4‐ 3 ランデヴーは墓地裏
ここ二ヶ月近くの出来事が思ったより精神的にキツかったのか、殴られ疲れか、それからまる2日間、俺はほとんど眠ったまま過ごした。
ようやく起きられるようになった夏休みも3日目、久々に行ったコンビニからの帰り道のこと。
「ねえ」
突然の声に俺は飛び上がる。
ふり返ると、電信柱の影にササラが。
淡い水色のワンピはノースリーブで丈も素敵。髪を少し高めのポニーテールに結わえ、いいですねえ、夏ですねえと思わず放送席のオッサンどうしが会話しそうな爽やかさ。
しかし
「な、」
そんな爽やかな外見に似合わず相変わらず殺人光線並みのメヂカラで見つめている。爽やかな初夏の妖精といった見た目なのに邪視線、そしてじめついた電信柱の影というポジショニングが鳥肌的な刺激。
俺は倒錯者になりたかねえ。
「ど、ど、どーしたの」
「ちょっと話」くい、と指で招く。
えっ、問答無用で手首を掴まれた。
「ちょ、どこに」
それには答えず、アリジゴクが蟻を引っぱるかのごとき容赦なさでササラは俺をひっぱる。
連れられて来たのは四ブロック程先、高いブロック塀の脇。その角、境の植え込みとの間にようやく人ひとり通れる隙間が。
人けはない。どこかで鳴いた犬の方に遠い目線を投げてから、するり、と彼女はそこに滑り込んだ。
当然掴まれている俺も「あだ、いだ」飛び出した枝に引っかかれつつ、何とか中に。
蹴つまづいて、おっ、と手をついたのは石づくりの柵……墓じゃん! 気づいたら寺の敷地内だった。
「いいでしょ? 裏手に直接入れる抜け穴なのよ」
「って、ここ何でんねん」
「墓地ボチでんな」妙な所にノリがいいササラ。おおお恐ろしい。
「いいでしょここ、涼しいし」
確かに、木陰ということ以上に涼しさバツグンな環境ではあった。
本堂の中からくぐもった読経の音が漏れている。葬式でもやってるんだろうか。
「うん……」確かに彼女の趣味にはピッタリ合いそうだね。「……で、何の用?」
「スナ、委員長さ」
木もれ日がちらちらと彼女の白い肌を照らし、透き通るような光を振りまいている。
そして相変わらず危なっかしい胸元の隙間にも白い光がかかる。おお、その一筋の陽射しになりてえ。
「ねえ、どこ見てんのよ」急にササラ、ぱっと真っ赤になって胸元を押さえ、横を向いた。
「えっ」って呼び付けておいて見せといて、その言い草? 俺はちょっぴりムッとする。
「別に見たくてみてるわけじゃない、オマエが呼びつけた……」
「オマエ?」わっ、またチュウネン男が出ちまった。「いやごめん、ササラ、さんが」
「いいよ別にササラでそれは」
何故かますます真っ赤になってササラが下を向く。
「とにかくさ」俺も何だか咳払いばかり出る。「何か相談だったの?」
つられたように彼女も一つ咳払いして、ようやくまたこちらを見た。
「体育祭に、ソルティを連れ出してくる。ってハゲザキに約束したの?」
「えっ!?」もう伝わってる? つうか、そるてぃ? って
「シオリのことじゃん、聞いたことないの?」
塩=ソルトですか、はいはい今初めて聞きましたから。「スミマセン」
そしてすでにハゲザキって、
「急にみんなそう言いだしたケド。なんだスナ……委員長が言い出したのかと思ってた」
言ってねえし! 俺はタンカ切ってやろうと「第一俺、終業式からこっち」わ、睨まれている。「ずっとカゼひいて寝てましたから……スミマセン」
あー、だから電話つないでもらえなかったんだ、とササラはいつものイライラ口調に戻る。
「とにかくケータイ持ちなよ。緊急の時使われるのはアタシなんだから」
確かに委員会メンバーの二人よりも俺の家に近い。
「委員でもないのにさ」
「はいすみません」
それにしてもイキイキしてんな、墓場のササラ。
彼女はまた目ん玉ひんむいてこちらを見る。
「ソルティ、ああ見えてもイロイロと裏でつながってんのよ。ある意味ルモイよりヤバイ。アナタ、二学期カンタンに学校に連れて行ってペア組めると思ってるようだけど、無理に決まってんでしょ」このばか、と付けたそうな勢いで最後、鼻息を吹く。
「え、何そのイロイロと裏、って」
「アナタじゃ、気づいてないかもだけどね」イジワルな口調。
でもわざわざこうして呼びつけた訳だ、何か話してくれるつもりなんだろう。
「何でしょうか」
少し下手に出てるのがようやく通じたらしく、ササラは偉そうに腕組みしたまま、それでも声を少しだけ和らげた。
「第二中裏ネットでさ、彼女、独自スレ持つくらい有名なのよ。よく分かんないけどネトゲ? そっちでも一流プレイヤーらしくてね、だからセイギたちとも仲良かったし、裏じゃ」
「ええっ!?」ドユコト?




