4‐ 1 一名サマ追加なサマー
俺たちは無事、夏休みを迎えようとしていた……とは言えなかった。
終業式の後のホームルーム、俺はそれでもクラスの大半からは普通に話しかけられる存在にまで昇格していた。受け答えはまだしょぼいけど、ようやく何となくケンイチロー的な切り返しも少しは口をつくようになって。
「スナ、昨日から背が伸びねえなあ」
とかけられた声に、今までだったら赤面するくらいだったのだろうが
「あっ、今朝牛乳飲むの忘れた」とかさ。
カネザキと言えば、爽やかな初夏の陽光にきらめく頭を教壇から皆に晒しながら、明日から始まる夏休みについて淡々と諸連絡事項を語っている。
「……友達どうしでの外泊は禁止、当然だが夜十一時以降の外出も禁止、それから……」
とはいえ、表情は何となく明るい。
ルモイの方をそっと伺い見るに、彼女も髪型を昨日のオサレバージョンから少し通常モードに戻しているものの、小ざっぱりしているせいでずいぶんいい感じになってる。
それと、ここも重要だが
「アタシ、責任取ります委員会に入る」
今朝、わざわざ俺の前に来てそう宣言。
たまたま脇に来たササラを思わず見てしまう俺。
ササラは「ふん」と軽く鼻を鳴らしたものの、ルモイに向かってはにっこり笑って
「まあ……がんぱって」
ギリギリ応援ともとれる言い方で、しかし(アタシは関係ないんだから)的な甘い風を巻き起こしながら去っていった。
そう、ササラは委員会に入る、とは言い出さないんだよな。
まあ、俺ら、憎悪と疑心暗鬼という深くて暗い川でつながった間柄だし。
ハナはもちろん単純に大喜び。「夏休みにも会議しようねー」だって。願い下げだ。
俺は俺探しの旅に出るんだから。いくら死んでしまったからと言っても、せめて墓くらいはちゃんと確認したい。分かんねえことも多すぎる、『コンヤクシャ』とかさ。リンのことは覚えていたんだが、なぜレイラについては記憶がはっきりしないのか。あと、できれば葬儀の時のビデオとか観たいな。誰が出てるか出ていねえか、香典はちゃんと回収できてんのか……ま、そんなことはいいか。
それととにかく、小僧がどこに潜んでいるのかも知りたい。
……何かカッコいくねえかい? オレサガシ、だって。まるでロードムービーだぜ。
「……学割の件はいいな、それじゃあ」
「センセー、はやくしてくださいよー」遠慮の無い声がとぶ、それにもいつもみたいな神経質な目配りはせず、鷹揚に笑ってみせるだけの余裕が。カネザキ、自慢の白い歯をきらりと光らせる。
「よーし、じゃあみんないい夏休みを。全員揃ってまた二学期を楽しく迎えような」
きりーつ、今日ばかりは号令より早く皆立ち上がる。全員一斉に。
いや……俺はちらりと教室のまん中に目を走らせる。カネザキも気づいたのか、俺と同じ方に目をやって、わずかに眉を曇らせた。
一つだけ、ここ二週間ばかり空席があった。コンテストの大騒ぎの中、つい置いてきぼりになっていた存在。誰もがあまり、気にしていなかった空席……セリザワ・シオリの。
レタスにドレッシングをかけ過ぎた、あの小柄なメガネっ娘はある日を境に学校に来なくなっていた。
「嶋尻……」
帰ろうとしていた俺はカネザキに呼び止められた。「ちょっと、職員室まで来てくれ」
下手にセイギたちに関わり合いになりたくないというのもあって(昨日の胴上げ殺人未遂も主犯格として疑ってたし)、俺は近頃はなるべくさくっと教室を飛び出していたんだが、その声にふと足を止めて彼を見上げた。
目の端に、何となく不穏な笑いを浮かべたセイギたちがぞろぞろと教室を出て行くのがみえた。
カネザキについて行った俺は、職員室ではなくてなぜか調理室の片隅に呼ばれた。
「あのな嶋尻」
カネザキの表情は複雑だった。
「芹沢のことなんだけど……お前、なんで休んでるか分かるか?」
一拍おいて、「えっ」俺はきょとんとしたまま答える。
「どうしてボクが? 知ってるかって?」
「ああ……」歯切れが悪く、モジモジしている。
「最初は宮本とかにも聞いてみたんだが、知らないって言われてな……何かお前に聞いてみたらどうか、って。」
教育者のクセにこんなところがヨワヨワなんだよなあ、あんな小僧の言葉に振りまわされやがって。セイギのヤローもどうして俺に振る。俺の非難がましい眼が辛くなったのか少し目をさまよわせて
「それに何だかさ……お前になら何だかさ、話しやすいっつうか」
やめてくれよーーーコースケぇぇぇ! まだどこかにヤスケンの面影が見えてんのか?
「いやですよ」ハッキリ言ってやった。
「だってボク、関係ないし」それでなくても、もうずいぶん働いたぜお前らのためにさ。
「冷たいなあ」ピカピカの頭を掻いている。ハエでも止まったのか?
あのなコースケ、責任とるのと何でも優しくしてやるのとは違うからな。
「関係ないっちゃ、関係ないもんな……」
「先生、セリザワさんの家には聞いたんですか?」
「まあな」個人情報だからあまり言えないが……と言いながらもカネザキ、二回ほど芹沢家を訪ねていって、母親からやんわりと門前払いを喰らわされた様子を話してくれた。
家から出ようとせずにそれでも運ばれた食事はきっちり摂って、たいがいは自分の部屋で過ごしているらしい。
「ならそんなに心配することはないような」メシ喰ってるうちは死なねえ。
まあな、とカネザキは言葉を濁す。「ただな……これじゃ二学期もどうだろう。そうするとぶっちゃけ運動会でさ」




