夜の部屋
お久しぶりです。
やっと更新できました。
楽しめて頂ければ幸いです。
えーと、今日は何を話そうか。
実家にいた頃の話でもしようと思う。
あれは私が中学に上がるくらいの時だったか。
当時の私は、まだ自分の部屋が無かった。
思春期に差し掛かる年齢の私は、両親に自分の部屋がほしいと頼み込んだ。
私は三人兄弟の末っ子だ。
一番上の兄と、間には姉、そして私。
兄は部屋を与えられていたが、姉と私には部屋はない。
というよりも、一階建ての実家にはもう部屋が余っていなかったのだが。
両親は悩んだ末に、部屋を作ることにした。
作ると言っても、屋上に大きめのプレハブを置き外階段を無理やり作るという簡素な物だ。
一つのプレハブのちょうど真ん中に壁があり、姉と半分ずつの部屋。
しかもなぜか壁の上部は空間があり、台にでも乗れば隣が覗けてしまうような妙な作りだった。
おそらくその空間越しに、姉とコミュニケーションでもしてほしかったのだと思うが、少し嫌だったのを覚えている。
何はともあれ、ようやく部屋を手に入れた私は喜んだ。
週末になれば友人を呼びお泊まり会。
お菓子とジュースで乾杯しながらゲームをして遊ぶ。
そんな毎日を過ごしていた。
それはある日、いつものように週末に友人が泊まりに来た。
季節は夏。
エアコンもついていない部屋は蒸し暑い。
だらだらと汗をかきながらもいつものように遊んでいた。
夜も更けてきた頃。
夏と言えば怖い話だ!と友人は怖い話がまとめられたビデオを鞄から取り出した。
どうやら一緒に観るために借りてきたらしい。
私はそれを嫌がった。
昔からその手の物を観るといつも何かが起こるからだ。
しかし、そんな事を知らない友人は私を
なんだ怖いのか?
男の癖に情けないな~暑いときはやっぱこれだろ!
怖いなら布団にでも潜ってるか?
と、からかってくる。
さすがに少し意地になり、なら観てやろうじゃないかとビデオを受け取る私。
何があっても知らないからな.と一応の忠告をしてからビデオを観ることになった。
内容はよくある心霊ものだ。
ナレーターの声に合わせて、心霊スポットを巡っていくというもの。
とある地域で有名なおばけトンネルや、廃病院の跡地。
首なし地蔵に車を追いかけてくる老婆の話。
低い声をしたナレーターが、その場所で起きたことを恐ろしげに話している。
友人は怖がりながらも、映像から目を離せないでいる。
だが私はそれどころでは無かった。
ビデオを再生してしばらくしてから、ずっとある音が聞こえていたからだ。
ペチペチ ペチペチ
とそれは聞こえる
音のなる方が気になるが、見てはいけないと自分に言い聞かせる
ペチペチ ペチペチ
音は友人が座っているすぐ後ろの窓から聞こえてくる
友人は音に気づいていない
私にしか聞こえない音
結局、ビデオが終わるまでその音は続いた。
しばらくして、恐る恐る窓を見てみる。
やはりそこには、あり得ないものがあった。
真っ白な手形
大人のそれよりも大きなそれが、窓一面ににベッタリとついていた。
目をそらし、もう見ないようにする。
友人は、やはり気づいていない。
というよりも、恐らく見えていないのであろう。
言ったところで信じてもらえないのは分かっている。
明日になればきっと消えているであろうそれを無視して、私達は眠ることにした。
深夜、目が覚めた
どこからか音がする、それに気づいて起きてしまった
ペチペチ ペチペチ
またあの音だ
それは友人が寝ているベッドの方から聞こえてくる
ペチペチ ペチペチ
私は気づかれないよう、目だけをそこに向けてみた
そこに「ソレ」は居た
夜の暗闇よりも真っ黒な長い髪
異常なほどに痩せた頬
人のそれとは思えない程大きな、それでいて真っ白な手
窪んだ眼で友人を愛おしそうに見つめる女
「ソレ」がペチペチと窓を叩きながら、立っていた
私には気づいていない
気づかないほどにじっと、友人の顔を窓越しに覗き込んでいる
それを見ても、私にはどうすることもできない
ただ消えてくれるのを祈る
ぐっと目をつむり、ただひたすらに耐える
その間もずっと音は消えることは無かった
どれくらいそうしていただろうか
気づけば音は聞こえなくなっていた
ゆっくりと友人の方を見てみる
「ソレ」は消えてなくなっていた
友人に変化もない
ただ規則正しい寝息が聞こえてくるだけだ
良かった
何も起こらなかった
これで安心して眠れる
そう思い、姿勢を直して再び眠ろうと顔を戻し目を閉じる
その時、何かが顔にあたっているのに気づいた
さらさらと何かが顔を撫でてくる
不思議に思い目を開けると
私を上から覗き込む女の顔がそこにはあった
友人を見ていたあの窪んだ眼で
しかし友人を見ていた愛おしそうな目とはまるで逆の
憎くて憎くて堪らないという目で
私を見ている
気がついたときすでに日は昇り、部屋を明るく照らし出していた
まだ寝ていた友人を起こし部屋を出る。
出る前に窓を見たが、あの大きな手形は消えている。
友人はいつも通り元気いっぱいだった。
その時の事は友人には話していない。
怖がらせたくはなかったし、何より信じてはもらえないだろうからだ。
「ソレ」は一体何を想って友人を見ていたのだろうか。
何を思って私を睨み付けていたのだろうか。
それは未だにわからない。
友人が夢で、あの時の「ソレ」を見たと聞いたのはそれから数年後の事だった。
今でもその友人は元気に過ごしている。
信じられない人には信じられないでしょう。
それでもこれが私の日常です。




