだあちこちがズキズキするし。


 一昨日前の出来事を、ボクはヒザを抱えて座ったまま、ずっとハンスウしていた。

 あまり、いい幕切れではなかったんだ。


 嵐の中、セイギたちにコテンパンにされた時、現地まで心配して尾行してきたセリザワさんがまずハナノキさんに助けを求めて電話、たまたまハナノキさんと一緒にいたタカヤマさんが「とにかくオトナで当てになる人」って言ってリヨさんにすぐ電話、知らせを聞いてリヨさんはすぐさまバイクでそこに駈けつけたのだそうだ。

 特攻服に身を包んで。

 すでに半分気を失っているボクにあえて竹刀を振りあげてみせ、セイギたちにこういっておどしてくれた。

「コイツは俺らのオモチャなんだよ、誰の許可があっていじってんだ、小僧どもぉ!」

 より派手で極道なナリに相手が悪いと判断したのか、セイギたちはすぐさまボクを手放して豪雨の中逃げ出していった、らしい。

 それで堂々と、リヨさんはボクをバイクの後ろにくくりつけるように乗せて、マンションに戻っていったんだって。


 そんなにまでして助けてもらったのに。ボクの中にヤスケンさんがすでにいなかったってのはリヨさんにはかなりショックだったようだ。

「キミのせいじゃない」

 そう言ってくれたものの、目はずいぶん淋しげだった。

 女子連も何だか拍子抜けしたみたいだった。

 イインカイの説明もササハラさんたちから聞いたけど、どうしても自分がやらかしたことだって実感がない。それに、カノジョたちも話を聞いているボクがあまりにも頼りないと思ったのか、次第に口数が減っていって、お終いのほうではどこか呆れたような目でボクをちらっと見てから、お互いに小声で何か話しあっていたし。


 まあいい、とにかくボクは元に戻った。

 いいのか悪いのかよく分からないけれども。

 そう言えば、あのメガネっ娘セリザワさん、あの時にね

「何で払えばいい?」

 顔を上げて、何かの覚悟をこめてそう言ったんだ。

「シマジリくん、助けてくれたのは確かだし。何で払おうか、電子マネー? ポイント券?」

「えっ? 払うって何を」

 セリザワさんはちょっとイライラしたように手を振る。

「取引だよ、アタシはハッキリしてないとイヤなの。キミは何で払ってほしいんだよ」

 その時に、言ってしまったんだ。

「ボク、よく分からない」って。


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