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○○だったら……責任とります委員会!  作者: 柿ノ木コジロー
第2章 そのカノジョ、醜いアヒルの子だったら!
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2‐8 特攻野郎! ええチーム


 合宿が始まった。

 短期集中合宿だね、いうなれば。しかも通いの。

 リンは俺たちを、店の近所にあるスタジオに連れていった。そしてそこで『決死の特訓』が開始されたんだな。

 最初の一日は、とにかく、汗かいた。つうか、マジ死にそうになった。

 リンはとにかく、容赦がない。

 だってイデタチから見ても単なる『美容師』とか『コンサルタント』という感じではないもんな。

 白いハチマキに白い特攻服、背中にでっかい鈴とそれに絡まるような龍の刺繍、手には竹刀。

「オラオラオラオラオラオラ腿上がってねえずぉおおっっっ」

「信じらんねえぇぇぇっ、もう限界かぁ? 魚河岸のマグロだってもっと踊ってっぞおっ」

「出来なきゃ寝てろや! 一生なぁっ!!」

 ブートキャンプですら、マシュマロパーティだね。

 リンの口調はますます峻烈を極め、目つきはどんどんと険悪になる。しかし

 俺は分かっていた。

 こんな時こそ、リンはノリノリなんだ。そして、ホンキなんだって。

 俺はしとどに流れる汗の合間から、少し離れた所で給水休憩中の女子三人をちらっと眺めた。

 ハナは元々運動が得意でないらしく、すでにかなり息があがって辛そうだ。ササラはさすが、演歌歌手を目指してボイストレーニングでもしているのか(?)、それとも単にテニス部だからか、顔はかなり上気しているものの目はキラキラと輝いている……ただ、思い出したように時おり「今、試合前のダイジな時なのにウソついて休んでるんだからね」と俺をうらみがましい邪眼で呪うのは止めてほしい。

 意外なのが、ルモイ。

 二人から少し離れて座り、ちびりちびりとボトルから解凍しかかったアクエリアスをすすりながら息を荒げているものの、その目は冷静ともいえた。

 ぺたりと額に張り付いた前髪は相変わらずだったが、その下には何かを決意した目。

 俺には分かった。アイツ、完全に火がついている。

 これは本気でイケるかも知んねえ。


 日に日に、ルモイは変わっていった。

 吹き出物がひどかったも肌、かなりさっぱりしたようだ。

 学校ではほとんどうつむいているから気づいたヤツはほとんどいないようだったが。

 信じられねえことに、ルモイは平日にも放課後にはスタジオに通っていたようだった。

 次の土日には、明らかな差が生まれつつあった。

 俺やハナはすでにギブアップ、ササラもようやくついていけるようなトレーニングに、ルモイのヤツ、しっかりとついて行けてた。しかも、うっすらと笑みまで浮かべて。

「信じらんない……」

 ササラがつぶやく。しかしその目には、以前のような蔑みは一切、浮かんでいなかった。

 三週間目に入り、短縮日課に入る頃にはさすがにクラスの連中にも気づくヤツが出てきた。

 俺はいきなり、キヨおよび数人の男子に呼びとめられる。「おい、委員長」

 今ではたいがいのヤツらが、俺のことをこう呼ぶもんだから、俺もついつい、その気になってんだな、ふとふり向いちまうんだがね。

「なに」

「……ルモイさ」

 キヨ、いつになく声をひそめ、すぐ近くを通りかかった彼女にそっと目をくれてから

「かなり、痩せてねえ?」

 確かに、まだまだぽっちゃり、ハナよりガタイは良いとは言えたが、確かに何かが変わっていた。

「それにさ」ルモイが女子の誰かに呼び止められ、「なことないよー」明るく答えてるのに更に目を丸くしている。

「何かさ……案外、なんつうか、イケてきてる?」

 確かに、ルモイは変わりつつあった。


 今週木曜日、ついにベストカップルコンテストだ。

 そんな週の火曜日になって更に驚くべきことが。

「ルモイ、その髪」

「染めてないから」

 ルモイは今度は、まっすぐ顔をあげて俺をみる。

 あんなに酷かった吹き出物の類は、一切影をひそめている。そして、太っているのは相変わらずだがすっかりスッキリ、身なりも整えてるし。

 昨日の放課後美容院に行ったのだろう。かぶっていた前髪はすらっと斜め横に流し、裾はさっぱりと刈り上げて、ベリーショートの颯爽とした女子になっていた。

 まるでリンみたいなヘア・スタイルだ。もちろん彼女の見たてだろうが。

「ヘアマニュキアなら、ギリギリ校則に引っかかんないだろうって、コーチが」

「そっか」

 黒々していた髪もショートに合わせ、やや軽い色合いに輝いている。元々の頭の形がいいのか、そんな髪型がまた、よく似合ってさ。


 その日の放課後、俺たちはまた音楽室に集っていた。

「ルモイ、いや高山さんは」

「いいよルモイで」

 すっかり顔を上げて声が出せるようになったルモイが答える。

「ああ……あの、ルモイはもう大丈夫だと思う」

 うんうん、とうなずくハナ、少し遅れて、ササラもようやくひとつ、うなずいた、不承ぶしょう。

 しかしこう付け加えるのも忘れない。

「でもさ、まだ問題あるよね」


 そう、最後に残る大問題。それは……

 ササラが冷静な一言を発する。

「ルモイがまあ、ここまで頑張ったのにさ……相手がアレじゃあね」

 どーすんの? 相変わらず三角な目でギロリと俺を睨む。俺は心底縮みあがった。


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