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○○だったら……責任とります委員会!  作者: 柿ノ木コジロー
第4章 夏休み、特別警戒警報だったら!
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4- 7 ハサミ☆ムシ☆クライシス

 なんですって!? チンタオ誰それ? あっ、よくあるアオシマ=チンタオってやつね有りがちなニックネーム、と〇コンマ二秒で思い浮かべて立ち上がろうとした途端、どやどやと階段を上がってくる音が。

「オマエビッグベーコンサンドじゃねえじゃん」聞き覚えのあるウナギの声。

「それやっぱオレのだ返せ」

 俺は反射的に近くのトイレに駆け込む、間一髪、扉を閉じたと同時にヤツらの声。

「何だよソルティ、今誰かと話してなかったか?」

 ぼそぼそとシオリが何か答えているのがドア越しに聞こえた。

「はぁ? だって元々オマエがナシつけるからどっか出て来いっつったんだろ?」

 セイギの妙に甲高い声が響く。

「店に来られて、こないだみたいに騒がれるのもイヤなんだろ?」

「オマエんち、ロクなもん置いてないしなー、ゲームカセットも売ってないんだろ?」

「あっちの件はもういいんだよ、もっと気のきく魔法使い見つかったかんな、使えるヤツ。それよかその前にチンタオの顔に泥塗った件はさぁ、まだ詫び言ってもらってないんだけど」

「ぼくきずついちゃったー」阿呆丸出しのチンタオ・アオシマの声。

「オマエすぐ言うじゃん、その分何かで払えってさ」

 シオリは黙ったままのようだ。見えるようだ、目が泳いでるなきっと。

「なーにで払って、くれんだよー」なーなー、場所が移動している、シオリに近づいてるな。

「あ、そのスマホいいじゃん貸せよ」

「止めてよ」シオリの声も動いている、「何すんだよ、やめて」

 えへへへ、ふざけた笑いが挟まり、がたん、と何かが壁に当たる。

 まずいぞ、他に客はいなかったし。

 俺はドアをばん、とわざと音高くはね開けて通路に飛び出した。

「待てよ」

 わー、やっと強く言えた。「あの、えーと」

 ヤツらの姿を見たとたん、チューボーモードスイッチ・オン。

「あ、あのさ」

 シオリの脇にぴたりと貼りつくように座っていたセイギが、片手にシオリのスマホを握ったままゆらりと立ち上がった。

 誰もがみんな、こちらをみている。

「あららら」

 ウナギが無表情のままでつぶやいた。

「ソルティ、すげえ手土産じゃん」

 え、俺がテミヤゲ、つうか貢ぎ物? 

「いいねえ」

 セイギの笑顔は、あまりにもフェイク。よくできた食品サンプルよりもまだ、つやつやしていやがる。

「スナを釣り上げてくれたんだ? どんな魔法使ったんだよソルチー」

「ち、ちが」シオリが震えている。その途端俺はまた、こんなこと叫んじまった、この口で。死してなおゼントルマンなんだね、万歳。

「何だか分かんないけどそれで芹沢さんに一切関わらないんなら、一緒に行ってやる」

「言ったな」

 セイギはスマホをテーブルに置いて、嬉しそうに両手をすり合わせた。

「そんなんいくらでも誓ってやる、さあ行くぞ」

 ウナギが一歩俺に迫り、退路を塞いだ。

 チンタオは階段降り口の定位置を見張ったまま交互に目を動かしている。

「ちょっと待って」

 俺は片手で制した。おお、ようやく大きくは震えなくなってきた。慣れって大切。

「証拠がほしい」

 急いでスマホを取り戻して神経質に画面を拭っているシオリに、俺は声をかける。

「ねえ、ムービー撮って、この人たちを」

 シオリはおろか、セイギたちもぽかんとしている。

「でさ、こう言ってもらう『俺たちミヤモトセイギ、スズキ……なんだっけ、チン、もといアオシマうんちゃら、他に仲間いるだろ、その連中は今後いっさいセリザワシオリさんに迷惑をかけたりつきまとったり、おうちやお店に損害を与えたり迷惑をかけないと誓います。』で、日付と名前を宣言して」

「んだと?」ウナギが鼻息荒く更に迫る。が、「待てよ」それを制したのはセイギだった。

「おもしれえじゃねえの」

 外が急に暗くなった。のっぺりしたセイギの顔に暗い影が射す。

「ソルティなんてどーでもいいんだよ、こんなチンケなオンナ。もうゲームでもスレでも死んでるしな。そんな『チカイ』なんていくらでもしてやる。その代わり」

 ぐい、とウナギにあごで指示。「ソイツを捕まえてろよ」


 妙に静まり返った店内で、珍奇な撮影が執り行われた。

 シオリがスマホを構え、セイギが棒読み宣言。アホだから内容についての突っ込みはない。それよか、その後のお楽しみを色々と考えているらしくただ、俺に言われたことを文節単位で繰り返しているだけだ。

 撮影終了、俺は確認のために今撮ったムービーをしおりに再生してもらう。

 セイギたちは俺を取り囲みながらも既に『宣言』には何の興味もなく、立ったままバーガーをぱくつきコーラを飲んでいる。合間に「スナをどこに連れていって『訓練』しようか」という、心ときめくような議題で歓談している。

「セイギんち近くだったらさ、元スーパーバンバンでよかね? あそこの立体駐車場とか」

「それよか土手んとこのオバケビルがいいぜ」

「(だいじょうぶなの)」

 赤いキャップの影でシオリの唇が動いた。

 俺は画面に集中しているフリをしながら、ちらっと彼女をみる。すぐに目線を外されたが、また、その目は俺に戻る。

 うわ、実は目がクリクリ。睫毛長い。

 どーしてうちのクラスにはこんなカワイイ系が多いのか。

 俺は、口の端だけで笑ってみせた。(だいじょうぶ)

 さあ、いこーぜ。セイギのひと声でヤローどもは動き出す。

 一人は俺の手首をしっかと握り、一人が背中を押す。俺は言ってやった。

「契約は契約だし、逃げないよ」

 ひい、とチンタオが息を吸い込むように笑う。

「逃げたりしたら、オマエだけじゃねえからな」

 精一杯脅しているんだろう、それでも手は離れた。

「ソルティ、トレイかたづけといて」ウナギが明るく声をかける。

「やべ、雨になるぞ急げや」

 俺は刑場に連行とあいなった。


 最後にシオリを目に収める。

 階段から最後に見えた彼女の脚は、とても華奢だった。


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