宿泊施設②
いとこが「首を吊った女」を見る。
その数年後の話。
えーと、今日は何を話そうか。
今日も、とある宿泊施設の話をしようと思う。
歳上のいとこが「首を吊った女」と遭遇してから数年。
私も、小学5年生になっていた。
以前も話したが、私の地域では小学5年生になると、宿泊学習という行事が行われる。
そこで使われるのが、とある宿泊施設である。
もちろん、そこが有名な心霊スポットだということは皆知っている。
初めての宿泊施設
遠くに見えるアスレチック
薄暗い階段
古びた置物
男生徒は好奇心ではしゃぎ回り
女生徒はそれを小馬鹿にしながらも、キョロキョロと辺りを見回してはこそこそとお喋りをしている。
そんな同級生を見ながら、私は心の中で祈っていた。
どうか、何も起こりませんように…と。
宿泊学習では恒例の山登り
天気も良く、汗を流しながらも賑やかに山道を歩く。
2時間ほどで山頂付近に到着し、持参してきたお弁当を食べてしばらく休憩時間となった。
初めての山登りで興奮している男子に、疲れてぐったりとしている女子。
それでも皆で何かをするというのはとても楽しかった。
その後山を下り、振り分けられた部屋に荷物を置きに行く。
私の学年は全体で3クラスあり、男女で部屋は分かれている。
各クラスごとに分かれるため、全部で6部屋を使うことになっていた。
ひと部屋ごとに約20人。
大きな2段ベッドが2つある部屋で、上下で5人ずつ寝れるようになっていた。
部屋に荷物を置いたら、お待ちかねのアスレチック体験に向かう。
アスレチックと言っても、小学生でも無理無く遊べる程度の小さいものだ。
それでも、普段できない遊びに皆大興奮。
疲れて倒れそうになるまで遊びに遊んだ。
その後は自分達でカレーを作ることとなる。
慣れない手つきで包丁を使い、飯ごうで米を炊く。
そして最後はキャンプファイアーで締め括りだ。
本当に楽しい1日だった。
大浴場で汗を流したら、後は部屋に帰って就寝となる。
こっそり持ち込んだトランプやウノを楽しみ、枕投げをして先生に叱られる。
早く寝ろと電気を消されても、そこからが本番だ。
こそこそと、好きな人の事を探りあったり、嫌いな先生の悪口で盛り上がる。
そんなことをしながら、一人、また一人と眠りについていった。
……ふと、目が覚めた。
真っ暗な部屋
夏だというのに虫の声も聞こえず、周りも静かで寝息しか聞こえてこない。
時刻にするともう深夜であろう。
まだまだ眠たい私は、再び寝ようと目を閉じた。
そうしてしばらくウトウトしていると、カチャっと部屋の扉の開く音がした。
また先生が見廻りに来たのだろう。
起きていると叱られてしまうので、そのまま目を閉じてじっとしている。
だが、しばらくしても扉が閉まる音がしない。
不思議に思いながらも、じっとするしかない私はそのままの姿勢で我慢していた。
すると、扉の方から何か音が聞こえてくる。
ズルッ
ズルッ
なんの音だろう。
分からないが、目を開けることはできない。
ズルッ
ズルッ
音は部屋の真ん中の辺りを行ったり来たりしているようだ。
ズルッ
ズルッ
ズルッ
足元から聞こえてくる不気味な音に、だんだんと不安になってくる。
そして、とうとう我慢できなくなった私は、そっと目を開けてみる。
そこに「ソレ」は居た
初めは何か分からなかった
黒い影のようなものがベッドとベッドの間を動いている
動くたびにまた音が聞こえてくる
ズルッ
ズルッ
怖くて横にいる友達を起こそうとする
しかし、体は動かすことが出来ない
見てはいけないものだと思いつつも
なぜか目が離せない
よく見てみると「ソレ」は
上半身だけの男だった
腹の方から何かがはみ出している
それが動くたびに
ズルッ、と音をたてる
恐怖で頭がおかしくなりそうになりながらも
目を離すことが出来ない
しばらくすると「ソレ」は
向かいのベッドの下の段に上がっていった
そして、寝ている一人一人の顔を覗き込んでいる
一人ずつ、じっくりと、何かを確認するように
ゆっくり、ゆっくりと
それからまた、ベッドの間の通路に戻ってきた
次はこちらのベッドだろう
怖い怖い怖い
逸らせない目を必死に閉じ、震え出しそうになる体を必死に抑える
怖い怖い怖い怖い怖い
どれくらいそうしていただろうか
気づけば、音は消えていた
あの時、私の顔を覗きこんでいたのだろうか
目を開けていたら何か起こっていたのだろうか
眠れないまま朝になり、皆が起き出した。
活気が戻り帰宅の準備をするために慌ただしくなる。
それでも、私の耳にはあの時の音が消えてくれない。
ズルッ
ズルッ
と、今にも這い寄ってくる「ソレ」が見えそうな気がする。
それから暫くした後に、いとこから「首を吊った女」の話を聞くことになる。
あそこには「ナニカ」がいる。
これからもずっと、「ソレ」は這い回り続けるのだろう。
信じられない人には信じられないでしょう。
それでもこれが私の日常です。
今回、結構苦労しました。
気になったことがあれば、宜しければご指摘下さい。