4‐ 2 キャッチ&アタック&リリース
「ウンドウカイ?」
急に話の流れが変わってきょとんとする俺。
「二人三脚でお前、組むヤツいなくなるし」
なんだ、そんな事かよ。俺はほおっと息をつく。
二学期が始まってすぐ、二週間後にある運動会の心配らしい。
「ホラ、背丈で決めるだろ、アレ。だからお前と芹沢と」他にチビがいないからな、すまんなカネザキ。
「いいですよ誰だって」
いいんだよホント誰とだって。どうせ『俺』はもうその頃にはこの身からオサラバしてるつもりだし。
「……宮本と鈴木とお前と、三人で組んでもらうしか」
「いいですよ……っぅええええっマジ!??」つい地が出る。
カネザキはうんうんと優しくうなずいてからこう言った。
「もちろんな、お前がアイツらとちょっとばかりその、ギクシャクしてるのは知ってる」
「ギクシャク、って感じではありません先生、死ぬかもです」
「うんうん」聞いてねえ。
その頭、ハエに覆われてしまえ。バグズウィッグ、髪型自由自在だ。
「宮本も、鈴木も、悪いヤツらじゃないんだが」
どこに目をつけてんだ。
「つい最近も、先生具合悪いんだったら俺ら自習しますからーってわざわざ職員室に」
「はいはい」
やっぱコイツの頭は少しピントがずれている。
失礼しましたー、そう棒読みのまま告げた俺は調理室から出てそのまま昇降口へ。
ぐい、といきなり暗がりから腕が伸びた。
口を塞がれ、上靴のまま外に引きずり出される。
体育器具庫とすでに空っぽになった自転車置き場との間に押し込まれ、フェンスに押しつけられた。外の通路からも見えない、まさにデッド・エンド。
一言も発することができないうちに、いきなり白い運動靴が腹に食い込む、がす、がす、何度も蹴られた、俺は小さく丸まって、どうやら放さずに持ってたカバンで腹をかばう。誰かが俺の上に膝から飛び乗った、ぐき、背骨が鳴る。げぼっと吐きそうになった。そいつはフェンスに掴まりながら俺の上に立ちやがって、そのまま背中でジャンプを一回、二回……殺られる! それは今!
急に影が離れた。
「オマエ、ちょっと一学期はいい気になりすぎたかんな」
息を荒げながら、セイギの声がとぶ。
「言ってたろ、ナカヨシのカネザキがさー」ウナギもいるらしい、息を喘がせている。
「二学期早々、オレら、チーーーム組むんだろうしなー。たのしみだなーうんどーかい」
「夏休み、みっちり練習しようぜ。だから今日はこれで許してやる」
「いいよなー夏休みって」
ウナギはクスクス笑ってる。全然可愛くねえが。
「ちっとくらい傷ができてもさ、ばれねえからな」
「ナカヨシさんにチクったら、すぐバレるかんな。したら今度はこんなんじゃ済まねえ」
「シンダホウガマシ、って言葉知ってるか」
あー楽しみだ、と爽やかな声。「終わったか?」近くで見張りをしてたらしいアオシマの声も聞こえた。
ヤツらが遠ざかっていくのが分った。
否応なしの痛みが先に立って、恐怖すら覚えない。
俺はようやく立ち上がった。
今までにない激しい怒りが腹の底から徐々に湧き上がり、沸きたってくる。
死んだ方がマシ? お前らに言われたかねえ。
口の端についた汚れをこぶしで拭きとると、手の甲が赤く染まった。手首にも血が。落ちていたらしい茶色いビンの欠片が刺さっている。
足引きずりながら、ようやく家に。部屋に入るまで、そしてその後、夕飯の時にも親には全然気づかれなかった。
父親も茶碗片手にテレビを見たまま、一言こう発したきり。
「成績表母さんにもう渡したのか」
俺が先に見るからよこせ、とは言わないところが存在感薄いオヤジさんらしい。もちろん、傷なんて見られてないし。
その晩、俺は腫れてきた頬を保冷剤で冷やしながらカネザキに電話した。
チクってやったのか、って? いいや。
俺は言ってやったんだ。
「運動会はセリザワさんと出ます。ボク、説得してみるんで」
えっ、カネザキが息を呑んだのがわかった。「し、嶋尻……いいのか」
「責任取ります委員会ですし」
俺はそう言ってそのまま電話を切った。
さあ、嵐吹き荒れる夏休みの始まりだ。




