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○○だったら……責任とります委員会!  作者: 柿ノ木コジロー
第1章 そのレタス、ショッパかったら!
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1-8 実演・がっちりサラダショー

「えっと」


 金曜第四時間目。


 ここは調理室、白っぽい清潔な部屋、前の調理台に俺、脇にハナノキ・ハナ。

 そしてそれを半円状に取り囲むクラスの連中。


 俺は手のひらの汗をさりげなくエプロンで拭きながら、次のことばを探す。

 30対の瞳がじっとこちらを注視している。

 心にカラーフィルターをかける、こういう時はそうだな、当たり障りなく

「今からできるもの、期待しているヤツはいんのかな?」

 驚いたね。

 敵意のあるなしに関わらず、ほぼ全員の体から蛍光グリーンのオーラがみえた。セイギなんかも表情はかなりイジワルな感じだったし、ササラにしてもどちらかと言えば怒ったような目をしていたものの、思いのほか強い光を発している。

 漠然と追い風を感じ、俺は声に力を込める。

「時間もありませんので、手早くいきたいと思います」


 感心なことに、ササラはとんでもない機動力をみせた。

 レタスの調達もちゃんとしてきただけでなく(ニッキも計画を聞いて、かなり面白がったらしい)、昨日は職員室にカネザキを訪ね、金曜四時間目のHRを急きょ、調理実習に変更してもらえるように交渉したのだと。

 カネザキはさすが、オンナには甘い。家庭担当のミズシマ・マリコ先生にも話を通し、うまいこと予定の入れ替えも済ませてくれていた。

 ハナもいろいろと凝ったものを揃えてくれていた。朝少し早めに学校に集合した俺とササラ、ハナの三人は、緊張の面持ちのまま、しかしどこか高揚した気分で手早く準備を整え、そしていざ本番と相成ったわけだ。

 

 脇に立ったハナが、足もとのコンテナから次々とレタスを出す。ギャラリーがおお、とどよめいた。

 ニッキは数人の女子に周りからつつかれている。

「おたくのレタスじゃん?」ニッキは嬉しそうに「そよ、うちのコたち」と声を上げる。

 ササラは今回、目立ちたくないから、と一般ギャラリーに混じっている。名前も極力出さないで、と言っていたので俺もあえて口に出さないが、それでも、少しばかり得意げなササラの表情を認めてひと安心、肩の力を抜いた。

「レタスが五個あるんで、もう三人、手伝って下さい」

 次々とスナらしくなく指示を出し、ハナと自分の他にもう三人もさっさと呼び出す。

 俺は前の台にて、レタスを掲げる。

「まず逆さに持って、手で芯をむしり取ります、こんな感じです」

 説明しながら葉を芯から外し、ざっと洗い、手でちぎっていく。


 やっぱさ、みんなオコチャマだよな。どいつもこいつも、俺、つまりスナに対する何やかんや的感情はいっとき忘れ去り、今は目先のレタス解体に夢中になっている。


 え? 俺? ケンイチロウは実は、料理はけっこう得意なんだ。ひとり暮らしで金を節約するにはまあ、喰い物くらい自分で何とかしなくちゃな。それに、料理できるとオンナにモテるぜ、こりゃホント。俺も何度このツールに助けられたか……


 まあ、それはいいとして。

 ただちっとばかり弱ったのが、スナのヤロウがなかなか不器用だってことだね。

 実際、昨日の放課後こっそりレタスを買って帰り、夜中の部屋で『練習』もしてみた。一つ目はかなり手こずって、逆にレタスに片手を喰われそうになった。二個目でなんとか、勘を取り戻したけどな。あとはイメトレだな。努力は惜しみなく、だよ。


 次は次は? みたいな反応が前に集まる。俺は、軽く咳払い。


「食べやすい大きさに千切って盛りつけます。ええと、一個で六人分なので六皿に分けて下さい」

 これもすでにテーブルに並べられていた白い中皿に、ふわっと盛りつけてもらう。

 あまり押さえつけないように立体的に、しかしドレッシングが外に零れないようにまん中に寄せて盛るよう伝える。

「次に、ドレッシングですが」

 ここでハナが用意してきたグッズを出すと、何人かがうわぉ、と歓声をあげた。

 たいしたもんじゃねえ、荒挽きコショーを粉にするペッパーミル、木製のチェスの駒みたいな。よく見かけるヤツだが少し大き目で、使い込まれたようなずっしり感がある。

 それと、洒落た銀の壺に入った粗塩。

 そして、一見、酒か? と思われるような褐色の中瓶と暗緑色の四角い小瓶。どちらのラベルにも流ちょうな横文字が並んでいる。

 俺はあえて下を向いて、紙に書いた説明を少したどたどしく読む。

「塩は、日本の一番綺麗な海から採ってきた海水を平釜でじっくり煮詰めた、天然のアラシオです。日本人の口に一番よく合っており、どんな食材の良さも損ないません。

 コショウは……」

 びっくりするほど、みんな真剣に聴いている。

 シオコショー、その他の材料のことなんざ本当はよく知らねえ。キッチンから借りてきたのそのまんま。でも一応、解説についてはネットで調べたぜ。

「酢はイタリアのバルサミコ酢、ブドウの濃縮果汁からつくられています、長い間樽で熟成されているので、味がまろやかで香りも爽やかです。次、オリーブオイルはこれもイタリア産の……」

 たどたどしい説明ながら、手元に意識を集中させて作業をこなしていく。

 エアでも練習したかいがあった。何人かは俺の大げさな手ぶりにすっかり魅入っている。

 俺から言わせりゃ、まだまだスナの手つきはたどたどしいけどな。

「そして更に、香り付けにこのシチリアレモンを」

 嘘です。ごめんなさい。スーパーで買った一個58円の普通のカリフォルニア産。それでも気は心。

 くし切りにしたものから種をちょいちょいと外し、これももったいぶって絞り入れる。

 大きな泡だて器で手早く混ぜ合わせ、これも予め出しておいた白い陶器製ソースピッチャーにさっさと注ぎ分ける。

「食べる直前に、それぞれレタスにかけて下さい、それじゃあ……」

 俺はここでカネザキをみる。

「よーし」

 手をタオルで拭きながらカネザキが、いつもより若干明るい声を張り上げる。

「みんな前から一班、そっちから二班三班って順に一皿ずつ持って、ソースは班長が持ってけ、教室に移動して給食の準備、いいなー、はい移動!」

 片付けも全て、スナ、つまり「責任取ります委員会」委員の俺がやるってことになっているから、みんなゴキゲンに皿を取り合って、調理室を後にしていった。


 シオリがちらっとふり向いて何か言いたげに口を開きかけたが、俺と目が合うとまたさっと目を伏せて、そのまま教室へと向かっていった。


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