1-9 マシュマロな委員追加でーす
その後の段取りもちゃんとたてといて良かった。
片付けもつつがなく済んで、俺は昼休み、ハナとふたりで調理室の後片付けをしていた。
ササラは、つん、とした口調のままで
「あとはいいでしょ? アタシ、部室に用事があるから」
とわざわざ俺に言いに来てから、さっさと走り去っていった。巻き起こる風の何とも甘いこと、ふがふが。
去り際に、でっかい目ん玉にひときわ力を込めて
「ハナに。(あのことはナイショだからね……言ったら末代まで呪う)」
と無言の圧力をぶつけてはきたけどな。
そんなことはつゆ知らず、ハナはかなりゴキゲンに鼻歌なんぞ歌いながら皿を洗っている。
レタスはおおむね好評だった。
なんせ、素材が良かったからな。キヨも
「んめーな、これならちゃんと責任とれてるし」
とぱくついていたし、ニッキも
「うちの野菜、これからもヨロシクね~、あ、JAのしんせん市場にも出てるから」
ニコニコしながらもちゃっかり宣伝してたし。
生野菜食わねえ、って言ってたヤツもおそるおそる口に入れて、「あ、けっこういけるかも」と言っていたのには感動だったね。
やっぱ食いもんてのは、作ってる顔が見えてるってのが最高に美味いのかもな。
「ハナノキさん、ありがとう」
ようやく布巾で手を拭き終わってから、俺は改めてハナに礼を言った。
いいってば、ハナは困ったように笑ってから、周りに誰もいないのに気づいて、ふと声を落としておずおずとこう訊ねてきた。
「……何か、雰囲気変わった……?」
えっ? 思わずうろたえる俺。変わったも何も、中身が違いまんねん。熟成カレー臭満載。それにしてもそんなに「違うかなあ?」
「うん……」
ハナが急に上目遣いで俺を見た。
ずぎゅん。ふっくらマシュマロ女子のつぶらな瞳攻撃一閃。おうっふ!
ちょと前がヤバイ。俺はそのまま尻もちをつくように後ろの椅子に座り、股間が隠れるようさりげなく膝を組む。「フンイキ? そう?」
「なんだかさ、積極的に……なったかな、って」
「せ、せっきょくてき」
声が上ずる。あられもない積極的物事の何やカンやどーしたこーしたが目の前にちらつく。
「そ、そそうかな」
「だよ。だって前に出てあんなにちゃんと説明してたし」
それすらできなかったってか? スナ。確かに記憶に映る風景には前で仕切っているというものはほとんどなかったような気も。
「そ、そ、それはだね」やべえ、汗が。セイシュンの汗が。
「ややっぱり、『責任取ります委員会』になったから……? かな」
「うん?」ハナは、急に困ったようにくすりと笑った。
「ごめん、本当にごめんね、あんなふうにふっちゃったもんだから……アタシが」
「いや」焦って手を振りまわす。
「ハナノキさんのせいじゃないって。それにこんなに手伝ってもらってるし」
「手伝いね……」何だか困っているような雰囲気。俺は更にあわてて付け加える。
「もちろん……委員会のメンバーになってくれなんて言わないよ、今回だけは急に手伝ってもらったけど」
「ううん」きっ、とハナが顔を上げた。
「アタシさ……確かに……イヤかな、って思ったけどやっぱり……いいよ」
「うぇっ?」今、「いいよ♡」って言ったか? 何を、いいんだ? マシュマロちゃん!
「委員会のメンバーになっても」なんだそちらでしたか。
って、何てこったぁ!
この子もあえて、イバラの道を進むってか? いいのか? スナ、そこまでやらせていいのか?
「いいよ、だって」またハナがにっこり笑った。
「言いだしたってことは、どっかで思ってた、ってコトかな、なんてさ」
見かけのふんわり感よりずっと、芯が通ってるな。感心したぜ。
皿を戻しながら一番気になっていたことを聞いてみた。
「どうしてさ……昨日の給食の時、かばってくれたの? それにあの委員会の名前、どこから出たの?」
え? ああ、と両手を持ち上げたままのハナ、少し皿の重さに負けそう。俺は急いでその皿を受け取った。
手と手が触れて、はっ、柔らけえ~、またくらっとなる。
「それは……」手が触ったの、ハナもどきっとしたようだ、急に言葉が止まる。そこに
「おやおやおや」
例の声がした。
はっ、と思わず皿を落とす。五枚ほどまとめて落下、床でガシャンと嫌な音をたてた。